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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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転換期

現在お城のお姫様をやっている平成で生きていた記憶を持つ少女の一日はわりと規則正しい。


朝起きたらまずは飼っている狼たちの様子を見て、餌をあげる。

「お座り!お手!おかわり!待て!・・・よし!」

彼らが餌を食べている間、ラジオ体操をする。

そして薙刀の素振りなどをしてから朝食。


食事を済ませたら狼を犬ぞりに繋ぎ、そりに乗って移動。

実験中の畑を見回ったり、養蜂を行っている巣箱の様子を見に行ったりする。

畑の傍にはお稲荷さんがあり、そこにお参りしてから畑に入る。


「え~っと、魚の骨とかの畑と野菜くずの畑と堆肥の畑の発育の違いは・・・っと」


その際畑に収穫できそうなものがあればそれもそりに積み込む。

現在は魚の骨や貝などを肥料にした畑と野菜くずなどを肥料にした畑と堆肥を使っている畑の発育状況の違いと味の違いを記録をつけて調査中。

ちなみに結果は父親に報告はもちろん、領民にも教えている。


養蜂は甘味が少ない時代なので、自分たちで何とかできないかと思案した結果である。

観ていてよかった鉄腕○ASH!平成では日本ミツバチの蜂蜜は高いんだよ!!


「うちの領地内は害獣に畑が荒らされることが少なくてよかったなぁ」

と畑の作物をそりに積み込みながらしみじみそんなことを呟く。

積み込まれた作物はその日の昼食の材料として使われたり、加工されたりする。


散歩がてらの見回りなので、昼前には城に戻る。

戻ったら狼を小屋に戻し、お勉強の時間となる。


『枕草子』って、キャリアOLのエッセイだよね、要するに。

ただし上司のお姉さまが好きすぎるだけで。なんて感想を抱けるくらいには字が読めるようになってきた。


お勉強が終わるとお昼ご飯。

たまに収穫物を使って自分で作ってみたりもする。

そして出来上がったものは家臣たちにもおすそ分けしている。


「今日のは片手で食べられるよ~!」


今日のお昼はおねだりして(蜂蜜の売り上げで)作ってもらった石窯で作ったパンに採れた野菜を挟んだサンドイッチ。

評判はなかなか良かった。


パンは小麦粉と酵母菌があればなんとかなる!と思ったけれど、時間を計るのが一苦労。

そりゃそうだよね。時計ないよね!とか思いながらも大人の人に手伝ってもらい、なんとかある程度安定して作れるようになった。

失敗作はパン粉にして、フライとかを作ったりしていた。


試作品は家臣の人たちにおすそ分けをするようにしている。

蜂蜜でドリンクを作ろうとしたり、果物で保存食を作ろうとして、何故かお酒ができてしまったこともあるから、もらってくれるとこちらとしても非常に助かる。

梅干は戦の際にとても役立つだとかで、喜んでもらえたし。



お昼を食べたら花嫁修行の一環が行われる。

今日は音楽。お琴を演奏する。

今じゃもう慣れたもんだけど、習いたては手がつる!と本気で思った。

お琴も三味線も嗜みらしい。

こっそり誰も見てない時に歌詞にカタカナとか入ってない曲を演奏しながら歌ったりもしている。

ボカロの和風ロックとかは三味線の伴奏で歌う物も多いからアレンジ考えなくてもいいからつい歌っちゃう。


それが終わったらのんびり自分の時間。

11ほど年の離れた姉は13歳ほどで嫁いで、今や男の子を二人も生んでいるという。

そんな彼女に何度か自作の絵本を贈ったり、人生ゲームのような双六を贈ったりしている。

今日は甥っ子たちにまた何か製作しようか。それとも平成の小説とかをこの時代版にアレンジして書こうかな?まだ著作権なんてないもんね!!と実に楽しい時間である。



姉が嫁いだのは武藤喜兵衛という人で、いわゆる政略結婚だったのだが、聞くところによると彼はなんだかとっても楽しい性格のようだ。

私が贈った人生ゲームを二人の息子とやって、全力で子供に勝って高笑いをするくらいに。


そんな義兄は私が贈った絵本や人生ゲームから、どうも私をかなり気に入ってくれているらしい。

たまに姉経由で文のやり取りをすることもあるのだが、なんだか悪戯小僧みたいな人で、憎めない人柄というか・・・一緒に悪戯してみたい人である。




「姫、姫。ちょっと話がある」

「父上」


普段この時間は不在であるか、仕事をしている父に呼ばれ驚く。

しかも改まって、となると何かあったのだろうか?



「・・・お前も何度かお会いしたことがあるから知っているだろう。

大館さまがお亡くなりになった」

晴信はるのぶさまが?!」

「ご病気でだという話だ。

三年は秘すようにとの話だそうだが、お前はあの方に可愛がられていたからな・・・」


父の上司・・・とはいえかなり上の方のだが、の死にショックを受ける私の肩を叩き、父は部屋を後にした。


晴信さまと初めて会った日のことが、つい先日のように思い出されるのに、もういないなんて――




「いいか、小姫。今日はとっても偉い方がお見えになるから、失礼のないようにするんだぞ」

「?は~い」


その当時の私はわかっていなかったが、私が養蜂を始めたため、体調を崩死気味だった晴信さまに滋養の高い物を差し上げようという動きがどうもあったらしい。

そして合戦やらなんやらの都合で近くに来ていた晴信さまがわざわざ足を運んだという次第だ。


けれど私は具体的な時間も知らされていなかったため、顔文字で簡単な漫画を描いたり、物語を書いたりして遊んでいた。


ふっと影ができ、手元が暗くなったので、なんだろうと顔を上げると――そこには晴信さまがいらっしゃった。


「私は武田晴信という」

「えと、尾藤久右衛門の娘です!」


武田って武田信玄くらいしか知らないなぁ・・・

誰だろうこの人。


「そなたは物語を書くのだな」

「えっと、はい」

「ふむ・・・面白いな。

のう娘よ。もしこんな話を書いてほしいと言えば、それを書くことはできるか?」

「た、多分?」

「そうか・・・なら――」



そう言って晴信さまがリクエストしたのは・・・お気に入りの家臣と自分とのラブストーリーだった。

まだ10歳にもなっていないお子様に何を書かそうとしているんだ!と叫びそうになったが、小姓の嗜みハウツー本みたいなのを参考資料に渡され、思わずもらってしまった。

そしてプラトニックな話を書いてあげた。

・・・気に入ったけど、閨のシーンはないのか?とか真顔で聞かないでほしかった。



・・・思い返してみるとなんだか愉快な人だったように思えるなぁ晴信さま。

戦では凄い人だったそうなんだけど・・・



そして晴信さまが亡くなって三年後――私が13歳の年に大きな戦があり、この辺りを支配していた武田家が勢力を失ったのをきっかけに父上は兄を頼り、引っ越すことにした。


「父上、今度行くところはどんなところなのですか?」

「そうだな・・・今までの米味噌と違い、大豆味噌を食べるようなところだ」


「「「えぇ~?!そんな説明!?」」」と家臣たちが思っているとはつゆ知らず、こくこくと頷き「そうなのですか!」と納得していた。


「あれ?・・・あなた方も一緒に行くんですか?」

なぜか家臣たちと一緒になって親しくしていた職人たちも荷造りを始めていた。

彼らは何を言っているんだろうという顔でこちらを見返した。


「そりゃあわしらは姫様の職人ですから!」

「そうなの!?」


驚いて父上の顔をうかがうが、仏頂面で「本人達がそう言っているからそうなんだろう」と言われた。

「・・・ならいい・・・のかな?」

「「「「いいんですよ!!」」」」


なんだか職人をいつの間にか抱え込んでいたようである。

・・・まぁ本人たちがいいならいいか。

新天地でも石窯とか色々作ってもらおう。


引っ越し先がどこなのかいまいち理解していないが、今まで住んでいたところもどこなのかよくわかっていなかったので問題ないだろう。そう思っていたため、父親があえて教えなかったとは気付かなかったし、想像もしていなかった。



※1日本の養蜂は明治になって西洋ミツバチが輸入されてから本格的に始まった。

 

 2梅干がシソの葉を使って赤く着色するようになったのは江戸時代になってから。

  この当時はまだ塩の素漬けが多かった。


3言文一致運動は明治時代に起きた。主人公の書く文体はこの時代にはまだない。


4今の形の絵すごろくは江戸時代に生み出された。

 

自覚はないですが、すでに色々歴史を変えてます。

ちなみに武藤喜兵衛は後の真田昌幸で、武田晴信は武田信玄です。

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