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第107話 初デート

「よし、ここまでにするか。ワシも腹減ったわい」


早朝から稽古をつけてもらっていた俺は。ジイさんの言葉で、朝の修行を切り上げる。

朝と昼にジイさんに鍛えてもらい。夜はルナと一緒に、魔力を高める訓練をする毎日を送っていた。


「腹減ったって……」


このじじぃ本当に死んでるのか? 幽霊のくせに、妙に生き生きとしているぞ……


俺が実体化させたわけなんだが、ジイさんは食事を摂る上に睡眠もする。もはや、何者なのかわからない存在になっていた。



=============



「おはよう、クロード。朝御飯できてるわよ」


「あぁ、おはよう」


朝風呂で汗を流してリビングに来ると、アリスが朝食を運びながら挨拶をしてきた。


「相変わらず、アリスちゃんの手料理はうまいのぅ」


「あ、ありがとうございます……」


ジイさんが俺より先に来ていて、アリスに作って貰った朝飯を食べていた。

そんなジイさんを見て、呆れながら席につくと。アリスが俺の朝食持ってきて、そっと耳打ちをしてくる。


「ねぇ……クロード」


「なんだ?」


「お祖父様の体、いったいどうなっているの?」


「う……うーん……俺にも、よくわからないんだ……」


「そう……」


確かに幽霊だったはずだが、本当によくわからなかった。

それから朝食を食べていると、ギルさんが二階から降りてくる。



「ギルよ、朝の稽古はどうした? 最近たるんどるんじゃないのかの?」


「お、おう。最近忙しくてな……てか、飯食っているのかよジイさん」


「なんじゃい。ワシが食べてはいかんのか?」


「いや……そういうわけじゃないんだが……」


死んでいるはずの祖父が食事をしている姿を見て、ギルさんは複雑な表情をしている。



「おはようございます」


エレンさんも起きてきて、挨拶をしながらリビングに入ってきたが。やはりジイさんの姿を見て、驚きの表情になっていた。


「坊主は、これからどうするんだ?」


ギルさんが食事をしながら、俺の今後の事を聞いてくる。


「そうですね……しばらくお祖父さんに、俺を鍛えてもらいたいのですが。弱いままじゃ、いられないので……」


「ほう。随分とやる気があるじゃないか」


やる気もあるし、自分の魔力も高くなっているが、いまいち実力がついてこない。俺はここ最近、複雑なジレンマに陥っていた。



「ギルよ」


「あん?」


「お主。ずっと大剣を使って、ボウズを鍛えておらなんだか?」


俺とギルさんの会話を聞いていたジイさんが、突然そんなことを言い始める。

ギルさんが、何で知っているんだ? というと。ジイさんは、やはりのぅ――と言って、何かを納得をしていた。


「それがどうしたんだ?」


「ボウズに、変な癖がついているんじゃ」


俺の変な癖? なんだろうかそれは。


ジイさんの話によると。俺の戦い方が、常に相手との間合いを多く取っていて。反応も遅れてるという。

俺は魔法も銃も使っているので、距離が離れていても違和感はなかったが。俺が思っていた事と、ジイさんの考えが微妙に違うらしい。


「ボウズは、大剣の戦い方に慣れてしまっておるようじゃから。ワシが短い獲物で斬りかかっても、いちいち大げさに避けるんじゃ」


最小限の動きで躱せる様な攻撃でも、俺は無駄な避け方をしているせいで、反撃をする機会も自ら消してしまっているそうだ。



「げ……す、すまん。坊主」


「いえ。ギルさんに鍛えてもらったおかげで、危ない時も、なんとか戦う事ができましたから」


名も知らない魔導士の時は、苦戦していたが。和真や黄竜との戦いの時は、相手が近接戦闘をしかけてきたので、張り合うことができていた。

この二つの戦いがなんとかなっていたのは、ギルさんに鍛えてもらった経験が生きていたからだと思う。


「修正できないか? ジイさん」


「もうしておる。ワシに任せとけ」


「そ、そうか。頼んだ」


ジイさんのその言葉を聞き。俺の事なのに、まるで自分の事の様に、ギルさんが安堵していた。

それから、アリスやエレンさんも交えて、しばらく雑談を交えながら食事をする。


どうやらギルさんは数日後に、また獣王国に行くそうだ。

やばそうな雰囲気になっている、イルオーネに向かうギルさんの事が心配だったが。

あちらの国に行っても、すぐに恋人のヘレンさんと、ダマ爺さんを連れてバルトディアに戻るらしいので。俺は一先ず安心した。



「皆様、おはようございます」


「おはよー」


ソフィアとトリアナが起きてきて、俺たちに挨拶をしてくる。


「おはよう。ルナ達はまだ寝ているのか?」


「起きてきてるよ」


トリアナの返事を聞き、彼女たちの後ろを見てみると。欠伸をしながら歩いてくるルナと、白亜を抱っこしながら、こっちに向かってくるリアの姿があった。


「おはようございます、クロさま」


「おはようなのじゃ」


「はふ……おはやう……」


リアと白亜は、ちゃんと挨拶を出来ていたが。ルナは低血圧なのか、フラフラしながら言葉が変になっていた。


「大丈夫か? ルナ」


「ん……んー……」


「クロード様……」


「むむ……」


目を擦りながら席についているルナの心配をしていたら。ソフィアが俺の名前を呼びながら、そっと俺に寄り添ってくる。

俺は食事を終えていたので席を立とうとしていたが、彼女が体をピタリとくっつけて来たのでそのまま座っていた。

そんな俺たちの態度を見ていたアリスが、怪しむような目つきを向けてきている。


「あやしい……クロード。ソフィアと、何かあったの?」


「なな何もない……ぞ?」


ここ最近の俺は、ソフィアと毎日一緒に寝ているが。それを知っている者は少なかった。

他言するような事でもないし、アリスも気づいていなかったが。日に日にソフィアの俺に対する態度が、積極的になってきているので。流石におかしいと思われてしまう。


「明らかに変じゃない……」


「なんじゃボウズ、修羅場かの?」


「よ、よし。ちょっと庭で素振りでもしてくる」


ジイさんが楽しそうに笑いながらこちらを見ているなか、ギルさんが逃げるようにリビングから出て行った。

アリスが、俺とソフィアに色々と追及してくるが。俺は言い訳も思い浮かばずに、無口になってしまう。ソフィアは俺の横で、上機嫌にニコニコとしていた。


「クロさま……」


「ふむ……」


リアとルナが座ってる方に視線を向けたら。リアはオロオロとしていて、ルナは何かを考えているような仕草をしている。

そんな二人の姿を見て、いい訳ではないが、俺は話しを変える話題を思いついた。


「そ、そういえば。早くリアを故郷に、連れて行きたかったんだけどな」


俺が旅に出た目的が、リアを母親の下へと還す事だったのに。

いつまで経っても、それが達成できずに遠回りをして。挙句の果てに、今は正反対の大陸に来てしまっている。


「リア。本当にすまない……」


「だいじょうぶです。おかあさんが、クロさまと一緒にいてもいいと言ってくれました」


「は?」


まだ故郷に連れて行っていないのに、母親が許可?


リアの意外な言葉に、俺はわけがわからないでいた。


「あ! そういえば、報告をするのをわすれていたわ」


「報告?」


「一ヶ月くらい前、バーンシュタインの家に、リアのお母さんが尋ねてきたの」


「なんだって……」


アリスに話を聞くと、俺が居なくなっている間に。リアの所に母親が来ていたらしい。

最初はリアを取り返しに来たのかと思っていたそうだが、彼女とその母親がしばらく二人きりで話をしたあと。

俺に、娘の事をよろしくお願いしますと伝えてくれと、言ったそうだった。

会った事もない俺に、大事な娘を預けてもいいのかと思ったが。どうやらリアが大丈夫だと言ったらしくて、その娘の言葉を信用したらしい。


「けど……竜人って、人間を恐れてたりしているんじゃないのか?」


「そうなんだけど……」


娘を自分の手元に置いていたほうが、いいんじゃないかとアリスに聞いたら。

なにやらリアの故郷が今は大変らしくて、こっちに居たほうが安全だと言われたみたいだった。


「そうか……」


「詳しくは、教えてくれなかったのだけどね」


「うーん……旅の目的が、無くなっちまったな……」


「アルお兄さまが、顔を出してくれと言っていたわよ」


アルベルトさんや、事件を追っていたエドワードさんが、俺にもう一度会いたいとアリスに言ったらしい。

突然居なくなってしまったので、また会いに行くのはいいが。俺は、まだしばらくこの街にいる事を提案した。

俺たちの話をずっと黙って聞いていたジイさんが、若干嬉しそうな顔をしていた――



=============



「クロ」


「ん? どうした? ルナ」


朝食後に解散したあと、俺が自分の部屋で一休みしていると。ルナが一人で俺の所へとやって来た。

さっきはずっと何かを考えているようだったので、彼女の事は気になっていた。


「デートにいくよ」


「はぁ?」


ルナのひと言に素っ頓狂な声が出てしまう。


「俺はこのあと、ジイさんと修行するんだが……」


「いいから、さっさと準備する」


「わ、わかったよ」


有無を言わさない彼女の気迫に押されてしまい、俺は仕方なく出かける準備をする。

そして。ルナが、これを着てと俺に服を渡してきたので、手渡された服に着替える。


「屋敷の入口に行ってて」


そんな所で待ち合わせ?

わざわざそんな事しないで、一緒に出かければいいじゃないか……


そう言い放って部屋から出て行くルナを見ながら、俺はそんな事を思っていた――



「入り口ってここでいいんだよな? それとも、屋敷の外の門か?」


屋敷の玄関にたどり着いた俺は、一人自問自答する。

ルナは先に来ているはずだったが、なぜか彼女の姿は見えない。

玄関の扉を開けて外の方も見てみたが、やはり門の所にも誰も居なかった。


「いつ出かけるんだ?」


「お、お待たせ……」


「え?」


屋敷の外を見ながら首を傾げていると、不意に背後から声をかけられる。

振り返るとそこには。ミニスカートの着物を着た、とんでもなくカワイイ格好をしたアリスが立っていた。


「アリス?」


「へ……変じゃない……かしら?」


「いや……す、凄く似合ってる。可愛いぞ」


「あ、ありがとう……」


なんだこれ……

どういうことなの……


「クロードも、その服を着てくれてるのね」


「え……?」


「ソフィアと二人で選んだのだけど、とてもカッコいいわよ」


あぁ……

この服、二人が誘拐される前に、俺に買った服なのか。


「それじゃ、行きましょうか」


「あ、あぁ。そうだな」




ルナを待っていたはずなのに、俺はアリスとデートに出かける事になった。

どうやらまたルナに、一計を講じられたみたいだ。

別にそれはイヤではなかったし、アリスとはこれが初デートなので。

俺は素直に、今を楽しむ事にした――

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