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第36話 竜人の少女

「しかしどうすればいいんだ……これは」


俺は奴隷救出の手伝いを終えた後、自分の部屋に帰っていた。

ベッドには竜人族と呼ばれている少女が寝ている。

エレンさんは心のケアの為に、治癒院に子供奴隷達を連れて行った。


眼の前の少女は、連れて行かないほうがいいと言われたので俺が保護をした。

竜人族は希少種なので、かなり高値で取引されているらしい。

隷属の首輪と呼ばれている、首輪を付けられていたが。

俺のマスターキーで簡単に取り外せた、便利だよなホント。


「帰してあげるにしても、竜人の住処なんてわからないわね」


「…………」


側にいるアリスがそう言った。

ルナは、じっと少女を見ている。


「本人が知っているといいんだがなぁ……」


『そうですねぇ……』


《さすがに知らない世界の事は、アドバイスできないな》


この世界の事は、エレンさんが持っていた本で調べたが。

竜人の国なんか載っていなかったからな。

まさか奴隷の中に、竜人が居るとは思わなかったしな……

オッサン達も……そこまでは知らなかったらしい。


オッサン達? 貴族の屋敷をほぼ壊滅して笑顔で帰ったぞ。

ギルさんを入れて、五人のオッサンらが暴れてる姿は……

熱苦しすぎて俺には耐えられなかったからな……

子供達を連れて、さっさと屋敷を脱出したんだ。



「ぅ……ん……」


「お、目が覚めたか」



俺が考え事していると少女が目を覚ました。


「ひっ……」


少女が小さな悲鳴を上げた。


起きて目の前に知らない人間が居たら、そりゃ怖いよな。

奴隷にされていたみたいだし……


「あー……怖がらないでくれ……と言っても怖いか……」



「えと……」


「クロがおまえを助けたんだ」


ビクビクしている少女に、ルナが簡潔に現状を説明した。


「くろ……?」


「あぁ。俺の名前だ、それで……自分の名前は言えるか?」



「えと……りあとーな・あれすべるぐ・ふぇるうぇりうす・はうべる……です」


「名前長っ!」


「名前が長い!」


「名前ながい……」


俺達三人はハモっていた。



『リアトーナ・アレスベルグ・フェルウェリウス・ハウベルさんですか』


《リアトーナ・アレスベルグ・フェルウェリウス・ハウベルちゃんだね》


なんで君たちは一発で覚えられるんだよ……



「えっと……リアトーナ・アレスベルグ・フェルウェル……フェルエ……」


言われた名前を復唱しようとしたが、途中で言い切れなかった。

横に居たルナが、そんな俺を見て笑っていた。

俺はちょっとムカっときたので――


「ルナ、お前は言えるのか?」


「フッ……当然だ!」


「じゃぁ、言ってみろ」



「りあとぅーな……ありゅすべにゅぐ……ふりふりうす……ばいえるんだ!」


《ブフッ……》


「ぶっ……」


『うふふ……』


やばい吹き出した……

黒斗とソフィアも笑っていた。

アリスは声を我慢しいるが口が引きつっている。


最初の発音は妙に良かったが、その後が全く違う。

ルナは自信満々で腕を組み、声高々に発音していたが。


ていうか……

フリフリウスバイエルンってなんだよ……


「ぶはっ……だめだ……あははははっ」


「むぅぅぅ……」


俺は堪え切れずに腹を抱えて笑ってしまう。

そんな俺を、ルナが口を膨らませながら睨んでいた。



《笑うなんて酷いよ蔵人》


《いやまて、お前が一番最初に笑ってなかったか?》


《何のこと……?》


《お前……》


「くろぉぉ……」


「ハッ……!?」


椅子に座って黒斗と会話をしていた俺に、ルナがダイブしてきた。

俺は、そんなルナを支えきれずに共に後に倒れる――


「うわっ……」


「ぁぁあ……ガブ……」


顔を真赤にして怒ったルナは、そのまま俺の首筋に噛み付いた。


「ちょ……ルナ、まてっ……!」


「んーちゅぅぅぅ……」


「アーッ……!」


俺は問答無用でルナに吸血された。



==============================================



「悪いな……俺には一発で覚えられない……」


ひと暴れしたルナを落ち着けた後、俺は再び少女と向き合っていた。

ルナは血を吸い終え、大変満足そうだった。



「りあ……とよんでください」


そう言った少女は、ルナを見て少しビクビクしていた。


「そ、そうか……それじゃ……リアは何故あんな場所に居たのか、自分でわかるか?」


俺の質問にリアは顔を伏せながら。


「おかあさんと、かみゅに草をとっていたら……人間に捕まりました……」


「カミュニ草……?」


「イルミニス病に効くと言われてる薬草ね。確か……西の国にある、カミール山脈で取れるって噂だけど」


アリスがそう補足してくれた。


イルミニス病ってのは何なのかわからないが……

まぁ、今はそれはどうでもいい。


西の国か……

この国は大陸中央にあるから、そこまで遠くはないが。



「お母さんも、一緒に捕まったのか?」


「わたしだけです……」


リアは顔を伏せてそう言い。

そしてお腹から、クゥゥっと可愛い音を鳴らした。


「アリス」


「えぇ、何か作ってくるわ」


「助かる」


とりあえずアリスに、リアの飯を作ってもらい。

俺はソフィアに相談する事にした。

ルナがリアと何か話をしているが、まぁ任せよう。



『ソフィア』


『はい』


『本当は、今すぐにでも北の国を目指したかったんだが……』


『大丈夫ですクロード様、私の事はお気になさらないでください』


『すまない……』


ソフィアを外に出すために、確実性の高そうな北の聖王都を目指したかった。

少し遠回りになるが、リアを放っておく事も出来ないしな。

そんな事を考えていると、ギルさんが戻って来た――



「坊主、話があるんだがいいか?」


「はい、大丈夫です」


「じゃ、俺の部屋に来てくれ」


「わかりました」


ギルさんが、ビクビクしているリアを見ながら俺を連れて行く。



「ルナ、リアの事を頼む」


「ん……まかせろ」


頼もしいルナの返事を聞いて、俺はギルさんの部屋へ向かった。



==============================================



「そうか……竜人の嬢ちゃんはそんな理由で捕まったのか」


ギルさんの部屋で、俺はこれからの事をはなした。


「はい。それで、ギルさんの方はどうだったのですか?」


ギルさんは、ぶっ飛ばした貴族の尋問をした後。

エレンさんが居る治癒院で、子供達から話を聞いてきたらしい。


「それがなぁ……どうやらこの街で奴隷を買ったんじゃなくてな……流れの奴隷商人から、外で買って来たらしいんだ。だから……足取りを掴むのも難しい……」


「そうですか……」


「捕まってたガキ共も、無理やり奴隷にされたみたいだから……親元に返したいんだが……そうなると坊主には頼めないな」


「何がですか?」



「坊主は竜人の嬢ちゃんのために、西に行くんだろ?」


「そうですね、リアを親元に帰してあげたいですし」


「ガキ共の住んでいた場所は、イルオーネにある村だ」


獣王国イルオーネか……

たしか、南にある獣王が治めている国だったな。


「竜人の嬢ちゃんが南の国の出身なら、坊主に頼みたかったんだ」


「他の人には、頼めなかったのですか?」


「頼むことはできるが、好き好んで獣人の国に行く奴は中々居ないな」


「獣人の、冒険者とかはどうなんです?」


「俺が信頼できる獣人が、あまり居ないんだ」


「そうですか……」


護衛の仕事を依頼するなら、信頼できる冒険者じゃないとな。

たとえ同じ種族でも、護衛対象が子供奴隷だと最悪の場合もあり得る。



「しかし、ギルさん一人で大丈夫なんですか? あの子達は、人間に対してかなり恐怖している気がしましたが」


「あぁ。そこは大丈夫だ、俺の恋人に手伝って貰うことにした」


恋人居たのかギルさん……

確かに結婚していてもおかしくない年齢だが。

そんな素振りを全然見せなかったから、居ないと思ってた。


「失礼ですけど、恋人居たんですねギルさん」


「おうよ! ちゃんと居るぞ」


「もしかしてあまり家に帰って来なかったのは……仕事ではなくて、その恋人の家に行ってたりしたんですか?」


「いやまぁ……半分くらいは仕事だな……」


半分は恋人の所へ行ってたわけだと……

アリスには、内緒にしていたのかな。


「本当は、エレンを連れて行きたかったんだがな……」


「エレンさんを……ですか?」


「エレンならガキ共も懐いていたし、一緒なら助かったんだが……」


俺を見ながら、ギルさんが言葉を濁す。


「その……すみません……」


「あー……気にするな、竜人の嬢ちゃんのことも大事だしな。気を付けていないと誘拐されたりして、即売られるぞ」


「そんなに高いんですか」


「詳しくは知らんが……500万ゴールドくらいするんじゃないか」


「平均がわからないですけど……結構しますね……」


「竜人は希少種で、見かけるだけでもほんとに稀だからな。嬢ちゃんと同じくらいの歳の、獣人の女の子が……別の国で、20万くらいで売られているのを見た事がある。あの貴族も、更に高値で売り付けるために手を出さずにいたらしい」


それは高すぎるな……


他の奴隷と違って傷なんか無かったし、あんな所に閉じ込めていたのは。

別の貴族とかにでも、売るためだったのか。


リアは、ルナと同じくらいの年齢の外見をしていて。

髪はサラサラしている黄金色で、美しい少女だ。

ソフィアも、綺麗な金色の髪をしていたな……


俺は一度しか見ていないが、ソフィアの美しい姿を思い出していた――


「まぁ……坊主も落ち着いたら、一度この国に戻って来てくれ」


「あ……はい、わかりました。あの子供たちの事はお願いします」


「おうよ、まかせとけ」


俺が、ソフィアと出会った時の事を想起していたら。

ギルさんが現実に引き戻した。


そしてギルさんと約束をし、リアと話をするために。

俺は自分の部屋へと戻ることにした――



==============================================



「ご飯は食べたのか?」


「はい、おなかいっぱいになりました」


ルナと話し込んでいたリアに声をかける。

アリスは食器を片付けに行っているようだ。


「それはよかった」


「あの……」


「うん……?」


「たすけていただいて……ありがとうございました……クロさま」


「あぁ、それはいいが……クロ様? そんな呼び方はしなくてもいいぞ」


「いえ。ルナさまから、クロさまのすばらしさを教えられたので。呼び捨てにすることなどできません」


「フッ……」


おい。そこで不敵に笑ってる魔王女……

いったい何を言ったんだ……



『なにを教えたんですかルナ……』


「クロとワタシのすばらしさを教えたダケだ。そして…リアはワタシの配下になったぞ」


何をしているんだお前は……


『な……』


《初めての配下……よかったね、ルナ》


そういう問題じゃねぇよ……



「ルナさまとクロさまのために、わたし……がんばります」


もはや、手遅れなようだった――



==============================================



「リアの故郷に行こうかと思うんだが……自分で住んでいた場所が、どこにあるのかわかるか?」


竜の住処の場所が、正確にわかれば苦労が減るので。リアに尋ねることにした。


「わかりません……おかあさんがとんで、つれて行ってくれたので」


飛んで……

やっぱり、竜人と呼ばれるからには竜に変身できるのかな……


「そうなると……時間がかかるな……」


「かみゅに草があったやまからは……そんなに離れていませんでした」


「住んでいた場所は……山奥にあるのか?」


「はい……」


カミール山脈かどんな所かわからないが、まずはそこを目指すか。


「とりあえず、話し合いはここまでにしておくか。ルナ、リアを風呂に入れてやれ」


「ん……わかった。クロも…いっしょにはいろう」


「いや、俺は飯を食ってから入るから遠慮する」


「むぅ……」




ルナが子供の口調になって、変なことを言うので。

俺はやんわり断った――

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