第33話 悲願
どこか見覚えのある森――
俺は夢を見ていた。
周りには火が広がり、次々と燃えていく木々。
森の木々の間からは、白くて壮大な城が崩れ落ちていた――
一つの大木に、俺は視線を向ける……
そこには、今にも死にそうな男が大木にもたれかかっていた。
これはアイツの夢か……
俺はアイツの……黒斗の最後を見ているのか。
そんな事を考えていると、黒斗がある方向に視線を向ける。
視線を合わすと、誰かがこちらにゆっくりと歩いて来ていた。
あれは……
それは、白い髪に黒いロングコートの男。
年齢は20代くらいで、黒い瞳に口元は不敵に笑っていた。
なにか気持ち悪いなコイツ……
白髪の男が黒斗の前に立ち、低い声で喋り出す。
「あの真祖はどこだ……」
真祖? 誰のことだ……
「残念だったね……もう……キミの手が届かない場所だよ」
黒斗の返事を聞き、男が忌々しげに舌打ちをした後。
「異世界か……ならキサマの力を奪うだけだ」
男はそう言いながら黒斗胸ぐらを掴み、無理やり立ち起こした。
「それも無理だよ……僕の願いはもう……託し終えたから……僕の生命の火も……いずれ消える……」
「キサマァァァ」
黒斗の言葉に激怒し、男は黒斗を力任せに放り投げた。
「がふっ……」
無抵抗なまま投げられた黒斗は、血を吐きながら倒れていた。
この野郎……くそっ。
俺は見ていることしか出来ないのかよ……
男を殴ってみようとしたり、魔法を唱えたりしたが。
これはただの夢なので。
その行為も虚しく、何も出来なかった。
「まぁいい……キサマはもう用済みだ」
男が蔑むような目で黒斗を見ながら片手を上げ……
「あのガキは必ず見つけ出し、その力ごと全てオレの物にしてやる。キサマはここで、自分の無力さを悔やみながら死んでゆけ……ククク……クハッ。クハハハハハハハッ……」
気味の悪い声で笑いながら、男は上げていた片手を振り下ろした。
おいおい……なんだあれ……
黒い……太陽……?
頭上を見上げると、黒くて巨大な太陽みたいなものが降り注いできた――
冗談じゃないぞ……
こんなもの、どうやって防ぐんだよ……
俺がそんな事を考えていると。
黒い太陽が形を変え、まるで闇を広げたようになり。
俺の居た場所が、黒の世界に塗り潰された……
世界が黒に染まる瞬間――
もしも……
また……生まれ変わることができたなら……
もう一度君と出逢って……
今度は君の……恋人になりたいな……
愛してるよ……ルナ――
アイツの……
最後の悲願が聞こえてきた――
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翌朝――
俺は目を覚まし、体を起こす。
重すぎる……
頭を抱え、俺は辟易していた。
《どうしたの? 大丈夫?》
黒斗が俺に、声をかけてくる。
ルナとソフィアはまだ眠っているようだった。
《くぅ……お前の愛が重すぎる……》
《え……?》
俺は正直に、今の感想を言った。
《何のこと?》
《あぁ……お前の最後を……夢で見たんだ》
《それは……》
《あの白髪の男が……冥王なのか?》
《うん……そうだよ……彼が冥王だ》
見た目から言動までイカれた奴だったが。
どう見ても人間だったな……
《イカれた人間にしか見えなかったが……》
《そうだね……彼は力を持った、ただの人間だ》
《ただの人間だと……あんな奴に勝てそうにないんだが》
《気弱な事言わないでよ、僕はもう……君に託すしか無いんだから》
《そうだったな……》
コイツはもう死んだ人間だ。
今を生きていない人間には、もうどうする事も出来ない。
だから俺に託すしか無かった……
俺は今を生きている。生きている意味がある内は、足掻き続けるべきだ。
しかし……
《お前の最後の願いを聞いた今……俺としては物凄く辛いんだが……》
《君と僕は同じ存在だから、ルナと君が結ばれてくれれば……僕の最後の願いは……達成できるよ》
同じ存在だと言われてもなぁ……
《それって、俺の前の前世がお前だったって事か?》
《微妙に違うかな……君の何代前かの前世が、僕なんだと思う》
《何代前って……幾つ前なんだよ……》
《それは……わからない》
冥王は人間なのに、そんな長い時間生きているのかよ……
ん? ちょっとまて……
《冥王が、今も生きているのかも気になるが……ルナはいったい、何歳なんだ?》
《冥王は生きていると思うよ、そんな力を持っていた。ルナの事は……正直分からない……》
年齢がわからない……
ルナ本人も、そんな事を言っていたな。
《僕がルナに託した力は、時間を超えるものだから……あれから何百年……何千年経ったのかもわからない……》
なんて無責任……いや、そんな事は言えないな。
《そうか……まぁ、ルナが何歳だろうが関係ないな。俺は……いや、俺達はルナのために頑張るだけだ》
《ありがとう……》
《これからも、色々と聞かせて貰うぞ》
《うん、わかったよ》
俺一人じゃ、あんなイカれた奴を倒せそうにないからな。
黒斗にも、協力してもらわないと無理だ――




