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第194話 勇者を召喚する意味


ソフィアの話で、彼女とトリアナがこの森で何をしていたのかを教えられる。

それは、異次元トンネルの縮小化だった。今は彼女たちの力で小さくなっているが、あの穴が異次元空間へと繋がっているらしい。


別の世界へと繋がっている異次元の入り口。そんなモノの話をされて、俺たちはみな動揺する。


この穴から繋がっている世界は、それこそ星の数ほどあり、彼女たちも全てを把握できていないそうだ。


「俺たちはこの森で見たことがない魔物を倒してきたが、あれはこの穴から出てきたのか?」


「その通りです。わたくしたちが来る前の穴は、すごく大きかったので、沢山の魔物が溢れ出していました」


「そうか。ソフィアたちも、魔物を倒してくれていたのか」


「いえ。わたくしたちの邪魔をするものは排除していましたけど、この場から離れた所にいる魔物までは、倒していません」


「なぜだ……?」


陰ながら助力してくれた女神たちに、俺が心の中で感謝をしていると、ソフィアが思いもよらぬことを言う。


「なぜと言われてましても……わたくしたち神族が、人間のために働くようなことはいたしませんよ」


あぁ、またこれだ。

人間と彼女たちの間にある相違感。彼女たちは、決して他人のことを見下しているわけではないと思うが、人間のことを嫌っているようにも感じられる。


別にソフィアやトリアナは、アリスやエレンさんのことを嫌悪していたりしない。

食事を作って貰ったら礼を言ったり、アリスに料理のこと教えてもらったりしているし。エレンさんとも仲良く話している所は、俺も何度か見ている。


「人間のためじゃないのなら、どうしてトリアナと二人でここに来たんだ?」


魔物が増えて苦しむのはこの周辺の人間だ、彼らのために来たわけではないというのならば、他にも何か理由があるはず。


「クロード様のためです」


「俺のため?」


「はい。クロード様が近くの街に住んでいらっしゃるので、貴方様のお手を煩わせないようにと、トリアナ様と話し合ってここまで来ました」


「そ、そうか」


俺のためだと言われたら、これ以上は何も言えなくなってしまう。

俺は話題を変えることにして、この穴についてさらに詳しく聞くことにする。


「それじゃ、この異次元トンネルとやらは、何でこんな所に出来たんだ?」


俺の言葉を聞いたソフィアは、ふと考えるような仕草をした後、俺に勇者たちがこの世界に召喚された理由を聞いてきた。


「勇者が召喚された理由?」


「はい。クロード様は知っていますか?」


俺は召喚された者でもないし、ソフィアはずっと一緒に居たので、俺が勇者に詳しくないことは知っているはずだ。


けれど、ここ最近の俺は勇者に幾度となく会っていたので、ソフィアは俺が、勇者たちからその話を聞いたのかと問うているのだろう。


「一応その話は聞いた。この世界の発展のために、昔から繰り返されてるって話だろ?」


つい先日に、昼食を食べながらその話題になったのでよく覚えている。

マリンさんのその話を聞きながら、俺は勇者じゃなくて良かったと思っていたんだ。


「人間の世界では、そのように言われているのですね」


ソフィアが異次元トンネルを見ながら、悲哀に満ちたような表情をする。

どうしてそんな悲しげな顔をするのだろうか、俺にはわからない。


「なにか……別の意味があるのか?」


「そうですね……では、この世界の人々は、どのようにして異世界人を呼ぶのでしょうか」


「え? それは、国の偉い人が魔法の本を使って召喚を……」


「貴女は、いったい何が言いたいの?」


俺の声を遮って、痺れを切らしたアリスがソフィアに突っかかる。

確かに先程から妙に勿体ぶった話し方をしていて、ソフィアが俺に何を伝えたいのかわからない。


「いくら魔法の力があるのだとしても……ただの人間に、次元を超えて人を召喚するようなことが可能だと思いますか?」


「まさか……」


「この穴が関係あるのですか?」


シェリルさんとメルティさんの言葉を聞いたソフィアは「わたくしもトリアナ様に教えられるまで知りませんでした」と言いながら頷く。


「クロード様は先程、魔法の本を使って召喚を行なっているとおっしゃいましたが。異世界の人間は、世界中にあるこの入口の力で呼ばれております」


「それでは、この穴を広げたのは……」


「この世界の人間だというの?」


ソフィアが再び肯定するのを見て、二人の顔色が悪くなる。

二人は苦しむ民のために何かできないかと考えて、この森までやって来た。

しかしその原因の一端が自分たちの血縁者にもあった、動揺するのも当然のことだ。


「そんな……」


「それが本当なら、早く叔父王様に知らせて、これ以上の召喚の儀式を中止させないと」


「それは困ります」


動揺しながらも冷静な判断を見せるシェリルさんの言葉を、なぜかソフィアは否定する。


「どうして!?」


なぜソフィアが止めるのか、俺にも理解できない。

この穴が広がった原因が勇者の召喚にあるのなら、彼女の判断は間違ってはいないはずだ。



「もう遅すぎて、とうにその段階は超えてしまっているということだよ」


「トリアナ」


声が聞こえてきた方向に視線を向けると、厳しい表情をしたトリアナと、暗い顔をしているマリンさんが出てきた。


「トリアーナ様……なのですよね? それはいったいどういう事なのでしょうか?」


俺たちの代表をして、女神なのかと確かめるようにメルティさんがトリアナに質問をする。


「最初の頃は、ボクたち女神も人間の行いを止めようとした」


トリアナはメルティさんの方を見ずに、空に視線を向けて語りだす。


「だけど人間は愚かだった。世界の崩壊よりも、自分たちの繁栄のことしか目に映らない」


「長い年月を経て、状況が変わってしまったのです」


トリアナの言葉を引き継ぐように、ソフィアが俺たちに説明してくる。

異次元のトンネルは、最早人の力では消せないほどこの世界に根付いてしまった。

その力を消耗させれば、小さくなったりはするけれど、完全に消滅させることはない。


「今ではこの異次元の入口は、勇者の召喚によって縮小化し、何もしなければ広がり続けます」


コップから水が溢れ出すならば、その水の量を減らせばいい。

この場合コップの役割がこの穴で、水は異世界人や幻獣と呼ばれる魔物たちのことだ。


「ボクは数百年前に、各国の王にお告げをした。この穴のことと、勇者召喚の本当の意味をね」


この穴を放置して魔物を溢れさすよりは、異世界人を召喚して穴の力を消耗させる方を選ぶ。


トリアナのお告げを聞いた世界中の王はそう判断して、今日(こんにち)まで異世界人を召喚し続けてきた。


どの国でも勇者の数が多いのは、そういう意味があったのか。


「勇者を召喚すれば小さくなるのなら、どうしてこの森の穴は大きかったんだ?」


「それは、ラシュベルトの歴史が浅いからだよ」


なるほど。


入口の大きさが変わるのに何年かかるか知らないが、確かにラシュベルト公国の歴史は浅い。


元々貴族たちの街で、フランチェスカ様の力で国を興したからだ。


だけど……


トリアナの返事を聞いて納得した反面、気になることもある。

この穴を広げたのは、確かに人間たちなのだろう。けれど、この穴はどうやって出来たのだろうか。


まさか、自然発生したのか?


女神たちの話を聞いていると、穴を広げたのは人間の仕業だというのは理解できた。


しかし彼女たちは、異次元トンネルがどのようにして出来たのかを明かしてはいない。


「ソフィ、この穴は……誰が創ったんだ?」


今まで黙って話を聞いていたルナが、ソフィアに向かって質問をする。今まさに、俺が彼女たちに聞こうとしていた言葉だ。


「それは……」


ソフィアは返事に詰まったまま、俺の方へと視線を向ける。

トリアナの方を見ると、彼女も同じく俺のことを見ていた。


俺? そんなわけないよな。

俺じゃないとしたら、クロフォードか? いや、あいつがそんな事をする意味もない。




そこまで考えて、俺の頭にひとりの男の顔がよぎる。

そうだ。俺の他にもそんなことができる奴が、ひとりだけ存在する。

奴が何のために、次元の入口を創ったのか分からない。だがあの男のことだ、きっとろくでもない事を考えていたに違いない。

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