表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/259

第232話 後始末


 日暮れ前に買ってきた酒を持って、ギルバートさんの部屋へと向かう。


 ここ数日俺の代わりにヴラドの所へと通い続けてくれていた、カインさんとアシュクロフトさんを労うためだ。


 本来ならあの日の翌日に俺が行くつもりだったのだが、俺が行くと他の女の子たちもついて来るという理由から、あの二人が後始末を引き受けてくれた。


『私たちが倒した死体の後始末のこともあるけれど、盗賊がいる場所に女の子たちを連れて行くわけにもいかないしね』


『荒事は俺たちに任せておけ、こういう事には慣れているからな』


『そういうことでしたら、すみませんがお願いします』


 二人が帰ってきたのは、あれから三日経ってのことだった。二人が交代で風呂から出たのを見計らい、酒を持って部屋の扉をノックする。


「どうぞ」


「失礼します。あれ、もしかして寝てました?」


 部屋の中に入ると、二人の兄弟はそれぞれのベッドの上に横になっていた。すぐに返事が返ってきたので深く眠っていたわけではないみたいだけど、もしかしたら睡眠の邪魔をしてしまったのかもしれない。

 

「疲れて横になっていただけだ、眠っていたわけじゃない」


「そうそう。クロード君が作ってくれたベッドがあまりにも寝心地が良かったからね、こうして横になっているだけでも疲れが取れるんだよ」


「そうですか、俺の魔法がお役に立てたなら良かったです」


 この二人は女性たちに遠慮しているのか、女の子たちの部屋から離れたこの場所で寝泊まりをしている。

 さすがに兄弟で一つのベッドを使うのはあまりにもアレなので、俺の魔法でもう一つベッドを複製した。


「それで、なんの用だ?」


「食事の時間かい?」


「いえ、風呂上がりに飲み物を持ってきたのですけど……先に食事のほうがよかったですか?」


「お、気が利くじゃないか」


「ちょうど喉が渇いていたところだよ」


 廊下に停めてあったワゴンを部屋の中に入れ、ゴブレットに麦酒を注いでから二人に手渡す。


「どうぞ、冷えてますよ」


「おう」


「ありがとう」


 よほど喉が渇いていたのか、カインさんとアシュクロフトさんは注がれた麦酒を一気に飲み干した。


「かぁぁ……旨い!」


「ふぅ……この一杯のために働くのも悪くないね」



 麦酒を二杯ほど飲み干した頃に、カインさんがあの場所で起きたことを話しだす。


「色々あったけど、ひと通りは解決したかな」


 カインさんたちはまず最初に、この街の領主に話を通すことにした。

 廃墟の屋敷にいたという盗賊のこともあったし、死霊魔術師が操っていた死体と、街の行方不明者を照合するためだ。

 領主の所からは弟のジルベールさんが私兵を連れてきてくれたみたいで、盗賊を捕まえることも彼らが優先的に手伝ってくれたらしい。


 ついこの間死にかけたばかりなのに、ずいぶんと働き者だな、あの人。


「さすがに廃墟の下にあんな大きな場所があったことは、すごく驚いていたけど」


「吸血鬼があの場所に住んでいるということは、問題にはならなかったのですか?」


「なんでも、住民登録はしっかりとしていたらしいぞ」


「しかも、ヴラディス・ドラクルという実名でね」


 あの場所はルシオールの領地になっているので、領主の弟としては吸血鬼が近くに住んでいるというのは問題視していたみたいだけど、ジルベールさんはヴラドとの話し合いでやり込められたらしい。


「本人いわく、滞納した住民税を払えば文句はないだろう。だってさ」


「そういう問題じゃないと思うんだがな……」


「人間のことを敵視していないみたいだし、放っておいても大丈夫じゃないですかね」


「そう? 吸血鬼というだけでも、人間にとっては危険な存在だと思うけど……あ、ごめん」


 カインさんが己の意見を呈しながら、その途中で言葉を切って俺に謝罪してくる。おそらくルナのことが頭をよぎったのだろう。


「いえ、俺だってルナの以外の吸血鬼を信用しているわけでもないですよ。ただ、危ないところを助けてくれましたから」


「ま、向こうもあのお嬢ちゃんに助けられたと言っていたしな。お前たちが住んでいるこの街で、騒ぎを起こそうなどと考えたりはしないだろう」


 あの吸血鬼が弱っている時にこの街に来て、街の住民から血を吸っていたことは内緒にするべきだろうか。


「あとから来た盗賊は、他の大陸から来た流れ者だった」


「あの廃墟に住み着いて、街道で商人を襲ったりするつもりだったらしいけど。まぁ、運が悪かったよね」


 俺たちがあの廃墟に向かわなくても、あの場所にはたちの悪い死霊魔術師が住み着いていた。どちらにせよ彼らの運命は、亡霊に殺されるか捕まるかの二択しか無かっただろう。


 殺されて亡者として操られるより、領主に捕まるほうがマシか。


「あの盗賊たちの名前、なんて言ったんだったか」


「たしか、追い剥ぎ団だっけ?」


 追い剥ぎの盗賊団か、なんて安直なネーミングだ。あれ……? この名前、どこかで聞いたような気が……


「あぁ、そうそうクロード君。レイモンド男爵の弟君が、近々屋敷に顔を出してほしいと言っていたよ」


「ジルベールさんが、俺に?」


「うん。命を救ってくれたお礼にはとても足りないけれど、少し前にあった事件? にも尽力をしてくれたから、邸宅に招いて改めて礼を言いたいそうだ」


「髪の色が黒かったり銀色だったりと不思議に思ってたけど、お前って勇者だったんだな」


「あー……別に勇者だと名乗った覚えはないんですが、めんどくさいんで否定もしなかったんですよね」


 そもそもこれは、俺の力を見た治癒術士の少女の勘違いが原因だった。あれから彼女には会う機会がなかったけど、俺の力を目の当たりにして治癒魔法の練習に励んでいるのだろうか。


 むしろ今は、俺に魔法を教えてほしいくらいなんだよな。



「失礼します、お食事の準備ができました」


 部屋の扉がノックされ、外の廊下からマリアの呼ぶ声が聞こえてくる。


「あぁわかった、すぐに向かう」


「話の続きは食事が終わったときにでもしようか」


「そうですね」


「できればじいさんとは顔を合わせたくないんだが、この部屋に持ってこいっていうわけにもいかないしな……」


「それはアッシュ兄さんが笑ったのが原因だよ」


「お前も笑っていたじゃないか」


 二人はこの屋敷に帰ってきてすぐに、執事の真似事をしているジイさんを見て大笑いをしていた。

 さすがに女の子たちの前でジイさんは文句を言ってこなかったが、そこはその道の達人だ。器用に女の子たちの視線だけを避けて、男だけに射殺さんばかりの殺気を飛ばしてきたのだ。


「あれは殺されるかと思ったぞ……」


「私は寿命が五年は縮んだよ……」


「俺なんか小さく悲鳴をあげちゃいましたよ……」


 大の男が三人揃って情けないことを言うけれど、あの化け物じみた老人の前では俺たちは赤子も同然だった。




◆◇◆◇




「冷やし中華はじめました」


 俺たちがダイニングルームまでやってくると、ルナがどこかで聞いたようなフレーズを口にしながら料理を運んでくる。


「今日はルナが作ったのか?」


「ん……クレアも頑張った」


「あたしは麺を茹でただけだから、そんなに難しくはなかったし」


「それでもお手伝いができるだけ羨ましいです。わたくしは調理場にさえ入らせていただけませんから……」


「だって、レティシア姫に料理をさせるわけには……」


 レティを立ち入り禁止にしたのはアリスだ。さすがに身分がお姫様の彼女に、そんな真似事はさせられないと思い悩んだらしい。


「レティのことはフランチェスカ様に大切に預かってくれと頼まれたから、アリスにも悪気はないんだよ」


「預かる……そうですね。わたくしは本来、ここに預けられているだけの立場でした」


 しまった、言い方が悪かったか。


 軽くフォローをするつもりが、ますます彼女が落ち込んだような表情になる。


「だ、大丈夫ですよレティシア様。共同生活にはそれぞれの役割というものがあります。むしろ助け合ってこそ家族というものですから、まずは自分にできそうなことから始めてみてはいかがでしょうか」


「家族として……自分にできること、ですか?」


「はい。別に料理だけが全てではありません」


 レティの傍にいたエレンさんが、年長者らしい言葉ですかさず援護をしてくれる。彼女の言葉には含蓄がこもっていたので、俺が余計なことを言わなくてもよさそうだ。


「と、とりあえずせっかくの料理が冷めてしまうし、まずはみんなで食べてからにしようか」


「いや、もう冷めてるだろこれ。この場合は冷めるじゃなくて伸びるだ、麺料理みたいだしな」


「あははは、そうだったね」


 カインさんとアシュクロフトさんの言葉で場の雰囲気が明るくなり、皆がそれぞれ食事を開始する。


 料理となっているのは中華麺ではなかったけれど、醤油と酢をベースにさっぱりとした味わいになってい美味い。

 盛り付けには緑の野菜と焼豚や錦糸卵が添えられていて、見た目も違和感なく再現されていた。


「アリスちゃんとルナちゃん、お箸を使うのが上手だよね」


「小さい頃からおじい様と一緒に、よく倭国の料理を食べていましたから」


「ワタシは……クロにならった」


「へぇ……そうなんだ?」


 箸を使って麺を啜っているのは、俺とルナとアリスだけだ。他のみんなはフォークで巻きつけるようにして食べている。


「変わった味だが、なかなか美味いな、これ」


「疲れた身体に、この酸っぱさが染み渡ってくるよね」


 冷やし中華もどきはなかなか好評のようだ。俺も前世()が日本人なので、どこか懐かしい味がして嫌いではない。


 もっとも、俺の前世は名前からしてクロフォード以外は全員日本人なので、懐かしく感じている部分が誰の記憶なのか曖昧だが。


「おじい様は食べないのですか?」


「はっ、よろしいので?」


 ジイさんはクレアとエリスリーゼさんが並んで座っている背後で、不動の姿勢で一人だけ立っている。

 ぶっちゃけ正面からそれ見ている俺的に、ずっと立っている姿を見せ続けられるのは辛い。


「私たちが食べ終わるまでそうしていなさいなんて言いませんから、ご一緒に食事をなさってください」


「そうよ、目の前で突っ立っていられると目障りだわ」


 酷い言い草だな、おい。


「わ、わかりました。失礼します」


 エリスリーゼさんとクローディアに声をかけられたジイさんは、渋々という感じで空いている席に座る。

 一部始終を見ていたカインさんとアシュクロフトさんの二人が吹き出していたが、俺はジイさんがいつ爆発するのかと密かに戦々恐々としていた。


使用しているパソコンの調子が悪くて執筆中に度々再起動を繰り返します。

何とかしたいとは思っているのですが……投稿間隔が空き続けてすみません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ