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第129話 ギルドマスター

あぁ……

やっちまった……


床に倒れている男達を見て我に返る。

正直に言えば、最初は俺も楽しんではいたが、別にここまでするつもりはなかった。


二人だけだと思っていたら次々と沸いてくるし、全員襲いかかってくるんだもんな。

このまま立ち去りたいけど、そういうわけにもいかないか。


「やっちゃいましたね。どうしますか、これ」


マリアの言葉を聞きながら、周りを見渡す。

周囲にはたくさんの冒険者連中が野次馬になっていて、俺はめちゃくちゃ目立っていた。

今更だが、こんなに人が多い場所で銃を乱射したのは、とても危険すぎたかもしれない。

修行中にジイさんにも言われたけど。カッとなると、周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。


「これは何の騒ぎですか!」


野次馬の中から、数人の同じ格好をした人達がこちらに駆け寄ってくる。

その中には、先程俺の対応をしてくれた受付のお姉さんも居た。

この人達は、ここのギルドの職員のようだ。


俺を知っている受付のお姉さんが、代表して何があったのかを聞いてくる。

言い逃れをするつもりはなかったし、自分は悪くないので正直に話すことにした。


「そうですか。確かにあの人達が悪いようですが……これはやり過ぎですね」


「すみません」


危険な行為をしたのは事実なので、素直に謝る。


「いえ。あの人達の態度は、目に余るものがありますから……」


ギルドの職員にこんな事を言われるのは、いつも問題を起こしているのかもしれない。

その言葉を聞いたリーダー格の男が汚く罵ってくる。手加減をするべきではなかったか。


「そんな新米の肩を持って、俺達を敵に回してもいいと思っているのか」


「ギルドはあくまで中立です。どちらか一方の味方をしているわけではありません」


威嚇してくる男に、ギルド職員の男性がそう言い放つ。

この男にそんな権力があるようには見えないし、どう見ても小物だ。

それともこの男の後ろには、どこかの貴族でも付いているのだろうか?


「……またフリーダムだってよ」


「例の異世界人が作った組織か……」


「暴れていたのはサゴの奴みたいだな……」


ん?


背後の野次馬の中から、聞き捨てにならない単語が聞こえてくる。


異世界人が作った組織? リーダーはこの男じゃないのか?


フリーダムというのはパーティ名なんかではなく、何かの組織の名前らしい。

そしてどうでもよかったが、この男はサゴという名前みたいだ。


俺が知っている異世界人といえば、和真や光などの勇者達しか思い浮かばない。

和真の方はありえないと思うし、光の方は少ししか話したことがないのでよく分からないが。

こんな馬鹿な奴等を集めて、組織を作るような奴にも見えなかった。


異世界人って、勇者の他にも居るのか?



「騒々しい……」


「っ……」


両手の銃を腰のホルスターに収めようとして、俺のその手が止まる。

ギルドの入口の方から、冷たい声が聞こえてきた。

この場の全てを凍てつかせるような、妖艶な雰囲気を感じさせる女性の声だ。


さっきまでガヤガヤと騒いでいた野次馬たちが、なぜか一斉に黙る。

そして、入口の方から次々と人垣が割れる。

その様子は、まるでモーゼの十戒を見ているようだった。



「何を騒いでいる」


ゆっくりとこちらに歩いてくる女性が喋っているが、誰もそれには答えない。

俺達も言葉を出すことは出来なかったし。ひたすら騒いでいたサゴも、顔を伏せたまま口を噤んでいる。



ただひたすら気圧(けお)される――

その女性から感じる威厳と圧力に、俺の体が萎縮する。

何者なのかはわからない。しかし、自分よりも圧倒的に強い存在だということだけは感じ取れた。


この女……

まさか北の勇者か?

なぜか見覚えがある気がするが……


黒い髪ではなく、長い銀色の髪をしているが。この女が、噂のバケモノ勇者なのだろうか。

年齢的には二十代半ばくらいで、西洋風の甲冑に長めのスカートを穿いていて。

腰に差してある三本の刀と左目の眼帯が、異彩を放っている。

和洋折衷に見えなくもないが、その刀はこの女性にとても良く似合っていた。


それに、なぜだろうか……

この女性を見ていると、初めて会ったはずなのに……どこか懐かしい感じがする――



「ほう……ワタシに険を向けるのか」


おい、ソフィア……


この女から懐かしい雰囲気を感じていると。ソフィアが俺の傍に来て、その女性と対峙する。


『クロード様、いつでも逃げられるようにしていてください』


『まて! 確かに危険な感じはするが。たぶんこちらから手を出さなかったら、何もしてこないと思うぞ』


『しかし……』


ソフィアが心の中で話しかけてくる。彼女が言っていることも分かる。

現に俺は、腰の銃から手が離せないし、相手の女性から目を逸らすことも出来なかった。

まるで、蛇に睨まれた蛙の心境だ。相手はただ俺達を見ているだけなのに、こっちはひたすら身の危険を感じるだけだ。



「いったい何の騒ぎなのよぉ、これはぁ」


「え?」


唐突に、気の抜けるような野太い声が聞こえてくる。

喋り方は女の口調だったが、声は完全に男の声だ。

聞こえてきた方向に視線を向けると。俺の苦手な人種が、自分の体をクネクネとさせながらこっちに歩いてきていた。


「あらん? クロードちゃんじゃない」


「マル……コ……さん?」


「ノンノン。マルコじゃなく、マルちゃんって呼んで、うふ」


「あ、はい……」


親しげに俺の名前を呼んだ人は、昨日出会ったお兄……ではなくお姉さんだった。

この人は盗賊ギルドのメンバーかと思っていたけど。ここの二階から降りてきたので、高ランク冒険者なのだろうか?


「マルコ。オマエの知り合いか?」


「この子が、昨日言ったカッコいい男の子よぉ」


「そうか……」


どうやら二人は知り合いのようで、女性が値踏みするような視線を俺に向けてくる。


「オマエがそう呼ばせようとするとは……かなりお気に入りみたいだな」


「えぇ、とーっても、気に入ってるのよぉ」


う……


マルコさんにウィンクをされて、背筋が寒くなった。

二人の関係は分からないが、とても親しげに話している。

片方は、騎士風の格好をした美しい女性で。

もう片方は、青ヒゲスキンヘッドの巨体だから……違和感が半端ないが。


どういう関係なんだろうな、この二人は。


「それで。いったいなにがあったのかしらぁ?」


「あ、はい。私が説明しますギルドマスター」


なん……だと……?


マルコさんが質問を投げかけると、受付で対応してくれた女性が、とんでもない事を口走る。


マルコさんがギルドマスター? マジか……


シャルロットが信頼できるような口振りだったから、それなりの地位の人かなとは思っていたけど。

さすがに、冒険者ギルドのギルドマスターだった事までは予想できなかった。


「はぁ……またアンタ達なのぉ」


「お、俺達は悪くないぞ。先に手を出したのはその男だ!」


呆れてるマルコさんに向かって、サゴが吠えながら俺を睨む。

こいつはルナの腕を掴んだだけなので、確かに間違いではない。


「どうせ、クロードちゃんのモテっぷりに嫉妬しただけでしょぉ。あたしに負けず劣らずのいい女だものねぇ……この娘達は」


「いや、比べようもない」


「あぁん!?」


「ひっ なんでもないです」


思わず口が滑ってしまったらしいサゴが、マルコさんのひと睨みで竦み上がる。


「あんまりお痛が過ぎると、そのタマ……引っこ抜いちまうぞゴルァ!」


「ひぃぃぃぃ……」


マルコさんの言葉を聞き、俺を含めた男連中が全員震えだす。

彼女? の横に居た女騎士は呆れたような表情をしているが、この恐怖は男にしかわからない。


「あらやだわ……あたしったら、つい男みたいな口調になっちゃった」


もしかして、さっきのが素……なのか?


「そもそもぉ、貴女が放置しすぎたから、こんな連中がのさばっちゃったのでしょぉ?」


「ゴミが」


うわぁ……

ゴミとは酷いな……


女騎士は軽蔑するような視線で、男達を見下す。

マルコさんの言葉ですっかり意気消沈していたサゴは、女騎士のひと言で止めを刺されて、もはや見ていられないような状態だ。

彼女が放置した結果という意味はわからなかったが、少しだけ同情してしまいそうになった。


「だが、そうだな……必要となれば、ゴミ掃除をするのも悪くはない」


ぐ……


女騎士の周りの空気が重くなる。とてつもない重圧だ。

ソフィアも再び体に力を入れているようで。今まで気付かなかったが、マリアもクレアの前に立って、自身の身を挺して護っている様子だった。


「はいはい、ここまでにしましょ。貴方たちも仕事に行きなさい、ほらほら」


自分の手を叩きながらマルコさんがそう言い放つと。野次馬になっていた冒険者連中は、次々と解散していく。

サゴも自分の手下達を引き連れて、まるで蜘蛛の子を散らすようにギルドから出て行った。


「ふぅ……」


女騎士の威圧を感じなくなった俺は、思わず口から息が漏れる。

面と向かって対峙したわけでもないのに、とてつもないプレッシャーだった。


「大変だったわね、クロードちゃん」


「いえ。ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」


「いいのよぉ。どうせ悪いのは、あの子達の方なのだし」


先に手を出したのは自分のほうだし、この街では新参者なので、ある程度は覚悟はしていた。

そんな事にならなかったのは、マルコさんと知り合っていたおかげだ。

先日シャルロットを助けていて、本当に良かった。


まぁ、マルコさんの存在には慣れないけど……


「ルナ。大丈夫か?」


別にひどい目にはあっていなかったが、俺はルナの元へと行き、声をかける。

しかし彼女は呆けたままで、俺に声をかけられたことにも気づいていない様子だった。


「ルナ?」


「どうしたのですか? ルナ」


ソフィアも心配して、彼女に声をかける。


「どこかお怪我をなされたのでしょうか?」


「そんな、大丈夫ですか? ルナ様」


「ぁ……ぁ……」


マリアとクレアの二人もルナに語りかけているが、彼女は震えながら言葉にならない声を出している。

最初は、女騎士に怯えているのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

彼女はずっと女性の事を見ながら、悲しんでいるような、どこか喜んでいるような、そんな複雑な表情をしていた。



「おか……ぁ……さ……ま?」


え……?


ハッキリとは聞こえなかったが、確かにルナはその言葉を言った。

俺は彼女の言葉を聞いて、慌てて女騎士の方へと視線を向ける。


そうか……

誰かに似ていると思ったら……ルナに似ているんだ……


別に顔が似ているというわけではない。

だけど、ルナと同じ銀色の髪をしていて、喋り方も彼女とソックリだった。

懐かしいと思ったのは……ルナの母親の大魔王と、どこか似ているからだ――



「フランちゃん。貴女、こんなに可愛い隠し子が居たの?」


「はて? ワタシは、オマエのような娘を産んだ覚えはないが……」


ちょっとまて……

今、マルコさんなんて言った? フランと呼ばなかったか?

まさかこの女……勇者じゃなくて、女帝かよ!?




女帝とマルコさんが知り合いだったのにも驚いたが、女帝が意外と若かったのにも驚愕する。

しかしそんな事よりも、この街で一番出会いたくなかった人と遭遇してしまい。

俺は、気が気でなくなってしまっていた――

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