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第184話 異世界の魔皇

俺はアイテムバッグの中から、ブロードソードを取り出す。

この世界でアリスに初めて出逢った時に、彼女が俺に買ってくれた武器だ。


「懐かしいな」


まだねがいの魔法がうまく使えなかった頃、俺はこの剣に頼っていた。

最後にこれを手にしたのは、いつだっただろうか。使い慣れた物だったはずなのに、手に持って構えるとしっくりこない。



「ぜあぁぁぁ!」


「これでもくらうのじゃ!」


【メェェェ……】


懐かしい剣を握って、アリスと出逢った時の事に思いを馳せていると、カッセルさんがキマイラの蛇を切り裂き、白亜が片手斧を山羊の頭に投擲する。


「すー…………ばぁぁぁぁ!」


獅子の頭と対峙していたリアが、大きく息を吸った後に口から火を噴く。

キマイラには障壁があるので効いてはいないみたいであったが、獅子の頭はその攻撃で怯んだ。


「リアも、火を噴けるのか……」


「ん……竜人だから当然だ」


俺の横にいるルナが、誇らしげにリアのことを見ている。

どうやら俺は、本当に彼女たちのことを見くびっていたらしい。


「ははっ。このままだと、美味しいところを持っていかれてしまうな」


俺がいなくても魔物を倒せるのなら、別にそれはそれでいい。

けど、俺も男だ。可愛い女の子たちの前で、格好つけられないのは口惜しくなる。


「それじゃ、俺も行くか」


両手にそれぞれの剣を握り締め、時空魔法を唱える。

カッセルさんが蛇の頭を斬り落としてくれたので、もう邪魔をする奴はいない。


「ワタシも……援護する」


「付いてこれるのか?」


「フッ……魔法の使い方は、ワタシのほうがクロよりもまだまだ上手だ」


「そうだな」


俺とルナは顔を合わせて微笑み合い、二人で同時に時空魔法を唱えた。



「タイムアクセラレイト!」


「テンポラルアクセラレイション!」


ブロードソードを前に突き出した体勢で加速し、その姿勢のまま空中に飛び上がる。ルナも俺の後ろから付いて来ていて、なんか右手が光り輝いていた。


「うぉらぁぁぁぁ!」


キマイラの胴体に飛び乗る寸前に、勢い良く剣を山羊の頭に突き刺す。

ルナは途中で軌道を変え、問答無用で障壁を割りながら獅子の頭をグーで殴っていた。


「やぁぁぁ!」


ルナが獅子にパンチして、リアがそれに続いて獅子の頭を蹴り上げる。


「っと!」


あまりにも常識外れたリアの力で、キマイラの躰がグラリと揺れる。

胴体に乗っていた俺は落ちないようにバランスを取り、女神の剣を使って山羊の頭を斬り落とした。


【エ゛ェ゛ェ゛ェ゛……】


山羊の頭を落とすと、バリンと何かが砕けるような音がする。

おそらく障壁がなくなったのだろう、あとは残った獅子を倒すだけだ。


「クロ坊! 気をつけるのじゃ!」


俺がキマイラの躰から飛び降りると、白亜が大声で呼びかけてくる。

獅子の方へと視線を向けたら、俺に向かって大きな口を開けていた。


【ゴ……】


「すー……わあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ぐわっ!?


【グガゥゥゥ……】


キマイラが火炎を吐き出す直前に、リアが大声を出して怯ませる。

彼女のおかげで助かったわけだけど、俺の鼓膜も破裂するかと思った。


「アイスセイバー・クリエイト!」


「フローズンブレード・クリエイション!」


両耳を押さえたいのを我慢し、氷でできた大剣を獅子の首元に振り下ろす。

ルナも俺と同じような魔法を使って、反対側から魔法剣を振り下ろしていた。


【グ……ル……ル…………】



「終わったのかの?」


「おわりましたー」


「ふいぃ……いやしかし、すげぇな、お嬢ちゃんたち」


キマイラの頭を斬り落とし、動かないのを確認していると、カッセルさんと白亜が近づいてくる。


耳が……


三人は楽しそうに会話をしているけれど、耳鳴りのせいで全然聞こえない。


「耳が……キンキンする……」


リアの近くにいたルナも、耳を押さえながら何かを言っている。

たぶんだが、俺と同じように耳鳴りでもしているのだろう。



◆◇◆◇



森から脱出してきた俺たちは、女勇者を連れてテントの中で治療をしていた。

ラシュベルトから来た貴族の私兵は、殺された者以外軽症だったので、別のテントでエレンさんが診ている。



「ふぅ……魔法を使いすぎてつかれた」


「お疲れ」


ルナの体を抱き寄せてから、彼女の肩を優しく揉み解す。

女勇者の怪我は、俺とルナの二人ですぐに治療することが出来た。

遠くから見た時はヤバいかと思っていたけれど、ジルベールさんほどの大怪我ではなかったのでそんなに時間は掛からなかった。


「お、おい。未央は無事なのか?」


ルナと抱き合いながらイチャついていると、勇者たちがテントの中に入ってきた。

こいつらには、森で倒した魔物の後始末を頼んでいた。キマイラは俺たちが片付けたのだから、それくらいしてもらうのは当然だ。


「あぁ、問題ない。今は魔法で眠っているから、数時間もすれば起きるだろう」


「そ、そうか。よかった」


「ありがとう、助かった」


頭を下げる二人の勇者に、俺はヒラヒラと手を振って対応する。

この三人のことはよく知らないが、泣きそうな顔をしている二人の男たちを見た感じ、とても仲がいいのだろう。


「これからは危険だと判断したら、すぐにでも逃げることを勧めるぞ」


「そう……だな……」


「命あっての物種だものな……」


「まぁ……力なき者の為に立ち向かうから、勇者なのかもしれないが」


俺の言葉を聞いて肩を落とす二人に、適当にフォローをする。

あの気持ち悪い鳥の化け物を倒すところを見た限りでは、彼らもそれなりの場数を踏んでいるのだろうが、時には逃げ出すことも勇気が必要だ。


「お前たちは勇者なのに、一人じゃ転移魔法は使えないのか?」


雰囲気が暗くなってしまったので、俺はルナを抱き寄せながら話を変える。

ルナは俺の膝の上に座って、嬉しそうに頬ずりをしてきていた。


「転移魔法はバカみたいに魔力を使うから、俺たち一人二人の魔力じゃ足りないんだ」


「俺たちは三人共精霊と契約できなかったし、転移する時は儀式魔法を使わないといけない」


儀式魔法?


『ルナ、知っているか?』


『知ってる。儀式魔法は、大きな魔法を使う時、集団で魔力を共有して使う……一人で行使するより時間が掛かるから、魔力が大きい人にはあんまり効率は良くない』


『ほう』


俺は二人の話を聞きながら、同時に心の中でルナと会話をしていた。

真面目な話をしているので、ルナに少し離れてとお願いしたのだが、彼女は聞き入れてくれなかった。


まぁこいつらも、気にしてないみたいだからいいけど。


「夜神……さんは、どうやってそんな魔力を手に入れた……んですか?」


勇者の内の一人が、拙い敬語になりながら質問をしてくる。

ステータスを偽装する時にあいつの名前を借りたので、俺のステータス欄は夜神蔵人と表示されている。魔力の数値部分は変えずにそのままにしているから、その数字だけが突出していた。


「クロードでいい、敬語も必要ない。俺はあれだ……修行したからな」


「修行?」


「そんな事で、魔力がそんなに高く?」


「そんな事とはなんだ。敵を倒して淡々とレベルを上げるだけじゃ、強くなんてなれるわけがない。時には自分と向き合って、魔力を高める訓練も必要だ」


「はぁ……」


なんか偉そうなことを言ってしまったが、俺はそのことを体現している。

実戦をして経験を積むことも大事だけれど、ひたすら己の身体の中で魔力を練ることも必要だ。実際に俺は、ジイさんの修行の後に疲れた身体を酷使して、ルナと魔力を高める特訓をしていた。



「勇者様の具合はいかがですか?」


「もう大丈夫ですよ」


四人で話をしていると、テントの中にメルティ王女が入ってきた。

アリスが作った朝食ができたので、俺とルナを呼びに来てくれたらしい。


「あんたらは食べないのか?」


「俺たちは後でいいです」


「未央が起きるまで、ここで待ってます」


「わかった」


俺たち三人は勇者たちを残し、テントの外へと出る。もうお昼前になっていたので、雨はすっかり上がっていた。



「勇者様、今度は内緒で行動したりしないで、どうか私たちに言ってください」


「す、すみません」


「そうだ……内緒にするのはよくない」


俺は道を歩きながらに、メルティ王女様からお叱りを受ける。

ルナも一緒に怒っていて、ポフンと俺の腹をグーで優しく殴ってきた。


まさかあんなに迷うとは思わなかったもんな……


森の奥に行くときはもの凄く時間がかかっていたのに、脱出する時はものの数十分で出ることができた。魔法なのか結界なのかわからないが、もしも脱出することができなかったと思うとゾッとする。


「あの、メルティ王女様。俺のことを、勇者様と呼ぶのはやめて頂けませんか?」


正直そんな風に呼ばれると、背中がむずむずとする。

実際に俺は勇者ではないし、呼ばれ慣れていないのでなんだかむず痒い。


「では、私のこともメルティと呼んでください。王女を付けられると、なんだか距離を置かれているみたいで悲しくなります」


「わかりました、メルティさん。これでいいですか?」


「はい、クロードさん」


「むぅ……」


俺とメルティさんが微笑み合っていると、横にいたルナが一瞬だけ唸る。

カズマの恋人候補? ぽい人には手を出したりするつもりはないので、安心して欲しい。


「あっ! 魔皇様と、呼んだほうがよろしかったですか?」


「ふぁ!?」


ルナの顔色をうかがったらしいメルティさんが、とんでもないことを口にする。

あまりにも予想外だった彼女の言葉に、俺の口からも変な声が出た。


「いや、そ、なんで……」


俺が動揺して言葉にならない声を発していると、目的地の大型テントからシェリルさんが出てくる。


「ちょっと、遅いわよ! 異世界の魔皇様」


えぇぇ……


シェリルさんの口から出てきた言葉も、今まで無かった俺の名称だった。


「なんで……魔皇だと?」


「昨夜にルナさんから聞きました」


「異世界の魔皇様も大変ね」


「フッ……」


犯人はお前か、ルナ!


昨夜女の子たちは女子トークで盛り上がっていたらしく、ルナが俺の素性をでっち上げたみたいだ。


「前にカズマが、あなたの事をこの世界の魔王だと勘違いしていたものね」


あー……あったなぁ、そんなこと。


二人の話を簡潔に説明すると。

温和な俺は異世界での派閥争い? に負けてこの世界に逃げてきたらしく。

慎ましやかにこの世界で生活をしていたら、カズマに勘違いされて追い回された挙句、こっちの大陸に逃亡してきたことになっていた。


なんじゃそりゃ。


もう……訂正するのが面倒になってきたので、俺は適当に話を合わせることにした。



沢山の女の子たちと食事をしていたら、彼女たちは再び俺の話で盛り上がる。

楽しいガールズトークが終わる頃には、異世界の魔皇だの、ヘタレ魔皇だの、ロリコン魔皇だのと、俺の新しい呼び名が増え続けていた。

初めの頃は、こんなに文字数が増えるとは思ってもいませんでした。

新しい話を投稿した日に増えたブックマークが次の日には消えているのを見ると、最初から書き直したくなる衝動に駆られます。

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