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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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りんと島津の思惑

りんに優しいのと女の人に優しいのはイコールでは繋がりません。

りんは気付いてなくても、周りは気付きます。

「なんやかんやあったけど、無事引き継ぎも終わりましたね。

まぁ戻ってもお仕事はたくさんありますけど。

島津家の人たちが女性に優しく協力的だったおかげで色々と捗りましたし。

安心して帰れますね」


帰路は愛する旦那様たちと一緒だ。と上機嫌で帰国のための荷造りをしているりんの発言に、家臣たちは微妙な表情を浮かべた。


「いや、まぁ奥方様がそう思ってるんならいいんじゃないですか」

「?どういう意味?」


嫁ぐ前からの長い付き合いの家臣の言い様に疑問符を浮かべて尋ねる。


「無事終わった、ってのはまぁ間違ってはいませんけどね。

島津家の人たちが優しくて協力的だったのは奥方様がいたからですよ」

「え?そうなの?」


特に心当たりのないりんはきょとんと眼を瞬かせる。


「気付いてなかったのですね・・・」

「え?何が?何を?何に?」


本気でわかっていない様子のりんにはぁ・・・と溜息を吐いて説明を始めてくれた。


「理由はいくつかあります。

まず奥方様、島津の姫と面識あるでしょう?そちらから奥方様の話が流れているのが一つ」

「?私に優しくしてねって言ってたってこと?」

「多分それもあるでしょうね。

自分のところの姫君と親しくしている人の不興をわざと買う人もいないでしょうし。

それよりもその姫君と会った場所が問題なんです」

「会った場所って・・・秀吉様のお城が?」

「奥方様はそこに秀吉様のご意向でいらしてました。

おまけにその場にいる女性たちとも親しくしていらっしゃる。

権力者とその妻に直接声を掛けられるほどの人だということです」

「あ~・・・そういう捉え方もできるのか」

「そういう捉え方しかできないですよ。むしろ」


呆れたようにきっぱりと言われ、肩をすくめる。


「まぁ政治的思惑っていうんなら、秀吉様の配下に下ったとはいえ、素直に言うことを聞きたくない。けど聞かなきゃいけないのはわかってる。

奥方様が言うから仕方なく言うことを聞いているって恰好を付けてるってのもあると思いますけどね」

「男の人って面倒くさいわね」


思わず本音が漏れた。

苦笑して説明を続けられた。


「女相手にムキになるのも男らしくないっていうか、女相手に本気で怒れるかって考えもあるみたいですけどね」

「あぁ。まぁその辺はね、わからなくもないわ」


これは政治的うんぬんではなく、単なるプライドの問題だろう。

素直に言うことを聞きたくないってのも十分プライドの問題のような気もするけど。


「それから販路を拡大したい近江商人や堺の商人たち、南蛮商人たちがもう一つ」

「え、どんな?」

「いい商売相手、取引先を失いたくないから博多の商人たちに情報を流したみたいですよ。

奥方様と仲良くしておいた方が得だとね」

「あぁ・・・色々やってるものね」


手広く色々販売しているからなぁ・・・と思ってそう言うと、微妙な顔をさらに複雑なものにされた。


「・・・奥方様、自分が領民たちに何て呼ばれてるか、覚えてます?」

「そりゃあ・・・稲荷姫なんて(微妙に厨二っぽい)呼ばれ方忘れるわけないでしょう」


誰が言い出したのか知らないけれど、恥ずかしい呼び名だと思う。

まぁこの時代動物に例えられてる人多いから、その流れを汲んでいるんだろうけどね。


「そうですよ!奥方様、稲荷神の加護があるって思われてるんですよ!

豊穣と富を司る神様で、実際領地にはそのご利益としか思えないような現象が起きているし!

そんな人相手に粗相を働いたら恐ろしすぎるじゃないですか!

島津家の領地は奄美や琉球とも近くって、そこには巫女さんだか神主みたいなことをしている女の人がいて、その恐ろしさを聞いてるから余計にでしょうね」

「お、女を敵に回すと怖いみたいな?」

「いや、神様を味方につけてる人を敵に回すような度胸のある奴はそうそういないって話です。

一度でも戦場を経験していればなおさらですよ」

「・・・」


思わず黙り込むが、周りの人たちはうんうんと大きく頷いている。


「島津家の人たちがわざわざ博多まで出向いていたのは博多港の利権に少しでも絡めないかという思惑もあってだったんですけど・・・そのあたりはさすがに気付いてましたよね?」

「・・・すいません」


正直に謝ると深々と溜息を吐かれた。


「島津家の若いの捕まえて『首置いてけ!って言って下さい!』『く、首置いてけ?』『もっと力強く!』『首置いてけ!』『もっと!!』『首置いてけ!!』『『いえ~い!!』』なんて遊んでたから気付いてないんじゃないかなぁとは思ってましたから。

ひょっとしてそう見せかけて、相手をかく乱させてるんじゃないかという期待もありましたけどね」

「・・・誠に申し訳ありません」


仕事が多すぎて若干ハイになって、そんなこともしてたなぁと考えながら、とりあえず謝る。


「いいですよ。奥方様のやるべき仕事はきちんとやっていただけてますし」

「向こうの人たちにも見られてたりとか・・・?」

「してますね。大丈夫ですよ。ちゃんと問題ないって言ってますから」

「・・・ちなみにどんな風に?」

「そうですね、確か『ちょ、あれは一体?』『あぁ、うちの奥方様たまにすごくおかしくなるんですけど、実害はないんでほっといていただいて大丈夫ですよ』『うちの若様は箱入り息子なんですけど?!』『だったらそのままふたを閉めて奥方の手と目の届かないところにやってしまえ』『ふぁっ!?』みたいな?」

「あぁあ・・・」


思わず頭を抱え込む。

やってるうちにお互い楽しくなっちゃったから、まぁやらせた本人の方は問題ないだろうけど・・・それを目撃されていたのはさすがにちょっとマズイ。

おまけにそれに対するフォローがフォローになっていない。


「大丈夫ですよ。

ただまぁ普段なら気付けていたはずのことに気付けてなかったりしてたんで、以後は気を付けてくださいね」

「はい・・・」


戦闘民族的なイメージでいたけど、授業でやった歴史では島津さんは関ヶ原で三成さまの味方をしたにもかかわらずお家を存続させ、幕府を倒した側にいたくらい政治的な立ち回りもできていた。

つまり私が会った島津さんたちも――


「気付いていようがいまいが対処できるようにと奥方様にしていただく仕事は厳選いたしましたから。

今回の件でご自身の立場をよくご理解なさってくださいね」


だから当初の予想より外交的な仕事が少なかったのか――


教育係のようなものだった家臣にそう諭され、それなりの年齢の子持ちなのに学生に戻った気分になりました。

りんは身分は高くないし、権力もないけど影響力はあります。

それは三成さんも同じです。

そのことをりんが自覚・実感しました。という回でした。

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