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大丈夫と笑う君

思いのほか桜が早く散って、4月があわただしく過ぎる。

生活のペースが出来かけてきたと思ったら、ゴールデンウィークが目前だった。

自宅通学とは言っても2時間かかるから、朝早くで夜遅く。ちょっとと言うか、かなりハードな生活。

「啓樹、ゴールデンウィークの予定は?」

ソファに寝そべってテレビを見ていると、母が聞いてきた。

「とくには、なんも」

「そう、私とお父さんとお姉ちゃんはおばあちゃん家に行くけど、あんたどうする?」

「う~ん」

おばーちゃん家か。年上の従姉妹ばっかで、居心地がな~。

「やめとく。入学祝のお礼はちゃんと言ったし、通学疲れ、家で休んでおく」

「若いのに、おっさんくさいこと。ま、いいわ。忙しすぎると体調崩すのは昔からだものね」

翌日、昼前に両親と姉は、車で出て行った。

とはいっても、見送ったわけじゃなくて、ベッドで車が出て行く音を聞いたんだけど。

枕元の携帯で時間を確かめる。

12時に少し早い。ちょっと腹減ったかも。

リビングに行くとメモ書きが置いてあった。

二泊三日か。

冷蔵庫を開けてから、冷凍庫を開けた。

とりあえず、材料はある。ここからが問題だ。

これをどう料理すればいいんんだ?

食事というワードから祐輔が浮かぶ。

あいつ、何してんだろ?予備校ってことないか。3年とは言っても、まだ部活あるはずだし。

結局、お茶漬けでお昼をすませた。

そのまま、今度はソファで横になり惰眠をむさぼることにして、その前に、夕飯をどうしようかと思いながら祐輔にメールを打った。と思っていた。

チャイムの音が聞こえる。

ずいぶん何回も押してるな~ と思っているうちに、それが自分の家だと気が付いて、寝ぼけた頭で玄関ドアを開けた。

門扉の前に立っていたのは祐輔で、ひどく慌てた顔をしていた。

「ヒロ、大丈夫か?」

「え?何が?」

おれの答えに祐輔は、大きな息を吐いた。

「ビックリさせるようなメール、してこないでほしい」

携帯画面にあったのは[来てし]

「ごめん。半分寝てたから」

これじゃ、さすがに意味分かんねー。

「何にもないなら、帰る」

「や、待て待て。何もないんじゃなくて、あり過ぎる」

帰ろうとした祐輔のワイシャツを掴み、家にあげて冷蔵庫の前に連れて行く。

「家族が出かけて、ご飯がさ」

冷蔵庫を開けて中を確かめた祐輔は、ドアを閉めるとおれに向きなおった。

「米は?」

「え、と」

返事にあきれて、祐輔はキッチンカウンターを調べ始めた。

「勝手に開けるけど文句言うなよ」

「言わない。お願いします」

両手を合わせて頭を下げる。

「しょうがないな。手伝ってくれるんなら作るけど、簡単なものでいいよな?」

「何でもする。茶碗出したり、箸揃えたり、テーブル拭いたり」

「ヒロ、もしかして料理全くできないの?」

信じられないという顔で祐輔がおれを見る。

「あ~、う~ん。全くと言うか、包丁と気が合わないというか」

「教えるから、ちょっとやってみようよ」

「う、ん」

生返事なのは、過去の失敗の数々が頭をよぎったから。

で、玉ねぎを半分に切ろうとしたおれを見て真っ青になった祐輔に、包丁を取り上げられた。

「もう二度と包丁持ってて言わない。ヒロのセンスはよく分かった」

どうも、たまねぎの側面を手で持ち支えて切ろうとしたのが良くなかったの、かな?

献立は肉じゃが、菜の花と油揚げの辛し和え、それと豆腐とわかめとねぎの味噌汁に決定。

手際よく作っていく祐輔の傍で、手伝っている気分を味わいながら、ゆっくり会える嬉しさをかみしめたりして。

「ヒロ、なんかいいことあった?」

煮物の味見をしながら、こちらを見もせずに祐輔が言う。

「いや、べつに」

言うと、ちらっとこっちを見て

「そっか、そんなにオレと一緒にいるのが嬉しいんだ。やっぱ、ヒロ可愛いな」

「恥ずかしいこと言うな」

「ほんとのことだし。よし、できた」

部活や先生方のことや、たわいのないことを話ながら、こうして祐輔とゆっくり会えたのはどれくらい振りなんだろう。

食器の片づけが終わって、時計を見ると10時近い。

「じゃ、そろそろ帰る」

「え、あ、そうだね」

泊まっていけと言いたい。けど、それ言ったら多分、そういうことになるんだよ・な。家には誰もいないんだし。

玄関に向かう背中に声をかけようとしたら、祐輔が振り向いた。

「オレ、明日も部活で早いんだ」

「う・ん」

「だから、泊まっていけない」

見透かされた?うわわ、おれ、顔に出てた?恥ずかしいーー

「あ、うん。いや、それは」

「ごめん、ヒロ」

顔が近づいてきたから目を瞑ったのに、唇が触れたのは頬。

あれ?なんで、頬?

「ヒロ、物足りないって顔してる」

近くに見える祐輔の顔と声が笑っている。

なんか、ムカつく。

「笑いながら言うな」

肩を押し戻そうとしたら、その手を取られてそのまま祐輔に抱き寄せられ、耳元に祐輔の声。

「物足りないのはオレも」

「じゃ、なんで」

胸に手をついて顔を上げると、祐輔の真剣な顔が間近にあった。

「ここまで誘われてんのに、断るってかなり辛い。でもさ、ヒロの入学式の写メ見たら、オレがあんまり子供っぽ過ぎるなって」

「どういうこと?」

「うん。ヒロにはヒロの世界があって、オレはまだまだ傍に行けないって思った。たった二日の年の差なのに、その差の大きさに愕然としたっていうか、情けなくなったっていうか」

さっきまでの楽しい雰囲気じゃなくなった祐輔の声が、胸に響く。

「ちゃんと自分の将来のこと考えなくちゃいけないって、本気で思った。ヒロに釣り合うような人になりたい。それに」

「それに、なんだよ」

なんか、声が柔らかくなった?

「親からもらってる小遣いでゴムとか買のもどうかと思って」

「なんで、そこで、ソレが出てくるんだよ」

「だって、するとき必要じゃん」

どこまで本気なんだか、分かんなくなる。でも、祐輔の言いたいことは分かる。けど、ということは、祐輔が仕事するようになるまで、もしくは、おれが仕事するようになるまでお預けってことなのか?それはかなり、なんというか、辛いんではないかと。

「大丈夫、そんなに待たせないから。進路決まったら、バイト始めるし、そしたら小遣いじゃないし」

笑顔で言ってるその内容が、ちょっとどうかと思うけど。

「わかった」

ほんの少し会わない間に、祐輔はいろいろ考えてたんだ。おれだけが能天気なこと考えてたなんて反省する。

「おれも、祐輔に釣り合うような相手でいたいから頑張る」

抱き寄せられてる腕の中で言うには、ちょっと説得力に欠けるような気もするけど。

「ヒロ、ほんと可愛い。待ったかいがあるって、絶対思わせてやるから」

そう言って、笑顔を見せて祐輔は帰って行った。

焦ることないよな。ゆっくり、でも一歩一歩しっかりと踏みしめて進んでいこう。

祐輔とおれのこの先へ。

可愛いお話を書きたくて、こういう結末に落ち着きました。

大学生になったヒロと進路が決まった祐輔の話は、またの機会に。

その時は、もうちょっと、イロイロ進んでいるかもしれませんが。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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