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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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嫁の企み

ついに嫁の企みが明らかになります。

ただしまだ実行されてません。

そして三成さんのお友達が登場!

きっと彼は夫婦のボケに突っ込んでくれる人材ですが、基本的に三成さんのお友達は三成さんと同じくボケ属性な気がします。

日本の最高権力者にして、切り札的存在。

まだ人間宣言をする前の、現役現人神様。


今上天皇陛下。


その方とお会いするべく、私はお屋敷まで赴いたのだが――


「建物、ボロボロ・・・」

「朝廷は金ないですからね」


予想だにしないほど荒れ果てたお屋敷に呆然と立ち尽くしてしまった。





実は少し前から天皇陛下とお会いする機会はないか、考えていた。

以前から作っていた焼き菓子やなんかがこの時代でも通用するとわかり、私だからできる関ヶ原フラグを折るための行動を考えた時に、ふと昔取った杵柄ではないが、この時代にはまだないものをこれ以外にも作れるのではないかと思ったのだ。


そのためにはできれば謁見したい。

けれどいきなりお会いしたいなどと言い出したら不審に思われないかとも思った。

そのため機会をうかがっていたのだが、ちょうどいいタイミングで直江殿が三成さまに馬をくださった。


うちには狼がいるため、頂いた馬を持て余してしまい、どこかに馬を差し上げよう。そういう話になった時に、閃いた。

この馬を今上陛下に献上するという建前があれば堂々と謁見に赴くことができる!と。


そうして緊張しながら赴いた先にあったものは、荒れ果てた建物だった――





「馬をちゃんと飼える・・・わよね?」

「大丈夫だと思いますよ。たぶん」


屋根が雨漏りしたまま、門扉が壊れたまま、修理されていない。

たぶん修理に割く費用がないか、もしくは後回しにされているんだろう。


こんな状態のお屋敷に住む人たちに馬を献上しても大丈夫か、不安になってきた。


「まぁでもこんな状態でなきゃそもそもお会いすることすら不可能だったわけですし」

「それはまぁ・・・三成さまが先日官位を頂いたとはいえ、だいぶ下位のだし。

私自身には官位なんてないし。

朝廷が権力を掌握していたらお目にかかることすらできなかったというのはわかるんだけど・・・」


いいんだか悪いんだか、悩ましいところである。

しかしいつまでも門の前に立っているわけにもいかない。


意を決して「ごめんください」と声をかける。

さぁ、ここからが正念場である!





通された部屋で平伏しながら、ひたすらにパニックになっていた。


ヤバい。まさか今上陛下にお目通ししていただけるとは思ってなかった。

よくて御簾越しとか、お伝えしておきますとかだと思っていたのに!

目の前、といっても距離はあるけどに座ってらっしゃるんですけど~?!


つか、現在進行形の現人神様とか言うけど、実際のところは人間であることに変わりはないし!とか思って舐めてかかってたけど、怖い。

この怖さは畏怖に近い。


遠目で見てもわかる、名だたる武将の方とかの怖さとは別種の怖さがある。


な、泣きそう。

たぶんこれ、わざとやってる。


「石田三成の室だというが・・・そやつか?それともその主か?

何を命じられた」


あ、声が冷ややかだけどそういうことか。

三成さまか秀吉様が皇室に無茶振りか何かしてくると思ったんだ。

つまり私自身に何かあるとかじゃ、ないんだ。


「恐れながら申し上げます。

関東管領上杉家より頂いた馬を献上すべく参上した次第にございます。

また、私個人からも献上したいものがありましてそちらもお持ちしております」


空気が変わった。

張りつめていたものが若干ゆるんだように感じられたが、まだ怖すぎて顔を上げられないし、また上げていいとも言われていないのでひたすら平伏したまま言い募る。


「こちらは皆、武家の方々にも喜んでいただけた品であり、皇室に献上するに十分な品であると自負しております」


平伏したまま傍らの荷物を示す。

ふ、と息を吐いたのがわかった。


「それで、これだけの品を献上することで何を求める?」


対価に何を求めるか問われた。

さすがだ。そう思った。

理解が早い。

何の見返りもなく献上してくることなどないとわかっている。


「私は南蛮商人と貿易をしております。

その際に、これらの商品や新たに作ったものを皇室御用達の品として扱わせていただきとうございます。

もちろんあちらに売り込む商品は皇室に献上してからとさせていただきます」


「・・・南蛮商人と、交易を?そなたが?」

「はい。私個人的に欲しいものがありまして。そのためには南蛮商人と商売をするのが一番の近道になるかと考えました」

「欲するものとな?」

「はい」

「それはなんだ?その返答次第では献上の品、受け取ろう」

「それは――わが夫、三成と末永く過ごす未来にございます」


関ヶ原フラグをへし折ってね!


「自分の夫とか。夫の仕える主のためではないのか?」

「わが夫は主のためにひたすらに働いております。

私が夫のためにすることはひいては主である秀吉公のためにもなると、そう考えております」

「・・・夫は、またその主は承知のことか」

「いえ・・・私の独断にございます」


怒られないといいなぁ・・・

多分秀吉さんは天皇家を政治的に利用するだろうしなぁ。

三成さまは気にしなさそうだけど。


「よほど夫に惚れ込んでいるようだな」

「はいそれはもう!」


あ、思わず顔を上げてしまった。

しかも握り拳を作って満面の笑みを浮かべた状態で。


やっちまったぜ~ぃ!と内心冷や汗だらだらで焦っていたら、ぷっと噴出す音が。


今上陛下は扇で顔を隠しながら、また周囲に控えていた方々も顔をそむけながら笑いをこらえている。

お供として連れてきた、実家にいたころからの部下は部屋の外で控えていたんだけれども、やり取りはきちんと聞こえる位置にはいたため・・・恐る恐るそっちに視線を向けたら同じくやっちまったぁ!と思ったようで、額に手を当ててがっくり項垂れている。


けれど何がどう転ぶかはわからないもので、これで警戒が解けたようで、そのあとは和やかなまま終えることができた。





皇室には献上品として。それ以外の大名家などには売りつけるという形で皇室に対する権威を現すことでより皇室御用達の品という箔付けに効果を持たせることにしようということで話がまとまった。


スペインやイギリスなど日本まで交易に来ている商人たちのいる国には王家があるため、皇室御用達の品というわかりやすい箔付けはきっと多大な効果をもたらすことだろう。


この看板を基に私が売ろうとしているのは――前世で趣味の一つだったコスプレの際に活躍した特技。レース編みとアクセサリーだ。


コスプレの衣装を自作する時にレースが高値で、いっそのこと自分で作っちゃえばいいじゃん!となったのだが、それが高じてネタが出てこない時などの現実逃避によく作っていたため、編み図がなくても色々と自作できてしまうまでの腕前になった。


アクセサリーもキャライメージで作ったりとかしていたため、この時代でもある程度は自作できると思う。

もっとも銀細工やなんかの腕のいい職人がいるため、デザインして制作を依頼する形になると思うけど。


秀吉さんの派手好きな趣味によってこの時代は派手目なものがよく作られていたと歴史の授業で習った(ような気がする)ため、派手なアクセサリーなんかも作れるはずだ。


派手なというか奇抜な鎧兜や刀の装飾品を作れる技術があればアクセサリーだってきっと簡単なはず!日本人の職人クオリティを私は信じる!


日本産の天然石だって質がいいのがあるけど、この時代は数珠くらいでアクセサリーをつける人はほとんどいないから、国内シェアは独占できるだろうし、ブローチくらいならこの時代でも付けるんじゃないかな?

レースは打掛の上に羽織れば下の柄も見えるから、同じく使えると思うし、端切れでも綺麗だから国内でも需要はあると思う。


近世ヨーロッパの肖像画には男の人でもレースをたくさん使っているから、海外の需要はかなりあるだろうし、日本の絹は質がいいという話だから、総シルクのレースなんて作ったらきっとすごいことになるだろう。


そうしたら――ジャガイモとサツマイモを輸入して飢饉に備えるんだ!

そして輸入したそれを九州や東北に売って恩も一緒に売るんだ!!


ふっふっふ。完璧な計画だわ!と自画自賛していたが、彼女は大きな見落としをしていた。

それは彼女が扱おうとしているものの単価だ。


宝石を使った金細工や銀細工の宝飾品は言うまでもないが、レースはヨーロッパでは富と権力を誇るうえでかなり重要なものであった。

かの有名なエリザベス1世が「イタリア産のレースは王族しか付けてはいけない」という命令を出したと言えばその重要性も理解していただけるだろう。


ちなみにエリザベス1世は1558年に即位したイギリスの女王であり、1533年生まれの1603年没という、まさにこの時代を生きている人間である。


イタリアのベネチアンレースが最高だと評判になるとヨーロッパの貴族は一斉に買い求め、フランスやイギリスの財政が傾くこともあったという。

各国は自国のレース産業を守るために高い関税をかけたり輸入を禁止したりしていたというが、この時代にはまだ編み出されていない手法で編まれたレース。


それがどれほどの利益を生むのか。

少なくともジャガイモやサツマイモを輸入して終わりな規模でないことだけは確かだ。





しばらくして三成さまが遠征からご帰還された。


「おかえりなさいませ!」

「む。客人を連れて帰った」

「はい。おもてなしの準備はできております」


栄養のバランスを考えて作った料理の数々。おまけに美味しいとなれば食が進むのは当然。

細マッチョぎみな三成さまは意外によく食べるけど、今日連れてこられた客人もよく食べるなぁと感心してしまった。


そういえばうちの家臣なんかは私たちと同じようなものを食べているため、栄養のバランスを考えて作られた食事や狼たちが獲ってきた肉などを食べる機会がよその人たちよりも多い。

そのため何気にうちの家臣たちはよその人たちよりも全体的に体格が良かったりするんだよなぁ。


「そういえば上杉殿がそなたの甥っ子は元気にやっていると言っていたぞ」

「え?甥っ子って・・・あぁ、そういえば今あの子上杉殿のところでご厄介になってるんでしたっけ」

「とはいえもうじき上杉から秀吉様の下へとやってくるが」

「へ?え?だって今実質人質としてあちらにいるんですよね?

――あぁ、後ろ盾になるんですね。秀吉様が」


割と最近気づいたけど、私の甥っ子って真田幸村と信之なんだよね。

幸村って名前じゃないから気付くのが遅れちゃったけど。


こっちに引っ越して来たら会えないかな~?偽名を使うんだったら幸村ってどう?!ってお勧めしたい。


そんな甥っ子は今家康さんとの関係で上杉さんちで人質をやっていたはず。

それが秀吉さんの下に送られてくるってことはそういうことだろう。


「それと来年こいつの父親と共に堺の町奉行を務めることになった」

「こちらの方のお父上と、ですか」

「小西行長と申します。三成殿にはいつもお世話になっております」

「あ、いえいえこちらこそ。うちの殿がいつもお世話になっております」


食事に夢中になっていたが、三成さまに示されて慌てて向き直る。

なんとなく改まって二人してぺこっと頭を下げる。


「あとこやつは摂津守に任じられた」

「あぁ、そのお祝いだったんですね。

おめでとうございます。お二人とも」


三成さまが前もって客を連れて帰るから宴の準備をしておくようにと言ってくるなんて珍しいことだなぁと思っていたんだけど、そういうことか。


多分自分のことよりもお友達である行長さんを祝いたかったんだろう。

自分のことのお祝いなら来年正式に任ぜられてからでも遅くはないんだし。


二人が楽しげにお互いの昇進?を祝いあっている姿はなんだかとってもほのぼのしている。


そっかぁ、堺の町奉行かぁ。


堺には港もあって南蛮貿易の最大拠点だって聞いたことがあるんだけど・・・雇った女性陣にレース編みをマスターしてもらうのを予定より早めようと決めた。

嫁の企みはこれでした~。

この話を書くにあたって、せっかく主人公が女性なんだから、女性ならではのことをやらせたいなと思っていたんです。

仮想戦記物とかではあまり使われることのない現代女性ならではやり方で関ヶ原フラグをへし折るために動いてもらおうと。

その結果がこうなりました。

これを予想していた人は――いないとちょっと嬉しいです。

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