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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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お見合い当日

ようやく二人が出会いました。

長かったような、もうちょっと嫁(と私は主人公のことを呼んでます)の幼少期をちゃんと書きたかったような。

でも嫁に脳内で急かされた結果、こんな風になりました。

日課である畑の見回りや運動、私のお抱え職人たちとのあれこれなどを終え、まだ何も書きこまれていない巻物を手に取り、ため息を一つ吐いた。


彼女ももう16歳になり、そろそろこの時代ではいきおくれと言われるような年頃だ。

が、前世での記憶があるためまるで焦る気配がなく、周りの、特に侍女たちの方が焦っている。

つまりため息の理由はそれとはまるで関係がない。


彼女がため息を吐いた理由は――



【アマテラスは引きこもり、紫式部は腐女子、清少納言はブログ女、

紀貫之はネカマ、かぐや姫はツンデレ、聖武天皇は収集ヲタで正倉院はヲタ部屋、

後白河法皇は最新流行の追っかけ、秀吉はコスプレじじぃ、

狂言は第一次お笑いブーム、鎌倉末期は新興宗教ブーム、戦国の茶道は萌え喫茶ブーム

江戸期に入るとエロパロ二次創作がこれでもかってぐらい溢れかえっている。

事の良し悪しは置いといて、日本人は伝統的に変態遺伝子を受け継いでいるのは事実だ。

外国人から指摘されたとしても悪びれる必要はない。

堂々と千年変態だと答えればいい】


そういうネットの書き込みがあったけど、ほんっとうちの国って歪みないわ~。

SFはとっくの昔に『竹取物語』であるし、女装物は『とりかえばや』であるし、ラノベっぽいハーレムネタは『源氏物語』であるし。


やばいな、平成・昭和の物語なら目新しいだろうと思ってたけど、この時代にはすでに色んなジャンルが確立してる・・・



読み物を書いてそれを売ろうと画策していたが、すでにかなりのジャンルが世に出回っていたことに改めて気付き、うちの国って・・・と思ってしまい、せっかくの巻物に何を書いたらいいのか分からなくなってしまった。


おまけに時代設定をいつごろに設定したらいいのか、未だによくわかってないし、BLはこの時代普通の恋愛小説扱いでなんか違う!と違和感がぬぐえず・・・

おとぎ話や童話ならそんなに変わらないよね!外国の話はファンタジーってことで!とグリム童話や御伽草子から何作か書いて売ったことがある。


※グリム童話は1812年に初版。

御伽草子は鎌倉時代末から江戸時代にかけて書かれた短編の絵入り物語。およびその形式。

江戸時代中期に出版されてからそう呼ばれるようになった。



いい加減ネタも尽きてきたな~。と私のお抱え大工さんに作ってもらった机(引き出しつき)に突っ伏すような態勢になっていたら、突然部屋に父上が入ってきた。


「姫や、今から仕えているお方のところに顔を出すのだが、お前も一緒においで」

「?はい。わんこたちで行ってもいいですか?」

「・・・やめなさい。馬に乗れないわけではないだろう?たまには乗らないと」

「わかりました」



わんこたち、というのは狼のことだ。

家臣の人たちに何度言われても、ついわんこと言ってしまう。

だって平成の世に生きていたら、狼と犬の区別なんてつかないよ!


そして気付けば家臣の人たちもつられてわんこと言うようになっていた・・・

なんかすいません。



ちなみにまとめて呼ぶ時はわんこたちと言っているが、一頭ずつちゃんと名前があるので、個別に呼ぶ時は名前で呼んでいる。

そんな狼たちはお引越しをしてから、気付けばこっちの狼の群れと接触をしていたようで・・・増えていた。

とりあえず私の言うことは聞くからいいか。と開き直って世話をしている。

まぁおかげで成長した私と収穫物を乗せたそりを引っ張ることも出来ているわけだし。


最近では「襲え!」の号令で敵に襲いかかることもできるようになりました。(敵って言ってもシカ狩るときとかにしかまだやったことないけど)

そりの犬(もとい狼)と番犬(番狼?)の両方を兼ねてます。

そんな風に狼を使役する私をおかしなモノを見るような目で見るのは止めてください。と言いたいが、さすがに自重する。

だってそもそも犬にお手とかお座りとか、芸を仕込んだりしてる人自体が、動物使いの芸人さんとかマタギさんとかくらいしかいないんだもん。


うちは害獣の被害がほとんどないな~。よそではたまに聞くのに。とかなり長い間思っていたが、家臣の一人に言われて気付いた。

毎日狼がパトロールしている畑を襲おうという度胸のある獣はそうそういないと。

領内なら自分の畑以外でも狼のそりで移動してたからな~。

そしてそのことにより思わぬ収穫?が。


うちで優れた軍馬がたくさん育つようになりました。

そりゃそうだ。

狼に怯えずに、時には狼が引っ張るそりと並走することができる馬なんて他ではめったにいないだろう。

たまにうちの領内の馬を父上は上司の人とかに献上したりしているみたいで、評判も上々らしい。


先陣に用いられるのは気性の荒い馬だと相場が決まっているそうだが、私を乗せる馬というのも大概そうなっている。

なぜなら私は毎日狼の世話をしているため、匂いが人間にはわからなくても染みついておる。

そんな私を臆せず乗せることができる馬となったら、推して知るべしである。

そのため私はあまり乗馬が好きではなく、ついつい狼のそりを使い、ますます馬に怯えられ・・・という悪循環を繰り返している。

まぁそれだけではなく、馬に乗ると視界が高くなってちょっと怖いのと、お尻が痛いからいやだというのも理由なんだけど。



ぽっくりぽっくりと父上と並んで馬を歩かせる。

この時代、意外に馬に乗る女の人は多いようで、馬に乗ってることに驚かれたことはない。

狼のそりに乗ってることにはしょっちゅう驚かれるが。


「父上、私もご挨拶をするのですか?」

「いや。お前は私達が話をしている間、そのお供の方が退屈されないようお話相手になっていなさい」

「かしこまりました」


人払い的な感じだろうか?

その人をお偉いさんと父上から引き離したいとかの。


そんな風に解釈した私はそれが父上たちの画策したお見合いだとはまったく気付いていなかった。


「あちらが先ほどお話しした方だ。

くれぐれも失礼のないようにな」

「はい」


そう言って父上は上司の方の下へと行ってしまった。

私がお相手を仰せつかったその方は、何やら田んぼの方をじっと見ている。


「あの・・・田んぼが何か?」


おそるおそる声をかけてみると、振り返ったその人は――めっちゃイケメン!でした。


「こちらを尾藤殿が治めるようになってから、米の収穫量が跳ね上がったと聞いて、どのような手法を取ったのかと思いまして」


い、イケメンは声まで格好いいのか・・・!という動揺を押し殺し、話しかける。


「見ていて何かわかりましたか?」

「そうですね。ずいぶん稲が整然と並んで植わっているのだなと」

「種もみから田んぼに直接植えるのではなく、苗まで育ててから植え直すという手法を取っているんです。

その際に縄を張って、等間隔に植えるようにして」

「何故そのようなやり方を?」


何故って、それしか知らなかったからです。とはさすがに言えないよね。

漫画とかではそうやって田植えするってなってたから直接植えるのが普通だって、大分経ってから言われて初めて知ったし。

もっと早くに教えてくれればいいのに、いつの間にやら周りの人たちも真似してたから、気付かなかったじゃないか。


「えっと、その方が陽の当たり方が一定になり、また刈入れや草取り、虫取りの手間も改善できるんじゃないかなと思いまして。

あと、合鴨を放しているんですけど、その方が泳ぎやすいかなって」


意外にこの時代、普通に番鳥・防虫を兼ねてアヒルや合鴨が水田に放たれていたのだ。

なので合鴨農法は思ったよりすんなり行えた。

刈入れが終わったら食用になるが、その時には人間だけでなくうちのわんこたちにもあげている。

そして私はこの合鴨の羽毛で防寒グッズを作ったりもしている。

基本的にこの時代、板間なので冷えるんです。


「なるほど。理にかなっている」

「あ、ありがとうございます」

「?何故そなたが礼を言うのだ」

「私が始めた手法ですから。気付いたら領民たちの間に広がっていて」



話している内容が年頃の男女のする物ではなかったため、物陰から隠れて見ていた父上と秀長さまははらはらしていたそうだ。

本人達としてはわりと楽しく会話していたんですが。



「でもそんなことを気になさるなんて、武家の方なのに意外です」

「兵站を任されたことがありまして。

それに民草が飢えない様にするのは治める者の義務ですから」

「あぁ、それで」


領地を持っている人なんだな。とその発言を聞いて察する。

そして発言が若干ツンデレっぽくて顔がにやけそうになる。


「食料は大事ですよね。

戦や天災などを考えると多くても困りませんし」


当たり障りのない返事をしながら、やばい。この人顔と声だけじゃなくて性格も好みかもしれない。と内心かなり荒ぶっていた。


結局その後も私が携わっているお仕事の話や、彼がしている仕事の話をするだけに終わった。

けれど彼に対する私の好感度はウナギ登りだった。

彼も私のことを好ましく思ってくれていたらいいんだけど・・・


父上からの使者がやってきて、彼は行ってしまった。

私は残って待っていたらいいのかと思いきや、先に帰っていなさいとの指示があり、本当に彼の相手をさせるためだけに呼んだようだ。


城に戻るなり一番長く仕えてくれている侍女に

「どうしたんです姫君。お顔が赤いですわよ?」と心配された。


思わずその場にうずくまる。ますます心配されたが正直それどころじゃない。


いつから顔が赤かったんだろう。

・・・頼むから彼の前ですでに赤かったとかじゃありませんように!!と思わず信じたこともない神様に祈ってみた。祈られても困るだろうけど。




一方その頃、彼の方でも父親と上司である秀長に彼女の印象を聞かれていた。


「ど、どうだった?」

「どうとは何がですか?」

「彼女だよ!見合いすると言ったろうが!」

「・・・そういえばそんなことも仰ってましたね」


言われて初めて思いだした。という風情の彼に、ダメだったかと意気消沈する二人。

けれどそんな二人の様子を歯牙にもかけず、先ほどまでの彼女とのやり取りを思い返していた。


「面白い、女性でしたね」

「・・・面白いかぁ・・・」


その表現に、あからさまに肩を落とす。

宥めるように秀長がその肩を叩くが、それに気付きもせず、言葉を続けた。


「彼女なら、嫁にしたいと思います」

「「!?」」


思わず彼を凝視する。

淡々と、けれど決定事項のように言われ、思わず久右衛門は涙ぐんだ。


「娘を・・・娘をよろしくお願いします!

おかしな娘ですが、どうぞ見捨てないでください!」

「?はい」


立場的には釣り合っており、よくある一般的な婚姻である。

そこまで言うなんて、自分を足がかりに秀吉様に取り入ろうとでも言うのだろうかと訝しがるが、どうも娘を心配し過ぎて思いあまったようだと理解すると、よほど大事な娘さんなのだろう。大事にせねばいけないなと思った。


本来ならば上司や父親から「この人と結婚しなさい」と言われて了承するのが武家社会ではわりと一般的なのだが、二人とも変な方向に頑固であるため、先に引き合わせて反応を見ることにしたのだが、これが功を奏したようだ。


久右衛門は喜び勇んで城へと戻り、娘に「今日お前がお相手をした殿方と結婚しなさい。向こうからもすでにお申込みいただいてるから!」と伝えた。

娘も「父上、偉い!!ありがとうございます!!父上の娘でよかったとこれほどまでに思ったことはありません!!」と非常に喜んだ。


嫁入りの支度に「何を持っていこうか、狼も連れて行こうか」「いや置いていかれても困ります」「あ、はい。そうですね」なんてやり取りを侍女たちとしている娘を見て、久右衛門は娘が暴走して婿殿に見捨てられないよう、お目付役として彼女の傍近くに仕えていた者たちも一緒に行かせることにした。



「あ、そういえば父上。私の結婚相手って、なんてお名前なんですか?」

「ん?言ってなかったか?石田三成殿だ」

「へ~、素敵なお名前・・・石田三成?」

「そうだ、どうかしたのか?」

「・・・すみません父上、今仕えていらっしゃる方のお名前って・・・」

「羽柴秀長殿だが?」



衝撃の事実です。

ようやく今がいつなのかが判明しました。

けれどこのままじゃ、関ヶ原!旦那さまが殺されちゃう!!

ヤバい・・・関ヶ原フラグをへし折らないと!!


・・・あれ?関ヶ原が成立した場合って私どうなるんだ?

よくある一族郎党皆殺し?あわわ。ますますへし折らないと!!



最初に旦那様が死んじゃう!って思う辺り、もうべた惚れです。

これ以降彼女は愛のままに暴走をします。(予定)

石田さんに「嫁とは暴走するものだろう?」と真顔で言われるくらいに。(予定)

更新頑張りますので、そんな嫁でもよければ引き続きよろしくお願いします。

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