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第44話 妹の幸せ 姉の幸せ

商業都市ミルネア――


ここは商人が興した街で、領主などは居ない。

街の各地にある商会の代表達が、会議を行い街を支えているらしい。

昔はただの村だったが、いつからか商人が集まるようになり。

経済効果が増え、大きな街まで発展したそうだ。


発展した理由は主に……

この街の南にある傭兵国と、北にある魔導都市のおかげらしい。

傭兵国は奴隷や装備などの取引で、魔導都市は魔導具の取引など……

それぞれこの国の発展に貢献したそうだ。


まぁ、今のは全て隣りに居るエレンさんから教えられた事だけどな。



「うぅ……まだ気持ち悪いな……」


『クロード様、少しお休みになられては……』


「大丈夫ですか? クロードさん」


「はい……大丈夫です」


《ただの食べ過ぎだもんね》


そう、別に頭痛がしているわけでも魔力を使いすぎたわけでもない。

この街に到着してすぐに、俺は食べ物屋に突撃した。

それは何故なのかと言われると、俺たちが出発してから5日が経過したが。

毎日の食事が缶詰漬けで、普通の料理が恋しすぎたからだ。


「私が行ってきますので、クロードさんはここで休んでてください」


「すみません……おねがいします」


エレンさんに謝り、俺は椅子の上に座った。

俺とエレンさんは今、ある大商会のところに来ている。

北西にあるカミール山脈に行くためには、砦を通る事になるのだが。

その砦は通行証が無いと通れないので、ここで発行して貰いに来た。



「はぁ……やっぱり食い過ぎたか……」


『無我夢中で食べていましたね』


《4人前は食べたんじゃないかな?》


「そんなに食ったのか……俺」


《アリスさんが呆れたように見てたよ》


「そうか……」


アリスたちは買物をするために、別行動をしている。

適当に時間を潰したら、宿屋で合流するつもりだ。


「しかし……買い取り専門の商会だから、商人ばかりだと思ったが……それ以外の客も結構いるんだな……」


『そうですね』


《お酒飲んでる人もいるね》


商会の中にテーブルが並べられていて、そこで酒を飲んでる奴らが居る。

ガヤガヤ騒ぎながら飲んでいて、結構うるさい……



「こんな所で飲んでないで、酒場に行けよと思うのはおかしいのか」


『美味しい食べ物でも、出るのでしょうか』


《買取専門なのに?》


「飲みながら食っているな、新鮮な食べ物でも出るのか?」


飲んでる連中のテーブルを見ると、肉や魚など色々な食物が置かれていた。

あぁ……食い物を見たら、また気分が悪くなってきた。

俺はエレンさんが向かった、受付の方へ視線を向けた――



「……で……だと……」


「本当か……勇者……」


「あぁ……冥……王……」



ん……?

今なにか気になる単語が聞こえたような……


『クロード様……今、勇者と聞こえませんでしたか?』


《僕は……恐ろしい名前が聞こえた気がするのだけど……》


うん……

俺はどっちも聞こえた気がする……

どこだ……


俺はどこから聞こえたのかわからず、キョロキョロしながら探す。


酒を飲んでる連中じゃない、連中がいる場所は遠いからな。

声は意外と近くから聞こえたんだが……

くそっ……商人が多すぎて誰が喋ってたのかわからん。



「お待たせしました、クロードさん」


「あ……おかえりなさい」


「どうしました?」


「いえ……何でもないですよ」


キョロキョロと声の出処を探していたらエレンさんが戻って来た。

結局俺は、さっきの話をしていた奴を見つけることが出来なかった。


「では、宿屋に戻りましょうか」


「そうですね」


エレンさんと俺は商会を後にし、宿屋へ戻ることにした。



==============================================



商会で聴こえた内容は……

勇者と冥王って聞こえた気がするんだが……

もう一度戻るべきか……いや、さっきも見つけられなかったし、無駄足になるだろうな――



「クロードさん」


「はい?」


考え事をしている俺にエレンさんが声をかけてくる。


「クロードさんは、シュバルテンに行きますか?」


「シュバルテン……アリスの故郷……ですか」


「ギルバートさんから、話を聞いたのですね」


「えぇ……」


アリスの生まれ故郷は、この街からさらに西の方にある。

目的地は北西の山なので、シュバルテンには寄る必要はないが……



「アリスが嫌がるようなら行きませんよ。旅に必要な物があれば、アルツベルゲンでもいいですしね」


「そうですか」


アルツベルゲンはこの街から北にある魔導都市の名前だ。

通行ルートは北からでも西からでも、俺はどちらでも構わない。


「エレンさんは、アリスと古い付き合いなんですよね?」


「もう、12年位になりますかね」


長いな……



「どうしてずっと、側に居るのか聞いてもいいですか?」


「そうですね……最初はただの……同情でした」


「同情……?」


「はい……あの娘は、心から笑うことが出来なかったのです」


心から笑うことができない……

あの境遇だったのなら、それは仕方ないよな。


「笑うことが出来ないと言っても、笑顔は出来ていましたよ」


「え……?」


「誰にでも笑顔は向けていましたが……それは全て……心に壁を作るような、不自然な作り笑いでした」


「それは……見ている方としては心が痛くなりますね……」


幼いなりに、周りから見捨てられないようにする為の処世術だったのか。

しかし……今のアリスからは本当に想像できないな。



「そんなあの娘にも、ある転機が訪れたのです」


「転機ですか?」


「あの娘に、好きな男のができたのですよ。その男の子はあっという間に、あの娘の心の壁を崩してくれました。少し……クロードさんに、似ていましたね」


俺に似たアリスの好きだった奴……

以前、ギルさんが教えてくれた奴のことか。



「その男の子の話をしている時の、あの娘は本当に楽しそうで……私も、そんなあの娘の笑顔を見るのがうれしかったですね。でも……その楽しい時間は、長く続きませんでした……」


あの事件か……


「男の子が、とても遠い場所に行くことになってしまって……あの娘と、別れることになったのです……」


「そう……ですか……」


「最後のお別れの時に、あの娘は約束をしたそうです……私は強くなって、好きな人ができたら必ずその人を守り通すと……」


最後の約束か……

アリスは本当に強いな……


「私はその約束を、見守り続けると心に決めました」


「見守り続ける?」


「はい……例えどんな事があろうと、最後までアリスさんの側にいて。あの娘が幸せになれるまで……あの娘を見守り続けます」


まるで妹を見守り続ける姉のようだ。

実際アリスの事をあの娘と呼んでいるし、そうなのかもしれないな。

でも……それじゃ……エレンさんの幸せは……


「アリスの姉みたいな事を言ってますが……エレンさんはそれで良いんですか?」


「姉……そうですね、私はあの娘の姉代わりです。私の幸せよりも、あの娘のことを優先しています」


エレンさんは思いを馳せるようにした後、くすくすと上品に笑って。



「最初はクロードさんのことを、あの娘から遠ざけるつもりでした」


「え……?」


「考えてみてください、得体のしれない男の子があの娘の近くに居る……姉としてはそんな男の子に、注意を払うのは普通の事だと思いますよ」


「それは……」


うん、そうだよな。

得体のしれない異世界人が、大事な妹に近づいてきたらそうするよな。



「クロードさんは私の好みだという嘘も、お二人に話しました」


マジか……

ギルさんとアリスが言ってたことは、エレンさんの嘘だったのか……

ちょっとショックだが……アリスのためなら仕方ないな。


「ごめんなさい……」


「いやいや、それは仕方ないですよ」


エレンさんが悲痛な顔で謝ってきた。


「もしかして……俺のことをよく見ていたのは……」


「はい。あの娘のために、クロードさんを観察していました」


ぐふ……

そうだったのか……自惚れていた俺はアホだった……



「あの娘とクロードさんの距離が近づいた時は、びっくりしました」


あぁ……

初めてアリスの家で食事した時、そんな驚いた顔をしていたな。


「しばらくお二人を観察していて、とても幸せそうでしたから。もう……邪魔する必要はないと判断しました」


「そ、そうですか……」


「それからしばらくして、あの娘が私に言ってきた言葉を聞いて……大変驚きましたよ……」


「なにを言ったんです?」


「例えエレンが相手でも、正妻の座は渡さないわよ……と宣言しました」


「ぐふぅ……」


お、俺のライフゲージが……ゴリゴリ削られていく……

エレンさんは別に、俺に好意を持っていたわけじゃないのに……



「だから、あの娘に言いました」


「え……?」


「私も簡単には負けませんよ……と」


なんだと……

あれ? どういう事だ……


「あの娘と一緒に、私も幸せになれるのなら……それが一番良いことだと……思いましたから」


「えっと……」


戸惑っている俺に、エレンさんが満面の笑顔を向けてきて。



「あの娘と私を必ず幸せにしてくださいね、クロードさん」


「は、はい! がんばります」


「私は別に、愛人でもいいですからね」


「そんな事にはさせません、がんばります」




素敵な笑顔でそんなことを言うエレンさんに。

俺は、リアが言ってたようなセリフを言い。

二人を幸せにするために頑張ると心に誓った――

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