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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
12/39

島左近の勧誘

ついに島さん登場です!

お待たせいたしました!!

相変わらずどこかズレた三成さんのスカウト話です。

ここしばらく柴田殿との合戦の準備で忙しかったはずなのに・・・なんだか妙に三成さまの機嫌がいい。


「まさか浮気?!」

「三成様に限ってそれはあり得ないです」


動揺して口に出していた言葉にきっぱりと否定の言葉が返ってきた。

思わずそちらに視線を向けると、古参の石田家家臣のお一人がいらっしゃった。


「ないですじゃなくてあり得ないですなんですね・・・」

「色恋にうつつを抜かす三成様が想像できますか?」

「できません」


そう言われたらこちらもそう返すしかない。


「でも・・・仕事が忙しいわりになんだか機嫌よくないですか?!」

「むしろあの方は暇な方がお嫌いでしょう。

仕事中毒ですから」

「うぅ~・・・確かにそうなんですけれども!

忙しい時ほどイキイキしてるのは事実なんですけれども!それとは違う機嫌のよさっていうか!」

「あぁ・・・それなら俺、理由知ってるかもしれません」

「な、何!?」

「お前が?」


たまたま通りかかった、ここしばらく三成さまのお付きをやっている人物(not小姓)からの証言に私達は食いついた。

いや、主に食い付いたのは私ですけどね。


「三成様、味方の被害を少なくするべく交渉であちこちに文を出したりとかしてるんですけど、そのうちの一人と文を交わしてる間になんか意気投合したらしくって。

今じゃすっかりご友人ってカンジで。

それでじゃないっすかね?」

「ご友人・・・大谷殿達くらいしかいないもんな・・・」

「お友達ができて喜ぶ三成さま・・・!可愛過ぎる!!」


お友達増えてよかったねとそっと目頭を熱くさせる古参の家臣たち(気付けば増えてた。盗み聞きよくない)と、可愛らしい理由に思わず拳を握りしめてしまった私。

反応が違い過ぎて冷やかな眼で見られたけど気にしない!


そんなこんなをしながらも日々は流れ、柴田殿と秀吉さんの戦いが『秀吉様勝利で終わった』という文を三成さまから頂いた。

口に出して言う時は秀吉様なのに、心の中で思う時は秀吉さんなのは前世の影響かしら?とか思いながらその文を眺める。

戦後処理とかでまだしばらくごたごたするだろうけど、一度こちらに戻ってくる。という裏なんて何もないほとんど業務報告に等しい内容。


そして――それとほぼ同時に送られてきた秀吉さんからの文。

内容は浅井三姉妹を預かることになったから、不自由しないよう手助けしてやってくれというもの。

主家筋のお嬢様たちに、成り上がりの田舎者がとなめられないよう手を貸せというわけだ。

まぁある意味適任だろう。

時代を先取りしている女ですからね、なんせ私は。

はちみつ入りの焼き菓子でも振舞いますかねぇ。


二つの文を見比べてはぁ・・・とため息を吐く。


ここしばらく私の仕事の関係で商人達と文を交わしたり実際に会って話をしたりと動いていたんだけど、当然ながら一筋縄ではいかず、裏を読むようなことばかりしてちょっと疲れていたのだ。

秀吉さんのお手紙もその例にもれず、なものだったんだけど・・・三成さまはやっぱり違いますね!

この時代における清涼剤の様ですよ!!

荒んだ心を洗い流してくれるよう!


「ははうえ~?」

「はは?」

「あらおちびさんたち、いつの間に。

お前たちも早くお父様に会いたいわよね~」

「「はいっ!」」


なんて可愛いの!さすが三成さまと私の娘!

しかも三成さま似!!

よく産んだ私!

しかし・・・三成さま似の男の子もいいよね・・・

後継ぎもいるし。

――戻って来られたらお願いしてみようかしら?





「――というわけで、賤ヶ岳の功績が認められ、秀吉様より水口四万石を与えられた」

「おめでとうございます」


戻ってきた三成さまと向かい合って座り、報告を受ける。

告げられた昇給+昇進?のお言葉に頭を下げて労をねぎらう。


「そこで、新たに人を雇おうと思う」

「どなたか目星をつけられている方でも?」

「うむ。島左近殿に声をかけようかと思っている

一応、一万石ほど以前もらっていたそうだから、二万石でどうかと声をかけてみるつもりなのだが・・・」

「だが?」

「部下も増えたし子も出来たからな。渡辺勘兵衛の時のように、頂いた禄全てを使って雇うという訳にはいかんが、足りないと言われたら、出せるだけは出す。

そうするだけの価値のある人物だ」

「かしこまりました。ではもし足りないと言われましたら、私の方からもお出しさせていただきます。

領地はほとんどございませんが、金子などはありますし。

三成さまのなさりたいようになさってくださいな」

「すまない、苦労をかける」

「いいえ。夫婦ですもの」


そう言うと三成さまはふっと口元をほころばせた。

ぐいっと手を引かれ、自然と三成さまにもたれかかる。


「あら?」


―――暗転



その後は久しぶりに夫婦水入らずでいちゃつくことができました。

そのため、翌日は昼近くになっても床から抜け出せなくなりましたがね。


しかし・・・文机に向かって書き物をしている三成さまと、その邪魔にならないようにその背後で静かに遊びつつ、その様子をチラ見しながら気にしている娘達。

そして仕事が一段落ついたら、娘達を膝に乗せて私作の絵本の読み聞かせをあげる三成さま。

しかも私の様子を気にして、床のある部屋でその全てが行われているとか!!


楽園はここにあったのね!!!





家族仲良く過ごしたその翌日、三成はさっそく出かけることにした。

兵は拙速を尊ぶと孫子の兵法にもある。

ぐずぐずしていては他の誰かに先を越されてしまうかもしれないし、加持を受けてすぐに彼に声をかけたというのも重要な意味になる。

声をかけて断られるならまだしも、声をかけることすら出来ぬまま終わっては、自分でも出すと言ってくれた嫁に申し訳が立たない。


「御免、島左近殿は御在宅であるか?」


門前で声をかけると、ちょうど中にいるという。

ならばと取り次ぎを頼むとなにやら機嫌を損ねてしまったようだ。


「殿・・・勧誘に来たのに、その方に仕えてる小物に喧嘩売ってどうするんですか」

「売ってなどいないぞ?」

「言い方がきつかったですよ。おまけに睨みつけてましたし」

「睨みつけたつもりはないのだが・・・あえて言うなら島殿と会うので多少緊張しているという自覚はあるぞ」

「緊張してたんですか!?っていうか殿でも緊張するんですか?!」

「お主、私をなんだと思ってるんだ」


部下のあんまりな言い様にムッとする。

こいつはこんな風だから以前仕えていたところを追い出されたのだというのに。まったく。



「殿がお会いになるそうです」

「そうか、ご苦労」


驚いて無言になった、というよりは俺が機嫌を損ねたのを察知した部下が黙ったところに小物が戻ってきた。

その案内に従い、屋敷の中を歩いていく。


「こちらになります。

殿、石田様をお連れいたしました」

「入っていただけ」


障子越しに低い声が応える。

小物の手により、障子がさっと開けられる。


「はじめまして、石田殿。

お噂はかねがね」

「こちらこそ」


座しているだけで、かなりの迫力。

筋骨隆々とした体格もそうだが、己の価値をよく知っているのだろう。自信に満ちている。


「それで今日はどういったご用件で?」

「単刀直入に言う。

私の部下になってほしい」

「ほぉ・・・今まで何人かに声をかけてもらってはいますが、全て断っています。

様々な条件を出していただきましたが・・・石田殿は一体どのような条件を出して下さるのかな?」


試されている。そう感じた。

彼が求めているのは石高ではない気がしたが、とりあえず今の自分が示せる物はこれくらいしかない。

まっすぐに、視線で彼を射抜くようなつもりで見据え、口を開いた。


「先の賤ヶ岳の戦いの功績で四万石受け賜わった。

その四万石のうち、二万石でどうだろうか」

「っは!それはなんとも剛毅な。

配下の方々やご夫人は何もおっしゃいませんでしたか?

確かお子さんもいらしたかと」

「お詳しいですな」


正直、彼が自分程度をここまで知っているとは思わなかったので、思わず口をついて出た。

特に含む者はなかったのだが、ぐっと一瞬島殿が詰まった。


「特に何も。と言いたいところですが言われましたな」

「ははぁ、やはり」

「渡辺勘兵衛には『自分の時のように頂いた禄全てを与えるとはさすがに言わないんですね』と言われたし、嫁には『もし足りないと言われたら自分も出します』と言われましたな。

初めて抱えた家臣が頂いた禄全てを差し出して雇った前歴があるからそういう意味では驚かれはしなかったですね」

「頂いた禄全て?!」


さすがにそれには驚いたようで、口をぽかんと開けたまま固まってしまった。

そんなに驚くことだろうか?

勘兵衛は以前秀吉様が「二万石やるからわしの部下にならんか?」と誘ったのを「十万石頂けるなら」と断った英傑だ。

その当時の自分は五百石しか持っていなかったのだから、彼を雇おうと思ったらそれくらいになるのは当然だろうに。

それでもよくそんな少ない録で雇われてくれたものだと感謝しているが。

さすがに少なすぎて申し訳なかったので「百万石の大名になった折にはそなたに十万石を与えよう」と約束もした。


「だから一応、四万石までは出そうと思えば出せます。

勘兵衛を雇ってしばらくは居候をしていましたから。

まぁその時とは違って部下も増えましたけれど、広い意味で言えば部下が持っていれば私が持っているも同然ですし」


例え俺が戦に疎くても部下に戦に強い人物がいれば問題ない。

それと同じことだ。


「まぁ突き詰めれば早い話、食べることができて寝る場所と働く場所さえあればどうとでもなりますよ」

「    」


嫁いできた時、勘兵衛の居候状態だったわけだから、嫁も特に何も言わないだろう。

その場合居候状態から抜け出す禄を頂く前に嫁がどうにかしそうな気もするが。


「噂では秀吉様の威を借るような傲慢な方だとか、色を売って出世しただとか言われてたんですけどねぇ」

「?秀吉様に男色の気はないぞ」

「否定するのはそこだけですか・・・

なんていうか想像してたよりずっと男気のある方だったんですね」

「よくわからないが・・・島殿にそう言っていただけると嬉しいな」

「左近でいいですよ」

「左近」


気付けば左近の表情が柔らかいものになっていた。


「二万石で石田様の部下にならせて頂きましょう」


そう言われ、思わず聞き返してしまった。

「二万でいいのか?」


そう言うと左近は苦笑した。

「多すぎる位ですよ。

どこの世界に同じ知行の主君と従者がいるってんです?

それなのにそれ以上なんて」

「一応、どんな無理難題を言われるのかと覚悟をしてきたのだが・・・そうか」


じんわりと胸が熱くなる。

勇将と名高い島左近を、部下にすることができたのか。そうか。


きっと珍しく自分の顔は笑顔になっていることだろう。

嫁がそれを知ったら「見たかった!」と叫ぶかもしれないな。

秀吉様にもお伝えせねば。

きっと喜んで下さるだろう。

それから吉継たちにも伝えよう。

清正達は何でお前なんかに島殿が?!などというかもしれんな。


嬉しさで思考がまとまらず、支離滅裂になっているような気がする。

ふぅと大きく深呼吸し、冷静さを取り戻そうと試みる。


「よろしく頼む」


そう言って俺は頭を深々と下げた。


嫁作成の絵本は現代の絵本のパロですが、人に描いてもらったものもあります。

そして三成さんの同僚や部下などに子供ができたらお祝いと称してあげたりもしています。

生まれたばかりの赤ん坊時代から味方に取り込む気満々な嫁です。

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