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魔王、吸血姫の血を飲む  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ


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6.決闘


 その結婚式を行う場所は、シルヴァ公爵の領土内にある地下遺跡の中にあるという。

 深い闇の中へ潜るように、長い長い階段を降りきると――。


「おお、オルディン。よく来てくれた」

「この度はご招待、ありがとうございます。シルヴァ公爵殿」


 魔法の明かりに照らされた、古い棺桶が並ぶ墓所へと辿り着いた。

 礼儀正しく並べられた棺桶に白いクロスを敷き、血のように赤いワインや果実が並べられている。

 赤、青、黄のバラで彩られた飾りつけは、一層華やかだ。


「あれが魔王様……」

「間近で見るのは初めてだ……」


 ここには公爵以外にも、若く見える男女の吸血鬼が数十人。

 皆、同じような黒いスーツやドレスに身を包んでいる。

 

「やぁやぁ、貴方が魔王オルディン様ですね」


 その中でも、一等豪華な装いの青年が、前へ出てきた。

 白髪を魔獣の油で固めてあるのか、少し明かりに多く照らされている。

 胸元には黒いバラが一凛。腰にはバラを象ったレイピアが提げられている。

 恐らくは吸血鬼の婚礼用の格好なのだろう。


「ああ。我が名はエルドラド・バーン・オルディンだ」

「……魔王様に改めて名乗られると緊張しますねぇ。僕はヴァント・ウル・ホランド。この婚姻が終われば、晴れて男爵を継ぎます」


 甲高い声に、趣味の悪い香水が――いやに癪に障る。

 だが、今はまだ冷静にならねばならぬ。


「お義父様よりお聞きとは思いますが……これが儀式に使う杯です。これに、魔王様の血を入れて頂きたく――」

「オルディンさん!?」


 いつもは冷たくもどこか優しい声色が、今日は驚きに震えていた。

 墓所の奥には――そう、まるでバラのように紅のウェディングドレスに身を包んだユーリが居たのだ。

 薄手のベールをあしらったヘッドドレスのせいで、やはり目元はよく見えぬ。

 だが赤いルージュのせいで、いつもよりも奇麗に――。


「どうしてここに――」

「ユーリへのサプライズゲストさ。今日、血の儀式をやるだろ? それには2人がよく知っている相手が良いと思い、お養父様へ頼み込んだの、さッ☆」


 片目を瞑り、何やら決めポーズをするのだが――最近はそういうのが流行っているのだろうか。


「魔王に祝福を受ける吸血姫とこの僕――ああ、なんて絵になるんだろうか」


 何やら自分自身を抱きしめ悦に入っているが、この者は酒に酔っているのだろうか。

 

「彼は、いつも私に黙ってサプライズとかやりたがるです――すいません、父が勝手を言ったようで……」

「いや。俺がここに来たのは、お前らの結婚を祝いに来た訳ではない――」

「え?」


 ユーリが驚いたように俺の顔を見る。

 自然に――俺は微笑んだ。

 そして彼女の細い腰を片手で抱き、その場にいる全員に聞こえるように告げる。


「今この時より。魔王オルディンの名において!」


 そこでクネクネと動いている奴を指差す。


「ヴァント・ウル・ホランドに、決闘を申し込む!!」

「…………なんですと!?」


 当の本人はもちろん、周囲の吸血鬼達も慌てふためく。

 もちろん、シルヴァ公爵もだ。


「な、なにを言っているんだオルディン!?」

「すいませんシルヴァ公爵。しかし決めたのです――彼女を。ユーリを妻に迎えると」

 

 彼女は思った以上に華奢で、力の加減を間違えばそのまま潰してしまいそうだ。

 俺の体へと伝わって来る体温のせいで、より緊張が増す。


「ふ、ふざけないでください!!」


 ユーリが、俺の頬に平手を食らわせてきた。

 聞いたこともないほど、彼女は声を荒げ抗議してくる。

 

「いつも冗談を言ってからかっていた意趣返しですか!? 魔王が、オルディンさんが――私を」

「そうだ、妻にする」

「~~ッ! そんな事をここで言ってしまえば、吸血鬼一族を敵に回しますッ!」

「構わぬ――だがその前にだ」


「ホランドとやら、返事を聞こうか。我の決闘、受けるか。受けないのか――」

「――ふ、ふざけるなよ……下品な女の匂いをプンプンさせて来たかと思えば、僕の花婿を寄越せだ!?」

「むぅ――」


 やはり1度、風呂にでも入るべきだったか――。

 いや、もしやユーリが必要以上に怒っているのも、そのせいか。


「いや、ユーリ。これはそういったアレではなくてな……」

「別に……魔王ともなれば、女性なんて選び放題でしょう」

「選び放題などと……俺はお前以外の――」

「えぇい! いいだろう、その決闘。受けて立つ!!」


 さらに他の吸血鬼達の動揺が広がる。


「婿殿。彼は、ワシがかつて覇権を争った男の息子じゃぞ!?」

「分かっています! ――オルディンよ、貴様は魔王だ。魔王が決闘を行う時のルールは、全て対戦相手が決められる。そうだな?」

「ああ。いかなるルールも、好きにするが良い――その上で、俺は貴様に勝つ」

「ならばルールは3つ! 1つ。決闘が始まれば、お前はその場から1歩も動かない事」


「2つ。どのような事が起きても、決闘が終わるまで異論は挟まない事」


「3つ。今すぐ、お前の血を僕に寄越せ!」


「分かった」

「それが飲めぬのなら――分かった?」

「ああ」

「――ふ、ふふっ。みんな聞いたかい、魔王様の言葉を!」


「ああ確かに聞いた」

「了承したな……」

「これは楽しみね」


 意味ありげな言葉が聞こえてくるが――どの道、この決闘に負けるつもりは微塵も無い。

 何故ならば、俺は魔王だからだ。


「仕方が無いのぉ――婿殿、オルディンよ。ワシが見届けよう」

「ではまずは、お前の血をこれに入れて貰おうか」


 ホランドは俺に金で出来た杯を寄越して来た。

 ユーリを手放し、俺は自身の爪で腕を傷付け――血を入れていく。

 魔族はその種族と、魔力により血の色が変わる。

 俺のは、ほぼ黒に近い赤い血だ。


「……これでいいか」

「オルディンさん、傷を……」

「これくらいは――手短に頼む」


 ユーリは手近にあったテーブルクロスを引き裂き、俺の腕へと巻いてくれた。


「こ、これが魔王の血――」


 ホランドが手を震わせながら――杯に注がれた血を、飲み込んだ。

 およそ1口分ほど。

 だが変化は、すぐに起こった。


「お、おお。おおおおおッ!!」


 青白い肌が、より黒く変色していく。

 瞳も、腕も――そして着ている服を突き破るように、肉体が膨れ上がっていく。


「これがッ! これが魔王の血ィ!! 最高に、ハイって気分だよッ!!」


 吸血鬼にとって血液の摂取とは、ただの食事ではない。

 相手の血を体内へと取り込み、己がモノとした時――その肉体と魔力を変質させることができる。

 つまり、


「僕は今、最も魔王に近い存在と言えるだろう!!」


 俺と同じ、いやそれよりも大きな身体へと変化したホランドは、ほとんど意味を成していないスーツを破り捨てる。


「さぁ、決闘の時間だ」

「うむ――ユーリよ、離れていろ」

「はい……お気をつけて」


 俺は、自身の白い手袋をホランドへと投げつけた。

 それを合図にシルヴァ公爵は片手を上げ、宣言する。


「これより魔王国のルールに則り、決闘を行う。外部の者は、一切の口出し禁止である!」


 俺は直立不動のまま、拳を握りしめた。

 

「では来い。俺も、お前がどれほど強くなったか興味がある」

「チッチッチッ」


 意味深な笑みを浮かべながら、ホランドは指を振った。


「準備がまだだよ。言ったよね、決闘が始まった以上――何が起きても、異論は無しだって!!」

「ああ、それが――」

「みんな! 出ておいで!!」


 ホランドがそう声を掛けると――俺の周囲に魔法陣がいくつも現れる。

 これは召喚の陣。

 まさか――。


 紫に鈍く輝く魔法陣は4つ。

 その中から出てきたのは――()()()


「こいつらは、まさか――」

「そうさ。打倒魔王を志す、勇気ある青年達さ!」


 厚手の使い込まれた鎧と、大きな鋼鉄のハンマーを持つドワーフの男。

 騎士のような出立ちに、飾りの入った剣を持つヒューマンの男。

 狩猟する者の格好をした、間近で弓矢を構えるエルフの女。

 背後には、両手に鋼の籠手を着けた犬獣人。性別は分からん。


「お前は――魔王倒幕派か」

「ぴんぽーん……気付くの遅かったねー。マイナス50点だよ♪」


 何故、いきなりシルヴァ公爵を使って俺を呼びつけたか。その理由がようやくわかった。

 この男は正面と裏、どちらからでも倒せない俺を打倒する為に――血を欲したのだ。

 さらに勇者を名乗る人間達と裏で手を組み、


「我が父を暗殺した者共を手引きをしたのも、お前か」

「そうそう! 人間狩りしようにも捕虜には手を出すなってお前の父親は煩かったし。じゃあ人間の国に行って攫おうとしたら、全力で止めに来るし――もうウザさ半端ないって感じ」


 父は言っていた。

 こうして戦争をしている事により、互いに積もり積もった恨みはあるだろう。

 家族が殺され、友が殺され、同士が殺される――だがそれは、お互い様なのだと。

 

 だからもし、完全に戦争の終わる時がくれば――。

 その恨みを飲み込み、手を差し伸ばすべきだと。


 そう言っていた。

 俺はそれが、どうしても――飲み込めなかったのだ。


「って事で、魔王の家系はここで終わり。ここからは、新しき僕の時代が来るのさ……って事で、やれ」


 ホランドが指示を下すと、即座に人間達は武器を構える。

 その虚ろな瞳はどこも見ておらず――ただ言われるがままに動く人形のよう。


「眷属化したか」

「ノンノン。こんな下劣な種族を眷属になんて――ちょっとした、血を使った呪法だよ」

「呪法――まさか」

「ほら、また気付くのが遅れた!!」


 奴が指を鳴らすと同時に俺自身の身体に、黒い魔法陣が浮かび上がる。

 そのまま身動き1つ取れなくなる。

 普段ならこんなもの、すぐにでも解除できるのだが……俺の血を使っているせいで、その強度は限りなく最強に近い。

 

「どの道、君はそこから1歩も動けないまま――死ぬのさ」


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