嫉妬令嬢にリボンを破いた罪を着せられましたが、王太子殿下の脅しで真実が暴かれました。
王立学園の教室に、フェリシアは急いで向かった。
扉を開けて中に入ると、机の上に何か置いてある。
道具箱だ。
リボン編みを作る時に使う道具箱。
自分のではない。
このような水色の箱ではないはず。
中を開けて驚いた。
道具の他にズタズタに引き裂かれたリボンが入っていたのだ。
桃色のリボンがズタズタに引き裂かれている。
その時、教室の入り口で悲鳴があがった。
「何しているの?私の道具箱でっ」
同じクラスのアデリーヌだ。
アデリーヌは傍に来ると、悲鳴を上げて、
「私の作ったリボンがっ‥リボンが破かれているっ。貴方がやったのね?貴方がっ。
私のリボンがっーーーーー」
大騒ぎになった。
フェリシアは慌てて、
「私は知らないわ。教室で私に用がある人が呼んでいるって言われたから、来てみたら誰もいなくて。私の机の上にこの箱が置いてあったの」
「嘘言わないでよ。私のリボンをズタズタにしたでしょ。貴方、私の事を妬んでいたもの。私があまりにも美しいからって」
喚きたてるアデリーヌは確かに美しい。
アデリーヌ・マルデ伯爵令嬢。
金髪に青い瞳のアデリーヌは色気もあって、とても美しい令嬢だ。
それに比べて、フェリシア・ミルド伯爵令嬢。
赤毛のフェリシアは、楚々とした感じの令嬢で。それ程、美人という訳ではない。
でも、妬んだ覚えはない。
共にクラウディア・バセル公爵令嬢派閥で、大勢の令嬢達と共に行動をしていた。
クラウディアはラード王太子の婚約者で、もうすぐ結婚を控えている。
そのクラウディアの傍で、色々と気を遣うのが、もっぱら同じ派閥の令嬢達の日常だった。
クラウディアの為に色々と情報を集めたり、学園でお昼を食べる為の席を予約したり、令嬢達は他にも色々、気を遣うのだが、アデリーヌは要領がよく、さも自分がやったように吹聴するのだ。
「この間、クラウディア様から褒められたのよ。図書室の良い本を選んでくれたって喜んでいたわ」
本を選んだのはフェリシアだ。
アデリーヌが、「私が持って行ってあげるわ」
と言って、横取りして、クラウディアに渡したのである。
苦労して図書室で探したのはフェリシアなのに。
いつも、自分の手柄にして酷い女で。
フェリシアも他の令嬢達も、アデリーヌに対して良い感情を持っていなかった。
そんなフェリシアも17歳。
母が婚約話を持ってきてくれた。
「私が、セシリィーヌ様に気に入られているから。今回の話が出たのよ。凄いでしょう」
婚約話が出ている相手は、ロディス・リンドール公爵令息。
歳は18歳。
リンドール公爵と言えば、オリビア王妃の兄で、名門公爵家である。
そこの一人息子がロディス・リンドール。
黒髪碧眼のロディスは、凄い美男だ。
何故、今まで婚約者がいなかったかというと、幼い頃から病気がちで、婚約者を探すどころではなかった。
成長するにつれ、身体が健康になったので、婚約者を探すことにしたという。
そこで、セシリィーヌ・リンドール公爵夫人と仲の良いフェリシアの母、ミルド伯爵夫人に、フェリシアを婚約者にどうかという話が来たのである。
フェリシアは驚いた。
「公爵夫人に?私が?」
「そうよ。是非にとセシリィーヌ様が。私とセシリィーヌ様はリボンを通じて仲が良いの。セシリィーヌ様は私のリボンを編んだ作品を素晴らしいと褒めて下さるわ」
この王国ではリボン編みというものが高位貴族の間で流行っている。
リボンを細い糸で編むのだ。
形は蝶々の形をしていて、髪に着けるタイプだ。
真ん中に小さな宝石をあしらう。
だが大切なのはリボンを編んだ部分。
いかに色々な模様を入れて綺麗に編むのか。色々な糸を編み込んで美しく見せるのか。
リボン編みは、オリビア王妃と、前バセル公爵夫人エレンシアが流行らせたもの。
今や高位貴族の嗜みになっている。
セシリィーヌの夫はオリビア王妃の兄だ。
王妃を輩出している名門リンドール公爵家。
フェリシアは、
「私で務まるかしら」
母は笑って、
「大丈夫よ。貴方は王立学園の成績もいいし、リボン編みの腕も素晴らしいわ。マナーも完璧。だからこの婚約話を受けることにしたわ」
「あの、お相手のロディス様って」
「昔は身体が弱かったけれども、今はすっかり健康になったの。だから安心して」
綺麗な方らしいけれども見たことがないわ。王立学園は男女別の棟だから。
でも、私も婚約者が???なんだかとても楽しみだわ。
王立学園の仲の良い令嬢達にこの話をしたのだ。
そうしたらアデリーヌが聞きつけて来て、
「貴方にロディス様はもったいないわ」
「でも、母が持って来た婚約話ですから。今度のお休みの日に、会う事になっているの」
「まぁ、私の方がふさわしいのに?貴方みたいな冴えない女、ロディス様にふさわしくないわ」
あまりにも酷い言い方に、泣きたくなった。
他の令嬢達が、
「酷い言い方。ここは祝ってあげるべきじゃない?」
「そうよ。気にすることはないわ。フェリシア」
「おめでとう。よかったわね」
と口々に祝ってくれて。
凄く嬉しくて。
だから、余計、アデリーヌの言葉が悲しくて悲しくて。
クラウディアが微笑みながら、
「ロディスの事はよく知っているわ。とても良い人よ。身体が丈夫になって、王立学園に通えるようになったようね。安心して婚約を結んで大丈夫。おめでとう。よかったわね」
そう言ってくれて、クラウディアに褒められて嬉しかった。
「有難うございます。クラウディア様。今度のお休みの日にロディス様にお会いするのが楽しみです」
そう、とても楽しみだったのに、まさかこんな事件が起こるなんて思わなかった。
教室でフェリシアに会いたい人がいると聞いて、教室に行ったら、見知らぬ青い道具箱が置いてあった。開けたらズタズタに破かれたリボンが入っていて。
教室のドアを開けたアデリーヌが叫んだのだ。
「私の作ったリボンがっ‥リボンが破かれているっ。貴方がやったのね?貴方がっ。
私のリボンがっーーーーー」
フェリシアのせいにされた。
フェリシアは知らない。
机の上に道具箱が置いてあったまでだ。
大騒ぎになった。
教師までやって来て、
アデリーヌは泣きながら、
「フェリシアに破かれたんです。私の編んだリボンが」
リボンを破いたという事は、先行き、非常にまずいことになる。
隣国の令嬢がクラウディアの義妹のレリーナ・バセル公爵令嬢のリボンを池に投げ捨てたという事件があった。
その事件以来、心を込めて編んだリボンを壊したり破ったりした人は最低だという風潮が広まったのだ。
オリビア王妃と、エレンシアが広めたリボン。
二人の美しき友情と共に、リボン編みの美しさが高位貴族の間でもてはやされて。
だから、アデリーヌのリボンがズタズタになったという事実が。
それをフェリシアがやったと誤解されている事実が非常にまずくて。
フェリシアは騎士団に拘束されて連れて行かれた。
「私はリボンを破っていません」
騎士団の取り調べ官は、
「マルデ伯爵令嬢は貴方が破ったところを見たと言っている」
「私の机の上に箱が置いてあったから、中身を見ただけです」
「しかしだな」
母が迎えに来たので、その日は返された。
母が抱き締めてくれて。
「大変だったわね」
「私はリボンを破っていないわ」
「ええ、フェリシアはそんな事をする娘じゃないわ」
「有難う。お母様」
信じてくれる母の気持ちが嬉しくて。
涙が零れる。
しかし、せっかく持ち上がった婚約話が無くなってしまった。
「セシリィーヌ様に言われたのよ。リボンを破くような令嬢と結婚させられないって。私はうちの娘はリボンを破いていませんって言ったのだけど。リンドール公爵家は名門だから噂を気にするのよね」
せっかくの婚約話が無くなってしまったことに悲しく思った。
でも、仕方が無いとフェリシアは諦めた。
学園ではフェリシアが、アデリーヌのリボンを破ったという事が広まっていた。
アデリーヌが言いふらしているらしい。
仲の良い令嬢達はフェリシアを信じてくれているが。
他の令嬢達からあからさまに陰口を叩かれたりして悲しくなった。
「いくらマルデ伯爵令嬢が美人だからってねぇ」
「リボンを破くなんて最低だわ」
酷い酷い酷い。リボンを破いてなんていないのに‥‥‥
悔しかった。
悲しかった。
心が深く傷ついた。
そんなとある日、男子学生とのダンス交流会の日がやってきた。
月に一度、ドレスを着て、夜会の真似事をする。
普段は別棟で勉学に励む男子と女子。
この日は互いにオシャレをして、思い切り交流を楽しむのだ。
その前日、フロアーの準備に男子学生達がこちらの棟にやって来た。
その中にロディス・リンドール公爵令息がいたのだ。
際立って美しい黒髪と整った顔。
嫌でもロディスだと解る。
アデリーヌがロディスに近寄り腕を絡めて、
「ロディス様。我が家からの申し出、受けて下さいますわね?私と婚約するというお話」
「君か?リボンを破かれた令嬢って」
「ええ、そうよ。リボンをあそこにいるフェリシアに破かれたの。悲しくて。私ってほら、美人でしょ?だから妬まれたのよ」
こちらをちらりと見るロディス。
悲しかった。
私はリボンを破いていないのに。
その時、クラウディアがロディスに近づいて、
「ロディス。マルデ伯爵令嬢と婚約を結ぶつもり?」
ロディスは頷いて、
「検討中だ。公爵家の令嬢達は相手が決まっているし、私は出遅れている。そろそろ決めないと」
そしてクラウディアを目を細めて見つめ、
「相変わらず美しい。クラウディア。ラード王太子殿下が君と婚約を結んでしまったから、君は私の初恋だったよ。でも私は身体が弱かったし‥‥‥君は素晴らしい王太子妃、そして王妃様になるんだろうな」
「お褒め頂き嬉しいわ。わたくしはラード様のお陰で輝く事が出来るの」
クラウディアはロディスに向かって、
「物事は、裏と表、光と闇、真実と嘘、全て二通りあるのよ。貴方の真実を見る目が曇っていなければよいわね」
「真実を見る目…」
クラウディアはフェリシアの手を取って、
「フェリシア・ミルド伯爵令嬢ですわ。わたくしが最も信頼している令嬢です。わたくしの事をよく気遣ってくれるのですわ」
「フェリシア・ミルドです」
アデリーヌが、
「私もクラウディア様をよく気遣っておりますわ」
「そうだったかしら」
クラウディアはそう言うと、
「さぁ、明日の為に、皆、頑張りましょう」
王立学園の生徒達は皆、フロアーの飾り付けや色々な支度を自分達でやる。
アデリーヌはロディスにべったりくっついて、色々と話しかけていた。
フェリシアは他の令嬢達と一緒に、クラウディアの指示の元、支度を頑張っていた。
明日はラード王太子殿下も来る。最高のダンス交流会にしなくては。
力仕事は令息達が。細かい事は令嬢達が。
フェリシアがふと、視線を向けると、ロディスがこちらをじっと見ていた。
本当にとても綺麗な整った顔。
ああ、オリビア王妃様の甥だけあって、似ているわね。
思わず見とれてしまった。
ロディスの傍でアデリーヌが喚きたてている。
ロディスがこちらを見て微笑んだ。
思わず赤面してしまった。
支度も全て終わって、翌日、ダンス交流会が開催された。
ラード王太子殿下が、クラウディアをエスコートして、入場し、ダンスを踊る。
クラウディアは髪に真っ白で銀を編み込んだリボンを着けて、同じく真っ白で花を思わせるような華やかなドレスを着て、ラード王太子殿下と華麗にダンスを踊っている。
二人の完璧なダンスに皆、見惚れていた。
他にも婚約者がいる人はその相手とダンスを踊って。
いない人はいない人で、誘い誘われ、ダンスを踊る。
アデリーヌは思いっきり飾り付けて、派手な深紅のリボンと深紅のドレスでロディスの元へ。
ロディスは真っ白な洒落た服を着て、傍に来たアデリーヌを右手で制すと、フェリシアの元へ。
「フェリシア嬢。ダンスのお相手をお願いしたい」
「はい。喜んで」
シンプルな水色のドレスを着たフェリシア。
赤毛はアップにして、髪には当然、手編みの水色のリボン。
ロディスはリボンを見て、褒めてくれた。
「綺麗なリボンだね。とても丁寧に編まれている。私は君がリボンを破くような人とは思えない。私の方も王立学園で君がリボンを破いたとされた事件、騎士団に詳細に調べるよう進言しよう」
「有難うございます」
ロディスが自分を信じてくれたことが嬉しい。
共に踊ってくれたその手の温かさに、幸せを感じるフェリシアであった。
ダンスを踊り終わるとアデリーヌがやって来て、
「ロディス様。次は私と踊って下さいませ」
ロディスは首を振って、
「私はフェリシア嬢に婚約を申し込むことにした。だから君とは踊れない」
「何故?この女は私のリボンを破いたのですわ」
「リボンの件は騎士団に進言して詳細に調べて貰うことにした。本当に破いたのか?」
そこへ、ラード王太子殿下がクラウディアと共に近づいて来て、
「何だったら、公開裁判をしようか」
フェリシアは驚いて、
「公開裁判?」
ラード王太子は、
「無実なら恐れる事はない。ミルド伯爵令嬢だって、これから先、リボンを破いた女として生きるのは嫌だろう?リボンに関して、社交界は敏感だ。だったら、白黒はっきりさせた方がいい」
アデリーヌは目に見えて真っ蒼になって、
「公開裁判って、嘘をついたらどうなるのです?」
ラード王太子はさらりと、
「舌が飛んだ人物がいたな。公開裁判は神官長が女神様に伺いを立てて開催する裁判だ。結構手続きが面倒でな。だが、嘘つきにはバツが下る。過去、2回行われたが、嘘をついた男達の舌はその場で吹っ飛んだ。女神様の神罰は厳しい。まぁ今回は二人の令嬢だからな。そのうちの一人が嘘を言っている事になる。目の前で舌が吹っ飛ぶのを見るのはちょっと嫌だが仕方ない。令嬢一人の社交界での将来がかかっているんだ。受けるな。二人とも」
フェリシアははっきりと、
「受けます。私の将来がかかっているんです。オリビア王妃様、そしてクラウディア様に嫌われたくありません。私はお二人の為に、この先も役に立ちたいと思っております」
アデリーヌは後ずさりして、
「嫌よ。舌が吹っ飛ぶなんて、嫌っーーー。わ、私はロディス様と結婚したかったの。フェリシアなんて、ロディス様にふさわしくない。だから、自分でリボンを破いて‥‥‥」
ラード王太子は、護衛を呼んで、
「この女を拘束しろ。ミルド伯爵令嬢に対して、将来を潰すような真似をした。リボンを侮辱するような行為を許す訳にはいかぬ。リボンはこの王国の宝だ。母上とエレンシアが広めたリボン。美しいリボン編みの技術は永遠にこの王国で栄えなくてはいけない。この女を牢へ入れておけ」
アデリーヌはラード王太子の命令で、拘束されて連れていかれた。
「私は悪くないわ。私は悪くないっーーー」
アデリーヌが連れて行かれて、フェリシアは安堵した。
ラード王太子に向かって、
「有難うございます。助かりました」
「いや、勝手に自爆しただけだ。公開裁判が過去二回あった事は事実だ。嘘をついた罪人の舌が吹っ飛んだって言われているが真偽は定かでない。なんせ昔の事なのでな」
クラウディアがフェリシアに、
「良かったわね。フェリシア」
「クラウディア様」
安堵した途端、涙が零れる。
ロディスがフェリシアに、
「真実を誤らなくてよかった。どうか、私と婚約して欲しい。フェリシアとなら上手くやっていけると思う」
「ええ、喜んで」
アデリーヌは騎士団で詳細に調べられて、自演だったという事を白状した。
フェリシアにした事があまりにも悪質だという事で、王立学園を退学になり、修道院へ入れられた。
― 嘘つきには神罰を ―
女神様が出てきた夢を見た後、不思議と舌が痛くなり、話せなくなった。
後悔しながら毎日を過ごしたと言われている。
フェリシアは、ロディスと婚約を結ぶ事になり、今、とても幸せだ。
今日はロディスに誘われて、テラスで交流のお茶を飲むことになっている。
髪に心を込めて編んだリボンを着けて、ウキウキしながら出かけるフェリシアであった。
ロディスはオリビア王妃に呼ばれた。
「ロディス。貴方には失望したわ。きちっと謝罪したのかしら?一旦、まとまりかけた婚約話をなかった事にした後、ミルド伯爵家に話を入れる前に、フェリシアに婚約を申し込んでいたわね」
ロディスは慌てたように、
「それは、私の目で真実を見たからです。クラウディアに言われました。フェリシアは最も信頼する令嬢だと。実際に、フェリシアはダンス交流会の準備をクラウディアに付き従って、手伝っていた。それに比べてアデリーヌは私に纏わりついて、クラウディアを気遣わなかった。だから、私はリボン事件はアデリーヌの自作自演だと確信したのです。ですからダンス交流会の場でフェリシアに再び婚約を申し込みました。謝罪は…その…」
「悪く言う人がいるのよ。アデリーヌは本当に有罪なのか?疑っている人がいるのよ。騎士団が詳細に調査したって発表したのに。公開裁判を開催しましょう。アデリーヌの言い逃れの出来ない証拠を皆の前で宣言して、改めて罪を認めさせるのです。貴方がそれをやりなさい」
「私がですか?」
「謝罪をしていないのなら、それが傷つけたフェリシアへの謝罪になります。いいわね」
公開裁判、言い逃れの出来ない証拠。
騎士団が詳細に調べて証拠を掴んでいる。
フェリシアに教室で人が待っていると言った令嬢は、ユリーナ・ファルデス男爵令嬢。
アデリーヌ・マルデ伯爵令嬢に脅されて、フェリシアを教室に行くように仕向けたとのこと。
ユリーナからそう証言を得ている。
もう一つの証拠は道具箱の中に入っていたナイフだ。
レッド商会でしか作っていないナイフで、このナイフを買ったのがマルデ伯爵家の使用人だと、商会の主人から証言を得ている。
それを突き付けてやればよいのだ。
フェリシアに会いにミルド伯爵家に訪れた。
庭のテラスでお茶をする。
ロディスはフェリシアに、
「公開裁判をやろうと思っている。君の無実をはっきりと国王陛下、それから私の叔母上であるオリビア王妃。ラード王太子殿下、高位貴族達を集めて、アデリーヌの自作自演だった事を証拠と共に君に罪がないことを皆に向かって宣言する。私はそうしたいんだ」
フェリシアは困ったような顔をして、
「アデリーヌの罪は騎士団の皆様が証明して下さいました。これ以上、私はご迷惑をかけたくありません。改めて裁判をする必要はありません」
「でも、君を疑っている貴族が‥‥‥」
「クラウディア様や、他の同級生の人達は私の事を疑っておりません。ですから、もう‥‥‥」
「軽率だったと思っている。最初に君の事を調べもせずに、母上の言う通り、婚約話を無しにした。リボンを破った令嬢という噂を信じてしまった。本当にすまなかったと思っている。申し訳ない。だから、君の為に出来る事をしたいんだ。叔母上にも言われた。君の無実を宣言することがフェリシアへの償いになると」
「オリビア王妃様が?」
「そうだ。私は君の無実を宣言したい。フェリシアの為に出来る事をしたいのだ」
傷つけてしまった。
噂を信じて婚約話を無しにしてしまった。
なんて軽率だったんだろう。
少しは調べろ、自分の将来だろう。
母上に任せきりにするな。
恐らく、父上の仕業だろう。
女神様のせいにして毒を盛った。
あの女がある事、ない事、話して、これ以上、こちら側に害が及ばないように。
人の口は恐ろしい。
フェリシアが無罪だと社交界で知れ渡ったが、それでも、本当はリボンを破ったのはフェリシアだったのではないかと疑っている人もまだいるのだ。
ロディスはフェリシアの傍に行き、その手の甲に口づけを落として、
「フェリシア。宣言させてくれ。君の無実を私の口から。お願いだ」
「解りましたわ。そこまで言って下さるのなら。よろしくお願い致します」
そう言って微笑んだフェリシアに愛しさを感じた。
でも、まだ結婚前だ。
ぐっと色々と我慢した。
一週間後、公開裁判が王宮の広間で行われた。
国王陛下、オリビア王妃、そしてラード王太子。
他にもクラウディア・バセル公爵令嬢を始め、高位貴族の人達が集まって、
アデリーヌが騎士達に連れてこられた。
すっかりやつれて、美しかった姿も見る影がない。
アデリーヌに向かって、ロディスは読み上げた。
「そなたは、道具箱に入っていたリボンを自ら、ナイフでズタズタにし、フェリシアの机の上に置いた。ユリーナ・ファルデス男爵令嬢に命じて、フェリシアを教室に呼び出して、道具箱を開けたタイミングで、悲鳴をあげて、フェリシアがさも自分のリボンを破ったかのように仕向けた。
フェリシアを教室に呼ぶようにアデリーヌから頼まれたと、ユリーナ・ファルデス男爵令嬢から証言を得ている。箱に入っていたナイフが、レッド商会でしか作っていないナイフで、このナイフを買ったのがマルデ伯爵家の使用人だと、商会の主人から証言を得ている。
フェリシア・ミルド伯爵令嬢はよって無罪だ。改めてフェリシア・ミルド伯爵令嬢の無罪と、アデリーヌ・マルデ伯爵令嬢の悪質な自作自演の罪をここに宣言するものとする」
アデリーヌは何か話そうとした。
ひぃひぃとしか声が出ない。
涙を流しながら、手を伸ばす。
オリビア王妃が一言、
「女神様が― 嘘つきには神罰を ― と夢枕に立ったそうね。女神様は見ていらっしゃるのだわ」
ロディスの父、リンドール公爵が、
「そうだな。女神様は見ていらっしゃるのだろう」
そう言って口端を歪めて笑った。
ロディスは思った。
間違いなく父が毒を盛ったのだろう。
その宣言書をアデリーヌの前に差し出す。
ロディスは冷たく、
「認めるサインをするがいい」
アデリーヌは泣きながら、その宣言書にサインをした。
騎士達によって連れ出される。
ロディスはやるべきことをやったと心から安堵した。
フェリシアの方を見たら、まっすぐにロディスの方を見つめ返して。
「有難うございます。私の無実を宣言して下さって。これからも王国の為に、私は精進してまいります」
オリビア王妃は微笑んで、
「そうね。王国の為に素敵なリボンを編んで頂戴。楽しみにしているわ」
公開裁判が終わった。
裁判というよりは宣言という形になったが。
ラード王太子に話しかけられた。
「あれから、調べたんだが、過去にあった公開裁判で舌が吹っ飛んだって本当だったそうだ。まぁ、さすがにアデリーヌも嘘を話したくても口が利けぬのでは、舌が吹っ飛ぶ事が無くてかえってよかったのではないのか」
だなんて怖い事を言っていて。
クラウディアが傍で、
「まぁ怖い話ですわ。舌が吹っ飛ばなくてよかったですわね。女性達が皆、気を失ってしまいますから」
そして、ロディスとフェリシアに、
「貴方達の事を期待しているわ。ラード様とわたくしを支えていって頂戴」
初恋だったクラウディア。
相変わらず眩しくて、でも、今やとても遠い人。
彼女は素晴らしき王妃となるだろう。
ロディスは跪いて、
「勿論、ラード王太子殿下と、クラウディア様にこれからも忠誠を誓います。我が愛しのフェリシアと共に」
フェリシアもカーテシーをし、
「わたくしも同様です。これからもよろしくお願い致します」
全てが清々しい日だった。
ロディスは、愛しのフェリシアに対してやっと、胸につかえていた、婚約話を考えも無しに、断った事、すぐにまた、婚約を申し込んだ事。
その罪が償えた事に対して、安堵したのであった。
そして何よりも、愛しのフェリシアの無罪を宣言出来た事が嬉しかった。
晴れ渡るロディスの心を映すかのように、空は青空。
フェリシアと共に見上げる空は、どこまでも澄んでいて、幸せを感じるのであった。




