第25話 地雷原
飲み物を持って戻って来たアリスに、これからの事を話す。
「俺達はギルドで、色々と仕事を探そうかと思う。ここに住まわせて貰っているし……食費くらいは出したいからな」
「そんな事、気にしなくてもいいわよ」
アリスはそう言うが、俺は気にする。
「そういう訳にはいかないさ、これは礼儀でもある」
「真面目ねぇ……」
日本人だからな、日本人は真面目だ。
アレ……俺は日本人……なのか? 思い出せない……
あ……転生者だからもうこの世界の人になるのか。
どうでもいいな……うん。
「仕事をするにしても……アナタはこの世界のことを、あまり知らないんでしょう?」
「まぁ……そうだが。取り敢えずアリス、この国の事だけでも教えてほしい」
「この国の事?」
「あぁ、全く知らないからな」
「うーん……そうねぇ……」
アリスがそう言いながら考えこむ。
「私もこの国の事あまり知らない方なのよね……」
「ん? どういうことだ?」
住んでいる国の事をあまり知らないって……
「私はこの国の生まれじゃないからね、この国に来て……まだ一年くらいかしら」
「そうなのか」
一年でこんなに立派な豪邸を建てたのか。
凄いなギルさん……
あ、借家だったっけ。
「そうよ。兄さんは結構前から住んでいたけど、私とエレンは一年くらい前に兄さんに誘われてね。ここに一緒に住むことにしたの」
兄妹離れて暮らしていたのか。
「そうか、一人で住むには広すぎるもんな」
部屋を見回しながら俺はそう言う。
「私達が来る前は、他にも住んでいたらしいわよ」
「なんで今は……居ないんだ?」
家政婦とか、一緒に住んでいたのだろうか。
「そこまでは知らないけど……色々あったみたいね……」
あぁ、そんな事聞いた気がするな。
「しかし……エレンさんもアリスと一緒だったのか……」
なんて言葉を口にしたら……
アリスと、飲み物を飲んでいたルナがピクッと動いた。
何だ……二人の視線が鋭い……
俺は微妙に話題を修正することにした。
「ギルさんとエレンさんは恋人同士だと思ってたよ……お似合いの二人だったしな……」
最初二人を見た時は、恋人同士だと思って……
正直ギルさんが……羨ましいと思ったのは事実だ。
「そんな事を言ったらエレンに失礼よ……エレンは年下の男の子が好き……」
アリスが飲み物を取りながら喋っていたが。
そこで手を止め……言葉も止める。
「…………」
『…………』
「ん……ゴクゴク……」
辺りが静寂に包まれた。
ルナがジュースを飲む音が、やけに大きく聴こえる………
「そういえば……アナタはエレンの好みっぽいわね……」
まずい……
地雷原をうまく避けたつもりが、突っ走ってた。
ギルさんからエレンさんの好みを聞いていたが……
アリスとエレンさんが仲が良いなら……
そんな話をしていてもおかしくはないよな。
「クロード……」
「ひゃい」
アリスが少し冷めたような声で俺を呼ぶ。
俺は緊張してて、変な声が出た――
「アナタはエレンのことが好きなの……?」
ぐぉ……
これはまずい……
俺が誰を好きになろうが、俺の勝手だと思うが。
今までの態度からアリスの好意は理解できた。
どうにかして逃げるんだ俺……
「えっと……好きか嫌いか聞かれれば……嫌いじゃない……」
「そう……エレンは美人だものねぇ……」
アリスも美人だぞ!
そう言おうとしたら声に出なかった。
情けないぞ俺……
「お、俺は別にエレンさんに好かれているとは……お……思わないぞ」
どもりながら、微妙な事を言ってしまった……
「わからないわよ……アナタ鈍い所があるし……」
『同意できます……クロード様は少し鈍いです……』
『うん……クロはにぶい……』
アリスの言葉に、なぜかソフィアとルナが俺の中で同意していた。
心外だ! 確かにアリスの好意に気づくのが遅れたが……
そうだ……きっと俺は前世では非モテ人生を送っていたんだ……
だから鈍いんだ!
多分……
「そ、そうかな……」
「そうよ……鈍いわよ……」
「そ、そうか……自分ではよくわからないな」
うまい言い訳が思い付かない……
「エレンはね、結婚するなら……同族よりも、人間の男の子の方がいいとか言っていたわ」
「何で……人間のほうがいいんだ?」
「よくわからないけど……何でもエルフの男性って、森の外には中々出て行かないらしいのよね」
何だその森林ヒッキー……
いや、森を大切にしてるとかなのかな。
「自分もエルフだから、故郷の森の事は好きらしいけど。人間の世界の方が色々あって楽しいらしいわ」
まぁ、ずっと森に住んでるよりは……
人間界のほうが、刺激ありそうだしな。
「なるほどな……それなら森の外で……好みの相手を探すほうがいいよなぁ……」
「…………」
『…………』
「………」
あ……
また地雷……
「クロードは……何人お嫁さんがほしいのかしら……」
え? なにそれ……
この世界は重婚制なのか?
「何人って……普通……一人じゃないのか?」
「人によっては、二人も三人も娶っている人がいるわね……大体は、貴族とかお金持ちに限るけど……」
「へー……俺もしっかり稼がないとなぁ……」
「…………」
『…………』
「…………」
俺は……
何処までも続く……地雷原の上を走り続けていた――




