忍城攻め会議
サブタイトル通り会議の話なのです。
戦ってません。
久しぶりに昌幸さん登場しました。
歴史書に記されるのは出来事だけ。
その人が何を思い、そんなことをしたのか。そういったことは残らない。
だから、秀次と秀吉の仲が良好なのも、秀吉の実子の誕生を喜んだのも。史実の通りなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
北条征伐は史実通りに豊臣が順調に勝ち進んでいった。
そしてこちらもやはり史実通りに、石田三成は忍城攻めを命じられた。
りんはラノベや漫画、アニメを嗜む腐女子だったので、歴史改変物やタイムスリップ物なんかも読んでいた。
その中には「歴史の修正力」ということが書かれているものがあった。
「歴史の修正力」とは簡単に言うと歴史を変えようとしても正しい流れに戻そうとする力が働く。という感じだろうか。
例えばヒトラーが独裁者になる前に彼を殺害したとしても別の人物がその役割を果たす。という考え方だ。
その考えが正しければ、徳川家康を暗殺したとしても、別の人物がその役割を果たすだろう。
それがよく言われる影武者だとかならばまだいい。
それが伊達政宗なら?それがもし――あの人ならば。
りんがこの人がもしその役割になるとしたら、と思うと家康を積極的に排除する方向に動くのに二の足を踏んでしまう。
その人物――真田昌幸も石田三成と共に忍城攻めのメンバーの中にいた。
忍城攻めは水攻めにすると秀吉から通達があった。
とてもではないが、忍城は水では落ちないだろう。ということで全体の士気はがた落ちだった。
そんな中、三成は諸将を集めた。
「さて、何を言い出すのか」
「一軍の大将として臨むのは初めてだという話だからな」
多少小ばかにしたような空気が流れる。
そのことに吉継は眉をひそめた。
ざわざわとした空気の中、陣に入ってきた三成は堂々とした姿でぐるりとその場にいる諸将たちを見回し、口を開いた。
「秀吉様は水攻めを行えと命じられた。
そこで皆様方には意見を出していただきたい」
「は?」
水攻めをしろと言われた。
これはわかる。
意見を出してほしい。
・・・何の?
先ほどまでとは違うざわめきが広がる。
それに首をかしげて不思議そうにしている三成に吉継と左近は大きなため息を吐いた。
ちなみに真田昌幸と信繁は「ほほう?」と楽しそうにしている。
「・・・三成。省略せずに全て言え」
「?」
多分三成が言おうとしているのはこういうことだろうなと察しながらも、自分できちんと説明させねば。と吉継が促す。
やはり不思議そうにしているが、左近も頷いたのを見て再び口を開いた。
「秀吉様は水攻めという莫大な費用負担と短時間でやり遂げる工程のやりくりができるのはわが軍だけであると新参諸将に見せつけたいのだろうと思われる。
このような水攻めに向かない土地であえてそれを行うことで、そんな無駄なことをしても揺らがないだけの財力があるという主張もできるし。
この場にいる諸将は戦の仕方が後々に対する布石になるということを理解し、無謀だとしか思えない水攻めも飲んでくれるだろうなということでこの戦を任されたのだと思っている」
「うむ。それで何の意見を言えばいいのだ?」
三成が思うこの戦の意味を聞き、あの城に対して水攻めなんて・・・と批判的だった者たちからもこれはやらざるを得ないなという意識が生まれた。
布石を置いたり考えたりするのが得意な昌幸がワクワクした風を隠しもせずに問いかける。
「いかにして費用を抑えるかについてだ。
確かに豊臣は財力がある。
が、無尽蔵というわけではない。
削れるところは削って、抑えれるだけ抑えておきたい。
例えば水攻めをすると決まっているわけだから、兵たちに支給している武器を少なくするとかはどうだろうか」
「それだと明らかに攻める気はないというのが丸わかりになるからやめておいた方がいいと思いますよ」
三成の提案を左近が否定する。
それに対し、三成は一つ頷いて見せ、再びぐるりと周囲を見渡す。
「とまぁこんな風に皆様から知恵を拝借したい」
まっすぐな三成の視線に、そうか。彼はこういう人間なのか。と理解した。
予想していたのと違ったな。と思った人がいたのもある意味当然で、この辺りから少しずつ虎の威を借る狐ならぬ、秀吉猿の威を借る三成狐。と呼ばれ始めていたのだ。
「まぁ工期をできるだけ短くするのが一番だろうな。
一日延びればその分予算もかさむ」
「それは当然のことだ」
吉継と頷き合っている三成。
戦争とはとにかく金がかかるものだ。
この時代だと通貨制度の観点からお金ではなく金で動く場合もあるが。
まぁとにかく大量に出費するものだ。
食料に木材に石材に。火薬に刀に銃に鎧に。
人件費だっている。
どこも戦が起きるたびにやりくりに頭を悩ませるものだ。
必ずしも利益を得られるというわけでもないから余計に。
それでもこのようなことを言ってくる大将というのは実に珍しく、この場に集っていた諸将たちはそれもあって彼を気に入ったのだった。
――りんが知っている関ケ原の合戦。
その際には忍城攻めで三成と共に戦った多くの武将は関ケ原まで三成と行動を共にし、家康と敵対する立場をとった。
果たしてこれはりんの知る史実通りに進んだということなのだろうか。
それともこれもまた、どこか変わっているのだろうか・・・
家康さんポジションが昌幸さんだと怖すぎるよね。って・・・
三成さん水攻めなんてお金かかること嫌いそうだなって思ったら、気付いたらいかにして費用を削るかって方に動いてました(笑)