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第202話 恋愛模様

 

 アルムト村の村長の家で、俺は東西の勇者たちと話し合いをした。

 南の大陸から帰ってきた彼らがこっちに来た理由は、やはりメルティさんとシェリルさんの身を案じてのことだった。


 俺はまず最初に、クローディアが二人に攻撃したことを謝罪する。


「気にしないでくれ。彼女はただ、恋人に逢いに来ただけなのだろう?」


「そうだな。まともに話を聞かずに、真っ先に手を出した俺の方こそ悪かった」


 ヒカルは気にするなと言い、カズマは自分の方も悪かったと言ってくる。


 正確には、話が通じないと思ったクローディアが二人を挑発して、カズマが先に手を出したみたいだけど。メルティさんとシェリルさんにカズマの方が悪いと言われ、彼はだいぶ萎縮してしまっていた。


「クロ……エリカから、俺との関係を聞いたのか?」


「あぁ、そこまで込み入った話は聞いていないけど、君のことが心配でこっちの大陸に来たと言っていた」


 うまい言い訳だ。

 先の勇者会議で不可侵条約というのができたみたいだが、恋人が心配だったと言われたら、この二人もあまり強くは言えないのだろう。


 クローディアは、国を通していないのですぐに帰ると言ったみたいだし、これ以上拗れることはなさそうだ。


「あの森の脅威も去ったし、ラシュベルトに帰ったら、僕が女王様に君の活躍を報告しておこう」


 俺が倒れている間に、勇者たちがそれぞれ森の中を見回りしてくれていた。

 クローディアを含めた四人の勇者たちが、持ち回りで害となりそうな魔物を駆逐してくれたのだ。


 過剰戦力と言えなくもないが、これでこの村の人達も安心だろう。さすがにこれ以上の魔物退治は、生態系が狂ってしまう。


「俺の活躍とか、別にそういうのは報告しなくてもいいんだが……」


 俺はヒカルが言った申し出を拒否する。

 確かに、名誉を貰えるのは悪くはない。しかし、この仕事にはあの逃げ出した貴族が関わっているんだ。面倒くさいことが起きる予感がひしひしとする。


「そういう訳にはいかない。君は与えられた役目を果たした上に、あのキメラはラシュベルトに運ばれているんだ、誰が倒したのかは明確に示さなければ」


「そうだぜ。あんな化け物がいるとわかっていたら、それは俺たち勇者の役目だったんだ、そこんところはちゃんと王様に報告しておかないとな」


 キマイラの死骸は、傭兵団と三人組の勇者たちがラシュベルトに持っていくことになった。


 それはこの二人が来る前に決めていたことなので文句はないけれど、後はお任せしますという訳にはいかないみたいだ。


「わかった。けど、俺一人で倒したわけじゃないからな、そこは誇張しないように頼む」


「それはそうだろう。死体を見て話を聞いただけだが、あれが化け物なのは十分にわかる。あれと一対一で戦って勝てるのは……君の恋人くらいじゃないか?」


「だよなぁ……俺もこの世界に来て結構強くなったけど、あんなのとタイマンしろと言われたって、勝てるビジョンがまったく見えないぜ」


 うん、そうだね。それは否定しない。


 あのキマイラは、唯でさえ魔法が効かない障壁を持っていたのだ、並の勇者ではとても太刀打ちできないだろう。


 その点クローディアなら魔法が通じなくても、力押しで圧倒しそうな気がする。

 見たところ、この二人が持っている武器にもそれぞれ魔法の加護がかかっているみたいだし、俺も偶々普通の剣を持っていなかったら、あれを倒すことはできなかった。


 普通の武器か……

 もしもの時のために、買っておいたほうがいいかもしれないな。


 俺は創造できる限りどんな武器でも生み出せるけれど、魔法だけに頼りすぎるのは良くないと、あの戦いで実感した。


 今のところは慌てる必要はないが、屋敷に帰ったらジイさんにでも相談しよう。


「しかし、俺たち勇者の間で、北の女勇者のことは噂にはなっていたけど。実際相対するととんでもなかったな……なんだあの化け物」


「お、おい!」


 俺が思索に耽けていると、カズマがクローディアのことを化け物だと口を滑らし、ヒカルが慌ててそれを止める。


「す、すまない、蔵人……」


「あぁ、気にするな、俺も一度は思ったことがある」


 つい最近のことだけどな。


「た、確かに、凄いレベルだったな。勇者があそこまで強くなれるなんて、僕も思っていなかった」


「俺なんて200の壁が遠いんだぜ……」


 ヒカルがステータスの方へと話を逸らして、カズマが自分のレベルに歯噛みをする。


 この二人は抜け目なく、クローディアのステータスを覗いたのだろう。俺は少しだけ、彼女の能力が気になった。


「あいつのレベル、いくつだった?」


「君は知らないのか?」


「そっか、ステータス鑑定は勇者のスキルだもんな。蔵人は持っていないのか」


「あ、うん、俺……魔皇だし」


「それは認めるのか……」


 俺の返事を聞いたヒカルが、とても複雑な表情をする。

 二人にはもう最初からバレていたので、いまさら隠しても意味がない。


「エリカさんのレベルは1500だったぞ」


「どうすればあそこまで上がるのだろうな。迷宮攻略か?」


「せんご……」


 それを聞いた俺は絶句する。

 強いなんてもんじゃない、俺のレベルの十七倍はあった。


 そりゃ勝てるわけ無いわ……


 ステータスが強さの全てではないが、そこまでレベルが高いということは、それだけ戦ってきた経験が違うということだ。


 今の俺のレベルで時空神と共鳴して、よくもったな……


 あの時の自分の強さが、いったいどれくらいだったのか知らないけど。アリスが来てくれなかったら、俺はクローディアに本気で殺されていたかもしれない。


「いつかリベンジする」


「やめとけ」


「無謀だぞ」


 カズマがぼそりとつぶやいた言葉に、俺とヒカルは冷静に忠告する。


「エリカさんを倒せるくらい強くなったら、きっとクレアさんも俺に振り向いてくれるはずだ!」


「それ、諦めていないのか……」


「何の話だ?」


 会話について来れないヒカルに、俺はカズマがクレアに一目惚れをしたことを話す。


「本気か……?」


 俺の話を聞いたヒカルは呆れ果てる。

 それは当然だろう。クレアはこの世界の魔王だ、同じ勇者としてカズマの気持ちが理解できないのだろう。


「当たり前だ、俺はいつでも本気だぞ!」


「でも彼女は魔王、というか、そもそも魔族だろ」


「それがどうした? 愛に種族の壁など関係ない!」


 ここまで真っ直ぐになれるカズマのことが、俺は正直羨ましい。

 もし前世の記憶がない普通の暮らしをしていたら、俺も彼のように生きていられたのだろうか。


 考えても、詮無きことか。


 どんな生まれ方をしたとしても、俺は俺だ。ならば姉さんが言っていたとおりに、好意を寄せてくれる女の子たちを大切にして、俺の好きな生き方をしよう。


「王女様の方はどうするんだ? 公爵家の令嬢も傍にいるだろ」


「そんな話も前にあったけど、相手は王族だぞ。正直に言えば……俺はもっと普通な恋愛がしたい」


「……その気持はわからなくもないが」


「お前の方も、あの王女とはどうなんだよ?」


「シャルか? 彼女はどちらかと言うと、手のかかる妹みたいな感じかな……」


 俺を放置して、勇者たちはそれぞれの恋愛事情を暴露し合う。

 正直二人の話は意外だった。彼らは高名な勇者なのだから、好き勝手生きていると思っていたのだ。


 俺には理解できないことだが、それなりに有名になると、王族や貴族との付き合いが面倒になるのだろうか。


「君も他人事ではないだろ?」


「そうだぞ」


「えっ」


 余り関係がないので静観していると、二人が揃って俺に助言をしてくる。


「君のほうがもっと大変だ。なにせ、王子の婚約者を奪ったことになっているのだからな」


「勇気あるよなぁ、俺にはとても真似ができないぜ」


「どういう事だ?」


「ダニエル王子から、レティシア姫を略奪したんだろ? ラシュベルトのお城じゃ、すっかり噂になっていたぞ」


「はぁ?」


 カズマの言葉を聞いて、俺の口が半開きになる。

 そもそも俺は、レティの身の案じたフランチェスカ様から彼女を預かったのだ。

 今のラシュベルトでは、不穏な動きをしている貴族がいる。その政争に巻き込まれないように、彼女は俺のところで匿っていた。ヒカルもそれを知っているはずなのに、どうしてそのようなことになっているのだろうか。


「まぁ、これは機密事項なので殆どの者が知らない、そんな噂が立ってしまうのも無理はないかな」


 ヒカルが言うには、今レティがどこに居るのか知っているのは四人だけ。

 フランチェスカ様とヒカル、そしてシャルロット姫と彼女の姉であるエイダ様だけだ。


 ただフランチェスカ様が、ダニエル王子にレティの居場所を問われた時、ある男に預けてあると素直に言ってしまったそうだ。


 さすがに俺の名前までは言わなかったそうだが、そこから噂話が拡散した。


「うわぁ……面倒くせぇ……」


 ダニエル王子の存在を忘れたかったけど、無視することはできない。

 なぜならば、俺はもうレティを手放したくはないと思っているからだ。

 王子の存在が障害になるとしたら、俺はいずれ彼と争うことになるのかもしれない。


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