第52話 追憶 其の一
あれは……誰だ……
俺の目の前に、見たことがない男と女が言葉をかわしている――
黒い髪の男は、自分の身長と同じくらいの大きな杖を持っている。
女は青色の髪を腰まで伸ばして、こちらはその腰に蒼い装飾のついた剣を差していた。
そのどちらも神秘的な姿をしていて、聖職者のような服装をしている――
誰だこいつら? 魔法使いか?
なにか……
この二人を観ていると、ソフィアと出会った時みたいな感じがするな……
俺がそんな事を考えていると、二人の声が聴こえてきた――
「神王の一神が、魔王を倒す時に人間界の一つを滅ぼしたそうね」
「人間界が戦場になったとはいえ、余りにも憐れ……我が再び創り直そう」
「私は、その神王を降格させるべきだと思うけど?」
「そちらは大神王に任せておけばよい」
「あの娘は今、戦後の魂の管理と転生体の選別をしているわよ」
「それが彼女の仕事だ」
「はぁ……可哀想なアストレア……中間管理職は大変ね」
えっと……
何だこれ……とんでもない会話をしている気がするんだが……
俺が聞いてもいいものなのか? これは……
いやまて……
よく見たら男の顔が……
俺とソックリじゃね……?
そんな事を思っていたら突然場面が切り替わった――
「本当に創っちゃったのね……アストレアが嘆いてたわよ……一つの人間界に、まるごと転生体を送り出す仕事を与えるなんて……」
「大神王になった時に、彼女にもその覚悟はあったはずだ」
「唯でさえ、神王と聖王の板挟みになっているのに、貴方の命令も無視することができない。まだ結婚すらしていないのに……一気に老けちゃうわよ……」
「ふむ……それは確かに哀れだな……我が慰めてやるか……」
「ほう……妻である私の前で浮気宣言とは……いい度胸をしている」
「じょ……冗談だ……そ……そんな事をするわけ無いであろう……」
「それはわからないわね……あの娘、貴方に恋慕していたわけだし……」
手から蒼い炎を出す女性に怯えながら、男はタジタジになっていた。
何だこの修羅場……
しかし……神様にも結婚って概念があるのか……
会ったことが無いが……頑張れアストレア様。
素敵な出逢いがあることを、祈っていますよ……
婚期を逃しそうな? 可哀想な神様に祈りを捧げていたら、また場面が切り替わる――
「クロはいつ、わたしとけっこんしてくれるの?」
「え? 結婚することはもう決まっているの?」
俺の目の前に、いきなりルナと黒斗が現れた――
大きな城の庭園に、白い椅子とテーブルがあり。そこで、椅子に座った黒斗が優雅に紅茶を飲んでいた。
ルナは黒斗の膝の上に座っている――
え……なにこれ?
場面飛びすぎだろ……
もしかしてこれ……俺の前世の記憶を見ているのか?
「おかあさまが、いいっていってくれたよ?」
「大魔王さま……」
黒斗が対面に座っている女性に向かって、訝しげな視線を向けた。
「フッ……ワタシはルナと一緒でも構わないぞ」
「何を言っているのですか……」
「わーい。おかあさまといっしょに、クロとけっこんする!」
「ルナ……」
ルナとその母親の言葉を聞いた後、黒斗は縋るような視線を母親の後ろに立っている男性に向けて――
「魔王様も何か言ってください……」
「わ、わしは別に……反対なんぞしないぞ……」
「魔王様……」
「おとうさまはね、おかあさまのいうことはなんでもきくよ」
「アタリマエだ、ワタシの命令を聞かぬのなら捨てるダケだ」
「そ、その通りです……大魔王さま……」
おい、魔王……
威厳なさすぎだろ……
パブロフの犬状態な魔王に、哀れみの視線を向けていると場面が切り替わる――
「ルナが……吸血種……」
「そうだ……ワタシと魔王には吸血種としての力はない」
「先祖帰り……というものですか……」
「真祖としての力はまだ目覚めてはいないが、条件がわからぬからな」
「例えルナが何者であっても、僕はあの娘を大切にします」
「娘に嫉妬するとは…………ワタシもまだ未熟ということか……」
黒斗とルナの母親が神妙な面持ちで話し合いをしている。
大事な記憶みたいだが、場面の切り替えが早すぎるな……
やはりこれは……俺の体の影響なのか……
考え事をしていると、また場面が変わった――
またかよ……
「わたくしと結婚したい? フフッ……聖王になってから出直してきなさい」
「そ……そんな……」
男が勇気を持って告白したが、黒い髪の女性にあっさり振られていた。
肩をガックリと落としながら男は去っていく……
「あの方が神王になるのに900年もかかったのに、さらに聖王になれだなんて……」
「そんな事当然よ、わたくしも人間から神王になったのですもの。元々神であるのならば。聖王くらいなってもらわなくちゃ、わたくしと吊り合わないわ」
「さすがはお姉様です」
いろいろちょっと待て……
なんだこれ……
あれ……? え……?
俺の前世の記憶じゃないの?
別の記憶が混じってるぞ……
混乱してる俺を放置して場面が変わる――
「わたくしに御用とは何でしょうか? アストレア様」
「呼びだされた理由に、心当たりがないと言うのですか?」
「はて……? なにもありませんわね」
アストレア様……
すごい美人じゃないか! 結婚はできたのかな?
ソフィアに負けていない程の美貌を持つ、神様を見ながらそんな事を思っていた。
「逆らえない戦乙女たちに片っ端から手を出しておいて……なぜそんな事をするのですか!? 昼間黒愛!」
「何をそこまで怒っているのですか? 手を出す? 可愛い乙女達を、わたくしのハーレムの一員として加えただけですわよ?」
「はーれむ……」
「あと、わたくしの神名はクロエ・ディスケイトですわ……お間違いのないよう、お願い致しますわ」
「どうして……こんなのが……あの御方の生まれ変わりなのだ……」
「こんなのとはひどいですわね…………わたくしの前世の事がお好きならば……アストレア様も、わたくしのハーレムの一員として加えて差し上げてもよろしくてよ?」
「私が好きなのは貴女ではありません! それに……私は男性が好きです! 貴女のハーレムなんか遠慮します!」
ハッ!? いかん……余りにもおかしな展開で、意識が飛んでた……
女を集めてハーレムだと……何を言っているんだこの女は……
というか、ディスケイトって……マジで俺の前世なの……?
転生は性別関係ないのかよ…………
もう勘弁してくれ……黒歴史を見せられている気分だ……
これ以上見たくないと思っていたが、やはり場面は切り替わった――




