第47話 迷子
「こんな人が多い街で、迷子になられたら洒落にならないぞ……」
現在俺は、一人で街のあちこちを奔走していた。
何故かと言うと、ルナ(迷子)を探すためである。
宿屋で、中々帰ってこないアリスたちを待っていたわけだが。
やっと帰って来たと思ったら、何故かルナだけが居なかった。
アリスに理由を尋ねると、露店で買い物をしていたらいつの間にか居なくなっていたそうだ。
『何処に行ったのでしょうか』
《ルナ……》
俺はアリスとエレンさんと三手に別れて、それぞれ別の場所を探している。
ルナが帰ってくるかもしれないので、リアは宿屋で待機してもらっていた。
「すまん黒斗、俺がうまく魔法を使えないせいで……」
《ううん、出来ないものはしかたがないよ》
ルナを探す前に黒斗に言われて、仲間を探す捜索魔法を創ったが成功しなかった。
一応魔法を唱えることは出来たのだが、何故かルナではなく自分の位置が頭の中に反映された。
ルナと魔王の両方で探索したが、表示された場所は俺自身の位置だとは……
俺とルナの魂が繋がっているせいなのかもしれないな。
「すっかり日が暮れてしまったな」
探すのに夢中で気付かなかったが、足を止めて辺りを見回すと暗くなっていた。
色々な露店でルナの特徴を言い、尋ね回っていたが店じまいする商人が増えてきた。
これだけ聞きまわっても、ろくな目撃情報がないとは……そろそろ限界か……
「悪いが黒斗、一度宿に戻るぞ」
《うん……》
ルナが帰っているかもしれないし、アリスかエレンさんが見つけているかもしれない。
俺はルナが居ることを願って、一度宿屋へ戻ることにした。
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宿屋で借りた部屋に戻って来ると、アリスとエレンさんも帰って来ていた。
ルナは居ない……リアは落ち込んだ表情をしている。
「見つからなかったか……」
「えぇ……」
「申し訳ありません」
アリスがうなずき、エレンさんが謝ってくる。
「別にエレンさんのせいではないですから」
勝手にはぐれて迷子になったのはルナだ、エレンさんが謝ることではない。
「そうね……私が目を離したのが悪かったのよ……」
「アリスが悪いわけでもないさ」
アリスにそう言うが、アリスは悲痛な表情をしている。
慰めてやりたいが、今はそれどころじゃない……
「アリス、俺はもう一度ルナを探してくる」
「私も行くわ」
俺の顔を見ながらアリスはそう言ったが、俺はそれを拒否する。
「駄目だ、お前たちはここで待っててくれ」
「どうして……」
「こんな時間によく知らない街に、好きな女を外に出したくない」
「そんな事言ってる場合じゃ……」
「頼む、アリス」
自分勝手なのはわかっているし、ルナのためには全員で探したいところだが。
俺自身は、暗くなっている街で女性にそんな事をさせたくない。
本当に我が儘だな俺は……
「外でもう一度魔法を使って探してみる、今度は見つかるかもしれないからな」
「わかったわ、ルナを必ず見つけてあげて」
「お願いします、クロードさん」
「ルナさまを……みつけてあげてください」
「あぁ。任せてくれ」
成功する自信などまったくなかったが、俺は三人を安心させるためにそう言った。
宿屋の外に出て、再び捜索魔法を使ったが、表示されるのはやっぱり自分の位置だった。
「くそっ、どうなってるんだよ俺の魔法は……」
『クロード様……』
《僕たちの存在が、邪魔になっているのかな……》
「わからんが……ルナと魔王どっちで探索しても、結果が変わらん」
『もし……魔法を妨害されるような場所に居るとしたら……』
ソフィアがそこで言い淀む……
ソフィアが言っているような場所にルナが居るとしたら、それは最悪の結果だ。
迷子になったわけじゃなく誘拐……
だが、ルナの姿は何処からどう見てもただの幼い女の子だ。
強い魔力が溢れているわけでも、人間以外に見えるわけでもない。
となると残りは……奴隷目的か……?
しかしこんな人が多い街で、人間にしか見えない奴を奴隷になんてするだろうか……
もしそうだとしても、ルナなら抵抗するよな……
「無いとは思うが……奴隷商の所へ行ってみるか」
『奴隷……』
《蔵人、お願い》
「あぁ、直ぐに向かう」
俺はその辺に居た人に道を訪ねて、人間奴隷を売っている店を教えてもらった。
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近場の奴隷商の店に辿り着いた俺は、まだ店が開いていたので直ぐに入って行った。
この店の商人らしき男が、俺の顔を見て笑顔で営業をしてくる。
「いらっしゃいませお客様、本日はどのような奴隷をご所望ですか?」
「あぁ……少し訪ねたいのだがいいか?」
「訪ねごとですか……」
俺の言葉を聞き、客じゃないと思ったのか、奴隷商は訝しげな顔になった。
追い返されるのも面倒くさいし、奴隷商の機嫌を取るため少しお金を渡した。
「何をお聞きになりたいので?」
「この店に、銀色の髪をした……人間奴隷は売っているか?」
「銀色ですか、少々お待ちください」
お金を渡して少し機嫌が良くなった奴隷商が、分厚い本のような物を調べている。
あの本に取り扱っている奴隷の特徴とか書いてあるのか……
けど、ルナが居なくなったのは今日だ。
すぐに売られているとは思わなかったので、奴隷商の顔を見ながら尋ねたんだが。
顔色が変わったようには見えなかった……ここにはルナは居ないと思う。
「銀色の髪をした人間はいませんねぇ……白い髪の獣人なら居ますが……」
「そうか……」
嘘を付いている顔には見えないな……
「銀色の髪がお気に入りなら、お取り寄せいたしますが」
「いや、それはいい……それよりも……ここの他に、人間の奴隷を売っている場所を教えてほしい」
「私の店以外の場所となりますと……南にある1件だけですね」
「その店しかないのか?」
「えぇ。人間奴隷よりも、獣人奴隷のほうが需要がありますので」
「わかった、感謝する」
俺は礼を言ってから奴隷商の店を後にした。
南の店か……
ここの店は、北にあるから少し距離があるな。
まだ店が開いているといいんだが……急がないと。
「少年……」
「ん……?」
俺が考えていると、誰かの声が聞こえた。
「こっち……」
『あれは……』
《占い師の人だね》
建物の隙間から、昼に出会った占い師の女性が俺を呼んでいた。
何かを知っているような感じがしたので、俺は慌てて女性に駆け寄る。
「昼に会った占い師だよな?」
「探し人は……見つかった?」
「し、知っているのか?」
「いたい……落ち着いて」
「あ、悪い……」
俺は女性の肩を掴み、ルナのことを聞き出そうとしていた。
痛いと言われて、慌てて手を離しながらまた尋ねる。
「俺が探している女のことを知っているのか?」
「うん……しってる」
「本当か! 何処に居るんだ? 教えてくれ」
「教える……ついてきて」
『どうして、あの娘の事を知っているのでしょうか』
《わからない……でも……》
いくら怪しくても、俺たちはアイツに頼るしか無い。
何かの罠かも知れないが、ルナの行方が全くわからなかったからな。
もし何が起こっても、ルナを必ず助ければいいだけだ……
俺はそう思いながら占い師の女性の後ろをついていった――




