表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/259

第152話 優しい別れ

レティが俺達とともにこの街を出ることになり。その準備の為に、ルナとアリスが彼女を連れてこの部屋から出て行く。

それを見送りながら一息ついていると、俺の身体に再び変化が起こる。

ピカッと光ったと思ったら。なぜかまた、呪いの鎧に完全武装されてしまったのだ。


「え……なんで……?」


「クロードさん?」


「どうしてまた、鎧を着たのよ」


「いや……俺に言われても……」


俺と一緒に部屋に残っていた、エイダさんとシャルロットが疑問を投げかけてくる。

俺に聞かれてもわかるわけがない。煩わしい鎧から解放されたと思っていたのに、まだ呪いが解けてはいないんだ。


「そのお話、レティシア姫様から聞いたことがあります」


呪いの逸話を二人に話すと。エイダさんから、思いもよらなかった言葉を聞かされた。

レティからたくさん聞かせてもらった物語の中に、騎士と姫の悲恋話があったらしい。

その物語は、屋敷の地下でクレアから教えてもらった話と、微妙に違う部分があった。


国の危機や、騎士と姫がこの街に隠れ住んでいたところは同じだが。

二人は血の繋がった兄妹であり。しかも、恋人同士でもあったそうだ。


「その騎士って、王子だったのですか?」


「いいえ。騎士様の方は、妾腹の子だったようです」


姫は紛うことなき国王と王妃の娘だったそうだが。騎士の方は、女中が産んだ子供だったらしい。

道ならぬ恋をしていた二人だったが。実はそれは、国王にバレていたみたいだ。


聡明で器量良しの姫と、国で一番の実力と騎士道精神にあふれていた騎士。

二人を無理やり引き離すことが出来ずに、国王が取った苦渋の決断。

それは、姫を敵国の謀略から避難させるという名目で、半強制的に国外追放することだった。


「だから……姫の護衛は、その騎士一人しかいなかったのか」


「その通りです」


いくら二人の関係が、対外的に悪かったとしても。自ら女中に手を出したくせに、その対応は酷すぎる。


「姉様。そのお話に出て来る国というのは……もしかして、バルトディアの事ですか?」


「そうです」


「それでは、レティシア姫は……」


「姫様は、その王女様と自分を……重ねていらっしゃるのです」


どういう事? 


俺が疑問に思っていると。エイダさんとシャルロットが、沈痛な面持ちでレティの境遇を教えてくれた。

レティは、ある貴族と王妃の間に生まれた、不義の子らしい。

それを知っているのはバルトディアの一部の王族と、結婚の話を受け入れたフランチェスカ様だけだ。

この二人がその話を知っているのは、レティ本人から聞かされたとの事だった。


「じゃぁ……彼女がこの国にいるのは……」


「国許に置くことが、出来なかったのでしょう」


「国の兵士に連れて帰られたと思ったら、すぐ戻ってきたしね。普通は戻ってこないわよ……」


シャルロットの言う通り。あんな騒ぎが起きたのに、なぜまた彼女がこの国に居るのかが不思議だった。

自国の姫を囮にして逃げた王子に、兵士達は怒っていたし。わざわざこの国までレティを助けに来たくらいだ。

俺達は、もう逢うことが出来ないと思っていたのに。それがあっさりと再会することが出来たのは、これが理由だったのか。


「クロードさん。レティシア姫様のことを、どうかよろしくお願いします。本来なら姫様は、貴方に逢えることを完全に諦めていました」


国の為に懸命に生きることを選んだレティは、俺と再び逢うことを諦めて。国王の命令通りに、この国に嫁ごうとしていた。

ルシオールから出て行く前に、まるで今生の別れの様に振舞っていたのは、それが原因なのだろう。

そしてフランチェスカ様から、俺の所へと行けと話をされたレティは、本当に喜んでいたそうだ。

そんな話を聞かされてしまっては、彼女の事を蔑ろになんて出来ない。


「わかった。任せてくれ」


いろいろと問題が起きてしまうだろうけど、フランチェスカ様も支援してくださる。

最終的に、レティの気持ちがどこへ向かうのかわからないが。それまでは彼女の事を、精一杯護ってみせよう。

そして、エイダさんとシャルロットに約束をして、俺達はここで別れることになった。




◆◇◆◇




「勇者……様の魔法で移動するのですか?」


「あぁ、そうだ」


皆が待っていた屋敷に戻ってきた俺達は、玄関に集まって今後の予定を話し合う。

ルナがシャルロットにお願いした頼みごとは、勇者の魔法で、俺達をルシオールまで運んでもらうことだった。

人数がかなり増えてしまっていたし、乗合馬車で移動すると旅費もかかるので、この提案は非常に助かる。

俺と話をしていたマリアも、魔族の敵でもある勇者に、頼ることはしたくないみたいだったが。クレアの安全の為に反対はしないようだった。


「それはいいんだけど、なんでずっとくっついているの?」


「見ての通りなんだが……」


クレアが質問をしてきたのは、俺とレティがずっとひっついている事についてだった。

今の俺は鎧姿ではない。どういう原理なのかわからないが、レティが俺の傍によってくると、なぜか鎧は腕輪に変形するのだ。


そして彼女が俺の傍から離れたら、再び鎧に完全武装されてしまう。

本当にわけがわからない。レティにそれを教えると、嬉しそうに俺と腕を組む。

断る理由などなかったし。むしろ暑苦しい鎧姿から開放されるので、俺にとっても僥倖なんだ。


「鎧が嫌がって避けている……というわけではないのですね。お姫様の命令にしか、従わないのですか?」


「この国の姫でも試したが、レティの命令しか聞かないみたいだな」


あの後、俺がいくら叫んでも腕輪に変わらなかったし。

試しにシャルロットにも命令してもらったが、何の反応もしなかった。

姫ならば、誰でもいいというわけでもないみたいだ。


「お父様もその腕輪をしていたけど……鎧だったのね、それ」


「そうなのか」


どうやら鎧から腕輪に変形するのは、クレアの父親の魔王鎧が、元々持っている能力らしい。

たしかに、霊の力だけでここまで変形するのはおかしいと思っていたので、それならば納得できる。


「クロードさん。お手紙は預かってきました」


「ありがとうございます、エレンさん」


エレンさんには、宿屋の娘のカリンさんの所に、手紙取りに行ってもらっていた。

俺が長いこと寝ていたので、約束を放置してしまったと話したら。

エレンさん自らが、カリンさんと話をつけに行ってくれたのだ。


「ルインに、あんなに可愛い恋人がいたのですね」


「意外ですか?」


「意外……そうですね。あまり人間のことを、好きではないみたいでしたから」


エルフが人間のことを嫌っているのか、それとも、彼個人が人間のことをあまり好きではないのか。

俺が知っているエルフがエレンさんしかいないので、その辺の理由わよく分からない。


まぁ、約束だけは果たさないとな。


やたら分厚い手紙を受け取りながら、ルインに会ったら必ず渡すと心に決める。

ルインは、ずっとカリンさんの所に行ってないみたいだし、少しくらい文句を言ってもいいだろう。


「そろそろいいか?」


俺達が話をしていると、光とフランチェスカ様が屋敷に入ってくる。

ずいぶんと待たせすぎたようで、光がしびれを切らしたみたいだった。


「すまない、よろしく頼む」


「人数が多いな……少し時間がかかるぞ」


光がそう言って、テレポートをするために魔法の詠唱を開始する。


「これを持っていけ」


「うわっ」


フランチェスカ様が俺に向かって、やたら大きな袋を投げつけてきた。

何が入っているのかと革袋の中を覗いたら、ものすごい数のお金が大量に入っていた。


「よろしいのですか?」


「それだけ人数がいたら、食費も馬鹿にならないだろう。ワタシからオマエへの依頼料だ。受け取っておけ」


「ありがとうございます」


たしかに俺が仕事で稼いでも、全員を養えそうにはないし。ジイさんのヘソクリも、どれだけあるのかわからない。

断る理由など見当たらなかったので、ここは素直に受け取っておくことにした。


「ありがとうございます、姉さん」


「気にするな。オマエも修行を怠るなよ」


「はい!」


アリスとフランチェスカ様が話をしていたら、俺たちの周りに光の粒子みたいな物が集まってくる。

そろそろ勇者の魔法が完成するようだ。ふと、視線をルナの方へと向けると。彼女が何かを言いたげに、フランチェスカ様のことを見ていた。


「ルナ……」


「お……げんきで……」


それに気づいたフランチェスカ様が、ルナの名前を呼んだけれど。

彼女は、途中で言葉を切ったような挨拶をするだけだった。


「もう、母とは呼んでくれないのか?」


「あ……」


その言葉を聞いたルナの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

それを見たフランチェスカ様は、両手を広げて再びルナの名を呼ぶ。


「おかぁさま!」


叫びながら自分の胸元に飛び込んできたルナを、フランチェスカ様が優しく抱きとめる。


「また、いつでも遊びに来い」


「うん……うん……」




血の繋がっていない母娘の優しい別れを見た後、ついに光の魔法が完成する。

こうして俺達は、勇者の魔法で、ラシュベルトからルシオールへと戻ることになった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ