二人で雨の中
「たまには違う場所にでも出歩こうか」
「……良いのか?」
「オレが良いって言ったら良いんだよ」
夜の過ごし方は俺にとっては大体決まって三つに分かれる。
一つ、何事もなく平穏に過ごす夜。でもこれは稀な事。
二つ、屋敷の主であり里の長でもある海理に犯される。確実に一週間に三度くらいはこれ。本当に勘弁してほしい。
三つ、海理と一緒に外を散歩。この三つ目が一番落ち着く夜の過ごし方。海理と一緒にいて落ち着くだとか言うのは悔しいけれど。
今日の夜の過ごし方はと言えば。海理は俺を襲う訳でもなく、散歩に連れ出してくれた。何時も決まった道を歩くけれどどういう訳か、今日は森の中にある違う道を行く事に。あまり場所を知らない俺にとっては不安でもあったが、好奇心もあった。知らない場所に行けるのだから。
だけどそんな日に限って曇り空。今にも雨が降りそうな天気だ。月も星も何も見えない。厚い雲が覆っていると言う事がすぐに分かる。
「なあ、傘も持ってきていないならもう帰ろう。絶対に雨が降ると思う」
雨が降って大変な事になってでも行くのは嫌だ。だったら別の日が良い。贄だし絶対に聞き入れてくれないだろうけれど、言わないよりはずっと良かったから言ってみたものの。やはり聞く耳は持ってくれなかった。
俺の手を半ば強引にひいて、戻ろうともせずに先に進む海理。まるですぐには降らない事が分かっているかのようだ。だけど海理は分かっていなかった。だって強引に歩きだして十分位してから雨が降り出したのだから。
これで引き返すだろうと思いきや、海理はそのまま前へと進む。雨はひどさを増して、俺も海理も全身を濡らしていた。服が身体に張り付いて気持ちが悪い。早く帰って身体を拭き、着替えたい。
「風邪ひくって!」
流石に俺ももう贄だからだとかそんなの関係がなくなってきた。嫌でも戻って貰わないと。海理から解放されようと掴まれた手を引き剥がそうとした次の瞬間だった。
「着いたぞ」
「……?」
海理の目の先にあったのは雨宿り用にでも作られたのだろう。小屋があった。海理はきっと引き返すよりこっちに行った方が早いと思ったに違いない。でもこの後その真意を知ってがく然とするなんてこの時の俺はまだ知らなかった。知らないままの方が良かったのかもしれない。
中にはいればそこはただ休む為に作られただけあってか、何もない。布団も厠も。ただ唯一あるのは暗くなった時の為にある、照明だけ。
「暫くはやみそうにないな……」
「どうするんだよ、ここで一晩過ごすのか? あいつら心配するだろ?」
「そうなるだろうな。だが、あいつらの事なら問題はない。オレは何があっても襲われたりする事はないからな」
それって雪と月花がまるで俺まで心配していないようにも聞こえるんだけど。海理と違って俺は人間だから少しは心配して欲しい物なんだけどな。
それにしても寒い。手拭いとか持ってきていないから身体を拭こうにも拭けないし。暖を取る為の道具もない。困ったものだ。これだったら少し遠くてもまっすぐ家に戻るべきだったんじゃ……?
「彩十? 寒いか……?」
「当たり前だ……」
身を小さく縮こまらせ、寒さをしのいでいるのが分からないのか。海理はやっぱり異形の者なんだな。こんな雨に濡れても全く平気なようだ。どれだけ頑丈なんだよ。
「温まる方法があるぞ」
「え!? 本当か?」
「ああ。実践してやるよ」
暖になる物がない中で温まれるなんて。そんな方法があったなんて知らなかった。早速やってくれると言い、海理は何を始めたのかと言うと……何故服を脱ぐ?
「あの……海理? 温まる方法はどうなったんだ?」
「何言っているんだお前は。今からやろうとしているじゃないか」
「え?」
「裸で温め合うんだよ」
……なんだって!? そんな方法なんて実践しなくて良いし! 当たり前の事のようにさらりと言うなって。裸で温め合うって事は、だ。俺も裸になれと言うのか!? 何で今日もこいつの前で裸にならないといけないんだ? 今日は散歩だけの筈だろう?
「……へっくしゅっ!」
「ほら、風邪ひくぞ。ずっと寒いままで良いなら構わないが。嫌なんだろう?」
「う……」
既に裸となった海理が痛い所を突いてくる。確かに寒いままなのは嫌だし風邪だってひきたくない。仕方ない……か。脱ごう。襲われるんじゃないし。そう思ってもなかなか服を脱ごうとする事が出来ない。海理の目の前で脱ぐと言う事に抵抗があるからなのだろうか?
「仕方ねえな……オレが脱がしてやる。お前は口付けに集中していろ」
「は!? なんでこんな時に口付けなんて……!」
「風邪ひきたくないなら従え」
「わ、分かった……」
俺が渋々同意すると、海理はそっと自分の唇を俺の唇の上に重ね、程なくして口内を犯し始めた。外の甘音とは違う水温が響き渡る中、どんどん服を脱がされて行くのが分かる。本当に器用な手つきだと思う。最後に下着までをも脱がされ、完全に裸になってしまった所で口付けは終わった。あまりにも気持ち良かったせいか勿体ないと思う半面、こんなに長くされたのは恐らく初めてだからか、顔から火が出てしまいそうなほどに俺の顔は今真っ赤になっているに違いない。
「少し長くやっただけで顔を赤くするとは……可愛いな。
このまま抱き締めるのもつまらないな。お前の、少し勃っているし。
よし、雨のせいで諦めていたがやはり一度犯してから温め合おう」
何を言いだすこの男。って言うか、何で半分こうなっているんだ俺の中心は。いやそれよりも待て。“やはり”って……まさか…………。
「お前最初から俺の身体目的だったのかぁー!?」
「何を今更。たまには気分でも変えて違う場所で犯されるのも悪くないだろう?」
不敵な笑みを浮かべて、さも当たり前に堂々と主張する海理を見て俺はもう一つ確信する。雪と月花は海理の心配をしなかったのは、ただ単に海理が強いからだけじゃない。海理がこの計画を立てている事を知っていたからだ。絶対そうだ。そうに違いない。
「彩十。それにもしかしたらこうする方が更に温まるかもしれないぞ? 試さない理由なんて何処にある?」
そんな訳ないと思いつつも温まりたいと言う気持ちが強かったせいか、結局抱かれることに同意して、何時ものように身体の中をかき乱されていった。こんな事がなければ絶対に犯しても良いだなんて言わない。きっと最初で最後だろう。自分から抱かれることを望むのは。温まったかは分からないけれど、寒さなんて忘れてしまっていた事だけは覚えている。
そして翌日。家に帰った俺はその後数日風邪で寝込む事になった。あの温め合いは一体何だったんだろう。そう思わざるを得なかった出来事であった。
診断メーカーのお題を元に執筆。(由乃ケイさんにオススメのキス題。シチュ:人気のない場所、表情:「赤面」、ポイント:「服を脱がしながら」、「お互いに同意の上でのキス」です。)
何だか微妙な感じになってしまったような気がしないでもないですが;
久々な「永久の贄」の執筆で、海理の一人称を忘れかけていたりもしましたが楽しく書けました。