第249話 後ろ盾
「ギルドマスターに会いたいんだけど」
俺は冒険者ギルドに来てから、ジルベールさんに会わせてくれと受付の人に話す。対応していた男は隠すことなくため息をついた後、こちらを探るような訝しげな目を向けてきた。
「面会のご予約はございますか?」
「いや、していないけど呼ばれて……」
「ではこちらに名前と面会理由をご記入の上、また後日お越しください」
男は引き出しから用紙を取り出し、俺を追い払うかのようにそれを押し付ける。清々しいまでの事務的な対応だが、人の話を遮ってのこの態度は酷い。
「面会の予約はしてないが、ワシらは呼ばれたからわざわざここまで足を運んだんじゃがのう」
別に呼ばれたわけでもないジイさんが、意味ありげに真っ黒なカードで受付カウンターをコンコンと叩く。それを見た男はギョッと目を見開いたまま硬直した。
ジイさんが男に見せたのは、Sランク冒険者のカードだ。これを所持しているのは世界でも数人しか居ないそうなので、この人もこのカードを初めて見たのだろう。
「で、ワシらはこのまま帰ったほうがいいのか?」
「し、失礼しました! すぐに上の者を呼んで参りますっ!」
男は何度もペコペコと頭を下げてから、逃げ出すように奥へと引っ込む。
隣にいた受付のお姉さんも少しビックリしていたけど、すぐに気を取り直して別の冒険者の相手を再開していた。
「態度があからさまだなぁ」
「教育がなっておらんのう」
権威で脅したような感じになってしまったが、人の話を最後まで聞こうとしなかった向こうの方が悪い。
あれ? 誰だろう、あの女の子たち。
各々感じたことを呟きながらエレンさんが待っているテーブルへと向かうと、彼女のそばに四人の見慣れない女の子たちが集まっていた。
「勇者様!」
「っと、君は……」
青いローブを着た女の子が、俺の顔を見た途端に駆け出してきた。その女の子は躊躇することなく俺の両手を掴み、もの凄く嬉しそうな笑顔でニコニコと微笑みかけてくる。
「お久しぶりです、勇者様」
「うん、久しぶり」
この娘は領主の館で人助けをしていた時に、俺に治癒魔法を教えてほしいと頼み込んできた女の子だ。俺はジルベールさんを治療した後に意識を失っていたので、その後は会っていなかった。
「コレット、知り合い?」
「はいっ、私が尊敬している勇者様ですっ!」
「ああ、あなたがいつもウンザリするくらい賛称していた勇者様か」
「賛称ではありません。事実です、ノーラさん」
「あー……はいはい」
話の内容についていけずに傍観していると、剣士風の女性が歩み寄ってくる。
「私はこの子たちのリーダーをやっているエレオノーラよ、よろしく」
「クロードだ、よろしく」
エレオノーラは二本の剣を携えていて、へそ出しにミニスカートというとても面積の少ない服装だ。彼女が動く度に自己主張の強い胸が揺れているので、俺は目のやり場に困ってしまっていた。
「私はシゼル、こっちは姉のシシー」
シゼルと名乗った女の子は、最低限の手甲と胸当てを身に着けていて、ショートパンツルックに動きやすそうなブーツ。腰にはクロスボウらしき弓とナイフを装備している、いかにも斥候とかそんな感じの言葉が思い浮かぶ格好だ。
彼女の姉のシシーは、どこかの学園の制服みたいな衣装に赤いマント、その両手には大きな杖を持っているので、魔導師か魔術師なのだろう。
ちなみにその彼女は、青いローブを着た治癒術師のコレットの影に隠れるようにペコリと頭を下げる。人見知りが激しいのだろうか、俺に妙に懐いているコレットを見てオロオロとしていた。
そして俺はここにきて、治癒術師の女の子の名前がコレットだと初めて知った。思えばお互い顔見知りなのに、自己紹介というものを全くしていなかったのだ。
「それで、俺たちに何か用でも?」
「私たちはここに仕事を受けに来ただけだから、別にあなた達に用があったわけではないのだけどね」
ふぅっと息を吐いたエレオノーラの説明によると、エレンさんから俺がここに居ることを聞いたコレットが舞い上がり、そのままなし崩し的に彼女の仲間たちが巻き込まれただけのようだった。
「それはまぁ何というか……悪かったな」
別に俺が悪いわけではないのだが、理由を聞いていたたまれなくなった俺はつい謝罪する。俺の言葉を聞いたエレオノーラは気にしないでと言ってくれてるけれど、コレットはますます俺の話題で盛り上がっていた。
「勇者様の治癒魔法は、それはそれはとても素晴らしいのです」
「うん、もう何十回と聞いた」
「コレットはここ最近、その話ばかりしていますね」
両手を胸の前で組んで大袈裟に語るコレットの言葉に、シゼルがうんざりとした表情で返事をする。シシーも何度も同じ話を聞かされていた様子だったが、彼女はこの話を嫌がっているようには見えない。
「ボウズは魔法使いとしての腕は良いんじゃが、剣技はまだまだでのう。Sランク冒険者であるワシが直々に鍛えて、最近やっとマシになってきたんじゃよ」
「わぉ、おじいちゃんSランク冒険者なの? すごいじゃーん」
「えっ、本当に? Sランク冒険者なんて初めて会ったわ」
「勇者様は魔法使いなのに剣術も扱えるなんて、ますます凄いです」
「魔法使い……」
ジイさんがギルドカードをシゼルに見せて自慢していると、興味を惹かれたらしきエレオノーラが話に食いつく。コレットは何故かさらにテンションが上り、シシーは俺のことをジッと見つめてきた。
「なぁ、コレット? その、俺を勇者様と呼ぶのやめてくんないか? あんまり目立ちたくないんだよ」
先ほどからそこらに居る冒険者がチラチラと視線を向けてきていて、とても居心地が悪い。
「あ、ごめんなさい。では、クロード様と……」
「さんでいいよ」
「わかりました、クロードさん」
「うん、よろしく、コレット」
その後しばらく当たり障りのない会話をしてから、四人の女の子たちは仕事のためにギルドを出て行く。
コレットは終始俺の素晴らしさとやらを語り尽くし、最後には見兼ねたエレオノーラが彼女を引きずるように連れ去っていった。
「賑やかな人たちでしたね」
「そうですね」
「最近の女冒険者の格好は、素晴らしくけしからんのう」
「あんまりデレデレするなよ、じっちゃん」
「あの格好を見て顔がニヤけるのは男の性じゃ。ノーラちゃんやシゼルちゃんも、そんなに嫌がってなかったじゃろ」
「我慢してただけで、内心は引いてた思うぞ」
「な、なんじゃと……」
「まぁ確かに、男の目を惹くような格好だったけど」
ジイさんにジロジロと見られて恥ずかしそうにしていたので、そういう気持ちであんな格好をしていたわけじゃないことはわかる。
男として邪な目で見てしまうのは仕方ないけれど、ジイさんにはもう少し隠すような紳士的な態度をとってもらいたい。
「みなさん軽装でしたので、動きやすい冒険者装備を選んでいるのだと思いますよ」
「なるほど」
エレンさんの言葉を聞いて俺は納得した。
騎士でもなければ鎧を着装する義務はないので、動きやすさを重視する女冒険者の服装は、得てしてあんな感じになるのかもしれない。
「クロードさん、お待たせしました。ギルドマスターの部屋までご案内いたします」
声をかけるタイミングを待っていたのか、俺たちの会話が途切れると同時に職員の女性が話しかけてきた。
「ところでお主、いつから勇者になったんじゃ?」
「察してくれ、いろいろとあったんだよ」
一々説明するのが面倒だったので、俺はジイさんの質問に投げやりな返答をした。
「失礼します、クロードさんをお連れしました」
「どうぞ」
女性が廊下に置かれていた丸い水晶型の魔導具に触れると、部屋の中からジルベールさんの返事が聞こえてくる。部屋の扉が通信魔導具が置かれている部屋と同じくらい分厚かったので、ギルドマスターの部屋は防音になっているみたいだ。
「よく来てくださいました、勇者様」
案内された部屋の中には、ジルベールさんの他にジイさんと同じくらいの年齢の老人が座っていた。その老人は俺たちの方を一瞥すると、驚きの目をしてから何かを諦めたような表情になる。
「やれやれ。とうとうお迎えに来た死神が、まさかお前だとはなぁ……神はたいそう底意地が悪いんじゃな」
「お主、まだここで働いとったのか。それと勝手に、ワシを死神扱いするんじゃないわい」
「まさか本当に、ヤマト……なのか?」
「うむ」
「どうして生きて……いやそもそも、葬式まで済ませたお前がなぜここにいる?」
「まぁその、いろいろあったんじゃよ」
「どういうことじゃ?」
「あの、フィリオネル様?」
「おお、すまん。ジルベール、少し奥の部屋を借りてもいいか?」
「はぁ、それは構いませんが」
この老人はジイさんが生きている現状に疑問を持っていたので、おそらく旧知の仲なのだろう。ジルベールさんは流されるまま引き出しから鍵を取り出し、部屋の奥にある扉の鍵を開けた。
「ワシの用件はギルドカードの更新じゃ、コレに金を入れられるようにしてもらいたい」
「Sランクカード!? わ、わかりました。君、これもすぐに手続きを」
「畏まりました」
ジイさんからカードを受け取ったジルベールさんは、先ほどの女性にそれを手渡し、はぁっと大きなため息をついてから中央のソファーに座り直した。
「なんか、いろいろとゴタゴタとさせてすみません」
「いえ、勇者様はお気になさらないでください」
一度謝罪をしてから、俺たちはギルドランク昇級についての話をすすめる。さっきまでここに座っていた老人はフィリオネル子爵という人物で、前ギルドマスターとしてジルベールさんに仕事を教えていたらしい。
「それから、こちらがエレンさんに頼まれていた件ですが……」
ギルドランクについての話が終わった後、ジルベールさんから数枚の紙を手渡され、俺は口を閉じて書かれた内容を読んでいく。
「はっきり申し上げますと、お力になれる程の手がかりは得られませんでした」
俺たちがジルベールさんにお願いした頼み事は、吸血鬼の屋敷の廃墟にたむろっていた盗賊たちへの尋問だ。
俺はカインさんからその盗賊団の話を聞いた時、どこか聞き覚えのあるその名前に引っかかっていた。
どうしても気になっていた俺は、そのことをエレンさんに相談した。追い剥ぎを名乗る盗賊たちの名に、聞き覚えはありませんか? と。
彼女から帰ってきた答えは「それはもしかしたら、剥ぎの梟ではないでしょうか?」という言葉だった。
剥ぎの梟――
この盗賊たちの名前に、聞き覚えがあるなんてものじゃなかった。
なぜなら剥ぎの梟というのは、俺がこの世界に送還されて初めて遭遇した盗賊たちの名前だ。
彼らは中央大陸を拠点とし、追い剥ぎや時には金持ちの商人や貴族の娘たちを誘拐したりしていた。
あまりにも広範囲に活動していてなかなか敵の居所を掴めなかったのだが、その彼らの住処を見つけたのがギルバートさんだった。
ギルさんはエレンさんの他に、信用のできる冒険者数人と組んで盗賊たちの捕縛を行なった。
これは後から聞いた話だけど、その捕まえた盗賊たちの中に、リーダー格の男の姿はなかったらしい。
そいつはまだ中央大陸で雲隠れしているのか、あるいはもう他の大陸に逃げてしまったのか詳細は不明だ。その日以降剥ぎの梟による事件は起きなかったので、ギルさんもエレンさんもそれ以上盗賊の行方を探そうとはしなかった。
そしてここにきて、似たような名前の盗賊たちに遭遇した。
エレンさんはすぐにジルベールさんに盗賊のことを調べるように頼み込み、俺はその報告をこうして読んでいるわけだ。
「その盗賊たちは、やはり剥ぎの梟でしたか?」
「はい、それは間違いありません。しかし自白を強要する魔導具も使用して念入りに尋問しましたが、彼らは誘拐事件には関わっていないようでした」
そんな恐ろしい魔導具もあるのか。
「なぜ彼らは、あの廃墟に居たのでしょうか?」
「あそこは彼らが昔使っていた、アジトの一部だったそうです。数か月前に頭領が行方をくらまして盗賊たちは解散し、その中で数名の者があの場所に逃れてきたみたいですね」
「あの場所に頭領が訪れることを期待して、再起を図っていたのでしょうか」
「その可能性が高いかと」
エレンさんとジルベールさんの会話を聞きながら、俺は文章を次々と流し読みする。紙に書かれていた内容は、その盗賊たちの処分についてだ。
盗賊たちは全員が奴隷の身分に落とされ、そのほとんどの者が農奴や鉱山奴隷に。極刑になるような罪の重い者は居ないようだが、娼館で働かされる女性の名前も数人ほど書かれていた。
「女性も居たのですか」
「はい。買われたりもしくは拐われた身ならば救済できたのですが。どうやらその女性たちも、自らの意志で犯罪に手を染めていたようで」
「同情の余地はありませんね」
「そうですね」
エレンさんの吐き捨てるような言葉に同意した後、俺は報告書を机の上に放り投げる。犯罪者には慈悲がないほど命の軽い世界だが、あまり気分のいいものではない。
「それから、あの廃墟の地下に住んでいた吸血鬼なのですが。私たちの家に税を収めに来た後、捜し物をするのでしばらく留守にすると言い残していきました」
「そうなんですか」
「それはまた、律儀な吸血鬼ですね」
話を聞いた俺とエレンさんは、ヴラドの律儀さに面白おかしくて笑ってしまったが、ジルベールさんはどこかほっとしたような表情を浮かべる。
あいつにはいろいろと聞きたいことがあったんだが、居なくなったのなら仕方ないか。
「そういえば、勇者様は大迷宮に挑まれるそうですね」
「はい、前からそう考えていました。あと、出来れば俺のことは名前で読んでくれませんか? 勇者と呼ばれるとどうしても目立ってしまうので」
「ああ、これは失礼しました」
それからジルベールさんは、俺が大迷宮に挑むために必要な話をしてくれた。
「ラシュベルトが管理している大迷宮に挑むためには、貴族の後ろ盾を得る必要があります」
「後ろ盾、ですか」
「そうです。迷宮への挑戦の手続きや金銭面での支援の他に、そこで得た財宝などの販売ルートの確保。これは貴族が懇意している商会によって、その都度買取価格が違ってきますが」
「財宝って、冒険者ギルドが直接買ってくれるんじゃないんですか?」
「物にもよりますが、あまりにも高価な物はギルドの経営が立ち行かなくなるので、高値で買い取ることはできません。貴族を通さずに直接商業ギルドに持ち込むこともできますが、恐らく後ろ盾のない冒険者では、格安で買い叩かれると思います」
「めんどくさいですね」
ギルドと呼ばれる共通の名称がついていても、冒険者ギルドと商業ギルドは手を取り合うような仲ではない。特に魔物の素材に関してはお互いに牽制しあっているので、それなりの軋轢があるそうだ。
そもそも冒険者ギルドのマスターは爵位のある貴族の家が引き受けているので、ギルドマスターが個人的に商会に話を通すと、他の貴族の反感を買ってしまうらしい。
「貴族が商業ギルドの間に入ると、素材や財宝の販売がスムーズに進めることができます。無論その貴族に手数料は取られますが、商会に足元を見られるようなことにはなりません」
「大体の話はわかりました。つまり俺は、レイモンド男爵家に後ろ盾になってもらえればいいわけですね」
「えっ?」
説明された理由に納得して話を先へと促したのに、なぜかジルベールさんは驚きを露わにする。そのつもりでこんな話をしてくれたのだと思っていたが、何かおかしな事を言ってしまったのだろうか。
「クロードさんは、我がレイモンド家を後ろ盾になさるおつもりですか?」
「駄目なんですか?」
「いえいえいえ、それは私たちにとって大変喜ばしいお話しなのですが。レイモンド家は貴族の中でも新参者の男爵家ですので、クロードさんのご期待に添えられるかどうか……その、はっきりと申し上げますが、我々よりも上位の貴族方に取り入ったほうが、クロードさんの今後のためにもなります」
ジルベールさんはよほど人がいいのか、自分の家よりも他の貴族のほうがいいと勧めてくる。しかしこの大陸で知り合いの貴族はロクに居ないので、俺はレイモンド家に頼るくらしか他に方法がない。
「俺は別の大陸から流れてきたので、他に頼れる貴族はいないんですよ。アリスのジイさんも他の大陸出身の貴族ですし、フランチェスカ様に後ろ盾になってくれとお願いするわけにも……」
「それもそうですね。女王陛下に迷宮の財宝を渡すということは、それはそのまま国の財産になってしまいますから」
「あとはフランチェスカ様にお願いして、貴族の爵位を授かるって手もありますけど。爵位を貰ったからといって、いきなり都合のいい商人の知り合いが出来るわけでもないでしょうし」
「他の大陸から渡ってきて、爵位を頂けるクロードさんの存在の方が驚きですけど……」
フランチェスカ様が書いた手紙の中には、爵位が欲しければくれてやるという言葉があったので、これ事態は問題ない。けれど俺には貴族の生き方など微塵もわからないから、例え爵位を叙勲されたとしても、それは称号だけになりそうだ。
「私がこの街で信用できる貴族は、フォスター家の後を継いだレイモンド家しかいませんので、クロードさんの意見には賛成します」
「そうですか。私の家はまだまだジークフリート様ほどの信用があるとは思えませんが、兄上と共に出来る限り、あなた方へ尽力いたします」
んん? ジークフリート?
エレンさんとジルベールさんが話のまとめに入っていたが、俺はふと出てきた名前の方が気になっていた。
「ジークフリートって、誰ですか?」
「前領主である、フォスター家のご子息の名前ですよ。ギルバートさんのご親友でもありますね」
「ジークフリート・ヴォルフガング・フォスター様です」
エレンさんの丁寧な説明に、ジルベールさんがその人のフルネームを付け足す。
「あの人、家名どころか名前まで変えてたのか……」
「ジークフリート様の行方をご存知なのですか!?」
俺の呟きを聞いたジルベールさんが、驚きとともにガバッと身を乗り出してきた。
「えっと、はい。俺が会ったあの人は、ジークハルト・リバティと名乗っていましたけど。ラシュベルトで盗賊ギルドのギルドマスターをやっていましたよ」
「あの御方が盗賊ギルドに……」
ジルベールさんはドサッとソファーに身を下ろすと、両手で頭を抱えて悩みだす。見ていられないくらいの落ち込みようだ。
もしかして、言っちゃいけないことだったのか?
少しだけ不安になってエレンさんに視線を向けてみたが、彼女もこの事を知らなかったみたいだ。
「ジルベール様?」
「大丈夫ですか?」
「っ……失礼しました。取り乱してしまい申し訳ありません」
俺たち二人が声をかけると、彼は姿勢を正して真面目な表情を繕う。俺はこれ以上込み入った話は聞かないほうがいいと判断した。
「それでは、クロードさんの迷宮攻略については、私から兄上に相談しておきますね」
「よろしくお願いします」
その後はギルドランクの簡単な注意事項や、受付の人の教育についての話などを相談しあい、新しいギルドカードを貰ってお暇することになった。
ちなみに奥の部屋からずっと出てこなかったジイさんが何をしていたのかというと、旧知の友とひたすら酒盛りを続けていた。




