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第49話 覚醒

トリアナに案内された神殿に、俺は入っていく――

神殿は朽ちていて、人の気配がまるで無い。


人に見捨てられた神殿か……

俺はよくよくそういうのに妙な縁があるな……


《蔵人、気をつけて》


黒斗の言うとおり、気を抜くことなんてしないが。

神殿の中をどんどん進んでいっても、誰にも会わない。



『人の気配が全くしませんね……』


「奥に一人だけ居るよ、魔導士が」


ソフィアの言葉に、トリアナがそう返事をした。


「魔導士? そいつがルナを攫ったのか?」


「そうだよ。街で魔力の高い奴隷を、買い集めていたよ」


『奴隷を買い集める……なぜそんな事を?』


「奴隷の魔力を、自分の魔力に取り込むためじゃないかな?」」


すごい嫌な奴だな……

そんな奴にルナが攫われたのかよ……

しかし、ルナは特別な魔法を持っているが、そんなに魔力は高くなかったはずだが。

魔導士ということは、魔導具か何かで調べたのか……?



「街で結構横暴な態度をしていたから、他の人に嫌われてるみたいだったよ」


あぁ。街の中で見た、人が避難しているように見えたのはそいつが原因か……


「クロちゃん」


「え? 俺か?」


『クロちゃん……アリですね』


ちゃん付けかよ……

ソフィアは何を言っているんだろうか。



「キミの中の魔王の力……強くなってるから、気をしっかり持ってね」


《ルナの力が……?》


ルナの力が強くなっている?

それは別に何とも無いな……

ルナが強くなるなら、俺にとってもいい事だし。



「助言はありがたいが、俺にはそれをどうすることも出来ないぞ」


「そう……」


《蔵人、扉があるよ》


黒斗に言われて前を見ると、大きな扉が存在していた。


「ルナはこの中か?」


「うん。ボクはこの世界に化現するのが精一杯だから、お手伝いできない」


「そうか……ここまで案内してくれただけでも助かったさ。ありがとな」


俺はトリアナに感謝をしながら、両手で大きな扉を開ける――

扉の先には小さな祭壇が有り、ルナが十字架に磔にされていた。



《るなぁぁぁ……》


「ルナ!」


ルナの姿を見た黒斗が叫び、俺も名前を呼びながらルナの元へ向かう。

そしてルナの近くに居た、黒い髪で眼鏡を付けた男がこちらに振り返る……


「おや……人払いの結界を貼っていた筈ですが、どうやって此処まで来たのですか?」


「お前……ルナに何をしているんだ!」


「質問を質問で返すとは……聞いているのは私の方なのですがね」


男は眼鏡の中央の部分をクイッと手で抑えながら、そんな事を言ってきた。

ルナは気絶しているのか、目を瞑ったままでダラリと磔にされている。

俺はルナのそんな様子を見た後、男に手をかざしながら――



「そんな事はどうでもいい、ルナを離せっ」


「成る程……この女の保護者ですが貴方は。しかし残念ながら、この様な珍しい素体は返すわけにはいきませんねぇ……」


「素体だと……」


「えぇそうです、魔力は失われているのかそこまで高くはないですが……吸血種としては珍しい種族だ……私の研究心が疼きますよ」


男はそう言いながら、フフフ……と気味の悪い声で笑い出した。



「吸血……なぜそれを……」


「ふむ……なぜかと言われれば、私のこの魔導具の力が教えてくれたのですよ」


男が懐から、水晶でできた小さな地球儀みたいな物を出してきた。


「おや? これはこれは……貴方の隣りにいる女からも不思議な力を感じますね……」


俺の隣りにいるトリアナを見ながら男がそう呟いた。



「う……きもちわる……」


トリアナが、男の舐めるような視線を感じながら、小声でそんなことを言った。


《蔵人……》


「あぁ、わかってる」


こんな危険な奴に、ルナを渡すつもりもトリアナを差し出すつもりもない。


「ルナを返してもらうぞ」


俺は男に手を向けたまま魔法を唱えた――


「フレイムランス・クリエイト!」


ルナが近くに居たので、大きな魔法を使わずにピンポイントに炎の槍を男にぶつけた。


「ほう……アンチマジックシールド」


「くそっ、弱すぎたか……」


俺の魔法を見て、男が感嘆しながら自分の前に盾の魔法を出して防いでいた。



「魔導具も使わずに魔法が使えるとは……貴方はもしかして異世界の勇者ですか?」


「勇者だと……この世界の人間は魔導具がないと、魔法が使えないのか……」


「ふむ……異世界の勇者にしては、知識がない様ですね」


魔法使いと敵対したことがないからな……そんな知識なんぞ無い。

エレンさんが魔法を使っていたが……エレンさんの魔導具は弓なのかな……



「少し貴方のことが気になりますが……私は男に興味はないですからね……貴方にはここで消えてもらいましょう……」


げ……

この野郎……自分の欲望に忠実過ぎる……



「そう簡単にいくと思うな……」


俺は精一杯の強気を相手にぶつけた。


「あぁ、そうそう……ちなみに私はこの世界の勇者です」


「なんだと……」


「正確には勇者の子孫……ですがね」


勇者の子孫……

だから黒い髪をしていたのか?



「では……さっさとご退場願いましょう……シャドウベア」


男が何かを喋ったら、黒い何かが俺に向かい突進してきた。


「な……」


何だあれ……早いっ……


「シールド・クリエイト!」


俺は魔法で盾を出し、衝撃に備える。


「ぐっ……何だこいつ……クマ?」


黒い何かの正体は、大きな熊の形をした影だった……



「面白い魔法ですね……ですが……シャドウウルフ、シャドウスネイク」


男が連続で魔法を使い、次々と新しい影を生み出していった。


なんだこれは……召喚魔法か?


「ホーリーランス・クリエイト!」


「ホーリークロス・クリエイト!」


光魔法で敵を攻撃したが、動きを捉えきれずに俺は攻撃を受けた。


「がぁぁぁ……」


『クロード様!』


《蔵人!》


ぐぅ……

くそっ……体が痺れる……ヘビの噛み付きのせいか……



「あ……」


体がしびれながら、目の前を見ていると……

大きな熊の影が俺に爪を振り下ろしていた――


「がふっ……」


『クロード様!』


やばい……このままだとルナが……


「クロ! クロ!」


ルナが俺を呼ぶ声が聴こえる……

目が覚めたのか……


「おや……起きてしまいましたか……」


「おまえ……」


「あぁ、安心してください、この男はすぐに消しますから……」


「ぐぁぁぁ……」


なんだ……刺されたのか俺は……


自分の背中に強烈な痛みが走る……



「くろぉぉぉ……」


ルナ……ルナ……

どうすればいい……

どうすればルナを助けられる……




【敵なら殺せばいい――】


俺の心臓の音がドクンと高鳴り、そして声が聞こえてきた。



殺す? 殺されかけているのは俺だぞ……


【ボクなら簡単なことだ――】


俺なら簡単だと……そんなはずは……



【ねがえばすべてかなう――】


ねがいのまほう……



【そう――ボクがねがえば簡単だ――】


俺ねがい……それは……



【ボクはこの世界を憎む――】


俺は異世界が憎い……



【全ての人間はボクの敵だ――】


あぁ……そうだな……

全ての異世界人は俺の敵だ……



【ボクを利用した王も姫も兵も民も――】


俺を利用する聖王も神王も冥王も勇者も……




【スベテボクノテキダアァァ――――】


スベテオレノテキダアァァ――――




俺は異世界での出来事を怨嗟し……

自分に与えられた使命に悲哀を感じ……

そして異世界人のことを憤激して……

全ての慟哭と共に俺は――覚醒した(・・・・)――

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