逆ハーマジ勘弁にかかわる物語。~残念ながらリロイは今日もシスコンです。~
従者の観察日記。
○月×日
この頃、私が仕える主のリロイ様がおかしい。
ソワソワしているというか落ち着きがない。
あまりにもおかしいので、聞いてみると姉君の誕生日プレゼントをどうしょうかという悩みだった。
なんだいつもの事か。
ご本人に自覚はないがシスコンは今日も平常運転だ。
○月△日
姉君の誕生日にアリシャ商会にむかうリロイ様のお供をする。
義兄のヴェスト殿ののろけに歯ぎしりしながらも、ちゃっかり姉君の隣の席で食事をするリロイ様は筋金入りだと感じる。
私は姉君のお子様達にやたらめったらなつかれ相手をするうちすっかり疲れてしまった。
そんな私を姉君がたいそう気遣い、手厚く労ってくれた。二人の嫉妬を一身に受けるが、これが人徳と言うもの。
とりあえず、リロイ様の学校での評判を話して、気をそらすことに成功する。
帰り際、今度時々子ども達のお守りをしてくれないかとヴェスト殿に打診されるが、リロイ様の世話で忙しいので断っておいた。
なんだかんだといって姉君とイチャイチャしたいだけだろうと思う。
なんだか腹が立つので絶対引き受けてはやらない。
○月□日
部屋になかなか戻らないリロイ様を迎えにいくとボンヤリ花を見ていた。
不思議な少女にあったという。
もしや恋ですか!
ついに姉君から卒業ですか!!
と、興奮したものの『笑った顔が、姉上のような優しさに包まれていた。』と言うのでガッカリ。
それ以外に見るとこがあるだろう。
リロイ様自身は美形なのに、美醜に頓着しない。むしろ固執する人間を嫌ってさえいる。
それはご自分の家族が、大好きな姉君を疎んじ、追い出したからだ。
そこそこ有能な公爵夫妻であるのに自分達が苦手だった人物に似てるからと、そんな理由で嫌うのはどうかと思う。
リロイ様は知らぬことだが、あのまま姉君が残れば次々と奥方が不審死すると評判の男爵家に嫁がされる所であった。
そこそこの金額と共に絶縁を突きつけた姉君の手腕は中々のものであった。
しかしながらその金の為に今度はヴェスト殿に捕まるとはままならないものだ。
まぁ、現在幸せそうで何よりである。
姉君が幸せだとリロイ様も結果的には幸せなのだ。
ちょろい方である。
○月◇日
久々に公爵夫妻から呼び出しを受ける。
最近王弟殿下が国許に戻り国王陛下の補佐を始めたという。
そしてその娘が学園に入ったはずだが、どのようなものかと尋ねられた。
生徒会の面々が中心となり面倒をみて親しく交流していると伝えた。
現実としては問題行動が多く生徒会が仲裁に入ったり、尻拭いしているというものだがかまわないだろう。
公爵夫妻は自分達以上のものをリロイ様に要求するくせに誉めはしない。
できて当然とするくせに、妹様には甘い。
せめて姉君の優しさや機転や発想力、リロイ様の優秀さの欠片でも入っていれば、どこに出しても恥ずかしくない令嬢が生まれたであろうに。
帰り際に、更に勉学に励み王太子殿下の助力と成り公爵家に相応しい人間であるように言付かる。
私はリロイ様が好きなケーキを買って帰り、本日の出来事や愚痴を聞いてあげた。
例の王弟殿下の娘に振り回されるが、どうしても気になって仕方がないというリロイ様の言葉に、
姉君卒業と今度こそ思うが
『彼女の話を聞いて姉上にも同じことを言われたのを思い出した…姉上のように彼女も私をみてくれるのだな…』
の一言に、ガッカリする。
リロイ様、姉君のことも考える余裕があるってことは結局重度のシスコンってことなんですよ…
そう言いたかったが、無自覚シスコン野郎には効きはしないので黙っておく。
夜布団をかけてあげながら、公爵家らしくがんばれってご両親から言伝てもらいましたよ、と軽めに報告する。
リロイ様は一瞬能面のような顔になった。
しかし一瞬だけで、ふわりと笑って私に労いの言葉をかけお休みになられる。
ランプの火を消しながら、公爵夫妻と妹様が頭痛で苦しみますよう願っておく。
○月*日
リロイ様がこの頃おかしい。
物思いに耽り、溜め息をつく。顔がいいのでとても絵になる。
むしゃくしゃしたので、笑いを通り越して泣くまでくすぐってやった。
スッキリした、私が。
○月☆日
ここ連日リロイ様の帰りが遅い。特寮の夕食にも間に合わず私が作る夜食を提供する。
生徒会が忙しいのだろうか。
□月○日
もう半月ほど私の夜食を食べさせる生活が続いている。
ここ数日リロイ様の目の下のくまがひどい。
何を聞いても大丈夫だ、としかおっしゃらない。
大丈夫じゃない。
□月◇日
リロイ様が倒れたと聞き駆けつける。
美しい少女に『公爵家の重圧を背負わせ過ぎないで!リロイ君はこんなに努力してるのに!誰もほめてあげないなんてかわいそう!』とわめかれる。
王太子殿下をはじめ生徒会のお仲間がいたが、リロイ様を心配するどころか、わめく少女に心配されることを羨ましがっているようだった。
胸糞が悪い。
リロイ様は熱を出してうなされている。
医師によれば過労からくるものだそうだ。
『姉上』と空に手を伸ばす、その、リロイ様の手を握るしかできない私は、わたしは、俺はなんて無力なのだろう。
□月×日
翌朝になり少し熱が下がり学園に行くと言うリロイ様を昏倒させ、私が学園に向かい事情を聴く。
あの少女の言うことは頭に来たが、リロイ様が我慢しやすい方なのは間違いないし、その結果が過労で倒れる事に繋がってしまったのだろう。
これまで私はリロイ様が引くくらい出来たことに対して誉めたり、頑張る姿勢をたたえたりとご両親の分、屋敷の皆の分、僭越ながら姉君の分までやっていると思っていたが足りなかったのかもしれない。
震えるほど誉めてやろうと意気込んで話を聞くと、とんでもない事が起きていた。
王太子殿下をはじめ、学園の主要な役職につく人間が仕事をしなくなったと。
それをリロイ様がカバーしていたと。
怒りで目の前が真っ白になった。
それでいて、昨日のような態度をとるのかと。
どうやって特寮に戻ったかは覚えていない。
しばらくボンヤリはしていたと思う。
気付けば夕方で、寝室を覗くと、昼用に作りおきしておいた食事が無くなっており、リロイ様はすやすや眠っていた。
特寮のシェフに病人食を作ってもらい、私が食べさせてあげようとすると全力で拒否される。
恥ずかしがるほどには成長したのが嬉しくも悲しくもある。
□月*日
あの少女のせいで学園がおかしくなっている事に危機感を覚える。
回復したリロイ様にどんな事態に陥っているか、客観的に、冷静に、現状説明と手製の人間関係の相関図を用いて説明する。
リロイ様は、しばらく頭を抱えたのち、私に協力を求めてきた。なんでも抱えがちなリロイ様が助けを求めてくる事態に気を引き締めつつも、頼られる嬉しさに心がおどる。
学園に向かわれる前、『お前、もう絵は書くな』と何故か厳命をされた。
何故だろう。
□月□日
リロイ様の人徳と私の活躍により、リロイ様の協力者が増えつつある。
女性の協力者が多いので、これはハーレム形成か、形成したらドロップキックのち鼻フックと心に決める。
しかしながら、ときめきかけた女性達の前で、ぶれることないシスコンっぷりを発揮するリロイ様。
無自覚ほど恐ろしいものはない。
□月**日
ついに!
リロイ様にシスコン宣告がされた!!!
王太子殿下の婚約者のお嬢様は勇者である。
勇者に幸あれ!
□月☆日
帰りが遅いので迎えにいくと誰もいない生徒会室で、書類に囲まれ疲れて寝ていた。
久々にリロイ様をおぶい特寮に帰る。
前に過労で倒れたときより軽い。
気付けなかった自分の不甲斐なさが憎い。
□月×○日
リリカ被害者の会の皆様に頭を下げ、また過労でリロイ様が倒れかねないと話し、できるだけご助力してくださいと頼んで回る。
なかには引き気味の方もいたが、私の主にはそれだけの価値がある。
それだけは自信をもって言える。
△月○日
リロイ様に頼み込み、休暇をもらう。
私がここ最近休まないのを心配されていたようだ。リロイ様が忙しいときに休むのは本意ではないが致し方がない。
姉君の元に向かう。
白い薔薇の花束を受け取り、公爵家の墓に供えた。
△月**日
リロイ様が学園に行っている間にヴェスト殿に呼び出しを受ける。
わざわざ学園のカフェテリアに呼ばれるとは。
ここに来るのは在学中以来だ。
ヴェスト殿も私も学園の卒業生なのだ。
先日の花束の件を聞かれる。
姉君が話されないことを私が言うわけにはいかない。
しかしながら話される日は近いだろうと告げると、その通じあっている感がムカつくと言われる。
姉君が関わると驚くほど心が狭い男だ。
△月×○日
生徒会の面々と学園祭の実行委員会の一部が委任状を受けた代理人になることで少々の混乱は生じたが問題なく、更によくなり機能し始める。
リロイ様の体調もよい。
喜ばしいことだ。
△月☆日
いきなりあの少女が来てリロイ様を連れ出そうとわめく。
話す言葉が同じなのにもかかわらず話が通じない。
リロイ様が仕事があるといっても、頑張りすぎないで、と言って心配しているそぶりばかり。
お前のせいで、と私が言いそうになるが王太子殿下の元婚約者がとりなしてくださる。
仕方がないとはいえ、少女と王太子殿下のためにリロイ様が努力なさっていると言われるのは腹が立ってしかたがない。
少女か去ったあと、その場にいた全員に『リロイ様が姉上のために頑張るシスコンなのは分かっている』と慰められる。
皆様、わかってらっしゃる。(笑)
△月×日
アリシャ商会におじゃまする。
クーヘン商会のデザイナーと生徒会代理の方とコラボ商品の話し合いをする為だ。
リロイ様は美容用品とは無縁の生活を送っているのでかやの外で甥姪のお子様達の相手をしている。
無邪気に笑ってお子様達と戯れるリロイ様はかつて姉君といた頃のようで微笑ましい。
本当に笑うと幼く見えるのも可愛いと思う。
元王太子殿下の婚約者様がその様子を眺めていたので、リロイ様は可愛いでしょう、と言うと『リロイバカですわね』と返される。
☆月○日
妹様が乗り込んでくる。
学園祭のチケットをご自分の友達の令嬢に配りたいらしい。
チケットを20枚よこせという。
生徒一人につきチケットは10枚で、生徒会や実行委員会ですら20枚だ。
リロイ様は今回生徒会で企画する催し物の関係で手持ちのチケットは配ったのでご両親と妹様の分のチケットのみしか手配できないと随分前に手紙で知らせていたはずだ。
リロイ様と私が丁寧に説明するが妹様は癇癪を起こしてしまった。
紅茶のカップを投げつけたのでリロイ様を庇うとカップの破片でこめかみを切る。
けっこうな血が出たが、さほど傷は深くないと思われる。とりあえずカップの破片の片付けを始める。
妹様は血だらけの私を見て半狂乱だ。
リロイ様は半泣きである。
騒ぎを聞き付けた生徒会代理の方々にリロイ様と共に医務室に送られる。
リロイ様の方が倒れそうなほど顔色が悪く、医師にそちらを先に見てほしいと言うと二人に怒られた。
☆月☆日
姉君がお見舞いと試供品を持って訪ねてくる。
大好きな姉君が来ていると言うのに、私ばかり気遣うリロイ様。
大丈夫と言っても安心してくださらない。
☆月×日
公爵夫妻に呼び出しを受ける。
妹様のことかと思い、気合いを入れて屋敷に向かう。
私の姿を見て気まずそうにしたが、なんとかチケットを用立てられないかと言ってくる。
無理に決まっているだろう。と思うが顔には出さず、王太子殿下の元婚約者様になんとか頼み込んであてがないか聞いてみますと答える。
同じ公爵家にといえどそちらの方が格上に当たるので、家の恥を伝えるのはちょっとどうかと私は思うが妹様が可愛くて仕方がない夫妻は是非そうしてくれと言ってくる。
こいつら大丈夫だろうか?
☆☆☆☆☆☆
コンコンと扉をノックする音が聞こえる。
許可を出すと、幼い黒髪のお子様が入ってくる。
「じいや、なに読んでるの?」
「昔の日記ですよ。」
棚の奥にしまいこむと、お子様の手を取る。
すぐに興味をなくしたのか、私の手を引きながら早く早くとせかす。
あの後、我が主のリロイ様には怒濤の展開が待ち受けていたなぁと思い出し笑う。
私も若く、色々と至らなかったが精一杯のことはしてきたと思う。
それが今の幸福へと繋がったのだから、あの時の苦労も悲しみも、報われているといえる。
戻ったらまた続きを読んでみようか。
「じいや!
今日はね、おばさまも来てるんだよ!」
「それはそれはリロイ様がお慶びになりますね。」
幸せそうに姉君と話すリロイ様とあきれ顔の奥様が目に浮かぶのだった。
リロイ君のお家は歪んでいるけれどまっとうに育ったのは姉と従者のおかげです。
中途半端感がありますが、別短編の都合もありここまでとします。
読んでくださってありがとうございます。