第4話 脱出
「ルナは俺の中に居たままで、魔法が使えるのか?」
『力を使いすぎたから威力が出ないけど……それに、魔力が少ないから外に出られない』
「魔力が回復すれば、外に出てこれるのか」
『ん……はやくクロに逢いたい』
『わたくしも外に出たいのですが、何かに引っ張られるように出られません』
『役立たず』
『うぅ……』
妙に懐かれてるような感じがするルナと、彼女にずけずけと言われているソフィアと会話をしながら俺は出口まで歩いて行く。
「ここは、盗賊の住処なのかな」
俺の独り言に、二人は答えない。彼女たちにもわからないのだろう。
「ん? あれは灯りか……」
通路を進んでいると、薄っすらと明かりが漏れている入口が見えてきた。
人工的な光のようだったので、できるだけ気配を殺しながら歩く。
「いやぁぁぁ!」
「な、なんだ!?」
入口に近づいていくと、突然女性の悲鳴が聞こえてきた。
それを聞いた俺は、慌てて声がした方へと飛び出す。
たどり着いた場所は、少しだけ広い部屋のようなところだ。
中には二人組の男が女の子を捕まえていて、その子は涙を流しながら悲鳴を上げていた。
「な……そ、その子を離せ!」
『クロ!?』
『クロード様!』
俺は叫びながら、男たちに向かって走り出す。
ルナとソフィアが俺を制止させるように名前を呼んだが、それを無視して女の子の方へと駆け寄る。
「奴らの仲間か!?」
「いつの間に入り込んだ!」
俺を見た男たちが、血相を変えながら俺と対峙する。
そして片方の男が、腰に差していた片手斧を手にして俺に振りかざした。
「うおっ、あぶねぇ……」
ブォンと音を鳴らして振り下ろされた斧を、俺は咄嗟に後ろに離れて躱す。
『クロ、無謀だ』
『クロード様、危険です』
「そうは言うがな……」
二人はそう叫ぶが、俺は泣いている女の子を見過ごすことができなかった。
『武器も持たずに、貴方は素手で戦えるのですか?』
「あ……無理……」
ソフィアが言うことは尤もだった、俺は武器も何も持ってはいない。
咄嗟に体が動いてしまったので、策を考える暇もなかった。
「なにをブツブツと言ってやがる!」
俺が二人と会話をしていると、男は再び斧を構えて向かってくる。
「くそっ、やべぇ……」
『ウィンドバースト・クリエイション!』
こちらに向かってくる男を見ながら焦っていると、ルナがまた魔法を唱える。
その瞬間俺の目の前の空間が大きな音を立てて爆発し、男は慌てて後ろに下がった。
「こいつ、魔導士か?」
「う……なんだ……力が抜ける……」
爆発で後ろに下がった男が驚愕しているが、俺はそれどころではない。
俺は妙な脱落感を感じで、体中の力が抜けていった。
『クロ……ごめん。クロの魔力を使った』
「うぅ……そういうことか」
さっき見たステータスじゃ、俺の魔力が低かったからな。
このダルさは、それがゴッソリと減ったのか。
フラつきながらそのような事を考えていると、男がナイフを取り出して俺に投げつけてくる。
「くっ!」
投擲されたナイフをなんとか避けたが、俺はバランスを崩して後ろに転んでしまう。
「おらぁぁぁ!」
尻餅をついた俺に男が突進をしてきて、斧によって斬りつけてきた。
「ぐぅぅぅ……」
俺は咄嗟に避けようとしたけれど、逃げ切れずに背中を斬られる。
『クロ!』
『クロード様!』
背中が焼けるように痛い、意識が朦朧としてくる。
目を瞑りそうになるのを我慢しながら男の方を見ると、敵が俺の体を蹴飛ばす。
「ぐあっ」
『クロ! こいつぅ』
俺が狭い通路まで蹴り飛ばされると、俺の中のルナが怒りを露わにする。
『ストーンニードル・クリエイション!』
「ぎゃぁぁぁ!!」
ルナが再び魔法を唱えると、左右の壁から無数の太い棘が飛び出す。
土でできたそれは次々と敵に襲いかかり、体中に棘が刺さった男が血を吐き出した。
「ぐっ……この……」
吐血しながら目を充血させた男が、よろよろと歩きながら向かってくる。
「う、うわぁぁぁ!」
それを見た俺は近くに落ちていたナイフを手に取り、男の胸のあたりに突き刺す。
「ごふっ」
男は口からゴポっと血を吐き出し、手に持っていた斧を地面に落として動かなくなった。
「う……俺は人を殺し……」
男を殺したことに不快な思いをしたが、すぐに目眩がして俺は地面に倒れ込む。
『クロ!』
『クロード様!』
二人が俺の名前を呼んでいるけれど、とても目を開けていられない。
敵はもう一人いたし、まだ女の子を助けれていない。だが体が動かない。
「ひぃ……け、剣聖!?」
俺から離れた場所から、男の悲鳴のようなものが聞こえてくる。
なんだ……けんせいって……
「うわぁぁぁ」
「きゃぁ」
男の叫び声と女の子の悲鳴の後に、誰かが走る音が聞こえた。
「おい! 待ちやがれ!」
複数の足音が近づいてくるが意識が遠のく、俺もヤバいかもしれない。
あぁ……やだな……こんなに早く死ぬなんて……
「ぐぉぉぉ!」
「グランブレイド!」
「がはっ……」
俺が死を覚悟していると、争い合っていた音らしきものが静かになる。
「ふぅ、手間を掛けさせやがって……ん? なんだ? おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
誰かにユサユサと体を揺さぶられているが、目を開けていられない。
『クロ! クロ!』
「エレン、怪我人だ! こっちに来てくれ」
「はい」
「うぁ……」
口から呻き声を出し、俺はなんとか目を開ける。
そして薄っすらと目が開き、俺の瞳に映ったのは……
大きな大剣を手に持つ男と、手から優しい光を放っている、ピンク色の髪をした美しい女性の姿だった。