女子会開催
おね様主催で女子会が開催されます。
提案者はもちろん嫁です。
茶々様も出ますが、女子会には出席してません。
なぜなら女子会の参加資格は旦那持ちであることだからです。
領地内ならばともかく、さすがによそでは狼ではなく馬で移動している。
今日のおね様主催の女子会も当然馬での移動だ。
久しぶりに馬に乗ったからお尻がすでに痛い。
女子会はこの時代当然のようになかったので私が提案した。
女性陣が旦那が遠征に行って暇そうにしていたので、同じ旦那が遠征に行った者同士、親交を深めませんか?と。
そしてそれをおね様が面白がってくださり、主催者を買って出てくださったのだ。
さすがに私の身分で奥方様たちを集めるのはちょっと無理があるので。
女子会は意外に女性陣の食いつきがよかった。
あまりこの時代の女性は出歩いたりとかしないのもあるし、女性たちで集まって何かをすることも少ないからだろう。
食いつきがよかった一因に私の手製の蜂蜜を使った焼き菓子が食べれることや、私作の新作の書物が読めることや、蜂蜜を使った化粧品のサンプルが使えることもあるだろうけど。
提案者だから色々気を使って用意してみました!という体裁をとっているので、主催者を差し置いてしゃしゃり出ているということにはならない。はず。
これまでにも交流のあった方もいるけど、今回初めてお会いする方もいる。
できれば定期的に女子会を開いてネットワークを確立したいと目論んでいたりするので気合が入る。
私の目的は女子会を通じて武将の奥方たちと親しくなって、情報を引き出したり、こちらに引き込んだりできないかと画策することなんだけど、きっとおね様も豊臣政権を確固たるものにするためにこの女子会で同じようなことを目論んでいるんだと思う。
豊臣政権が盤石となればたぶん関ヶ原の合戦も起こらなくなるんだろうけど、それがイコール三成さまの安泰にはならないと思うので、やはり画策はしておくべきだろう。
色々話のネタも用意したし、いざ勝負!!と思っていたんですが――
「で、石田殿って実際どうなの?」
「あの愛想笑いの一つも浮かべられないような男を相手に三人目?すごいわねぇ」
「この大きさだと出立前に?・・・やるわね」
まさか私の懐妊ネタが一番の弄りネタになるとは・・・!!
「え、え~っと・・・」
思わず助けを求めておね様の方に視線を向けるが、微笑ましそうな表情をされてしまった。
「あの不器用な三成がお嫁さんとうまくいってて嬉しいねぇ。
ほんの少し前まではお嫁さんをもらうことすらしないんじゃないかって気をもんでいたってのに」
あ~・・・否定できない。
「すいません、懐妊の秘訣を教えてくださいませんか?
話を聞いている限りでは石田殿はしょっちゅう屋敷を開けて遠征に行っているようなのに、すでに二人のお子さんがいらっしゃって・・・しかもまた懐妊なんて!
うち、なかなか子供ができなくて」
「ひ、秘訣ですか?」
「えぇ!」
「この前助言いただいた通りにやってみましたら懐妊いたしましたの!
ですからぜひこちらの方にもお教えして差し上げてくださいな!」
「あ、そうなんですか。それはそれは。おめでとうございます」
「ありがとう」
実にうれしそう、というか誇らしそうな笑顔を向けられ、妊娠の秘訣についてすがるように袖をつかむ女性に話すことになった。
切実さが怖い。
「遠征に行く前にしばらく会えなくなるっていうことでお互いに盛り上がって、結果――っていうのが私たちの場合多い気がしますね。
先日した助言っていうのは・・・」
結婚した女性が20代も半ばになると話題に上るのは妊娠ネタっていうのはどの時代も共通なわけで。
前世でも避妊の方法とか、産み分け方とか妊娠の方法とか女子会で話してたなぁと思い出しながらこの時代でもできる簡単な懐妊術を教える。
生理日から計算して妊娠しやすい時期を判断することはこの時代でも可能だし。
まぁ基礎体温が計れればもっといいんだけど。
水銀の体温計って作れないかな?さすがに。
水銀自体はあるんだけどな~。
おね様が興味深そうに聞いている。
さすがにおね様のお歳では自分で妊娠しようとは思わないようで、もう少し前に知れていれば・・・!とはおっしゃっていたけど、秀吉さんの側室が相手する場合に計算して一番いい子をあてがおうとのことだった。
大奥はおね様の管理下に置かれてるものね。
連れてくるのは秀吉さんだけど。
ひとしきり妊娠ネタについて話したら、当然のように夜のお話になってしまった。
旦那さん聞いたら立ち直れないんじゃないかしら?と思うような話題も飛び出したりしたけど、うん、いつの時代でも男女の話って変わらないわ。
男性が聞いたら女性不信になりそうな話もしたけど、女子会は大成功で幕を下ろした。
次回の開催も予定され、詳しい日取りと参加メンバーはまた後日。となった。
私としても新商品の化粧品をお試ししてもらった結果、お買い上げしてくださることが決まったり、お菓子や書物でハートを掴み、個人的にも仲良くなったりとそれなりの成果を上げた。
さて帰りますかと意気揚々と進む私だったが、そうは問屋がおろさなかった。
「それでね!なんていったと思う?
『茶々殿は実に美人になられたなぁ。お母上にそっくりになってきた』って言ったのよ!
女心がわかってないわ!
誰かと比べられてうれしいわけがないでしょうが!」
「そうですね」
茶々様、のちの淀君につかまってしまったのだ。
ぷりぷりと怒る彼女は可愛らしい。
「しかも私がまだ怒ってるのに遠征に出てしばらく戻らないっていうのよ!」
「それはいけませんねぇ」
しかしなんだかツンデレに成長しているような気がする・・・?
「まったく!また遠征先で女の人を捕まえて帰ってくるんじゃないでしょうね!?
私を美人と言って口説いておきながら!」
口説いてはいないと思います。
のど元まで上がってくるけど、ぐっとこらえる。
淀君は秀吉さんのことを見下してて、不倫してたって話もあったくらいだから嫌ってるんだろうなぁと思っていたけど・・・実際のところは違ったようです。
身分が高く、美人である自分の相手はそれなりの人間でなくてはいけない。
天下人だし、まぁ猿だけど我慢してあげるわよ!みたいなツンデレさん。
お前のためじゃない。秀吉様のためだ。といって清正さんたちのお仕事手伝う三成さまとどっちがよりツンデレかしら?
まぁ後世の人間にはあった出来事はわかっても、その人の感情まではわからないからねぇ。
秀吉さんの人たらしは普通に女性相手にも発揮されてました。
そりゃそうだ。男性限定のたらしなんて、それってどんなBL設定?
天海さんの正体が明智光秀だっていう説もあったけど、結局普通に死んでたし。
「討ち取ったと言ってこちらの正当性を主張するためのハッタリとかじゃなかったんですね」と言ってみたところ「もしそれで相手方に本人を引き出されでもしたらその方が面倒だろうが」と一刀両断されてしまったんだよね。
言われてみればその通り。
天海さんを味方に引き入れて家康さんに味方しないようにできないかな~?
でも天海さんってこの時代から天海さんってお名前なのかしら?
などと現実逃避しながら茶々様のお話を聞いていたら気づかれました。
「聞いてるの?!りん!」
「もちろんでございます」
ちなみにりんとは私の名前である。
前世と同じで最初に呼ばれた時はビックリしましたね。
普段はめったに呼ばれないけど(私が石田殿の奥方と呼ばれると非常に嬉しそうになるので名前よりもそちらで呼ぶようになった人が多いとか、まさかそんな)茶々様にはわりとよく呼ばれる。
秀吉さんが保護した当初、田舎者だとなめられないように私に書物を用意させたりはちみつ入りの焼き菓子を用意させたりして、顔を合わせることが多かったのと年齢がそこまで離れていなかったのもあってかなんだか気に入られたのだ。
茶々様も妹さんたちの前ではお姉さんなのに、私の前だと妹キャラになるのよねぇ。
とはいえ茶々様ももう16歳?くらい。数え年だから年齢がよくわからないんだけど色々と育ってきているのに(背は私をとっくに抜かした。というかこの時代でなくても結構長身のような気がする)秀吉さんはなぜ手を出さないんだろう。
お市さまは儚げな美人さんで茶々様は生命力あふれる美人さんに育ってきている。
私はなんとなく秀吉さんはある程度大きくなったら茶々様をとっとと自分のものにしてしまったんだと思っていたのに、歴史の通りなのか違うのか、未だそんな気配すらない。
茶々様は妹たちに手を出される前に別のところに嫁がせようと企んでいるあたり、秀吉さんの周りに着実に包囲網が敷かれている気がします。
茶々様が押し倒して側室になったなんて結果にならないことを祈っておこう。
「まったくもう!秀吉様ったら!
あちこちでいろんな女を誑かして!」
「そうですねぇ」
政治的な思惑とかもあるけど、普通に秀吉さんに惚れ込む女性も多い。
茶々様からしたら気が気じゃないのかもしれない。
「あんまりにもひどい様だったらりんに伯父様と秀吉様のお話を書いてもらっちゃうわね!」
「勘弁してください!むしろそれは私に対する攻撃です!!」
「あら?秀吉様はそちらの気がないので懲らしめたいときには一番効くんじゃないかってこの前おね様と話してたんだけど・・・」
「何の話してらっしゃるんですか!
しかもおね様相手に?!」
伯父様って、まさか信長様ですか!?
姪っ子よ!いいのかそれ!?
っていうか正室であるおね様も公認?!
「おね様と秀吉様を懲らしめるにはどうすればいいかっていう話をしたときに、りんに伯父様と秀吉様のそういう話を書いてもらって、それを寝物語に朗読するっていうのはどうかしらって話が出てね」
「泣きますよ」
秀吉さんも私も。
「はぁ~あ。まったく。どうしたら秀吉様がもっと私を見てくださるようになるかしら?」
「さぁ?でもまぁ時間の問題のような気もしますけどね。
茶々様はお美しくなりましたから。本当に」
「あら。稲荷の姫君にそう言われると自信がつくわね」
「その呼び方やめてくださいな。お恥ずかしい」
楽しそうにクスクス笑う茶々様。
稲荷の姫君とは私のあだ名の一つだ。
狼を飼っているなんて、よその人間に言っても信じてもらえないのでわざわざ話すような部下はいない。
私も別にそんな話はしないんだけど、たまに修験者がうちの狼にお供え物を持って拝みに来る。
彼らの情報網って謎だ。
っと話がずれた。
狼の存在はあまり認知されてはいないけど、それ以外のことは結構知れている。
たとえば私が旅芸人たちのスポンサーをやっていたりだとか、小説を書いているだとか、収穫量を大幅に上げたとか、近所のお稲荷さんに熱心にお参りしているだとか。
お稲荷さんのご利益は芸能上達・五穀豊穣・家族円満などがあげられる。
そのため私が熱心にお稲荷さんにお参りすることでそのご利益にあやかっているのだろうといううわさが出た。
当然単なるうわさだ。
だって熱心にお稲荷さんにお参りしてるのは、そのお社の前にいるお狐様が三成さまによく似ているからなだけだし。三成さまマジ狐顔。
ちなみに三成さまは私がそんな風に言われているのを聞いて「嫁は狐というよりは猫に似てる気がする」とのことでした。
天然!でもそんなところも好き!!
その後しばらくお話をして、お暇をした。
この女子会で有力武将の奥方たちに対する売り込みは済んだ。
いよいよ次の段階に進もうと思う。
次の段階がうまくいけば――私は歴史を大きく変えることすらできるようになるかもしれない。
嫁の企みがまたしても次回になってしまった・・・!!期待されてた方すみません!
茶々様があんなキャラだと想像していた人は多分いないだろうなぁと思いながら書きました。
そして当然今後も出ます。