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魔王、吸血姫の血を飲む  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ


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2.吸血姫との出会い


「……ぐえぇ」

 

 期待以上の実力だった。

 俺の黒く練り上げられた魔力を切り裂き、腕や頬に傷をつけたのだ。

 ――少々全身の骨が砕かれるまで殴ってしまったが、まだ生きているようだ。

 頑丈さも気に入った。

 

『試合時間は10の刻。意外と頑張ったが、やっぱダメだったカー!』


『勝者はエルドラド・バーン・オルディン! 魔王様の勝利です!!』


「カルロス様ぁぁぁ」

「そこのガルーダ兄弟よ。カルロスが起きたら伝えておくがいい――我はお前のような気骨のある男を欲しておる、と」

「えっ、という事は!?」

「四天王最後の席は、この俺自ら、このカルロスを推薦とする。不服のある者は、ここで挑戦を受けよう!!」


「おおおおおおおッ!!!」

 

『なんというどんでん返し! えっ、って事はコレがワタシの後輩?』

「ふっ。教育は任せたぞフェリアス」

『えー……アッ。という訳で、今宵の決闘は以上デス。皆さん、お足元と背後にはよく気を付けてお帰り下サイネ♪』

「後の事は頼んだぞ、フェリアス」

『了解デス!』

 

 大きな歓声を背に受け、俺は参加者用の通路へと入っていく。

 養生したヒカリシダを張り巡らされた石の通路には、等間隔に置かれた魔法のランタンが置いてある。

 そこに、まるで影のように佇む蒼い髪の女が、俺を出迎えた。

 

「おめでとうございます、魔王様」

「ネーティアか」

「まずは傷の手当てをさせて下さい」

「これくらいは……手短に頼む」


 先ほどの攻撃によるダメージか、少し血が滲む。

 しばらく放っておいても、体内魔力により治癒するだろうが――好きにさせてやる事にした。


 ネーティアは俺の四天王の1人。サキュバスだ。

 魔王となる前より、そしてなってからも色々世話になっている。

 彼女ら一族の手を借り、魔王倒幕派などと名乗っている連中を縛り上げ、その頭目として担ぎ上げられているカルロスを決闘へと引きずり出した。


「……だが、カルロスの指示では無いだろうな」

「そうなんですか?」

「あれほどの実直な男が()()などという暗殺者を引き込んだり、毒殺を試みようとはせんだろう……実行犯はカルロスかもしれんが、奴を唆した奴が居る」

「それで四天王へスカウトしたのですか。いずれはその背後を探る為に」

「いや……単に気に入ったからだ。不服か?」

「……いえ。では引き続き調査を進めます」

「頼む」


 昨年の話だ。

 父のいた魔王城へ突如、勇者を名乗る一団が現れたのだ。

 相手が誰であれ、受けた挑戦を受ける魔王の宿命――結果、父は殺された。

 その事実を知った時、怒りに任せ人間の兵士を多く殺し、拠点の多くを潰し――ただでさえこじれた魔族と人間の関係は、さらに悪化する事となる。

 今は互いに部隊の再編、復旧が必要で1年ほど戦争は止まっているが……直に再開するだろう。


「……そういえば、せっかくなので祝勝会はどうですか」

「今はそんな気分ではない」

「あら、わたくしの友達も魔王様のご尊顔を拝見したいと楽しみでしたのに……わたくしのお店ではなく、喫茶店での本当に簡単なものですので」


 治療が終わり、彼女は俺の腕へ絡むように体重を預けてくる。

 妖艶の二つ名を冠するだけあり、その豊満な肉体からは柔らかさと相応の重さが、さらに身体からは俺の好む香水の匂いが漂う。

 幼い頃より知っている仲だが、昔から頼みごとがある度にこういった行為をしてくるのだ――正直に言えば引っ付かれる度に心臓に悪いのだが、今は魔王としておくびにも出さない。


「分かった。少しだけだぞ」

「ありがとうございます」


 彼女には多くの借りがある。

 ここは彼女の顔を立てるのも良いだろう。


 ◇

 

 店内は薄暗い紫の照明で満たされ、心を穏やかにする匂いの香が焚かれている。

 ネーティアに言われるがまま上等なソファに腰掛けさせられ、両隣に猫獣人やサキュバスなどの魔族の女性、4人ほどに囲まれた。

 

「きゃー♪ 魔王様、今日の決闘凄かったわ!」

「逞しい腕に大きな胸板……触っていいですか?」

「おいネーティア。ここはお前の店じゃないのか」


 ネーティアは魔王国首都にある歓楽街の元締めだ。

 男性向け、女性向けに留まらない幅広くもいかがわしい店を監督している。

 だからこそ、その幅広いツテや手腕を買っているのだが――。

 

「あら、わたくしの店ではありませんし、彼女らもキャストではありませんよ。普段はこのカフェで働いている子らです」

「そうよー。ネーティアちゃんはよくお茶をしに来てくれるのー」

「ここの店長、ネーティアさんと友達でねー。今日は無理言って頼んで貰ったの。怒らないであげてね?」


 ふさふさの柔らかい腕で、俺の右腕にまとわりついてくる猫獣人。

 その柔らかな肉球の感触が伝わってくる。

 さらに左側では、ガラスのグラスに注がれたワインを片手に、胸板を触ってくるサキュバスだ。

 頭に生えた角の曲線美は素晴らしく、ネーティアにも決して劣らない胸を持つ。

 

 マズい、思わず顔が緩んでしまう。

 魔王として、それだけは避けなければ――。


「じゃあ、わたくしは仕事がありますので失礼します。魔王様、ゆっくりお寛ぎください」

「ま、待てネーティア……1人に……」

「では……」

 

 無情にも。

 一礼したネーティアは、そのまま店を出て行ってしまった。

 俺の――理性との戦いが始まってしまった。


 ◇


「それでねー魔王様。その友達が彼氏とヤってる時、アレが抜けなくなったって困ったッて連絡が来て……」

「3年ぶりに戦争から帰って来た旦那がねー。今年産まれた子供見て“これ本当に俺の子?”だってさウケるー」


 確かに彼女らは、水商売の女性ではない。

 俺のペースに合わせて酒を飲んで、かなり酩酊(めいてい)してしまったのだ。

 これが本職ならこうはいかない。


「少し、夜風に当たってくる」

「はーい」

「魔王様、お土産は美味しいお肉がいいでーす!」


 店を出て、一息つく。

 このままネーティアが戻って来るまで暇でも潰すかどうか……。

 

「あら魔王さん、もうよろしいのですか?」


 この世とは覆えないほど美しい声だ。

 だがその反面、魂まで冷えるような――冷たい声。


「うむ……」


 もう夜は完全に更けた通りの片隅に、漆黒のドレスに身を包み、まるで闇と同化しているかのような女性が立っていた。

 夜だというのに帽子を目深く被り、しかし見え隠れする白銀の髪。

 ネーティアとも、店内の女性らとも一線を引く、まるでガラス細工のような脆さのある美しさ。

 ――だから、つい口に出てしまった。


「美しいな」

「あら。魔王さんは私も口説きますの?」

「いや、その……思った事を、言ったまでだ」

「お上手ですわね……店の子達が、何か失礼をしなかったかしら」


 その口ぶりからして、彼女はこの喫茶店の店長なのだろう。


「それはまぁ、大丈夫だ」


 今も俺抜きで賑やかな店内から声が漏れ出る。


「申し遅れました。私はシルヴァ・ラーク・ユーリ――この店の店長をしております」


 なるほど――いや、シルヴァという名には聞き覚えがある。

 

「はい。ご存じの通り、父はシルヴァ公爵。その一人娘です」


 シルヴァ公爵家は、代々魔王国領に住まう最も古い一族の1つ。

 魔族の中には、他者の精気を吸う行為を食事とするサキュバスの他にも、吸血鬼という種族がいる。

 他者の血を吸い、時にはその相手を眷属として従わせる権能を持つ。

 ……もちろん、俺には効かない。圧倒的な魔力を前には、そういった権能も意味が無い。


「シルヴァ公爵と我が父とは、よく対立する度に決闘を行っていた仲と聞く。就任してより挨拶に出向けず申し訳ないとお父上に……」

「いえ。父はもう亡くなりました――寝る時にうっかりカーテンを閉め忘れ、太陽に焼かれ灰となりました」

「えっあっ……それは、済まぬことを……」

「ふふっ」


 戸惑う俺を見て、そこで彼女が初めて笑った。

 そうだ。吸血鬼は、ほぼ不老故にそういったデタラメな噂が出る。

 実際は直射日光と、水場での泳ぎが苦手なだけの種族なのだ。


「もうすっかり年を重ねましたが、まだまだ元気ですわ」

「そうか……」

「女性の前で少し油断を見せるのも、魅力的に見せるコツですわ」


 彼女の仕草の1つ1つが美しく、思わず見惚れてしまう。

 他にも色んな美女が俺に寄って来ても心を揺さぶられる――事はあっても、ここまで動揺する事は無かった。


「あら魔王様。ユーリも一緒なのかしらぁ?」

「ネーティア、ようやく戻って来たか」

「ティアちゃん。お仕事はもういいの?」

「えぇ。迷惑なお客様には、お帰り頂いたの」

「苦労を掛けるな」

「いえ……」


 これが、俺とユーリとの出会いだった。


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