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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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九州へ移動

今回は短め。

移動するのも一苦労な時代なのです。というお話。

そしてうちの秀吉さんは相変わらずです(笑)

りんがなぜ九州に行く前にと、急ぐわけでもないガラシャとの対談を行っていたかというと、単にすぐに出発することができなかったからである。


飛行機もなければ新幹線もないため、長距離を行こうとするとまずどのルートでどのように行くか、持って行くものはどうするか、日程はどうするかといったことを決めるところから始まる。

そして必要なものを揃え、時には新たに作り・・・という具合に準備期間がいるのだ。


石田家の家臣たちは兵站部門をしている三成に仕えているため、物資輸送を取り計らった経験もあり、慣れているためさほど時間はかからず出発できるだろうと判断したりんは移動計画を一任してその間にガラシャさんと会ってこようかな~。と会いに行ったのだ。


最終的に「これでよろしいでしょうか」「よきにはからえ」的にオッケー出すのがここでの仕事で、実際に働くのは九州に行ってからだと思っていた。ら、思わぬ落とし穴があった。



「申し訳ありません、奥方様。

このままだと越権行為になりかねませんので交渉を変わっていただけないでしょうか」

「は?」



平成の世でも縁起を担ぐ職業は多々あるが、こと生死にかかわる職種ともなればなおさらである。

平成の世でもそう言った理由で験担ぎを気にする職種の一つに船乗りがある。

科学の概念がないに等しく、魑魅魍魎や神仏の存在が当たり前のように信じられている戦乱の世ならば尚更だというのは言うまでもないだろう。



「海路を行こうとしていたけれど、船乗りたちが私を乗せたくないと言ってきたわけね。

で、どこまで譲歩してもいいかを判断しかねて私に変わってほしいと」

「その通りでございます」


私を乗せたくないと言った理由が「女を乗せるのは縁起が悪い」からだという。

これは「渋って相場より多めに払ってもらおう」というのよりも困った理由だ。


金額を多く支払わせたいだけならば、それこそ払うものを払えばどうとでもなる。

けれど信仰心が理由の場合、お金や理屈では動いてくれないのだ。


「早く三成さまのところに行きたいのに・・・!」という熱意と誠意と真心を込めて交渉した結果、無事船を出してもらえることに。

条件として多めに金額を支払うことと男装することを了承させられましたが、十分許容範囲である。

しかし遠出するたんびにこれじゃ困るので今回の三成さまのお手伝いとこの前の亀寿姫の件のご褒美として、秀吉様に船をいただけないかお願いしてみよう。

秀長様とおね様に根回しした上で。


できれば大型船がいいな~。

船って大きい方が沈みにくいって言うし。

普段は輸送船にするとかしてたら無駄にならないし。

上杉さんとことかこれから行く九州とかに物資売りつけたりとか。

となると複数欲しいなぁ。

まぁ船だけあっても操縦する人がいないとどうしようもないけどね。

そういや海上保険とかないのかな?この時代。

なんてことを考えたり、レース編みをしたり、執筆活動をしたりと、りんは航海を楽しんだ。


「なんで平気なんですか?

初めてだと男でも酔って大変なことになったりするんですけど・・・」

「普段から揺れには慣れているから、それでじゃない?」


狼のそりで三半規管が鍛えられていたのだと思います。

なんて言ってもわからないだろうなぁと思いながら適当に返事をする。


りんが船酔いでダウンしなかったこともあり、航海は順調に進み、船は無事三成のいる博多まで辿り着いた。



島津氏の本拠地に来るのはもちろん初めてだが、実は完全な初対面ではない。

島津氏が降伏した後、義久は人質として娘の亀寿姫を連れて上洛している。


その義久の世話は三成と細川幽斎がしていたのだが・・・秀吉をよく知る部下たち、女たちの予想通り――亀寿姫が秀吉に惚れてしまったのだ。

おまけに義久も娘可愛さのためか、政治的思惑もあってか、娘の応援をしていたのだから、秀吉としても対応に困る。


強い軍事力を持っている島津に政治的後ろ盾を与えるわけにはいかないと黒田官兵衛・秀長たちが判断し、何とか諦めてもらおうと尽力した結果が、義久とともに帰国が許された件になるわけである。

三成が幽斎と共に政治的に立ち回り、頑張ったのもあるが、りんもまた亀寿姫が秀吉の元に夜這いに行かないようにだったり、他の女性たちとバトルが始まらないようになどと頑張った。


女性の扱いは女性に任せようという思惑があってのことだが、なぜりんが選ばれたかというと・・・人たらしの秀吉に絶対になびかないという太鼓判が各方面から押された結果である。

また、三成大事のりんが秀吉の不利になるようなことはしないだろうという信頼もあっての大抜擢だ。

元々おねたちと親しくしていたというのもあるが。


さてさて。島津家では男たちだけでなく女も鍛えているのか、亀寿姫もこの時代の男性と比べても小柄な秀吉を容易に押し倒して既成事実が作れそうな女性だったため、秀吉はりんの働きに大いに感謝した。

その件で「褒美は何がいい?」と尋ねられており、返事がまだだったのをこれ幸いと、造船を頼むつもりであった。


政治的パワーバランスを大きく左右するような事態に貢献したんだから、船ぐらいいいよね!と楽観的になっていたりんは、義久と亀寿姫を帰国させるというかなり寛大な処置を推し進めた三成に、事情を詳しく知らない者たちから「島津に媚を売っている」「秀吉様のご威光を盾に手ぬるい処遇を推し進めた」といった非難があったことを知るのが遅れた。

もしそれを知っていたら、違うものを褒美として要求していたかもしれない。


ちなみに江戸時代初期の慶長・元和年間に、中国や東南アジア諸国との間で行われた朱印船貿易における「抛金」がわが国における海上保険制度の起源と云われています。

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