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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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お姫様の幼児期

お姫様が動き始めました。

この時代の結婚適齢期は13~16くらいだそうですので、それまでに色々とやらかしていてほしいなぁと思っています。

とりあえず6歳児まで成長しました。

歩けるようになって真っ先にしたのは、自分の住んでいる城内の探検だった。


頭重い!手と足が短くてバランス取りにくい!と思いながら、えっちらおっちら進んで行ったのだが、階段の前でぴたりと立ち止まった。


小さな幼児の眼の前にそびえたつ階段は、急な角度で造られており、とても一人では登れそうになかった。


う゛~・・・!と若干涙目になりながらもしばらく階段を恨みがましげに睨みつけていたが、くるりと方向を変え、再びぽてぽてと歩きだす。

家臣たちが微笑ましそうにその様子を見守っていたことにも気付かずに。



おっとっとっと。わったったった。なんて思いながら次に向かったのは城の厩だった。


すっご~い!!サラブレッドとは全然違う!!と初めて見る日本の固有種の馬に瞳をキラキラと輝かせていたのだが、いきなり現れた小さなお姫様の姿に厩舎で働いていた者たちが驚いて「危ないですよ!」「蹴られたら大変ですから離れましょうね!」と慌てて声をかける。


「あう・・・」

(お邪魔しました)


お仕事のじゃましてはダメだよね。と一礼してその場を去った小さな姫君。

歩けるようになって真っ先に向かったのが馬の元であるというだけでなく、きちんと礼儀もわきまえているなんて、さすが武家の(と書いてうちのと読む)娘!将来が実に楽しみだ!と家臣たちの間でしばらく話題になったという。




当の本人はお姫様だから大事にされるし、女の子だからあんまり色々できなさそうだな~。

信長さまの娘でも家康さんの娘でもないから、普通のどこにでもいる武家の娘な人生に終わりそうだなぁ。

転生したらチートってのはやっぱり物語だけかぁ。と思っていた。

本気で思っていたし、今でも割とそう思っている。

・・・本人だけは――




この時代、幼稚園児くらいから教育はかなりしっかりと始めるようですが、まぁ当然と言えば当然。

人生50年の時代、10歳ちょっとで結婚というのもよく聞く話だ。

成人は15歳ですから、その年までに書類仕事とかできるようにならないといけないなら、教育はかなり早い段階から始めないとダメだろう。


そんなわけで手習いという、文字の練習が始まって早々に彼女はやらかしました。

筆が重い~!なんで「あ」だけでこんなに種類があるの~?変体仮名がミミズがのたくって腹筋してるか背筋してるかにしか見えない~!と練習に飽きて、練習に使った紙を束ねて、その隅にパラパラ漫画を書いてみたり、文字の傍にたれ○んだを描いてみたり、リラッ○マを描いてみたりして侍女たちを喜ばせたり驚かせたりした。


また、湯のみが幼児の手には持ちにくいと言って、マグカップを作ることはできないか聞いてみた。

「むりならいいのよ?」と彼女しては本来の仕事もあるだろうに、子供の我儘にムリして付き合わなくていいんだよ?というつもりで言ったのだが、職人たちには「出来ないならいいんだよ?」と言われたと思われてしまい、妙に気合を入れてマグカップの作成に取り掛かられた。

さすがに初めて作る物だけあって、一発で成功とはいかなかったが、すぐに希望通り、いやそれ以上の物が完成した。

それを喜んだ彼女が「じゃあこんなのも作れる?」と提案したのはコーヒーカップやティーカップ。

そのどれも試行錯誤を繰り返しながら作り上げられ、それらが完成する頃には職人たちも難しい注文をつけつつも新しいモノを提案してくれる相手として彼女を気に入っていた。


「他には何かないですかね?!」と嬉々として聞かれ、若干その勢いに引きつつもボーンチャイナ、仔牛の骨を使った焼き物を提案した。

まだ成功してはいないのだが、難しい物ほど燃える職人気質はこの当時からあったようで、楽しそうに試行錯誤を繰り返している。

小さなお姫様はまぁ皆が楽しそうならいいかぁ・・・と諦めの境地に達して「こんなんできました~!」という嬉しそうにされる報告に「わぁ~、すごいね!」と言うだけのお仕事を今日もこなしている。



平和な平成の世に生まれ育ったが故にやらかしたこともある。

住んでいるところが山城であるため、城のすぐそばに山があるのだが、城を抜け出した彼女が拾ってきたのは――


「・・・ここ数日食材の減りが速いという報告があったんですがね・・・」

「だ、だってこの仔たち死んじゃったお母さんのそばで鳴いてたんだもん!」

「だってじゃありません!山犬を拾ってくるなんて危ないでしょうが!!」

「こんなに小さくてかわいいわんちゃん、そのままにしてたら死んじゃうよ!」

「わんちゃんじゃありません!それは山犬・・・狼なんですよ!!」

「へ?そうなの?」

「そうです。大きくなったら危ない・・・ってなんで狼だって聞いてますます抱きしめる力を強めるんですか!!」

「狼も犬も似たようなもんじゃない!責任もってちゃんと飼うもん!!」


そうして押し問答の末、狼の子供たちを飼うことを認めさせ、鍛冶職人と皮細工職人に首輪も作らせ、大工に犬ぞりも作らせ――そうまでしても未だ女の子供だから父上の役にも立てないし、せっかくの知識も活かせない至らない娘でごめんなさいね?と思っているお姫様、現在六歳なのであった。


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