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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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肉体改造と茶室の密談

だいっぶ時間が空いてしまい申し訳ありません!

変なとこ歴史に忠実なので説明文が多めになっています。

諸説ありますが、小説として一番面白くなりそうなのを選んで書いていますので、こういう形になりました。

そのため嫁は今回ほとんど登場していません。

その代り?新しい人物がちょっとだけ登場しています。

歩くという動作と走るという動作。

ごくごく当たり前の所作だが、実はこれが思いもよらない事態を引き起こした――




意外なことかもしれないが、江戸時代以前の日本人は走ることができなかったのだ。

厳密には走れなかったというのとは少し違う。

現代の走法が一般的ではなかったのだ。


着物が崩れないように今と違い、同じ側の手と足を同時に出す歩き方をしていた。

これがいわゆるなんば歩きというもので、現在のような手と足を交互に動かす歩き方をねじり歩きといい、これは特殊な技術として存在してした。


そう。忍者や修験者、飛脚や猟師たちなどがその技術者だったのだ。

武士もまたその技術保持者で、戦の時に走れるよう訓練しており、その職種や家ごとに歩行法や走法が伝わっていた。


着物だけではない。

地形もあった。

日本は起伏に富んだ土地が多く、その上当然ながら道路状況もよろしくない。

舗装されていない道は歩くだけでも大変だ。

そんなところを走ったりなんかしたらどうなるかは推して知るべしである。


体育の授業などのない時代、身体の使い方は日常生活の延長線上にあった。

そのため一部の職種を除いて長距離をラクに歩けるなんば歩き程早く走ることができる利点を持つねじり歩きは必要とされなかった。

そのため一般的な農民などは行進、駆け足、急な方向転換、匍匐前進ができなかったのだ。


では現在の日本人はなぜ走れるのか。またねじり歩きはいつから広まったのか。

実はねじり歩きは明治時代、フランス人によって伝わり、富国強兵制度の一環として学校教育の一環で西洋軍隊式の行軍の練習をすることにより広がっていった。


つまり現在の日本人が普通に腕を振って走ることができるのは小さいころから体育の授業で走り方を習ったり、スポーツ選手が走るのを見て学習するからなのだ。

小さい子はそんなものを見ていないけれど走ったりできると思うかもしれないが、それは親の姿を見て学んでいるからで、この当時の子供たちの場合は親がなんば歩きなので自然となんば歩きになるのだ。





さて。ここでこの時代の例外を一人紹介しよう。

石田三成の正室であるりんは平成に生きた記憶を持つ転生者というべき存在。


彼女はこの時代に生まれ変わってから新たに身につけた体術――なぎなたや舞踊などはこの時代の人たちと同じ体の使い方をしているが、歩行などは自らの意識に基づいて身体を動かしている。

つまり彼女は日常生活では西洋的な身体の使い方をしているのだ。


彼女は健康維持のため普段から運動を心掛けている。

その理由の一つに病気を治す薬を作り出せないから。というのがある。


現代の知識を用いれば治せる病というのはこの時代にはたくさんある。

例えば青かびからペニシリンを作り出せばたくさんの人たちが助かるだろう。

けれど彼女は医者でも薬剤師でもない。

青かびからペニシリンを作り出すことができるということは知っていても、どの病気にはどれくらいの量投与すればいいのかはわからない。

彼女がそれを知るにはたくさんの人に人体実験を繰り返すしかない。


毒と薬は紙一重。

そうして彼女はその知識を封印することに決めた。


健康は衛生管理とバランスのとれた食事、適度な運動で保たれる!というスローガンでなんとかやっていこうと決めた彼女だが、その適度な運動というのが思わぬ副産物をもたらしたのだ。


例えば健康にいいからとやっているラジオ体操。

これを何の気なしに広めたのだが、これはリズムに合わせて動く訓練と言い換えることができる。

この時代の一般人が行進、駆け足、急な方向転換、匍匐前進ができなかったというのは前述したが、その行進の訓練にもなったのだ。


ちなみに腕立て腹筋・背筋・柔軟にランニングも同様に行い、広めているのだが、実はこの時代の人が走れないということに彼女が気付いたのは幼少期まで遡る。


道具のない状況で行う子供の遊びは数々あるが、その代表的なものとして鬼ごっこが挙げられるだろう。


幼児だった彼女も護衛役の大人たちと外で鬼ごっこをした。

すると――あっという間に大人たちを置き去りにしてしまった。


「「えっ?!」」


両者は非常に驚いた。

持久力では相手が遥かに勝るのに、それを帳消しにするほどの距離をほんの少し走っただけで作り出してしまったのだ。


それも無理はないと言える。

片やちょっと走り方をかじった程度。

一方幼児といえども走るための訓練を行った記憶があり、早く走るコツも知っている。

その差は歴然としていた。


分かりやすく言うと一般人がかけっこレベル。この時代の走れる技術者たちが走るのが早い一般人レベルで、りんは陸上部レベルといったところだろうか。

もちろん持久力やなんかは別問題になってくるが。


しかし走れるということがそこまで重要なことだとも思わなかったため、自分の家に仕えている者たちや、自ら雇い入れた孤児たち、また石田家に仕える者たちなどにも走り方を教えてやった。

あっという間に領内に広まったが、日常生活において走ることなどまずないため、他の人間には知られていない。


一般人は走れない。という事実と忍者や修験者は走れる。という二つの事実からりんは一つの結論を出した。

すなわち、彼らが有する超人的な能力のうち一つは走れるということなのだと。


飛脚はふんどし姿だし、修験者はたまに狼を拝みに来るので何度か見たことがあるが、袴よりもズボンに近い恰好をしている。

両者とも一般人に比べるとかなり走りやすそうだ。




「外人さんたちのイメージするNINJAほどじゃなくてもそれなりに期待していたんだけどなぁ・・・」


はぁ・・・と分かってはいたもののがっかりしてしまうのは仕方がない。


「?何か言いましたか?叔母上」

「いいえ。気のせいではないかしら。

つい先日は真田十勇士の一人を先触れに寄越してくれたけど、今日は一人なの?」

「護衛はいますけどね。そちらは今日は別件で出ております」

「あら。何かあるのかしら」


甥っ子と先日の景勝さんの件についてお茶会を開いていたのだけど、つい思考が脱線してしまった。


私が忍者隊(とは呼ばれてないようだけど)を欲しがっているのを知っていて機嫌取りに寄越すあたりしっかりしているというか、さすがあの義兄上の息子というべきか。


ネタがわかってしまってもやっぱり欲しいなぁ。忍者。

サスケとかシカマルとか乱太郎とかなら名前付けても大丈夫だと思うんだよね。

さすがにナルトとか我愛羅とかはダメだろうけど。


諜報・破壊工作員などとしてではなく、完全に趣味で欲しがっているりんであった。





本人とその夫である三成は走れるということにそれほど意味を見出していないが、軍事的有用性に気付いている人物もいる。


左近である。


石田家は現在超人的な速度で移動できる軍勢を抱え込んでいることになる。

そこにりんや三成、世話をしているごく一部の者だけであるが狼に命令を出すことができる人物がいる。

戦術や戦略次第ではかなり大きな戦働きができるだろう。


「なんで兵力の質を引き上げることで軍事力を上げることに成功した当の本人が気付いていないんだ・・・!」


嘆いているんだか憤っているんだかわからなくなってきた左近だが、そもそも彼女は走るということは習わないとできないスキップのようなもの。として認識してしまったのだから、認識に齟齬が起きるのは仕方がないことなのだ。

いくら平和ボケしているとはいえ、戦場でスキップするというような発想が出てくるはずがない。



甥っ子とのほほんとお茶をしながら上杉家に変なこと吹き込んでいないかを聞き出そうとしつつ、忍者というロマンに思いを馳せるりんであった。






一方その頃夫である三成は秀吉・秀長兄弟と千利休と共に茶室にいた。


「――大友殿から『島津家久が豊後を侵したので援けてほしい』との書状が届きました」

「ふむ」


非公式な場であるが、この場での決定は重要な意味を持つ。

三成は書状を手渡し、秀吉の言葉をじっと待つ。


「三成」

「はっ」

「島津征伐にかかる予算案の作成と兵站の計画を作成せよ」

「かしこまりました」


「秀長」

「はい」

「誰を行かせるか、人事を頼む」

「わかりました」


「利休」

「はい」

「商人たちとの交渉は任せた」

「謹んで承りましょう」


秀吉の命にそれぞれ了承の意思を示す。

それが終わると秀吉が意識を切り替えたのを察し、三者三様に態度を改める。


心もち砕けた空気を醸し出す面々に、三成は嫁から託された茶菓子を差し出す。

出された茶菓子に手を伸ばしながら秀吉は大きく息を吐いた。


「やれやれ。もう少し落ち着いていられるかと思ったんじゃがのぅ」

「ですが遠征は来年以降になると思いますから、少なくとも今しばらくは落ち着いていられると思いますよ、兄上」

「まぁ仕方ないの。

おぉそうじゃ!遠征の後な、あちらの方の港を場合によっては手入れするかもしれん。

その場合三成、堺の実績があるお主に任せたぞ!」

「と言われましても。

あの時は私だけではなく嫁も家臣も手伝ってくれましたので・・・」

「ならば嫁御も連れて行って協力してもらえばいいんじゃ!」

「連れて行って、ですか?」

「うむ!あちらにはなぁ・・・嫁の姿を見た男を切り殺すくらい嫉妬深い奴がおってな。

その嫁御の相手をお主の嫁に頼みたいんじゃ。

それだけ溺愛しておる嫁の言うことならばあっさり聞いてくれそうじゃしな。

おまけに強いことで有名な九州の男よりも強いのは九州のおなごじゃと言うし、そちら方面からも懐柔していけたら言うことなしじゃ」

「女性を懐柔ですか・・・」


秀吉の言葉に茶室に微妙な空気が流れる。


「九州まで遠征に行けばまたそちらの姫君を娶ることになるかもしれないですな」

「ぐっ!」

「兄上はモテますからなぁ」

「天下人であるということを知らない娘からも好かれていらっしゃいましたしね」

「わ、わしもうこれ以上嫁はいらんのじゃがなぁ・・・

子供もできそうにないし。いや、頑張ってはいるんじゃが。諦めるつもりもないし。

ただ・・・おねはいいんじゃが、それ以外の嫁同士が怖いんじゃよなぁ」

「あぁ~。義姉上相手には皆さん良好な関係を築いてらっしゃいますが、それ以外の方々はどうしても寵を争う相手ですからね」

「狼の階級制度に似てますよね」


涙目になる秀吉に苦笑する秀長と自分のところで飼っている狼を思い出し、若干ズレた感想を口にする三成。

現在秀吉が囲っている女性たちを思い浮かべながら利休は秀吉の希望をあっさり否定した。


「残念ながらこれで打ち切りとはいかないでしょうね。

それに・・・茶々殿が秀吉様を恋い慕っていることにはとうに気付いているでしょう?

ご母堂にもよく似てらっしゃる美人ですし、彼女なら意地と気合と根性で側室になって子供も儲けてくれそうじゃないですか」

「いや、なんというか・・・茶々殿は母であるお市殿よりも殿――信長様に似ておられるからなんとなくこう・・・恐れ多いというか」


もごもごと口ごもる秀吉。


「好かれるのは嬉しいんじゃが、押し倒す勢いで来られると及び腰になってしまうというか・・・わしの周りはどうしてこう強いおなごばかりなんじゃろうのぅ」


はぁ・・・と溜息を吐きながら利休の淹れてくれたお茶をすする秀吉。

その言葉に三成の脳裏に先日嫁が言っていた単語が浮かび上がってきた。


「嫁が言っていた肉食系女子というやつですね」

「あ、それじゃ!納得したぞ!!

食われる!と思ったことが何度かあったんじゃ!!!」


ぽつりと零れた三成の言葉に過去を思い出したのか半泣きの秀吉が泣きつく。

人たらしで有名な秀吉は女性にもモテモテで、中々に大変のようである。


「まぁそんな風に言っていてもおなご怖い!と男に走る気配の欠片もないのだから、秀吉様の女好きも筋金入りですよねぇ」

「利休。それでよかったんだよ。これで男色に走られたりしたらそれはそれで面倒くさいだろうが」


利休の感想もひどいが、弟である秀長のコメントも中々である。

そんな二人の言いようをしっかり聞きとがめた秀吉はターゲットを三成単独から三人に変えて、こんな風にモテても嬉しくない!としばらく愚痴を言い続けたが、慣れきっている三人は聞き流しながら三成の嫁特製茶菓子を堪能していた。

女性にもてすぎて泣きそうになる秀吉さんっていうのも珍しいんじゃないだろうか。と思わなくはないのですが、肉食系女子にモテまくるのがうちの秀吉さんなのです。

でも泣きそうにはなっても女性不信や男色になったりはしない辺りはさすがの秀吉さんです(笑)

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