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狐の花嫁  作者: 篠田葉子
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兵站部門と河原者

すみません、島さん登場まで行きませんでした。

賤ヶ岳の戦いにすら行ってません。

華々し戦になる前の舞台裏のお話です。

清洲会議にて織田家の後継が定まり、しばらくは戦のない時期が続くかのように思われたが、それは平和ではなく嵐の前の静けさになるであろうことをお互いによくわかっている。


会議で後継者と定められたのは秀吉の擁立した三法師。

未だ2歳の幼児である。

彼を傀儡に、天下を我がものにしようという秀吉。


そしてそれに対立するのは三男の織田信孝を擁立した柴田勝家。


後継者問題の主導権争いでは敗れたが、流れは現時点ではまだどう転ぶかわからない状況であった。


勝家は遺領配分で秀吉の領地長浜を譲らせた。

長浜を前線基地と位置付け、美濃の信孝・伊勢の滝川一益と連携して秀吉を追いこもうと考えたからだ。


さらに信長の妹にして戦国一の美人と謳われたお市の方を嫁に迎えている。

それもお市の方は信孝の兄である信雄に秀吉の妾になるよう命じられたのを断ってだ。


つまり今はいつ織田政権が二分化するような戦が怒っても不思議ではない情勢だ。

おそらく諸国の大名衆も巻き込んで。というのが三成さまとしばらくのんびりできるかも!という期待に反して会議が終わってからも忙しそうにしているのにがっかりしていた時に勘兵衛さんから聞いたことだ。


秀吉様はお市の方にかなり憧れていたのもあって、けっこうショックだったみたいだけど・・・仕えてた方の妹君をもらうとなったら当然正室になるんじゃないのかしら?

その場合おね様はどうなるんだろうと、秀吉様がお市の方を欲しがっていたと三成さまから聞いた時に思ってしまった。

政治的な理由で結婚せざるを得ないとかならまだしも、奥さんがいるのに他の女の人をなんて・・・それに比べて私の旦那様ときたら!!


「うちの」とか「嫁」としか呼んで下さらないけど、それが意味するのは私しかいないからそれで問題はないだろうって先日おっしゃって下さったんですよね!!

もう!もうっ!!問題ないに決まってるじゃありませんか!!!


ちなみに友人である清正達が彼女のことを名前で呼ばないことに注意をしたら三成が(彼女の目の前で)そう返事をしたのである。

その答えに彼女は身悶え、注意した彼らは微妙な表情になった。


閑話休題



戦がいつ起こっても不思議ではないとはいえ、突発的に始められるものではない。

秀吉にとって天下分け目の戦いと言ってもいいものになるため、かなり大掛かりな外交戦略も展開した。

その戦略の要を担っていたのが三成であったため、嫁の期待とは裏腹に、会議が終わっても忙しく働くことになった。


おまけに彼は諜報部隊も担当し、秀吉の上意を取り次いで、近江の称名寺住僧に対し、柴田勢の動静を偵察するよう命じたりもしていた。


さらに彼は兵站部門も担当していた。

これは彼が数字に強いというのも大きかったが、嫁の持つ商人とのコネや領地の収穫量が他よりも多いこと、先の戦での実績があることが一番の理由であった。


秀吉の他の部下からのやっかみもあったが、本人がそれを気にするような性格ではなく、おまけに諜報は昔寺にいたからという理由もあって、他の人間が代わりにやることが難しかったため、彼一人にかなりの仕事量が圧し掛かってしまった。



嫁は秀吉に従って遠征に行ったりと忙しくしている三成を何か手伝うことはできないかと、一番忙しそうで、かつ手伝うことも多そうな兵站部隊をのぞいてみることにした。


「あの~・・・」

「清正あの野郎!戦ってのはそんな簡単にできるもんじゃねぇんだよ!!」


おそるおそる兵站部門の隊長格の人に声をかけてみたら、ひどくご立腹の様子で思わずビクッとしてしまった。


「って、アレ?奥方様」

「い、忙しそうですね。」

「いや~・・・清正殿も正則殿も、秀吉様に早く天下を取ってもらいたいのは分からなくもないですけどね・・・戦するには色々いるんですよ。

食糧とか火薬とか槍とか矢とか木材とか。

急げ急げと言われてもね、俺らも神様じゃないもんでない物を取りだすなんてできないですし。

それなのに仕事してないみたいに言われるし」

「だ、だいぶお疲れのようですね」


ふ、ふふふ・・・と笑いだす隊長格の人。

目が虚ろだ。ちょっとヤバい。


「木材の調達なんとかなりそうです!

金額の折り合いが付きました!」

「あちらには売らないよう交渉成立しました!」


部下が目を血走らせながら駆けこんできた。

隊長格の人の目に生気がよみがえる。


「よっしゃあ!よくやった!!」


忙しそうに物資を数えたり詰め込んだり、書面を書いたりしていた人たちが一斉に勝ち鬨を上げた。


兵站部門って大変なんだなぁと思いつつ、隊長格の人の袖を引き、声をかける。


「あの・・・何かお手伝いできることはありますか?」

「いえいえそんな!奥方様がいて下さるだけで商人達はこちらに好意的になってくれますからね!

もうホント、存在だけで十分にありがたいですよ!」

「そ、そうですか?」


すごくいい笑顔で言い切られ、それ以上粘ることも出来ず、大人しく引き返した。

特に何かした覚えはないんだけど・・・



外交戦略をすると聞いたので三成さまに「稲の収穫量を大幅に上げる方法を交渉材料に使って下さって構いませんからね」とお伝えした。

三成さまは目をちょっと見開いて驚いた表情をした。可愛い。

それから「必要になったらそうさせてもらう」と言って下さった。


しかし今の私にはそれくらいしかできることがない。

やはりこれは前から考えていた作戦を始める時だろうか。



前から考えていたこと――それは旅芸人達を取り込むこと。


役者や芸人達、軽業者、手妻使、鳴物師、講釈師など芸人全般は河原者とも言われた。

広げれば浮浪者、放浪者、凶状持ち、逃亡者や孤児など平成の世で言う社会的弱者たち。

「河原者」とはそういう者たちの総称であり、蔑称でもあった。

ではなぜ芸人達はそのような吹きだまりの河原で芸をしたのか。

それは河原はまともな土地とされず、誰の土地でもなかったため、税金がかからないからだ。


芸人に対して当たり前だが特に差別意識はない。

三成さまの嫁となってからも執筆活動は続けており、それなりに数も出しているし、知る人は知っている。


そんな私が芝居小屋の一座に脚本を提供したら?また演奏や歌を披露する一座に平成の曲を教えたら?

私は彼らのスポンサーとなり、また脚本家となり、作詞作曲を担当する。

その見返りに彼らは私に各地の情勢や情報を教えるという、相互協力体制を組み上げようという計画だ。


ちなみに三成さまも特に彼らに差別意識はないようだ。

河原者を取り込めないか考えているとそれとなく言ってみたところ、河原に住まれると税金が取れないが、取り込めば税金が取れるようになるからいいんじゃないか?という答えが返ってきたから。



三成さまが秀吉様と共に遠征に行った時に、ちょうどいいからとそれに合わせて京の四條河原にスカウトに赴いた。

そこで私は衝撃の出会いを果たすことになるとは、夢にも思わなかった。


そういえば歌舞伎の創始者って出雲阿国さんって女性で、戦国時代の人でしたっけね~!


もちろんスカウトしましたとも!

脚本は私の覚えている歌舞伎をこの時代に合わせてアレンジしたものに決定ですね!


・・・交渉成立したのはいいけど、これで歌舞伎の歴史が変わっちゃったらどうしましょ。


兵站部門の隊長さんのセリフは以前夢に見たものです。

木材をどこから調達するか、相手にいかに物資が行かないようにするかを考えたり手配したりで大変な状況で、清正さんに怒ってました。

それがきっかけで戦国時代について調べ始めたのですが、その当時の私はほとんど知識がなかったのに、なぜ清正さんだったのでしょうね?

そして調べてわかったこと。戦するのに木材っているんだ。そうか、いるよね。夢ってすごいなぁ・・・

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