第30話 愛しき人
ギルさんの家にお世話になってから、約三ヶ月程の月日が流れた――
女の子達との夜の進展?
ふっ……
そんなもの全く無かったぜ……
俺はルナとずっと一緒に寝ているし。
アリスに、夜這いなんてしなかったしな。
アリスも寝る前に、挨拶くらいしか俺の部屋に来なかった。
そのまま暫く俺の事を見ていた時があったが……
ルナと目を合わせた後、大人しく自分の部屋に帰ってた。
寝る前にルナに睨まれながら。たまにソフィアと愛を語り合ったくらいだ。
エレンさんとは……
まぁ、普通に仲良くしていたな。
話している時突然――
「クロードさんの、ご趣味は何ですか?」
なんていう風に――
お見合いしているみたいな言葉を喋っていたが……
別に仲が進展したわけでもない……と思う。
あとはそうだな……
部屋や風呂場の脱衣所で、アリスやエレンさんの着替えてる所に遭遇したくらいだな。
うん、いい目の保養になった。
何故かあまり怒られなかったしな……
ノックくらいしろ?
そんなのは野暮ってもんだぜ……
まぁ普通に忘れる事が多かっただけだ――
「そろそろ起き上がったらどうだ?坊主」
「うぅ……」
俺は、屋敷の庭で仰向けで倒れていた――
目の前のギルさんに、ボコボコにされていたからだ。
別に喧嘩をしているわけでも、怒られているわけでもない。
そう。成長を実感できなかった俺は、ギルさんが家に居る時は、毎回鍛えて貰っていた。
くっそう……
強すぎだろこの人……
この世界の人間はこんなに強いのかよ。
「ぐ……うおぉぉ」
ギルさんの元へ駆け寄り、魔法を使う――
「ランス・クリエイト!」
俺は手から槍を出しギルさんを突いた――
「甘い!」
刃を潰してある大剣の腹で、ギルさんは俺の槍をギイィンと受け流す。
「うわっ」
ギルさんが槍を受け流しその力を利用して、そのまま大剣で斬りかかってくる。
「マズいっ」
急いで魔法を使い直し、手から盾を出す――
「シールド・クリエイト!」
魔法で盾を出し俺も受け流そうとしたが、うまく出来ずに真正面から受けてしまう。
「ぐぅ……」
そしてそのまま力任せに、後方に吹き飛ばされた。
「あぁぁ……」
吹き飛ばされた俺は無様にも地面に転がる――
「どうした坊主、その程度か?」
ギルさんが大剣を肩に置いたまま、見え見えの挑発を俺にしてくる。
「まだまだぁぁぁ……」
俺はそんな挑発に乗せられ、二本の剣を創り出しギルさんに斬りかかる。
「ツインブレイド・クリエイト!」
「ふんっ!」
「がはっ……」
ギルさんは、俺の二本の剣を簡単にいなした後。
俺の腹に拳を突きつけ、そのまま俺は崩れ落ちた――
「今日はここまでだな坊主」
「うぅ……はぁ……はぁ……ありがとう……ございました……」
「おうよ!」
ギルさんの特訓が終わり、俺はその場にへたり込む――
全身が痛い上に、息切れになっていて起き上がるのも億劫だ。
「しかし坊主の魔法は、ほんと何でもありだな」
「はぁ……はぁ……まぁ……そうですね……」
「ある意味、反則すぎるぞ」
「すみません……」
俺はギルさん達に、俺の力の事を教えていた。
世話になっているし、こうして鍛えて貰っているからな。
隠し通す事も出来なかった。
「謝ることはねぇよ、それが坊主の力だからな」
「はい……」
「じゃぁ、俺は風呂に入ってくる。坊主も後で入って、ちゃんと汗を流せよ」
「はい」
そう言ってギルさんは風呂に向かっていった。
俺はまだ休もうかと、庭の木陰の方で座り込む――
「ふぅ……」
『お疲れ様です、クロード様』
「あぁ……ホント疲れた……」
ソフィアの言葉に力なく返事をする。
相変わらず勝てないよな……
最初の頃は……攻撃魔法も織り交ぜて、結構接戦してたんだが。
それだけじゃ体力がつかないし、戦いの勘もつかめない。
そう思って、自ら禁止することにした。
魔物を倒す時は使っているがな……
《今日も勝てなかったね》
「くっ。急に……」
『クロード様……?』
「あぁ。いや……何でもない」
『そうですか』
不意に言葉が出かけたのを飲み込み。
ソフィアが不思議そうにしていたのを、俺は何でもないと制する。
《急に話しかけるなと言った筈だぞ》
《無茶を言わないでよ……姿が見えないのに、会話の前振りなんてどうするのさ》
《そんなものは知らん》
俺は不機嫌になりながら、ソフィアとは違うもう一人の存在と会話をする。
《ソフィアと会話する時でさえ……心の中で話すのを忘れて、つい口に出してしまう事があるのに……更に頭の中で会話なんてやってられるか》
《あはは。器用だよね》
《うるせえ……》
そう、今俺の中にはソフィアとは別の存在が居る。
この存在は。俺が中々思い出せない夢を何回か見た後、突然俺の中に現れた。
コイツが言うには、俺と同じ存在だという事だが……
そんなものは信用できない、何故かあまり好きになれないしな。
《僕はただ……君に強くなって欲しいだけだよ》
《それ以上は……うん……望まない》
《何か引っかかるような言い方だが……俺は俺だからな。強くなるのは俺の意思だ、お前は関係ない》
《うん……そうだね》
俺の言葉を聞き、コイツは落ち込んでいる様に感じる……
だが俺は俺だ、コイツの気持ちまで汲んでいられない。
《前にも言ったと思うが……》
《うん、わかってるよ》
《お前は俺じゃない……》《君は僕じゃない……でしょ》
《言い回しが少し気になるが……わかってるのならいい》
「あぁ……頭が痛くなってきた……」
『大丈夫ですか? クロード様……』
俺のつぶやきに、ソフィアが心配してくる。
「すまん。大丈夫だ、まだ疲れいるだけだ」
『ご無理はなさらないで、ゆっくり休んで下さいね』
「ありがとう」
ソフィアには癒やされるな、早く外で逢いたい。
「クロ……」
「うん……?」
ルナが俺を呼びながらコッチに向かって来る――
「おつかれ……」
「あぁ。ありがとう」
ルナが家からタオルと飲み物を持ってきてくれた。
俺は汗を拭きながら礼を言った。
「ゴク……ゴク……ふぅ」
ルナから貰った飲み物を飲んでいると――
《ルナ……》
ぐっ。またコイツ……まぁいいか……
コイツの声は俺にしか聞こえないようだし。
たまに……
愛しい人の名前を呼ぶ様に、ルナの名前を呟くことがあるが……
俺はルナをコイツに渡す気はさらさら無い。
《よく分からないお前に、ルナを渡す気はないぞ……》
《…………》
俺はコイツに言いたい事を言って、 屋敷に戻ることにした。
コイツは俺に、何も言い返さなかった――




