第51話 愛すべき人のために
勇者を殺し、気分がスッキリとした俺は改めて自分の境遇を考える。
記憶を取り戻そうとしても、なぜだか思い出せないしオマケにひどい頭痛付きだ。
『クロード様……』
これは転生した影響なのか……人格が混ざり合っているのもめんどくさいな……
あとはサティナ……いや……今の名前はソフィーティアか。彼女をどうするべきか……
ルナティア様のおかげで、彼女を連れ出すことが出来たのはいいが……俺の事を忘れているみたいだしな。
《蔵人……》
む……
そういえばこいつも俺の中に居たな……
俺の前世の一人のようだが、ボクが憎むべき勇者でもある。
勇者は全てボクの敵だ……こいつには消えてもらおう……
駄目だ、俺は……黒斗には絶対に消えてほしくない……
だが、ボクは……勇者を確実に消し去りたい……
「クロ……」
ルナティア様が悲しそうな顔をして、俺の名前を呼んでいる――
黒斗が消えたらルナが悲しむ……
勇者が消えたらルナティア様が悲しむ……
うん……それだけは絶対にダメだ――
「クロード!」
俺が色々なことを考えていると、バーンという音を鳴らして扉が開かれた。
扉の先には俺の名前を叫んだアリスと、その後ろにエレンさんとリアが一緒に居た。
「アリスじゃないか、どうしたんだ? そんなに慌てて」
「どうしたって……アナタこそ、どうしたのよ?」
「うん? 何がだ?」
「いきなり私の前に女神が現れたと思ったら、アナタの身に大変なことが起こったって……」
女神……?
ソフィーティアは俺の中に居るが、誰の事だ……?
「あれれ~……キミ、正気に戻ったの?」
アリスの後ろから、銀色の髪をした少女が喋りながら中に入ってきた。
「お前は確か…………リアナ!」
「え……?」
俺の言葉に、リアが首を傾げて疑問を口にしていた。
あれ……?
違ったっけ……何かリアの名前と似てる気がしたんだが……
「トリアナだよト・リ・ア・ナ!」
「そんな名前だったか」
「ついさっきまでボクと一緒だったのに、なんで忘れてるのさ!」
「ソフィーティア以外の女神なんかどうでもいい」
「どうでも……」
俺の返事を聞き、リアナがショックを受けていた。
「なんかクロード……性格が変わってない?」
「ボクは俺だぞ、別に変わってなどいない」
「ボクは俺って……言動もおかしくなってるじゃない……」
アリスが妙なことを言っているが、別におかしくはないよな?
「これは……大神王様の封印の効力が……まだ残ってる?」
なに? 今リアナはなんて言った……?
神王……? それは俺の敵じゃないか……
「神王は俺の敵だ!」
『え……』
《蔵人……何を言っているの?》
「俺の敵を再確認しただけだが?」
『私は……クロード様の敵なのですか……』
「ん……? どういうことだ?」
『私は……神王ですよ……』
あれ……?
ソフィーティアはボクの愛しい人だ、だが神王は俺の敵だ。
「む……むむ……?」
「ちょっと……クロードはどうなってるの?」
「たぶんだけど、記憶が半端に蘇って……錯乱してる?」
「どういうことなの……」
俺が混乱していると、アリスとリアナが何かを話していた。
そして二人が話し合いを終えた後、リアナが俺に向かって……
「キミの名前は、なんて言うの?」
そんな事を聞いてきた。
俺の名前だと? そんなものは決まっている。
ボクの名前は――
「宮城黒人だ!」
「誰よ……それ……」
《ちょっとまって、何か色々と混ざっちゃってるよ》
俺は堂々と自身の名前を名乗ったが、アリスが呆れたような目を向けてきた。
そして俺の中に居る、勇者が何かを言っている……
混ざる? うん。よく考えるとこんな名前おかしいな……
漢字にすると、地名なのか人種なのかハッキリしろよってツッコみたくなる名前だ。
えっと……朝宮……は俺じゃないな……昼……でもない……
夕城……いや、違うな……夜神……あぁ、これだ……これが俺だ……
「俺の名前は、魔皇・夜神蔵人だ!」
俺は両手を広げ声高らかに、また堂々としながら名を名乗った――
「魔王……駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」
なんてヒドイことを言うんだアリス……
あとそれ、どちらかと言えば……俺のセリフじゃね?
「アリスちゃんエレンちゃん。とりあえず、クロちゃんを叩きのめして」
「クロードさんを、叩きのめすのですか?」
「そう、動けなくするくらいでいいから、あとはリアちゃんとボクが何とかする」
「えと……?」
何かリアナとアリスとエレンさんが、物騒なことを話し合っていた。
リアは意味が判っていないのか、頭をキョロキョロと動かしている。
「俺を叩きのめすだと……」
「よくわからないけど……叩きのめせばクロードは元に戻るのね」
アリスは刀を手にして俺に向き合ってきた、どうやらやる気満々のようだ。
「ふむ……よかろう……やってみろ……この魔皇に対してッ!」
《蔵人……そのセリフ、色々とやばいよ……》
気にするな、つい言ってしまっただけだ。
「はぁぁぁ……」
アリスが俺に斬りかかってくる――
「みね打ちはしないのかよ! あぶねぇっ……」
刀の刃を返さないアリスの攻撃をギリギリの所でかわした――
何かあの刀……物凄く怖い……
やたら神聖な波動を感じるアリスの刀に恐怖し、俺は後ろに下がった。
「スパイラルアロー!」
後ろに下がった俺に、正確無比なエレンさんの矢が襲いかかってきた――
「こっちも本気か!? 痛えぇ……」
回転する矢が、俺の左腕をかすめて血が吹き出した。
「おのれぇ……ぜったいにゆるさんぞ……」
俺の敵になるというのなら、お仕置きしてやる!
俺は両手を前に広げ、アリスとエレンさんに向けて魔法を放つ――
「エアブロウ・クリエイト!」
ルナティア様が使ったような強烈な風圧魔法だ、大きな怪我はしないだろうが気絶くらいはするはずだ。
そんなふうに考えていた瞬間が……俺にもありました……
「魔法が発動しないだと……」
魔力が枯れている感じが全くしないのに、何故か魔法が使えなかった……
「どういうことだこれは……」
《君の魔法は願いの魔法だから、彼女たちを傷つけたくないって、心の底で願っているんだと思うよ》
「なん……だと……」
俺の中に居る勇者が、冷静にそんなことを解説していた。
これはマズいな……
俺は反撃できないのに、アリスたちは一方的に攻撃できるのか。
「クロード……まさか私たちを、キズモノにするつもりじゃないわよね?」
「ひぃ……」
アリスの言葉を聞いたら、何故か俺の口から小さな悲鳴があがった。
『クロード様、観念してください』
どうして怯えているんだ俺は……
ソフィーティアが俺に諦めろというが、俺は諦めたくない……
何処に逃げるべきかと視線を彷徨わせていると、すっかり存在を忘れていたルナティア様と目が合う。
「クロ……むちゃしやがって……」
ルナティア様は何故か俺に敬礼をしていた――
「ぐぬぬ……」
アリスたちに魔法が使えないのなら……
俺自身に、魔法を使えばいいだけだ……!
「アイシクルウォール・クリエイト!」
俺は自分の周りに、分厚い氷でできた壁を作り上げてその中に引きこもった。
ちょっと寒いが、これで俺に攻撃なんて出来ないはずだ……
「よし……これなら……」
「そんな魔法で閉じ籠もったらだめよ……クロード」
アリスがそう言いながら俺に近づいてくる。
「無駄だ、この氷はそう簡単には壊せないぞ!」
「へ~……」
俺の言葉を聞き流しながら、アリスは刀を構えて目を瞑る――
なんだ……何をする気だ……
「神技・天照!」
「な……」
アリスが言葉を叫ぶと、二本の刀から全てを灰燼にし尽くしそうな大きな炎が燃え盛った。
『紅い炎……紅き……勇者?』
紅い勇者だと……
そうか……アリスは勇者だったな……
勇者なら……ボクの敵だ!
俺が愛するべき人のために、滅ぼしてやる――
自分の背後の氷を壊して、俺はアリスから距離を取る。
アリスは少し刀を振るっただけで、俺が出した氷の壁を溶かしきった。
俺はアリスに手を向けて魔法を放つ――
言葉が思い浮かび、今度は魔法が発動できる。
「魔皇クロード・ディスケイトの名の下に……」
「俺が創造するべき力よ……」
「蒼き潮汐を引き起こし、その災禍を具現する力を……」
「魔皇の名と魔力を糧とし」
「災厄の大渦となりて、俺の愛すべき人の敵となる者の全てを飲み込め」
「メイルシュトローム・クリエイト!」
「えっ……クロード!」
アリスが、俺を悲痛な顔で見ているがもう遅い……
俺の魔法で発動した大渦が、全てを飲み込もうと襲いかかって来ている――
「さぁ……愚か者をその力で飲み尽くすがいい……!」
そして……
避けることのできない壮大な水の魔法が、俺の体を飲み尽くした――
「な!? ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「クロード……」
「クロードさん……」
「クロさま……」
「あちゃー……」
アリスとエレンさん、そしてリアが俺の名を呼んでいたが俺はそれどころではなかった。
俺が発動した魔法は、何故か全力で俺自身に向かって来た……
そして最後に、呆れたようなリアナの声が聞こえた気がした――
深夜の変なテンションで、調子に乗りすぎました……




