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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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同僚にご報告

結婚の報告をすっかり忘れていた三成さんです。

秀吉さんは挨拶に来たため知っていましたが、他の面々にも言ってるものだと思っていました。

そのため怒られますが、なぜ怒られているのかはわかってません。

ぎゃあぎゃあ騒いでいる彼らは他の武将たちから「あいつら仲いいな~」とか「今日も秀吉殿の部隊は平和だな~」とか思われていることでしょう。

中国征伐と後に称される遠征。

それに参加していた吉継たちは最近三成の様子がおかしいことに気付いていた。


「おい、最近文をやり取りしてるようだが女でもできたか?」


にやにやとからかうつもり満載で清正が問いかけた。


三成の手には先ほど届いた文が握られている。

彼らの上司である秀吉の手にも彼の妻であるおねからの文があるからその発想が出てきたのも不思議ではない。


けれどそれを聞いていた吉継たちも、問いかけた本人である清正も、まさか三成に文を送り交わすような中の女性がいるとは少しも思ってはいなかった。

だからその返答は予想だにしないものだった。


「女、まぁそうだな。妻だから当然女だな」


「「「「・・・・・」」」」


言われた言葉に加藤清正・加藤嘉明・福島正則・大谷吉継は頭が真っ白になるという、中中に貴重な経験をした。


「「「「はぁ~~~!!???」」」」


言われた言葉が脳に到達すると同時に驚きの声を(というか絶叫を)彼らは上げた。

あまりの大声に三成も少し離れた場所で手紙を眺めていた秀吉も、ビクッと一瞬身体がすくんだ。


「な、なんだというんだ」

「三成、いつの間に嫁など・・・!聞いておらぬぞ!!」


吉継のセリフはまるで彼に懸想をしている女か母親のようだが、誰もそれに突っ込む者はいなかった。

他の三人も同様に三成に詰め寄っている。


三成はあまりの迫力に腰が引けそうになりながらも言われたことに少し思案顔になる。


「・・・言ってなかったか?」

「「「「聞いてない!!」」」」


キョトンとした表情で言われ、吉継たちはますます激昂した。

そんな彼らの様子を若干面白がりながら秀吉が宥めに入る。


「まぁまぁお前ら。そう怒るな。三成じゃからしょうがないじゃろう?」

「どういう意味ですか」

「そういう意味に決まってんだろうが!」


秀吉の言い分にムッとする三成だったが、それを上回る勢いでそう返され、不服そうにしながらもそれ以上食い下がることはなかった。


「というかお前ら見合い話の時に一緒にいただろうが」

「見合いの話は聞いたけど、その後は一切聞いてねぇんだよ!」

「むぅ」


代わる代わる間髪いれず怒鳴りつけるように言われ、三成は若干ふてくされる。


「見合いをして先日大殿に報告をしに戻った際に秀長さまに媒酌人を務めていただき、嫁を娶った。

これでいいか」

「「「「遅いわ!!!」」」」


聞いてないというから今ちゃんと言ったじゃないかとズレた主張をする三成とそういう問題ではないと怒る清正達。

このままではいつまでたっても平行線じゃなと秀吉が話題を変えようと三成に問いかけた。


「それで嫁御からどんな文が来たんじゃ?」

「あぁ、どうもやや子ができたようで、その報告です」


「「「「「?!」」」」」


あっさりと放たれた言葉にさしもの秀吉も部下達と同じく驚いて声も出ない。


「いつの間にか嫁を貰っていたと思ったら、子供まで!!」

「展開速すぎだろうが!!」

「三成、お前って奴は・・・!」

「三成に先を越された・・・!!」


四者四様の言い分に何故そんな風に言われるのか分からない三成は目をぱちぱちとさせ、秀吉の方にどうしたんですか?こいつら。という視線を向けた。


秀吉も苦笑しつつもめでたいことだと祝いの言葉を述べた。


「やや子ができるとはめでたいのぅ!

しかし三成は思ったよりも手が速かったんじゃな!」


笑いながらからかいの言葉を付け加えるのも忘れなかったが。

しかし彼はからかわれているとは思わなかったのか、いつもの表情でさらっと

「嫁にもらったんだから、そういうことをするのは普通でしょう。

ちゃんともらってからしたんですから、別に速いとは思いませんが」と言った。


なんというか、普段生真面目で下ネタとか言わない仕事中毒な人間にそんなセリフを言われると若干いたたまれないなぁと女遊びの激しい面子が思ったり思わなかったり。


「そういえば肝心なことを聞くのを忘れていた」

「?なんだ、吉継」

「嫁御はどのようなお人なのだ?」

「ふむ・・・そうだな。おもしろいおなごだ」

「面白いのか?」

「うむ。実に面白い」


真面目に面白いと言い切られ、どんな女なんだろうと好奇心をくすぐられた四人は、次に戻ったら三成の家に押し掛けてどんな嫁か見に行こうと決めた。

もちろん三成には無許可で。


そして当然のように三成はそんな企みに気付いてはおらず、秀吉は気付いていたが、これをきっかけに三成と彼らがもっと仲良くなればいいなと思い、放置した。


正則が「秀吉さまもご一緒に行きませんか?」と誘ったが、秀吉は既に結婚のあいさつなどで面識があったため、彼らだけで行ってくるよう勧めた。





――などという経緯があったことなど露知らず、突然の来客に嫁は慌てておもてなしの準備をしていた。


中国大返しは授業で習った覚えがあるため、遠征に行くという話しを聞いた時に思いだした。

けれど授業で習うのは歴史上大きな事件のみなので、遠征はすぐに終わるものだと思っていた。

しかし当然と言えば当然。年単位で時間がかかり、もうじき本能寺の変があるし!とこっそり信長を眺めた時から大分経ってもまだそんな気配はない。


そのため経過報告などで時折三成を伴い、秀吉が戻ってくるのだが、今回帰宅?帰城?した三成が同僚を連れてきたのを見て驚き、慌てておもてなしの準備を始めたのだ。


もっとも三成が連れてきたというよりかは、無理やり付いてきたというのが正しそうで、おもてなしの準備を、料理を。と慌てる嫁に向かって「コイツらにそんなことしてやらなくていい」などと言っていた。


しかし嫁にしてみれば初めて旦那さまがご友人を連れてらした!という心境なわけで。

旦那さまのご友人に気に入られるようにちゃんとしなくっちゃ!と張り切っていた。


この時代には彼女知るスパイスや調味料などはほとんどないと言っても過言ではない。

けれど彼女のいた平成の世では塩麹や甘麹のブームがあり、また東日本大震災があったことで電気やガスを使わない料理法などが見直された。

彼女自身独身の一人暮らしだったため節約レシピなどを勉強していたこともあった。

それが思わぬ形で功を奏した。

この時代でも平成の世の料理と似たものが作れたのだ。


彼女の知識をもとに作られた料理の数々はこの時代の人々からすると未知のものが大半を占め、また知っているものでもどこか違う仕上がりになっていた。


そのためおもてなしは高評価を得、秀吉の子飼い衆と呼ばれる彼らと親しく交流していくきっかけとなったのだが、もちろん本人はまったくもって気付いてはいないのだった。


その後彼らはまた秀吉と共に中国征伐へと赴いていった。

中国征伐は史実通り天正5年以降、6年間続いた。


平成の世に生きていた彼女は「もしも織田信長が生きていたら」という話を読んだことがある。

だから、本能寺の変を食い止めるということも考えなくはなかったが、現実的に考えて無理だと判断した。

まず、信長と接触することが可能な身分に自分がいない。

信長の部下の部下の娘、もしくは嫁でしかないのだから。


ひょっとしたら助けられるかもしれない人物を見殺しにする。ということを考えないようにするかのように、彼女は三成が傍にいない間も精力的に動いた。


おねやまつなど今後重要な人物になる人たちとの交流を深めたり、領地の農業改革を行ったり、平成の世の物と似たものが作れないか試行錯誤したり。


そのうちの一環で行ったことが彼女に大きな人脈を作ることに成功させた。


この時代、日本にはすでにブドウがあったのだが、基本的に干しブドウにしたりと食用であって、ワインのようにお酒にすることはなかった。

けれど彼女はあえてワインを製作した。

何故か。それはワインがキリスト教徒にとって特別な意味を持つ飲み物だからだ。

ワインはミサなどの儀式で用いられるため、この当時日本に来ていた南蛮商人にとっても必要不可欠と言ってもいい飲み物だった。

そこに目を付けた彼女はワインをちょっと高めのお値段で売りつけたのだ。

日本では自分のところでしか製造されていないと言って。


法外なほどは吹っ掛けなかったため、ワインは南蛮商人によく売れた。

彼女が南蛮商人と商売をするルートを独自に手にしたことを知るものはまだいない。



ちなみに彼女は英検二級を持っており、言葉わかるから有利だよね!と思っていたら、この時代に日本にやって来ていた南蛮商人はポルトガル人かスペイン人で使われている言語はポルトガル語かスペイン語であったため、しまったペリーさんは江戸時代だった~!!と内心でのたうちまわるくらい悔しがったというのは完全に余談である。



その後、無事第一子の娘を出産。

初めての出産に育児。おまけに旦那は長期出張中という状態であったため、四苦八苦しながらも他の嫁たちもしているようなお仕事に加え、フラグをへし折るための活動も行い、あまりの忙しさに正直前の時代で習った日本史を忘れそうになっていたその年――ついに時代が大きく動いた。

後に本能寺の変と呼ばれる、明智光秀が本能寺にいた織田信長を急襲して自殺させた事件が起こったのだ――



そしてその知らせを受けた時、彼女は妊娠中だった。

「あら~・・・」


子供の没年から逆算して出生年を割り出すと、わりと大きな事件のあった年に生まれていることが多くて驚きました。

まぁこの時代大抵どの年も事件があるもんですけどね。

第二子は本能寺の変の年に生まれたというのはわかったのですが、生まれた月などはわからなかったため、本能寺の変の起きた6月にはまだ生まれていなかったことにしました。

あと南蛮商人をアメリカ人と勘違いしたのは私です(笑)

フロイスさんがポルトガル出身の人だと知っていて、その上でフロイスさんと接触は無理かな?とか考えてたのに(笑)

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