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第128話 ギルドで乱闘騒ぎ


ラシュベルト公国で行動を開始してから二日目――

俺達は、冒険者ギルドへと来ていた。

生活費を稼ぐために、仕事を探しに来たのも目的の一つだったが。

ルシオールのギルドからこの街のギルドに委託された、行方不明者事件の詳細を調べるためだ。


ルナとソフィアを連れて、ギルドの中へと入っていく。もちろん白亜も、俺の肩の上に乗っている。

ここに来る時間が早かったので。中にはまだ、たくさんの冒険者達が仕事を受けていた。


「受付……混んでいるな」


「そうですね」


「ん……多すぎ……」


ギルドでの仕事は、クエストボードで受けられるけど。勝手に受注出来るわけでもない。

仕事を始める前に、受付には必ず報告しなければならないので。今みたいに朝早く来てしまうと、かなり込み合ってしまうようだ。


大きな街だから、冒険者が大勢居るのも当然だとは思っていたけど。

ルナの言う通り、人が多すぎるな……


冒険者ギルドの建物の大きさは、外から見た限り、三階建てくらいだった。

ギルドの中も広々としていて。五つ程ある受付には人が列をなしている。

壁際に置いてあるクエストボードも沢山あって、近くにあった案内板を見ると、二階でも仕事を受けられるらしい。


二階は、AからBランクの仕事か……

高ランク冒険者を待たせないための配慮なのかな。


「とりあえず、ボードで仕事を探すか」


「はい」


人が少なめの場所にあるクエストボードに着くと、二人の女性が仕事を探していた。

二人の女の子がボードの前を陣取っているので、必然と彼女達の後ろから、仕事の張り紙を見ることになる。

どうやらここは、低ランクの仕事ばかり張られているようで、あまり人気がないみたいだ。


なんか……

見覚えがある……


「お嬢様。今日は何が食べたいですか?」


「そうねぇ……お肉も食べたいけど、お野菜も食べないといけないわよね」


「では、薬草の採集などはいかがでしょうか。ついでに、食べられる野草も取れますし」


献立で仕事をえらぶのかい!


聞こえてくる声に、心の中でツッコミを入れる。

お金ではなく、食事のメニューで仕事を選んでいる人達など初めて見た。

すごく見覚えがある後ろ姿だったが。二人のやり取りを聞いて、めっちゃ知り合いだったと確信する。

そして……メイドの格好をした女性が振り返り、こちらに気づく。


「おや?」


「よう。お前たちも仕事か?」


メイドのマリアがこちらに気づいたので、挨拶をしたわけなのだが。なぜか彼女は、俺の顔を見てニヤリと笑った。


「な、なんだ?」


「主人よりも先に、従者の方に声をかけるとは……やはり貴方は、私の事がお好きなのですね」


「どうしてそうなる……」


目が合ったから挨拶をしただけで、そんな事は微塵も考えていない。

それに横にいる魔王さんは、張り紙を夢中になって見ていて。俺達には全く気づいていなかった。


「照れなくてもいいですよ」


「照れてねーよ」


「むぅ……」


「ぐふっ」


別にマリアと仲良くしていたわけでもないのに。横に居たルナが、脇腹に肘打ちをしてくる。

嫉妬をして拗ねている彼女の姿は可愛いが、何となく理不尽さを感じてしまう。


ルナが嫉妬する基準が、よくわからないな。


「そんなに拗ねるな。ルナの事を蔑ろにするわけないだろ」


「ん……」


「むむ……クロード様……」


「おぉ、熱い熱い」


ルナの機嫌を取るために、彼女の体を抱き寄せたら。今度はソフィアが少しだけ拗ねていた。

マリアは俺の事をからかって、楽しんでいるようにも見える。そんなやり取りを続けていたら、魔王さんがやっと俺達の事に気づいく。


「あ」


「献立は決まったのか? まお うぷ……」


喋っている途中で、クレアに手で口を押さえつけられる。


「私の名前はクレアよ! わかった?」


わざとではなく、つい口に出してしまっただけで。悪気があったわけではない。

人前で魔王と呼ばれて困る気持ちは、痛いほどよくわかるので。

俺は口を抑えられたまま、首をコクコクとさせて肯定した――




=============




「ルナ様。昨日はとても美味しい手料理をごちそうしていただいて、ありがとうございました」


「気にするな」


「あんなに美味しく作れるなんて、凄いですよねぇ。お嬢様とは大違いです」


「わ、私だって練習すれば……」


「食材がもったいないのでやめてください」


「う……」


「お金がないなら仕方がない」


「失敗作を無駄にしないで食べる……という手もありますが。私は、お嬢様の健康管理に気を使っておりますので、そんな事はさせられません」


「そこまで言われたら、なにも言い返せないわ……」


白亜やソフィアと一緒に、クエストボードを見ながら仕事を選ぶ。

ルナは近くの椅子に座って、クレア達と楽しそうに会話をしていた。


クレアの家に遊びに行って、手料理を振舞っていたのか。

ルナの手料理は食べた事があるが、羨ましい。

しかし……

魔王同士がする会話じゃないよな……



正直、彼女達の会話が気になってしまっていて、クエストボードの内容が頭に入ってこない。

俺は仕事の張り紙を流し見しているだけで、ほとんどソフィアに任せっきりだった。


「クロード様、これなどは如何でしょうか?」


「そうだな」


彼女が選んだ仕事は、伐採場に現れた魔物退治依頼と書かれている。

Eランクの依頼なので、危険ではないし。低ランクの仕事にしては依頼料も悪くはなかった。


「ほうほう。ウッドイーター討伐ですか。偶然にも、私達が受ける仕事も近い場所ですね」


「うお!?」


仕事の張り紙を手にとって見ていると。いつの間にやら俺の横に居たマリアが、その紙を覗き込んでいた。


いつこっちに来たんだよ、全く気配を感じなかったぞ。


「なんですか?」


「いや、一緒に行くのか?」


「だめですかね」


「そんな事は言わないけど」


「あんなに楽しそうなお嬢様を見るのは、本当に久しぶりなのですよ」


マリアは、ルナ達が居る方へと視線を向ける。そこには、楽しそうに笑っているクレアの姿があった。

彼女が魔大陸に居た頃は、魔王という立場だったから。友達なんてなかなか出来なかったのかもしれない。

すごくニコニコとしているクレアとは違い、ルナは相槌を打っているだけだったが。

心なしか彼女の方も、楽しそうにしていた。


二人共立場がよく似ているから、共感できる部分があって、嬉しいのかもな。


「わかった。ルナも楽しそうだし、一緒に行くか」


「ありがとうございます」


白亜をソフィアに渡して、俺はマリアとともに受付の列に並びに行く。

順番待ちをしている間、マリアにまたからかわれるかと思っていたが。

彼女はなぜかそんな事はしてこなくて、俺達は普通に世間話をしていた――



「誰か知り合いでも居なくなったのです?」


受付で報告をした後、皆の所へ戻っていると、マリアが俺に話しかけてくる。

受付の人に、行方不明事件の詳細を聞いていたので、それが気になったのだろう。


「そんなわけでもないんだが。世話になった人が調べているから、俺も手伝っているんだ」


「なるほどです」


「何か知っていることはあるか?」


「いえ、存じませんね。人間が行方不明になろうと、興味はないですから。あ、悪い意味ではないですよ」


知らない人間がいなくなるよりも、自分達の食料が無くなることの方が、彼女達にとっては大問題なんだそうだ。


「切実だな……」


「えぇ、ホントに……」


事件のことに関しても、あまり詳しくは聞けなかった。

俺の後ろで、順番待ちをしている冒険者の事を気にしてしまったのもあったけど。

情報提供は受け付けているが。集めた情報は、簡単には教えられないとのことだった。

捜査を混乱させないための対処だとは思うが。やはり勇者でなければ、関わることが出来ない事件なのかもしれない。


冒険者に協力させて、人海戦術で捜査した方がいいと思うけど。

もしかしたら、焦った犯人が雲隠れしちまう可能性があるからか?

よくわからん…………ん?


「なぁいいだろ、俺達と組もうぜ」


「そうそう。一緒に組んで、損はさせないぞ」


あれは……


「おやまぁ。女の子達が、絡まれておりますね」


ソフィア達の所へと戻っていたら。彼女達が、二人の冒険者の男に絡まれていた。

絡まれている彼女達の中には、自分の主人も居るのに。マリアは、まるで他人事のように言っている。


「なぜそんなに冷静なんだ?」


「そういう貴方こそ、口元がニヤついておりますよ?」


む……

冷静なつもりだったが、表情が顔に出ていたのか。


大切な彼女達が、男に絡まれているのを喜んでいたわけじゃない。

ただ、やはりこんなイベントは起こるのだと。どこかで期待していたのは確かだった。


よくあるだろう? 可愛い女の子達を引き連れてギルドに行くと、嫉妬されて絡まれるとか。

初めてこの世界に来た時も、そんなイベントが起こると思っていたのに。そんな事は全く無かったし。

今起きてることも微妙に違う気がするが、それだけ俺の恋人に魅力があるとわかって、正直にうれしい。


冒険者は善人しか居ないのかと思っていたけど。

まぁ、居るよな……こんな奴等も。


「おい」


「あん? 何だお前?」


「今忙しいんだ、あとにしろあとに」


「俺の恋人に何か用か?」


声をかけた俺の言葉を無視して、ソフィアを口説こうとしている男に、もう一度強気で話しかける。

すると、男は驚いたように目を見開いて、俺と彼女のことを交互に見ていた。


そこまで驚くようなことか?


「冗談だろ。まだガキじゃねぇか」


「ありえねぇですって」


「本当のことですよ。私達は彼の恋人です」


「しかも全員!?」


「まじかよ!?」


ソフィアの言葉を聞いて、男達は再び驚きの声を上げる。

彼女の後ろに居たクレアが、え? 私も? なんて言っていたが気にしない。

俺の横に居たマリアも、私もですか、嬉しいですね。なんて呟いていたが全然気にしない。


「こんな冴えない男に、なぜこれほどの美女たちが……」


「どっかの貴族の金持ちなのかもしれませんぜ……」


コソコソと二人で話しているけど、聞こえているぞ。

俺は貴族じゃないし、金も持っていねぇよ。


「ゴホン。あー……坊主、ここは遊びに来る場所じゃないんだ。お嬢ちゃん達は俺達に任せて、お前はお家に帰りな」


「そうそう。後は俺達にまかせておけ、な」


どういう話し合いでそんな結論になったのか知らないが、ハイそうですかなんて言うわけ無いだろ。

つーかこんな奴に坊主呼びされると、イラッと来るな……


ヘラヘラと笑っている二人を見ていると、ため息が出そうになる。

最初は面白そうなことだと思っていたけど。実際に起きてみると、ただ面倒くさいだけだった。


「じゃぁ行こうぜ、お嬢ちゃん」


「っ……はなせ!」


男の一人がルナの腕を掴み、彼女がそれを嫌がる。

その瞬間、パァンと乾いた音がなり。ルナの腕を掴んでいた男が、仰向けに倒れた。


「アニキ!?」


「あ……」


「はやっ!?」


気づいたら俺は、男の額にゴム弾をぶっ放していた。

クレアとマリアが驚いているが、無理も無い。自分でもビックリするほどの早撃ちだった。


「てめぇ! なにしやがっぱぁぁ」


二発目の銃声が響き渡る。無論撃ったのは俺だ。

無意識に手が出た、反省はしていない。

二人目の男を撃ちぬいた俺の周りに、ガヤガヤと人が集まってくる。


うーん……

教えられなかったけど、やっぱギルド内の揉め事は、ご法度なのか?


「よくもアニキをやってくれたな」


「覚悟はできているんだろうな、小僧!」


え? こいつら仲間なの?


争いを止めに来たのかと思っていたら、どうやらこいつらは全員仲間のようだった。全部で六人くらいはいる。


どっから湧いてきたんだよこいつら……


「俺達が便所に行っている間に、アニキを陥れるとは」


仲良く連れションかよ!

陥れるって、そんな大層な事でもないんだけどな。


「俺達フリーダムに喧嘩を売ったこと、後悔させてやる」


パーティ名なのかそれは? フリーダムなのは、お前らのアニキの頭だよ。


「ぐぅ……くそっ やっちまえ! お前ら!」


額にゴム弾を受けた男が、意識を回復させて大声で叫ぶ。

手加減をしすぎたみたいで、すぐに回復してしまったようだ。


「やれやれ、典型的な小悪党ですね」


「もう、めんどくせぇな」


マリアが呆れているが、自分も同じ気持だった。

俺は心底面倒になり。懐からもう一つを手にとって、二丁の銃を構えて乱射する。

ソフィアは俺が襲われたら、てっきり立ち向かうものだと思っていたけど。この程度なら何もせずに見ているだけだった。




常識的に考えれば、彼女の判断は妥当だろう。ギルドで乱闘騒ぎを起こすのは、バカのやることだ。

俺? もちろん、自分の女に手を出すような真似をされると、プッツンしちゃうバカですよ。

そして、銃を撃ちまくってスッキリとした俺の足元には。死屍累々の六人の男達が転がっていた――

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