第17話 記憶
「すごい家だな……」
アリスに招待された俺達は、貴族が住むような大きな屋敷に来ていた――
ルナはよく迷わずにアリスを連れて来れたな……
「兄さんが稼いでるからね。大きすぎて掃除が大変よ」
俺の言葉を聞いて、アリスがそんな事を言っていた。
「メイドとか……雇わないのか?」
「女ばかりだと、肩身が狭いとか言って兄さんが嫌がるのよ。私とエレンが家事をしているの」
「そうか……大変だな……」
男の使用人とか居ないのだろうか……
アリスに近寄らせない為かな……過保護そうだったし。
その割には俺の事を妹に任せていたが、無害だと思われてるのか?
そんな事を考えてたら客室に案内される――
「さてと……お風呂に入ってくるわ、ルナも来なさい」
「む……わかった」
「そんなにすぐに、お湯が沸くのか?」
ガスでも使って、お湯が出るのだろうか。
「魔導石を使ってすぐにお湯が沸くの。色々な用途で使えるわよ、原料は魔核ね」
「なるほど……」
便利だな、空を飛ぶ船にもそれが使われているのだろうか……
俺がこの世界で、初めて見た飛空船を思い浮かべていたら――
「アナタも一緒に入る?」
アリスがトンデモナイ事を言った。
「んな……」
「なななななにを言ってるんだね君は!?」
思わず口調がおかしくなった……
ルナも、目を見開いて驚愕している……
「ふふ……冗談よ。それじゃ、ゆっくりしててね」
アリスがおかしい……
いや、神殿に来た時から既におかしかったが……
「何なんだいったい……」
『何なのでしょうね……あの態度……』
疲れていた俺は、客室のソファに横になりながら疑問に思っていた。
ソフィアも、アリスの態度がおかしいと思っているようだった。
「ギルバートさん達は居ないのかな……」
家には俺達の他に誰も居ないようだった。
「ふぅ……少し眠る……」
『はい、お疲れ様です。おやすみなさいませクロード様』
「あぁ……おやすみ……」
俺はアリス達が出てくるまで眠ることにした。
==============================================
目覚めると、そこは白い世界だった。
真っ白で何もない世界――
「ここは……? う……白すぎて目が痛いや……」
何もないんだけど……
「僕は死んだのかな……」
『そうだ……君は前世において、その生命を全うした』
「え……?」
何処からともなく女性の声が聞こえてきた――
強い意志を持つような……神々しさすら感じる声だ。
『此処は私が創り出した転生の領域。君にはこれから生まれ変わって貰いたい』
「生まれ変わる……アナタは神さまですか……?」
『その認識で構わない』
どうやらこの御方は神さまみたいだ。
「そう……ですか」
僕の最後は……後悔が無かったのかな?
そう思い、死ぬ前の事を思い出そうとしたけど――
「あれ? あまり思い出せないや……」
何とか、クロトという名前だけは思い出せた。
『転生の儀式をする為に、前世の記憶は封印されてしまうのだ』
「なるほど……それは仕方ないですね」
生まれ変わるのに、前世の記憶は持っていちゃ駄目だろうしね。
『これから君の希望を聞いて、好きな世界で生まれ変わって貰うのだが……どうか、私の頼みを聞いて欲しい』
「頼み……ですか?」
『そうだ……』
まさか神さまに頼み事をされるとは思わなかった。
「でも記憶は封印されるのですよね……生まれ変わっても……僕はそれを覚えているのでしょうか?」
これは大事なことだと思う。神さまが頼み事をしても、僕がそれを忘れたら意味が無い。
『私の力で、記憶の封印の効力を止めている。その事については気にする事はない』
それを聞いて安心した。
『全ての説明を詳しくしたいのだが……私にはあまり時間がない』
安心したのはつかの間で、不安になるような事を言われる。
『私は今……人間界のとある世界に来ている。本来ならば神界と呼ばれる場所にある聖域で、転生の儀式をするのだが……私の生命は……もう長くはない』
「え……大丈夫ですか?」
『この世界で一人の人間が……決して、手を出してはいけない力を手に入れた』
僕の疑問に答えずに、神さまは言葉を続ける。
『危険な人間だ……私は見過ごす事が出来なかった』
危険な人間……?
『私達神は。人間の争いには介入せずに、見守るだけなのだが……私はその人間を倒すと心に決め、奴に戦いを挑み……そして敗れた』
神さまが、人間に負けるなんて……そんな事が……
『少年よ』
「はい……?」
『自分の名前を……思い出せるか?』
「えっと……多分……クロトです」
僕が戸惑いながら名前を名乗ると、神さまは――
『クロか……そうか……』
どこか懐かしむような感じで……そんな事を言った。
『ではクロト、同じ人間として奴を……自らを冥王と名乗る男を……倒して欲しい』
「え……」
いきなりそんな事を言われても困る……
『すまない……身勝手な事だが、私にはもう……神界に戻る時間も無い』
「そんな……僕には無理です……」
神さまが勝てない程の人間を倒すなんて……
僕にそんな力なんか無い……
『普通の力では奴には勝てない、だが一つだけ……希望がある』
「希望……?」
『そうだ、君の中にはある力が眠っている。本来ならば制限されていて、脅威となる程ではないが……私の力でそれを引き出せば……神の領域まで昇華する事が出来る』
僕に眠っている力……
そんなものが本当にあるのかな……
『私は転生者の中で、この力を使える人間を探した……それが君だ』
それほど危険な力を、人間が持っても良いのだろうか。
神さまの力で強くなるとはいえ、僕は只の人間だ……
それに、相手は人間らしいけど神さまを倒したとか。
どれ程の強さなのか想像もできない……
そう思いながらしばらく考えていると――
『く……領域が……崩れ……時間……無……』
神さまの声が、聞き取りづらくなってくる。
「神さま!?」
『私は……神とし……禁忌を……うと……してい……頼む……少年……私……願いを……』
「わかりました! 僕に出来るかわからないけど、その力をください!」
声が途切れながらも、必死で悲願する神さまの想いを……
僕は受け入れると心に決めた――
『ありが……う……ほん……う……すま……い……このちからは……ねがいのまほう……』
「ねがいの魔法……?」
『ねがえ……しょ……ね……そう……れば……すべてかなう……』
神さまがそう言葉にし、何かの言葉が聞こえてきた――
『聖王クロ……ディスケイト……名の……に』
『私が創造……き力よ……をも超越……』
『運命……否定……輪廻転生……捻じ曲……力……』
『私……命と魔……を……」
「…………ク……トに……の全て……捧げ……』
『……クリエ……』
神さまの言葉が終わると、辺り一面が白銀に輝き……
こうして、僕は新たな人生を歩み始めた――




