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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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カレーの炊き出し

タイトル通り、嫁がカレーの炊き出しをする回になります。

戦わないですね(笑)忍城攻めの話を書いてるはずなのに(笑)

なぜかカレーを大きな鍋で作る嫁しか浮かびませんでした(笑)




更新遅くなってすみませんでした<m(__)m>

史実では秀吉は諸侯を引き連れて忍城攻めを見物に来ている。

勝敗の決まった、ある意味消化試合の様なもので、忍城が落ちなくても大勢には影響の出ない戦であり、秀吉の配下たちの施工管理技術と財力を見せつけることが出来るものだったからだろう。


この世界でも同様に秀吉は諸侯や自分の側室等を引き連れて忍城攻めを見物に来ていた。

その中には三成の妻であるりんの姿もあった。



「これはそちらに」

「おい!木材足りないぞ!」

「こちらの手配はどのようになってますか?」


慌ただしく指示を出し、働いている人々の中に自分の夫の姿を見つけたりんはうっとりとその姿を見つめた、


秀吉に連れられ、やってきた諸侯たちも忙しく動く三成たちの姿を驚きをもって見つめた。

凄まじい速度で水攻めのための工事が進んでいながらも、規律正しく働いている。

水攻めでは落ちないであろう忍城なのに、兵士たちの士気が落ちていない。


「三成さま!」

「お前か」

「はい!」


仕事が途切れた隙を見計らって、りんが三成に声をかけた。

キラキラと嬉しそうに声をかける妻に対し、三成の返答はそっけない。

しかし周りの者たちはあれがあの三成の妻か!と興味津々でそのやり取りを見守った。


「そろそろ昼餉の時間だな。

何かふるまってやれ」

「かしこまりました!」


兵士たちの士気が落ちない理由の一つに、食事事情が良いというのがあった。

まだ幼かったりんが人々を味方につけるために実践してきた手法で、三成はそれを応用してこの人の元にいれば、活躍すれば美味しいものが食べられる!というやり方で士気を保っていた。

また、医食同源ではないが、食の効用をりんは承知しており、三成もまたそれを知っていた。

栄養状態が良くない者、偏っている者も多いこの時代、物によっては薬と同様に効力を発揮した。


そして珍しい食事はそれだけで威力を発揮した。

この時代の珍しいものは大抵南蛮等の異国の料理だ。

それを自分たちで再現して見せるというのは高い技術力を示す。

同時に一般的に出回っていないものを使って料理が出来るだけの財力があるというアピールにもなる。

三成の場合は堺の町奉行を行っていたので、それで知り得たものだと勘違いされていた。


りんは三成からの指示を疲れた兵士たちをねぎらう料理であり、見物に来た諸侯たちに珍しがられる料理を作れ。という風に受け止めた。

張り切って料理をしようとするりんに、総大将の奥方が料理を!?と多くの者たちは驚いたが、そもそも三成の地位も身分もそれほど高くはない。その妻であるりんの生家も同様だ。

それを差し引いても二人がそれを当然のように動き、石田家の家臣たちも当たり前のように振る舞っている姿に、口出しせずに何が出来るのかを見守ることにした。




りんは秀吉に同行させてもらうどさくさに紛れて、自分の荷も持ってきていた。

その中には大量のスパイスが入っていた。

りんが作ろうとしている料理には大量のスパイスが必要だからだ。



災害大国日本。

りんもまた、直接被害を受けてはいないが災害を経験した世代であった。

災害が起きて以降、学校などでも様々な訓練などを行ってきていた。

今回作ろうとしている料理も、その訓練で習得したものである。


「えっと、じゃがいもと人参と玉ねぎと」


というか、訓練で習得したせいで大量にしか作れない料理でもある。



炊き出し訓練で習得したルーを使わないカレー。

それを覚えたのは良かったが、炊き出し用の分量で覚えたため、少ない量が作れないのが難点であった。



兵士たちに配給するようの大きな鍋で作り始めると、辺り一面にカレーの匂いが広がった。

嗅いだ事のない匂いに、周囲がざわめく。

そんな反応に慣れっこの石田家の面々は誰も動じることなく、自らの仕事を続ける。


これは何だと気になるが、三成よりも身分や地位の高い者ほど「教えて!」とは言いにくい。

気にせず聞いてくれそうな者たちは?と見ると、大谷は以前食べた事があるので「あぁアレか」という反応で、真田親子は知っているのか知らないのかにやにやと楽しげに笑っている。



そんな周囲の様子にりんはふと思いつき、鍋をおもむろに煽ぎだした。


「どうしたんですか?奥方様」

「いや、匂いが向こうのお城にも届かないかな?と思って」


遠くに見える城を見やり、忠実な家臣は一言言うだけに留めておいた。


「さすがに無理があると思いますよ」

「ですよね~」




さすがに忍城にまでは届かなかったが、辺り一面にカレーの匂いが漂う。

強い刺激臭に、興味をそそられない者はおらず、そわそわと完成を待ちわびている。

戦のさなかとは思えないような高揚感に浮かれる者はいても、仕事を疎かにするようなものがいない辺り、指揮がきちんと行き渡っている証拠だろう。


カレー粉の基本スパイスはクミン、コリアンダー、ターメリック。

この三種だけでも十分カレーとしての色と香りは出る。

だがより本格的なカレーにしたいならばさらにスパイスを加える。

最も今回はこの3つだけで作成するが。


スパイスは基本的に漢方薬と同じような効能がある。

そのためりんはカレーをこの時代における広義の薬膳料理として捉えていた。


日本人の舌に馴染みやすいようにアレンジしてはいるが、スパイスをふんだんに使って作るりんのカレーは、材料の贅沢さとスパイスの配合の複雑さから、プロの料理人にも盗めない逸品に仕上がっていた。


また、ジャガイモや玉ねぎの存在もある。

原種ではあるが玉ねぎは古代エジプトでピラミッドを作る労働者に食べられていたほど古くからある作物だ。

それを知っていたりんは取引先の南蛮商人たちからジャガイモやサツマイモなどと同様に輸入し、栽培して増やしたのだ。

ちなみに先ほど上げたクミンなどのスパイスも領地で栽培して増やした。

年に一度、カレーを大量に作る際にしか使用しないため、栽培を始めてからそれなりの年月が経っているのもあって今回の使用に踏み切れたのだ。

最低限、次の年に植える分さえ残ればいいや。という思い切りの良さで提供したから作れたともいう。


ちなみにカレーの具材に重要な肉は厚揚げで代用した。

りんは狼を飼育しているため、肉を持っていないことはないが、生肉を持っての長距離移動は普通に食中毒の危険性があるため、そうなった。


この時代の一般的な人たちはあまり薬を飲むことがない。

薬がないわけではないが、高価なのと医学的な知識の貧しさからきちんと薬効のある薬以外が薬として出回っていることが多いということから、正しい薬を飲む機会が少ないのだ。


そのため(彼らは知る由もないが、本来のカレーよりだいぶ薄めに作られた)りん特製薬膳料理――カレーは、普段薬を飲みつけていない人が薬を飲むととてもよく効くように、彼らに活力を与えた。




カレーの匂いが忍城にまで届かないかな?とりんが言っていたが、さすがにそれは無理だった。

しかし別のものが届いていた。


カレーによる滋養強壮の効果で、兵士たちは活き活きと働いていた。

得手不得手などの関係から領地を無視して編成されていたのだが、彼らには共通の話題があった。

――カレーである。


カレーの話や三成の嫁の話をしながら楽しそうに働いていたのだ。



声は届かずとも雰囲気は伝わる。


三成と吉継は秀吉古参の子飼いの部下であるから、その家臣たちや兵士たちが親し気にしていても親交があったのだな。で済む。

しかし、新しく秀吉の旗下に入った真田なども分け隔てなく平等に接しられ、このような悪条件の城攻めを押し付けられた素振りなど見せずに、楽しそうに働いているのだ。



それが傍目には意味のない行為のように見えても、自分たちのしている意味と役割を理解すれば人は誇りを持ってそれを行える。

三成の発言からこの戦いの意図を理解した諸侯たちは自分の部下たちにそれを伝えた。

その結果が、規律正しく働く兵士たちの姿だ。



そしてそれを見た忍城サイドはこう思う。

彼らに下っても、それほど酷い目には合わないのではないだろうか。

あれほど余裕のある姿には、水攻めをすると見せかけた、何か策があるからではないだろうか。


そしてこっそりと思うのだ。

もし下ったら――あの、将や兵が争うように食べていた謎の食べ物を、自分たちも食べれたりしないだろうか・・・と。



ちなみにターメリック(別名秋ウコン)は室町時代に伝来したそうなのですよ。


余談ですが、鍋肌に残ったカレーも出汁を足してカレーうどんにし、さらにその残りにご飯と具を混ぜでドライカレーで最後まできっちり食べきりました。

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