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第54話 追憶 其の三

前世の記憶は、すぐに終わらせるつもりだったのに終わらない……

これを読んで気分が悪くなったら申し訳ありません。

どうしても説明が必要でした。


暫く二人の生活を見せ付けられた俺は、夫婦の幸せオーラに辟易していた――

男の名前は夕城黒乃という異世界人の勇者で、魔族の軍勢を倒すためにこの世界に召喚されたらしい。


召喚された勇者は全部で10人位居たが、その殆どが魔族に手も足も出なかったようだ。

その魔族の魔王は、既に黒乃によって倒された後だった。ちなみにルナのことではない。


ルナはいつ、この二人に出会ったのかはわからなかったが……

夫婦の幸せの邪魔をしないように、どうやら二人の前から姿を消したみたいだった。


女の名前はサティナという名の女神であり、黒乃との出会いの経路は二人の会話からの推測になるが……

この世界を管理している女神だったが、いつも一人きりで戦っている黒乃を見て興味を持ち近づいたみたいだ。


黒乃が他の勇者と一緒に居なかったのは。人付き合いが苦手で、一人で居るほうが気楽だったとかその程度の理由だった。

共に旅をしていて、二人が自然と惹かれ合ったのは……運命だったのかもしれないな……


女神も黒乃もそんな御大層な理由ではなかったが、俺は……二人が少し羨ましいと思った。


自分の世界を管理する女神が、その世界に化現して人の前に現れることは、基本的に禁止されているらしい。

禁止されてると言っても。例えば、自分の世界が滅亡までに追い込まれる程になれば、化現するのは許されるそうだ。


つまり。世界を管理していた女神が忽然と姿を消した挙句、神界と連絡まで取らなくなったから上では問題になっていた。

アストレア様がわざわざ直接調べに来たのは、そんな理由だった。俺的には別の理由もありそうだったけどな……



「サティナ……あんな体で何処に行ったんだ……」


現在黒乃は辺境の村の中を駆け回っている、農作業から戻って来たら妻が居なくなっていたからだ。


もうすぐ子供が生まれそうだったのに、どうしたんだろうな……

しかしこいつも凄いな…………


異世界の勇者として世界を救って、その功績を讃えられ、それ相応の地位を王から貰っていたのに。

それを辞退して、17歳で女神と結婚して子供を作った挙句、辺境の村で清貧に暮らしているんだよなぁ……


稀に、何処かの貴族が二人の家に訪ねてきて、黒乃に結婚話を進めてきていた。

黒乃が断る度に、貴族が忌々しげな顔で女神を睨んでいたけどな……


貴族のあの顔を見て、俺はすっごいムカついたぞ……

少しは隠そうとしろよな……


黒乃が村の、少し大きな家の中に入っていく――


「村長! ボクの妻が……サティナが家から居なくなったのですが、何か知りませんか?」


「これは勇者様……賢者様……ですか……」


女神は人間のふりをしていて。黒乃の仲間として、一緒に魔族を討伐したことになっている。

この村で暮らしている時も。自身は身重の体なのに、困っている村人を色々助けたりしていた。

賢者の呼び名は誰がつけたのかは知らないが、まぁ…その有り様を見て呼ばれるようになったんだろう。


「誠に申し分け難いのですが……賢者様はグレイシス様を助けに行かれました」


「姫さまを? 今は大変な時期なのに……何故そんな事に……」


「魔族の軍団長の生き残りが……姫さまを連れ去り、カレント砦に逃げ込んだのです」


「魔族の団長の生き残り……?」


は……?

何だそれ……

なにかおかしくないか?

生き残った魔族が、わざわざ人間の姫を連れ去って砦に立てこもる……?


「カレント砦……ここから近いな……サティナは一人で向かったのですか?」


「いえ。村の若い衆が、案内と護衛を兼任して付いて行きました」


城の兵士が助けを求めに来たんじゃなく、ただの村人が連れて行った?

おいおい凄い嫌な予感がするぞ……


「ありがとうございます、すぐにボクも向かいます」


話の内容が物凄く怪しかったが、黒乃は冷静でいられなかったのか慌てて村を後にした――



砦に着いた黒乃は、何故か砦の門の前で見張りをしていた兵士と言い争いをしていた。

魔族が立てこもった砦……だったはずなのに、何故か門番は人間の兵士だ……


嫌な予感があたった……

これはもう……あれだよな……


黒乃が門を強行突破して、砦の奥へ入って行った。兵士が次々と黒乃の後を追ってきている。

そして……砦の中の少し開けた広間で見えた光景が、俺を戦慄させた――


頭に金色のティアラを乗せて、豪華な白いドレスを着た一目見ただけで姫とわかる女が。

床に倒れている女神の頭に、足を載せて踏んづけていた……


女神は生きてはいるが、その体は血だらけになっており、その体を丸めて必死でお腹を守っていた。


「サティナァァァァァァァァァ……」


黒乃が悲痛な叫び声をあげるが、すぐにその体を周りの兵士に取り押さえられていた。


何なんだこれは……

俺が見ている光景は……俺の前世で……本当にあったことなのか……


王らしき男と姫と黒乃の三人の会話がされているが……

俺はあまりにも凄惨な光景を見せられて、すぐにでも逃げ出したい気持ちになった……


何故こんな事になっているのかというと……

王の言い分は……女神は魔族の手先であり、勇者を籠絡して新しい魔王を産もうとしている――

姫の言い分は……騙されている勇者を救って、自分が勇者の支えになるという事だ――


おかしいだろ……

こいつら……狂ってやがる……


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


俺はもう怒りでどうにかなりそうだったが……

黒乃の感情は、俺以上だろう……


抑えつけられていて身動きができない黒乃の目の前で、事態は進行していく――


数人の異世界人ぽい奴らが、姫に言われて女神の前に歩いて行く。

その顔は、とても勇者とは言えないような下卑た笑い顔をしていた……


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


そして……

勇者たちは、各々が持っている武器で…………女神の体を突き刺した――


「あぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」




黒乃の慟哭が辺りに響き渡り……場面が切り替わろうとしていた――

場面が変わる瞬間……女神の最後の言葉らしきものが俺の耳に聴こえてきた――


「私は……とても幸せでした……クロノ様……愛しています……私だけの勇者様……」

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