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第176話 姉妹


「こんなもんか」


後ろ腰に自作した鞘を取り付けて、二本の短剣を差し込む。

短剣に魔力を流せば刃が振動して、斬れ味が増すように創った。


「意外と難しいな」


短剣を鞘から引き抜き、逆手に持って軽く振ってみたが、魔力の通りが悪い。

使用する魔力量が少ないのかと思い、思い切って魔力を上げて流してみる。

すると、刃の周りに高出力の魔力の波動がコーティングされた。


「おおぅ……やり過ぎた」


鉄でも簡単に切れそうだなこれ。

てか、こんな物を使っているとコートが着れなくなってしまうな。


あとで、アリスに貰ったコートにも魔法を掛けておこう。

服を改造したりしなくても、自分の魔法ならば耐性を上げることはできる。



「クロ坊、ここで何をしているのじゃ?」


道場で短剣を手にしたまま考え事をしていると、白亜がひとり中に入ってくる。

俺の部屋でルナ達と遊んでいたのに、俺を探しに来たのだろうか。


「新しい武器を創ったから、試し斬りをしてたんだ」


「ほう」


白亜が近づいてきて、俺の持っている短剣をマジマジと覗き込む。


「毒が塗ってあるから、刃には触れるなよ」


「はわぁ!?」


そうっと手を伸ばしていた白亜に注意すると、彼女は驚愕しながら飛び退いた。


「……すまん、毒はまだ塗ってない」


「ばかもの! 驚かすでない!!」


過去(むかし)のクセで武器に毒を塗るなんて単語が出てしまったが、今の俺はそれをするつもりはない。

暗殺の仕事なんか無いだろうし、自ら進んで引き受ける必要性もないからだ。


「なぜこんなに、たくさんの武器を作るのじゃ?」


畳の上に置かれている服を見ながら、白亜が質問をしてくる。

この服は薄い革で出来ているが、打撃や斬撃耐性を俺の魔法で上げたボディアーマーだ。

服の正面には小さなポケットが複数付けられており、そこには数十本の投げナイフが収まっていた。


「あらゆる事を想定して、備えていても損じゃないだろ」


「しかし、クロ坊なら魔法ですぐに出せるんじゃろ?」


「それはそうだが……」



白亜が言う通り、わざわざ武器を身に着けていなくても、俺なら魔法で瞬時に創り出せる。

ならばなぜそうしないのか。その理由は、俺が安心できるからだ。

単純に手ぶらで戦うことに不安もあるけど、もし魔法が使えない状況になった時に、武器を出せなかったら困る。


「まるで北の女勇者じゃな」


「北の勇者って、アサシンなのか?」


「アサシン?」


「いや……こんな武器を好んで使うのかなと」


白亜に短剣を見せながら、適当に誤魔化す。


「そうではない。北の女勇者は戦いながら、何処からともなく次々と武器を取り出すのじゃ」


「そんな話、マリアから聞いたことがあるな。空からいっぱい武器を降らせるんだっけか」


「そのような戦い方は、わらわは観たことがないが……クロ坊と似たような魔法を使っていたのじゃ」


「へー……」


武器を生み出せる魔法を使う勇者か。確かに、俺の持っている力と似ているかもしれない。



「ところで、白亜は俺に用があったんじゃないのか?」


「そうそう。姫の準備ができたので、クロ坊を呼びに来たのじゃ」


「やっぱり行くのか。でも、天気悪いだろ?」


ここ最近はあまり構ってやれなかったので、レティとリアの二人が、俺とお出かけをしたいと言ってきた。

一緒に出かけるのは別にいいのだが、ここの所毎日雨が降っていて、今日も天気が悪い。


「夕方までに戻れば雨は降らないだろうと、エレンが言っておったのじゃ」


「そうか」


白亜と共に戻りながら話をする。

エルフの感なのかは知らないけど、エレンさんが言うのならそうなのだろう。

一階に戻って玄関のエントランスに辿り着くと、レティとリアの他に、俺達のことを待っていた女の子達が居た。


「お待ちしておりました、お兄様」


「クロさま、おでかけしましょう」


「あぁ」


笑顔で返事をしてから、二人の格好をもう一度よく見る。

リアは動きやすそうなワンピースの服を着ていて、レティは俺がプレゼントしたシスター服を着ていた。


なぜレティがこの服を着ているのかというと、彼女が欲しがったのでクロエが勝手に注文をしたらしい。

昨夜俺の夢の中にクロエがわざわざ出て来て、いろいろな話と一緒に、レティに必ずこの服を渡すようにと注意されたわけだ。


「どうですか? お兄様」


「よく似合っているな、可愛い」


「ありがとうございます」


俺の返事を聞いたレティが、その頬を染める。

そしてリアの方へと視線を向けると、自分が着ているワンピースを見ながら、俺のことをチラチラと見ていた。


「リアも凄く可愛い」


「クロさま……うれしいです」


「当然だ……」


一緒にいたルナは嫉妬するでもなく、なぜか誇らしげに胸を張っていた。

もしかしたらリアのワンピースは、彼女が魔法で創り上げたものなのかもしれない。



「護衛をしなくても、本当に平気?」


アリスが小声で俺に囁く。

レティとリアの身分を考えたら護衛は必要だけど、それでは彼女たちが窮屈になってしまう。

護衛と言っても、ここには女の子達ばかりなのでそうはならないかもしれないが。それでも全員と出かけてしまっては、デートにならない。


「ずっと俺と一緒にいるから問題ない」


「……すごい自信ね。いったいどうしたの?」


「なに、これからは前向きに生きることにしたんだ」


「そうなの……」


俺の言葉を聞いたアリスは微妙な返事をしたけど、どうやら納得はしてくれたようだ。



「クロードさん。雨で体を冷やすといけませんから、夕方には帰ってきてくださいね」


「わかりました、エレンさん。いつ降るのか判るのはすごいですね」


「今は雨期ですから、雨が降る時間は決まっています」


「そうだったんですか」


エレンさんの話によると、この時期はよく冷たい雨が降るそうだ。

早朝に雨が降り、昼の間に少しだけ止む。そして夕方になると、またしとしとと降り始めるとの事だった。


「それじゃ、行くか」


「はい、お兄様」


「はぁい」


元気よく返事をした二人が、俺の両腕に掴まってくる。

歩き難くなるけれど、俺は喜んで彼女たちと腕を組んだ。


「いってらっしゃいませ」


「いってらっしゃい」


マリアとクレアの挨拶を受けて、俺達は玄関の外へと出る。

雨の匂いはあまりしなかったが、やはり天気は曇っていた。




「それで、二人はどこに行きたい?」


「おそとで食べ歩き!」


「私は教会に行きたいです」


「買い食いに教会ね」


リアは白亜から、俺とラシュベルトで食べ歩きをした話を聞いて、とても悔しがっていた。

食いしん坊な彼女がそんな話を聞けば、羨ましがるのは当然だろう。

元気よく即答したことから察するに、ずっと俺とそんな事をしたかったのかもしれない。


レティはもう見たまんまだ。

ミニスカシスター服で教会に行くのはちょっとどうかと思うが、彼女は信仰心が深いのだろうか?


「丁度いい時間帯だし、お昼を食べてから教会に行くか」


「はい!」


「わかりました」


二人を連れて、露店がある場所まで歩いて行く。

お昼時なので、辺りにはいろいろな食物の匂いが充満している。

リアは肉が焼かれている屋台を見つけて、一目散に走り出す。


「リア! 走ると危ないぞ!」


「だいじょうぶですぅ!」


俺の心配を他所に、リアは器用に人を避けて駆け抜けていった。


あいつ、俺より体捌きがうまいんじゃないか……?



◆◇◆◇



「はぐはぐ……はぐ……」


もの凄い食べっぷりだな……


人混みを避けて広場の隅に行き、三人で昼食を取る。

俺とレティは魚のフライと野菜を挟んだパンを食べて。

リアは同じパンと、ついでに焼肉と串焼きと唐揚げと大きなソーセージを焼いた物を食べていた。


「美味しいです、お兄様」


「そうか。リアはどうだ?」


「すごくおいしいです!」


「よ、よかったな……」


「はい!」


こんなに食べているのに、リアはどうしてずっと小さいままなのだろう。


人一倍食べるのに、リアは太るどころか成長する気配がまったくない。

白亜にも言えることだが、成長が遅いのは竜人や獣人の特徴なのだろうか。

ついでに言えば、二人とも獣の姿に変身する時は、その身体は今よりももっと小さくなる。それがとても不思議だ。


二人は大丈夫だって言ってたけど、首輪を変えないと俺の気が済まなかったしな。


リアと白亜が付けていた奴隷の首輪は、魔力に反応してその大きさが自由に変わる。

だから獣化できる獣人奴隷にも使われているのだが、絶対に事故が起きないとは言い切れない。

俺は二人が変身する姿を何度か見ていて、首輪で首が絞まったりするんじゃないかと気が気でなかった。


二人が今付けている隷属の首輪は、俺が自作した引っ張ると伸びるチョーカーの様なものだ。

エレンさんからこんな隷属の首輪もあると話を聞いて、俺は二人のために創り上げた。

奴隷商で販売されている首輪のような機能はなくなったけれど、二人はとても喜んでくれたし、俺も安心することが出来たのでこれでいい。


「お兄様。服は汚れていませんか?」


「大丈夫だ、汚れてない」


魔法で拭くものを創って、レティの口を拭いてあげながら返事をする。

リアはもう、口の周りがソースなどでベタベタだったが、ニコニコと歓びながら俺に口を拭かれていた。


「そういえばレティ」


「はい、何でしょうか?」


「レティはどうしてその服が欲しかったんだ?」


スカートの丈が短いのはクロエの趣味だろうけど、修道服を欲しがったのはレティ本人だ。

レティは王族で、いつもきらびやかなドレスを身に纏っていたし、どうしてもこの服と彼女が結びつかない。


「そうですね……この修道服は、大好きだったお姉様への憧れなんです」


「憧れ?」


「はい」


目が見えなかったはずのレティが、故郷に思いを馳せるように空を見ながら語りだす。


「私には七人の姉がいましたが。生まれが生まれなので、自分からお姉様たちに会いに行くことは禁止されていました」


レティはバルトディアの王妃の娘だが、父親は国王ではなく別の男だ。

詳しい話は知らないけれど、国王が存命しているのに彼女が生まれたのだから、それは完全に王妃の浮気なのだろう。


「父王様に罰されることもなく、姉姫様たちと同じような扱いを受けさせていただいて、この身には過分な生活をしていました」


レティは王族としてお城で暮らしていたが、実際には王の血を引いてはいない。

それが彼女にとってどれほどつらい事だったのか、俺にはわかることができない。


「もちろん姉姫様たちは私の生まれは知っているので、私に会いに来てくださることはありませんでしたが。でも、そんな中で二人だけ……私のことをとても大事にしてくださる、お姉様たちがいたのです」


レティにも信頼できる姉はいたのか。


「それが……アリシアお姉様と、アナスタシアお姉様です」


あれ? 何か聞いたことがあるような……


どこかで聞いたことがあるような名前だったが、なかなか思い出せない。



「お二人のお姉様たちはとても不思議な力を持っていて、アナスタシアお姉様は、女神様とお話をすることもできるのだそうです」


あ……思い出した!

アナスタシアって、北の聖王都にいる光の聖女の名前じゃないか!


どこかで聞いたことがある名前だと思っていたら、トリアナが言っていた名前だ。

彼女がよくシアちゃんシアちゃんと言っていたので、フルネームを尋ねたらアナスタシアという名前だった。


「もしかして……光の聖女か?」


「はい。とても有名になっていらっしゃいますよね」


レティは優しく微笑んだあと、誇らしげに返事をする。

アリシア姫とアナスタシア姫は信仰心が深く、世界中の教会を巡っていたらしい。

そんな中、アナスタシア姫の神託の力は特別で、北の大教会で聖女として神に奉仕しているのだそうだ。


お姫様なのに教会で暮らすとか、すげぇな。


「その二人に憧れていたから、その服なのか」


「はい」


レティがこんなにも憧れているんだ。その二人はレティにとって、とてもいい姉だったのかもしれない。


アリシアにアナスタシアにレティシアか。


半分しか血が繋がっていなくても、よく似た名前をつけられているから、レティは蔑ろにされていたわけではないのだろう。

ただ、王の血を引いていないので、国許からレティを出さなければ、いつ争いの火種になるのかわからない。

俺の気持ち的には賛成できないが、王がレティをラシュベルトに嫁がせようとした理由は理解できた。


「わたしも……妹がいます」


「リアにも?」


「はい、わたしと違って……とてもちからがつよい妹です」


性格などではなく、強さで判断するのはリアが竜人だからなのだろうか。

彼女の表情は暗く、それ以上話すことはなかったので、あまり喋りたくないのかもしれない。




俺とレティはリアを元気づけながら、教会へと向かう。

目的の場所につく頃には、リアはすっかりいつもの様に元気になった。

しかし教会に着くと、今度はレティが目立ちまくる。

その理由は、彼女のシスター服がミニスカ仕様だったからだ。

ジロジロとレティを見てくる他のシスター達に、あんたらもスリットが入っているじゃないかと、俺は視線で返しまくっていた。

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