第48話 接触
「いったい何処まで行くんだよ……」
『随分と歩きますね』
《そうだね……》
占い師の女性に、ルナが居る場所を案内してもらっていたが。
街の外まで連れて行かれたと思ったら、軽く30分以上は歩いている。
これは騙されたのか……
だが、騙されたとしても待ち伏せとか何もないし……
あの女は、ずっと俺に背中を向けているしな。
《ねぇ、蔵人……》
「なんだ?」
占い師の女の背中を見ながら、疑心暗鬼になっている俺に黒斗が話しかけてきた。
《あの女の人……なにかおかしくない?》
「あの女がおかしい? 出会った時から怪しさ抜群だったが……」
《そうじゃなくてね……》
『あの……クロード様』
「なんだ? ソフィア」
『あの占い師の方……何か違和感が……』
「うん……?」
黒斗に言われて返事をしていたら、ソフィアまで妙なことを言い出した。
俺は再び、女占い師の方をじっと見る――
白いローブを着て、顔が見えないくらい深くフードを被っているからな。
どこかおかしい何て言われても……
全部怪しすぎて、今更違和感なんて……
あれ……?
なんか……ちいさくね……?
「おい、ちょっとまて」
「なに……?」
俺は慌てて、女占い師の側に駆け寄る。
そしてよくその姿を見ると、30分前に見た時より背が低くなっていた。
「お前……なんだそれ……背が縮んでいるぞ……」
「え……?」
俺の言葉を聞き、女占い師は自分の姿を確認している。
「これは……私にもキミの力が干渉してる……」
「は……? 俺の力だと……」
俺の力ってねがいの魔法のことか?
ルナを探すときには使っていたが、今は何も使ってなんかいないぞ。
「俺は、何かした覚えがないんだが……」
「女神を護っている力……」
「なんだと……」
『え……?』
《女神さまを護る?》
ソフィアを俺の中に封印している力の事か?
だけど護る力ってのは何のことだ……封印の間違いじゃないのか?
「よくわからんが……俺の力がお前の背を縮めているのか?」
「そう……キミの力が女神を、外敵から護ろうとしてる」
「外敵? というかお前は何者なんだよ」
「お前なんて言わないで……」
「いや、名前知らないし」
自己紹介とかされていないし、こっちも名乗っていない。
他にどう呼べばいいのかなんて、わからないからな。
そんなやり取りをした後、女占い師は少し悩んだような仕草をした後。
「トリアナ……それが私の名前」
自分の名前をそう名乗った。
「そうか、俺はクロードだ」
「うん、よろしく」
俺が名乗り返すと、トリアナはフードを脱ぎながら手を差し出してきた。
トリアナの容姿は燃えるような赤い瞳で、ルナと同じ銀色の長い髪をなびかせていた。
俺の知り合いになる神秘的な雰囲気を持った女って、髪の色が偏ってないか……?
これで金髪二人に銀髪二人だよな……
頭の中に金髪のソフィアとリア、そして銀髪のルナの姿を思い浮かべながら。
俺はそんな変なことを考えていた。
「それで、俺の力がお前にどんな関係があるんだ?」
「トリアナ……」
「す、すまん……教えてくれトリアナ」
《蔵人。話し込むのもいいけど、ルナの所に急いで欲しいんだけど》
「あ……悪い……」
そうだった、ルナの所に急ぐべきだった。
色々なことが起きすぎて、気持ちが空回りしている。
落ち着かないとな……
「わかってる……歩きながら話す」
《え? 僕の声聴こえるの?》
「聴こえるよ……そっちの女神の声も聴こえる」
『そうなのですか?』
「マジか……」
トリアナが衝撃的なことを言葉にした。
黒斗だけじゃなく、ソフィアの声も聴こえるとは、本当に何者なんだこいつは……
俺は驚いた後、ルナの所へ向かいながら、トリアナから話を聞き出すことにした。
「トリアナは何者なんだ?」
「私? 女神だよ」
「は……?」
『え……?』
《な……?》
俺たち三人はトリアナの言葉を聞いて、驚きで言葉が出なかった。
そう……時間にして、たっぷり3分間くらい何も言わなかった。
「驚きすぎ」
「う……」
『申し訳ありません……』
《ごめん、だってびっくりするよ……》
トリアナの言葉で我に返ったが……
黒斗の言う通りだ、驚かないほうがおかしい。
「本当に……女神なのか?」
「うん。そうだよ」
『神界から、いらっしゃったのですか?』
「違うよ、ボクはこの世界の女神」
《ボク……?》
「この世界の……?」
まさか、この世界の女神が俺に接触してくるとは……
ソフィアがいるから、接触してきたのか?
《なんで……ボク?》
黒斗が変な所に食いついていた。
『私が居るから、こちら迄来られたのですか?』
「それもあるけど、厳密には違うかな」
「どう違うんだ?」
「女神のこともだけど、キミのことが気になってね」
「俺のことが?」
「そう……」
《なんで急に、一人称がボクに?》
食いつきすぎだろ、黒斗……
「女神と魔王をその身に宿した人間……気にならない方がおかしいよね」
「なるほど……そういうことか」
『ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません』
「ボクが会いたかっただけだから、気にしないで」
『はい……』
《僕は……ボクが気になる……》
黒斗が段々おかしくなってきた……
「目立たないように、仮の姿で会いに来たんだ」
「仮の姿? 背が縮んだのも、そのせいなのか?」
「そうだよ。これがボクの本当の姿」
トリアナがそう言って身体から淡い光を放ち……その姿を見せてきた。
うん。背が更に小さくなってロリ化した……
見た目が、ルナやリアと同じくらいの背丈と年齢だ。
「言葉遣いも変えてたから、おかしな喋り方だったかも」
『言葉遣い……無理をして、私とおっしゃっていたのですか?』
「うん。普段はボクって言ってるんだよ」
《ボクっ娘キター》
最初会った時、妙に子供っぽいと思ったのはこのせいだったのか。
そして、とうとう黒斗が壊れた……
「最初の占いの時も、ボクの言葉を簡単に受け入れられるとは思ってなかったよ」
「なんでだ?」
「だって、魔王の力が宿っている危険人物に、好き好んで近づく人間なんて居ないと思うよ」
「あー……」
『それは……』
《僕は年上のお姉さんが好きなんだけど、ボクっ娘によわいんだよね……お姉さんで口調がボク……なんて人がいたらコロッと落ちてたと思うんだ。本当の姿が小さい子だったのが……とても残念だ……》
よく考えてみるとそうだよな……
普通の人間なら魔王なんて畏怖の対象だろうし、そんなものを見つけたら大騒ぎするよな。
出会った時のトリアナが怪しさ抜群だったから、そんなこと気にもならなかった。
おい……黒斗帰って来い……
「そこまで気が回らなかったな、ソフィアも何も言わなかったし」
『全く気づきませんでした……』
「女神を護る力が、強くなってるからじゃないかな?」
「その……女神を護るってのは何だ?」
「文字通りの意味だよ、誰からも手が出せないように、キミのなかに閉じ込めているの」
『手が出せないように……』
無自覚にそんなことをしていたのかよ俺は……
やはり前世の影響なのだろうか……
「どうすればソフィアを外に出せるんだ?」
「キミが閉じ込めてるから、キミじゃないと外に出せないよ?」
やっぱりか……
《蔵人。何か神殿ぽいのが見えてきたよ》
「黒斗戻ったか、おかえり」
《た、ただいま?》
黒斗に言われて前方を見てみると、何かの神殿が建っていた。
「あそこにキミの探し人がいるよ」
「あの場所にルナが……」
薄暗くて人が居ないような神殿を見ると、嫌な予感しかしないが……
ルナを助けるためには、無理してでも入らなくてはならない。
俺は、意を決して神殿の中に入ることにした――




