第16話 慟哭
「はぁ……はぁ……はぁ……うぅ……」
我を忘れたままゾンビを大火葬した俺は、魔法を使いすぎたせいなのか、頭がクラクラしていた。
「うっぷ……気持ち悪い……」
部屋に漂っている腐敗臭のせいなのか、魔法を使いすぎた影響なのかわからないが。
俺は吐きそうになった――
「クロ!」
「クロード!」
『クロード様……』
そんな俺に三人が心配して、二人が駆け寄ってくる。
「大丈夫、大丈夫よ……」
そして、再びアリスに抱擁をされた。
もはや出会った頃のアリスとは別人だが、俺はすごく安堵していた。
「ぐぬぬ……」
『むむむ……』
ルナとソフィアが何とも言えない様な声を出し、そしてルナの視線が痛かった。
俺を抱擁したまま、アリスが広場の奥に視線を向けて。
「ルナ、ちょっと一人で奥を見てきて」
と言った……
「ぬぁ……ナゼだ!?」
「私はクロードとここに居るわ。この子をこのまま一人に出来ないでしょう……貴女は魔王だから何とも無いわよね」
「むぅ……わかった……」
子供を慰めるようにしているアリスの言葉に、ルナは渋々と一人で奥に向かっていった。
俺はもう見るからに情けなすぎるが、魔力枯渇現症のせいで意識が朦朧としていた。
暫くしてルナが戻って来た。
「何かあった?」
複雑な顔をして戻って来たルナに、アリスが尋ねる。
「いけばわかる……」
「そう……クロードはもう平気?」
「あぁ……大丈夫だ」
少しだけ意識を回復した俺は、アリスに手を引かれながら広場の奥へと向かった。
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「何だこれ……石版……?」
そこには1m程の小さな石版が建っていた。
「ちょっとまって、これ……血文字? 何て書いてあるのかしら……」
アリスが石版に近づいて、そう言葉にする……
俺も石版に近づいて――
「え……日本語……?」
石版には血文字で日本語が書かれていて。それを見た俺は、内容を読んで絶句した。
「な……なんだこれ……」
そこに書かれていた言葉は――
「ボクはこの世界を憎む……」
「この世界にボクの居場所はない」
「全ての人間はボクの敵だ」
「勇者として召喚され……」
「ボクを利用した王も姫も兵も民も……」
「スベテボクノテキダアァァ」
それは……自らの怨嗟と、そして悲哀と憤激と慟哭だった。
最後の文字の後には血の手形が刻まれていた――
「クロード読めるの?」
アリスがそう聞いてきた直後――
「っ……さがれ!」
ルナが叫び……俺達は慌てて石版から離れ……
そして――
【オォォォォォォォォ……】
石版の下から漆黒の大剣を持った、巨大なレイスが出て来た。
「なんだコイツ!?」
【ォォォォ……オォォォォ……】
巨大なレイスが漆黒の大剣を俺達に向かって振るってくる――
俺は竦み上がりそうになったが、アリスに突き飛ばされる。
「うっ……」
「クロード、下がってて! はぁぁぁ……」
アリスがレイスに斬りかかる――
「光牙・閃翔剣!」
「シャイニングアロー・クリエイション!」
ルナも魔法を使ってレイスに攻撃する――
魔王なのに光魔法が使えるのか……
『クロード様!』
「ハッ……」
ソフィアに呼ばれて、俺は我に返った。
「くそっ……怯えてる場合じゃねぇ……」
俺は頭に浮かんだ言葉を口にして、魔法を唱えた――
「ホーリーランス・クリエイト!」
俺達は、三方向から次々とレイスに攻撃していく――
【オォォ……ユウシャ……ォォォオ】
「おおゆうしゃよしんでしまうとは……」
「シャイニングレイ・クリエイション!」
「なんだ……?」
ルナが妙な言葉をつぶやきながら攻撃しているが。
俺はそれを無視して、奇妙な違和感を覚える――
「アリスを集中的に狙ってる……?」
俺とルナが背後から魔法ぶつけても、怯んでいるがこちらには振り向かずに……レイスは、ずっとアリスを攻撃していた。
【ユウシャ……ユウシャメ……ォォオオォ】
「くっ……神技・天……っあぁぁ」
「アリス!」
アリスが大剣で斬られ、吹き飛ばされる――
俺は走って、アリスとレイスの間に立ちふさがり。
「ホーリーバースト・クリエイト!」
【ォォォォオ……アァァァァァァァ……】
爆発する聖なる魔法を思い浮かべ、レイスにぶつけた。
そしてレイスは、断末魔を上げ消えていった――
「アリス、アリス!」
慌ててアリスの元へ駆け寄る。
『クロード様、回復魔法を!』
「っ、そうか!」
頭の中で、回復魔法を使えることを願う――
「ヒーリング・クリエイト!」
「ヒールライト・クリエイション!」
俺は、頭の中で思い浮かんだ、回復魔法をアリスに唱えた。
ルナも魔法を唱えてくれた。
「アリス、大丈夫か?」
「えぇ。ありがとう……クロード、すごいわね……治癒魔法」
「いや……すまない……俺がバカみたいに怯えてなかったら、もっとうまく戦えたのに……」
「仕方ないわ……誰にでも怖いものはあるから」
アリスはそう言って、優しく微笑んでくれた。
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「しかし何だったんだろうか……」
俺はそう言葉にしながら、先程起こったことについて考える。
正直魔法を使いすぎたせいで頭が痛いが、考えをやめる訳にはいかない。
司祭は神聖な場所だと言っていたのに、明らかに此処は異常だ。
神殿はボロボロで、隠されたいた封印。その封印された地下に居た死霊。
そして一番異様なのは、血文字が書かれた石版……
文面からは、異世界の勇者だというのはわかる。
日本語だったしな……
「ん……もう邪悪な力は感じられない」
「そうね……」
『そうですね……』
俺が考えていていると、三人がそう言った。
「あのレイスが原因だったのか?」
「たぶん……」
ルナの返事に、俺は少し安堵した。
「クロード」
「うん……?」
「あの血文字の事、説明してもらえる?」
「あぁ、わかった」
アリスに聞かれて、俺は書かれていたことを説明した。
「何か……すごいわね……」
「あぁ……そうだよな……」
世界を救ったはずの、勇者の呪いの言葉だ。
こんな事を聞いて、驚かないはずはない。
「アリス……過去の勇者は、この世界を救ったんだよな?」
「歴史ではそうなっているわね。私も、本読んだ知識しか知らないけど……」
「どんな話なんだ?」
「異世界の勇者が、魔王を倒して世界を救う……何時の時代なのかはわからないけど……ありきたりな英雄譚よ」
ホントにありきたりだな……古い歴史なんてそういうものか。
「あれを見たらどう考えても、この世界を呪っているだが……駄目だな……考えてもさっぱりわからん」
「そうね……」
「あのレイスが勇者だったのか……?」
「わからない……」
「わからないわね」
『わかりませんね……』
「だよなぁ……悪霊だったし……」
そんな会話をしながらふと、レイスが喋っていた言葉を思い出す。
「そう言えば……アリス」
「なに?」
「あのレイスが喋りながら、執拗にアリスを狙っていたが。アリスは勇者なのか?」
「え、違うわよ? 私は勇者なんかじゃないわ」
「うーん……」
アリスからそう聞き、俺がうなっていると。
「この刀のせいで、狙われたんじゃない?」
鞘から刀を出しながら、アリスがそう言った。
横に居たルナが、ビクッと体を震わせていた……
「それのせいなのか……」
「たぶんね」
「まぁ、ここでずっと考えても仕方がない。帰るか……すぐにでも寝たいし……」
「そうね、私もお風呂に入りたいわ」
「風呂か……この世界にきて入ってないな」
「え……」
俺の言葉を聞いて、アリスがドン引きした――
「あ、いや……体はちゃんとお湯で拭いていたぞ! ただ……宿屋の風呂には入りづらくてな……」
この世界にも公衆浴場はあった。
だけど俺は、異世界の風呂には何となく入りづらかったんだ。
いつかは入ろうとしたんだけどな……
「そう……なら私の家に来なさい。入らせてあげるから」
「わ、わかった」
こうして俺達はアリスの家に向かうことにした――




