第12話 異世界人
「おう! アリス。坊主に嬢ちゃん、こっちだ!」
街に戻って来た俺達はギルドで魔物討伐の報告をした後。ギルバートさんがご飯を奢ってくれるとアリスに言われて、ギルドの近くの酒場に来ていた。
「あ……はい」
「兄さん……もう飲んでるの?」
俺達は呼びかけられて同じ席につく。ギルバートさんは既に沢山お酒を飲んでいた。
「いいじゃないか、仕事上がりの一杯が格別なんだ」
「五杯も飲んでるじゃない、まったく」
「アリスさんお疲れ様」
「うん、ありがとうエレン」
ブツブツ言いながらアリスが女性から飲み物を受け取っている。
ギルバートさんは店員にどんどん注文をしていた。
俺はアリスと話している女性に見とれていた。
おぉ……エルフだ……
その女性はピンク色の髪をハーフアップにしていて、優しそうな顔で微笑んでいる。
エルフだと思ったのは耳が尖っていたからだ。
「初めまして、エレンと申します。よろしくお願いしますね」
「は、はい、ク、クロードです、よろしくおねがいします」
「ルナだ……よろしく」
見とれていると、突然自己紹介をされて少しどもってしまった。
「背中の痛みはもうありませんか?」
「え……」
『この方が、クロード様を治してくださったのですよ』
「坊主の傷を、エレンが治したんだ」
「あ……どうもありがとうございました、もう痛みはないです」
「いえ、それは良かったです」
ソフィアとギルバートさんの言葉を聞いて、俺は慌てて礼をした。
優しそうなお姉さんに見惚れてしまっていたら、ルナとアリスの視線が何となく痛かった。
「まぁ、飲んでいっぱい食え坊主。嬢ちゃんはまだ早いからこっちだ」
「はい」
「ん……」
ギルバートさんは店員が持ってきたお酒は俺に、ルナは果物で出来た飲み物を渡してきた。
「肉ばっかりですね……」
「はは、肉を食わなきゃ強くなれないぞ坊主」
「美味しいですけど……」
「そうだろ、そうだろ」
俺は何の肉かわからないけど旨いステーキ食べ、ルナはローストビーフみたいな肉を食べていた。
「さて……坊主」
「はい?」
勧められた料理を平らげた頃に、急に真面目な顔をしたギルバートさんが声をかけてきた。
「エレンと相談してな、やっぱりちゃんと聞く事にしたんだ」
「何をですか?」
「坊主が何の目的で……この世界に召喚されたのか……だ」
「え……?」
「どういうこと?」
俺が驚いた後、疑問を言葉にしようとしたら何故かアリスがそれを言葉にした。
「あー……隠さなくていい、坊主が異世界人だってのは知っている」
「…………」
『…………』
その言葉に俺は絶句した。ルナとソフィアも何も喋らない。
「坊主に出会った時の状況だが……異世界から来た勇者と同じなんだ」
「勇者……ですか?」
「あぁ、今の時代にも有名な四人の勇者がいる。俺も一人だけだが会った事がある」
居るのか勇者……
それも……四人も。
「その勇者に話を聞いたんだがな……召喚魔法の負荷か何かのせいで、召喚された時怪我をしていたらしい」
「怪我……」
「そしてその勇者は黒い髪に、黒い瞳だった……この世界にも黒い髪は居るが……希少な存在だ。俺も勇者以外ほとんど見たことがない」
黒い髪に黒い瞳の勇者……
だが、俺は勇者じゃないし……この世界に来たのは、召喚じゃなく転生だったはずだ。
それに……
「俺の背中の傷は、盗賊に斬られて出来た傷ですよ?」
「坊主が倒れていた場所に盗賊が死んでいたが……そいつにか?」
「はい、俺が倒しました」
「ふむ……」
ギルバートさんが腕を組み、何か考え事をしている様子だった――
そして……
「だが……洞窟の中にあった牢屋に、召喚魔法陣があったぞ?」
「え……?」
『どういうことですか……』
ソフィアがそう喋るが、むしろ俺がソフィアに聞きたい。
「ほとんど消えかかっていましたが……私が調べたところ、あれは召喚魔法陣でした」
エレンさんがそう補足する。
全然気づかなかった……
「クロ……説明してもいい……」
「ルナ……」
俺が戸惑っていると、今まで黙っていたルナが喋る。
「この世界の……状況が知りたい」
『…………』
そう言えばルナは最初から目的があった。
「わかりました」
「でもここで話すのは……」
そう言いながら俺は周りを見渡す。
周りはガヤガヤ騒いでいて、俺達の話に聞き耳を立てる奴なんて居ないとは思うが……こんな場所で話したくはない。
「わかった。じゃあ坊主が泊まってた宿屋に行くか、坊主の為に既に部屋を予約してある」
「用意がいいですね……」
「おうよ。坊主は金欠そうだったしな」
「ありがとうございます」
俺は苦笑して宿屋へ向かった――
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俺の話を聞いた後、ギルバートさんとアリスとエレンさんがそれぞれ思ったことを口にする。
「魔王に神王に転生者か……ルナの嬢ちゃんが魔王だったとは……」
「全然魔王に見えないわね……」
「邪悪な力は感じられませんが……」
部屋に着いた俺はルナの目的と俺の力の事を伏せて、言える範囲で説明をした。
ちなみにギルバートさん達が盗賊のアジトに居たのは。ある商人の娘が盗賊に攫われていて、それを助けに来ていたらしい。
邪悪な力を感じない魔王って何なんだろうな。
魔王って、凶悪なイメージがあったんだが……
ルナは可愛いけどな……
「坊主の中にいる神王ってのは、この世界の神じゃないのか?」
『はい、違います』
「この世界とは、異なる世界の神様らしいです」
ソフィアの声は俺とルナにしか聞こえないみたいなので、代わりに説明する。
「って事は……魔王もか?」
「そうだ……ワタシはこの世界の魔王ではない」
「ふむ……転生者なんて会ったこともないが……話がぶっ飛びすぎているな」
うん、俺もそう思う。
「ルナの嬢ちゃんの目的は何だ?」
俺を強くする事らしいが……
「その前にワタシも聞きたい。この世界の……魔王の目的についてだ」
「魔王の目的……?」
魔王の目的って普通に人間界を滅ぼすとか、そんなのじゃ無いのか?
ルナは魔王だけど魔王らしくないよな。
魔王なんて見たのはルナが初めてだが……
魔王が魔王の目的を探るとか……
駄目だ頭の中で、魔王を連呼してたら頭が混乱してきた……
「北の魔大陸から魔族が進行して来ていたが……目的は侵略じゃないのか?」
この世界には、魔大陸なんてのがあるのか。
「北の……戦況は……?」
ルナが尋ねる。
「北には聖王都ガラテアがあるからな………そこには光の勇者がいるし聖女も居る。簡単には崩れないだろうな」
光の勇者に聖女か……
恋人同士だったりするのだろうか……
何だこの思考……飲み過ぎたかな。
「では……冥王という言葉は知っているか?」
「めいおう? 何だそれは?」
「知らないのならいい……」
「ふむ……ルナの嬢ちゃんは、この世界を滅ぼしたりはしないのか?」
「そんな事……ワタシは興味ない」
「そうか……よし、わかった」
ギルバートさんは何か納得して、両手を叩いた後――
「坊主、この世界を満喫しろ!」
「へ……?」
「はぁ……」
そんな事を言った。
アリスは大きなため息を吐いた。
「死んで生まれ変わってこの世界に来たのなら……もう坊主はこの世界の住人なんだろ?」
「まぁ……そうなりますかね」
「だったらいいじゃないか! 新しい人生、大いに結構!」
「えっと……いいんですか……いろいろとまだ気になる事、あると思うのですが……」
「気になる事は確かにいっぱいあるが……坊主は悪人には全く見えないからな」
「ルナの嬢ちゃんもこの世界をどうこうするつもり無いみたいだし……二人で新しい世界を存分に楽しめ!」
そんなことを言われて、俺はなんとなく心が軽くなった。
「俺達はこの国の東門付近にある借家に住んでいる……何かあれば何時でも頼ってこい」
ギルバートさんから、住んでいる住所のメモを貰った。
「はい!」
「それじゃまたな!坊主に嬢ちゃん」
「またね」
「それではまた」
三人はそれぞれ挨拶をして、帰っていった。
「いい人達だったな」
「ん……」
『そうですね、後半は私の存在を忘れてたみたいですが……』
「う……たしかに」
「見えないから仕方がない」
『それはそうですけど……』
ソフィアはルナの言葉に納得がいかないようだった――




