表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/259

第229話 武器屋へ


 商店街でクローディアたちと別れたあと、俺たちは人影のない裏通りを歩いて行く。


 この街は市壁と門で安全を管理されているので、魔物が街の中に入り込むということはない。しかしそれでも人の中には素性が知れない者はいるだろうから、このような場所を通るときは自然と周囲を警戒する。


「この店じゃ」


 ジイさんに案内された場所は、街の中でも隅の方にある閑散とした店だった。


 店の直ぐ側には市壁があり、日がほとんど当たらないので物件の条件は最悪だ。そのせいなのか、周囲の家には妙に空き家が目立つ。


「あんまり住みたくない立地だな」


「店主のやつが人間嫌いじゃからのぅ、あまり人が寄り付かないような場所を好むんじゃ」


 人間が嫌いって……だったらなんで、こんなそこそこ大きめの街に住んでいるんだ? というか、そんなので商売が成り立つのかよ。


 俺は不思議に思いながらも店の中に入っていく。店の外見は古臭かったが、店内は意外なほど綺麗にされていた。まめに掃除しなければこうはならないだろう。


「誰もいないようじゃが……」


 白亜の言うとおり、店の中には店員の姿が見当たらない。しかし店の奥からは鉄を叩くような音がしているので、留守というわけではないようだ。


「工房の方にいるようじゃな、ちと待っておれ」


 どうやらこの店は、鍛冶屋と武器屋が兼任のようだ。ジイさんがひとりで店の奥に行き、俺たちは店の商品を見て回ることにした。



「なかなか良い物が置いてあるみたいじゃな」


「そうだな。けど、やたら高い」


 売っている装備には値段のような紙が貼り付けられているが、どれもこれも数万から数十万ゴールドと書かれている。普通の武器屋なら量産品が数千ゴールドで置かれていたりするけれど、この店にはそんな安物は置いてないみたいだ。


「これは……黒鉄の爪かの。とても使いやすそうじゃ」


 白亜が真っ黒な鉄の爪を両手で持ち、とても物欲しそうな目でそれを眺めている。


 そういえば、白亜は爪の武器が得意だと言っていたっけ。


「欲しいのか? そこまでしないなら買ってやっても……って、高っ!?」


 俺が買えるものなら彼女にプレゼントしようかと思っていたが、紙に書かれていた値段を見て冷や汗が出る。俺はギルドの仕事をして日に数万ゴールドを稼いでいるけど、さすがに百二十万もする武器は買うことはできない。


「黒鉄の鉱石は、迷宮でしか取れない物らしいのじゃ」


「それでこの値段なのか」


 迷宮にしかない鉱石ということは、この武器もその場所に挑むための物なのだろう。やはり手っ取り早く稼ぐためには、冒険者ランクを上げて迷宮に挑むしかないのだろうか。


「銃は置いてないのかしら」


 クレアは俺の銃を使ったのがよほど楽しかったらしく、きょろきょろと視線をさまよわせながら店の商品を流し見ていく。残念ながら高級な装備を売っているこの店でも、銃だけは置いていないようだった。

 

「銃は貴族が部屋に飾るような嗜好品らしいからな。実用性がないものは売ってないんじゃないか」


「そう……残念ね」


 気の抜けた返事をしたクレアは、近くにあった真っ黒な長剣を手に持ち眺め始める。おそらくあれも黒鉄製の武器なのだろう。彼女は黒い装備がお気に入りみたいだが、あれも俺の財力では買えそうにない。



「レティシア様は、細剣に興味がおありですか?」


 別の場所では、レティとエリスリーゼさんが片手剣が置いてある場所で雑談をしていた。


「そうですね。このように細くて軽い武器ならば、力のないわたくしにも扱えそうです」


「レイピアやサーベルは見た目や扱いやすさから、貴族によく好まれる武器ですわね。これらの武器はとても時代が長く続いていて、お兄様たちも得意武器として使用していますわ」


「古くは王族や貴族の決闘でなどで、利用された武器だと聞いたことがあります」


 レイピアはカインさんが扱っていて、サーベルはアシュクロフトさんが使っている。それぞれの武器には邪魔にならない程度の装飾が施され、二人とも帯刀していても気品さは損なわれていない。全身をゴツゴツの鎧で固め、無骨な大剣を振り回している次男坊とは大違いだ。



 それにしても、みんな自分用の武器が欲しいみたいだけど。ひとつも買うことができない俺って、ひょっとして甲斐性なしなのか?


 少し情けない自分に項垂れていたら、女の子たちは揃って防具が置かれている場所へと移動していた。


「ん?」


 しばらく女の子たちを後ろで見物していると、入り口の扉が開いて恰幅のよい中年女性が店の中に入ってくる。


「おやまぁ、うちの店に客なんて珍しいね。いらっしゃい」


 この店の店員か?


 その女性は商店街でよく見かける分厚い紙袋を持っていて、雨に濡れないようにその上に布をかぶせている。店を放置したまま買い物に出かけていたのだろうか。


 しかし……第一声が客がいるのが珍しいって、この店普段からどんだけ寂れているんだ?


「ふーん……あんまり金を持っていそうに見えないけど、そうでもないのかね」


 何気に失礼だな、おい。


 カウンターの上に荷物を置いたおばさんは、俺と女の子たちをジロジロと見比べてそんな感想を述べる。俺は金持ちみたいな恰好をしていないが、お嬢様っぽい衣装を着た彼女たちを見てそう判断したみたいだ。


「ったく、珍しく客が来ても顔を出さないつもりかね。盗みでもあったらどうするつもりなんだい!」


 おばさんは店の奥を見ながらぐちぐちと独り言をつぶやく。客が来ても店に顔を出さない旦那にでも腹を立てているのだろうか、気軽に挨拶もできない雰囲気だ。


「おっと、すまないねぇ。どうやらうちの人は忙しいみたいだから、お待たせしたみたいで悪いやね」


「いえ、俺たちも今来たばかりなので」


「そうなのかい? まぁいいや。で、今日はなにを買いにきたんだい。アタシのオススメとしては、この辺りにある物がいいと思うよ」


 入用のものを聞いてきたくせに、おばさんは俺の返事も聞かずに次々と高級な装備を見せてくる。俺が求めている物とは違うものばかりだったけれど、有無を言わさなぬ圧倒的さだ。


「女の()たちようの防具も必要かね。しかし、女にプレゼントするならうちなんかよりももっと気の利いた店があるだろうに」


 自分の店を貶めながらも、おばさんは次々と女性用の装備を見繕っていく。これはいけない。放っておくととんでもない代金を請求されそうだ。


「あ、あのですね……」


「どの()もスタイルがいいようだからこれも似合うと思うけど、それともアンタはこんな鎧が好みかい?」


 えっ? 水着? なんでそんなものが置いてあるんだよ。


 おばさんが見せてきた防具は、肩アーマーが付いているビキニタイプの水着だ。大事な部分が丸出しになっているので、身体を守るという本来の機能が果たせていない。


「あたしはそんなの着ないわよ!」


「ビキニアーマーか。これを鎧と言ってもいいのじゃろうか?」


 なぜか真っ先にクレアが拒否反応を示す。白亜の疑問ももっともだ、なぜこんな機能性が皆無な鎧が存在しているのだろうか。


「一緒に戦う男性を鼓舞するための衣装らしいけれど、こんなのを着ていると逆に襲われそうよね……」


「鼓舞……お兄様に襲われる…………わたくしは着てみてもよろしいですが」


「ほ、本気ですか!?」


 エリスリーゼさんの説明を聞いていたレティが、なにやらとんでもないことを言ってのける。彼女は俺の隣に立っていたので、小声で言っていた最初の言葉も俺にはバッチリと聞こえてしまっていた。


「レティ、あのな……」


「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁ……」


「な、なんだ!?」


 さすがにこんな衣装を着るのはどうかと言おうとしていたら、店の奥から雄叫びのような声が響いてきた。


「おや? なにをやってんだいあの人は」


 おばさんが訝しげな表情をしながら店の奥に歩いていったので、俺たちも慌ててその後を追っていく。


 そういえば、いつの間にか鉄を打つ音が止んでいた。ジイさんが工房の方に行ったときでさえ、ずっと鳴り響いてきていたのに。




◆◇◆◇




「でりゃぁぁぁぁ!」


「ぬぉ!!」


 おばさんの後に続いて工房の中に入って行くと、なにやらヒゲもじゃのちっこいオッサンが、斧を片手にジイさんを追い回している光景が目に入った。


「この! 亡霊がぁぁぁ!」


「ふんぬ! お、落ち着けいカザン」


 ちっこいオッサンが力いっぱい振り下ろした斧を、ジイさんは顔の前で白刃取りをする。多芸だとは思っていたけれど、やはりこの人はとんでもなかった。


「ちょっとアンタ! なにを暴れているんだい!」


「サテラ、真っ昼間からここに亡霊が出おったぞ!」


「はぁ!?」


「あまりにもうるさく話しかけてきたから追い払おうとしたら、ヤマトのやつが化けて出おったんじゃ」


「やれやれ……やっとのことで振り返ったと思ったら、これか」


 どうやらこのオッサンは、ジイさんが話しかけていても無視して鍛冶をしていたらしい。どうりで俺たちが店で雑談している間も、ずっと鉄を打つ音が鳴り止まなかったわけだ。


「あ、アンタ……ホントにヤマトのジイさんなのかい? 去年亡くなったはずじゃ……」


「ふぅむ。どう説明したものかのぅ……」


 二人が大騒ぎをしていた理由は、死んだはずのジイさんが目の前に現れたことが原因だったみたいだ。


 どういう原理なのかわからないが、俺の蘇生魔法には死んでいたことをなかったことにする力もある。

 

 その効果は俺と近しくない人にあるものだと思っていたが、もしかしたらジイさんと親しい人にはその影響がないのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ