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宇宙世紀に転生した元おっさんは、幸せな家庭を築きたい  作者: 隣のゴローさん
始まりの宇宙

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第7話 廃品回収業の女 上

スペースオペラっぽく書いていますが、あくまでご都合主義の三流娯楽作品です。

 漆黒の宇宙空間には、無数のデブリ(宇宙ゴミ)が漂っている。どれほど小さな破片でも、たとえばネジひとつでさえ、秒速数キロの速度で衝突すれば宇宙船に深刻なダメージを与えかねない。


「ビンゴだ、サーシャ! こいつはSOIの最新型だぞ!」


 通信の向こうで、中年男の弾んだ声が響く。


 大きな宇宙船の一部。最も長い辺で二◯メートルほどはあろうか。艦橋の一部と思しき構造体が、ゆっくりと回転しながら宇宙を漂っていた。


 SOIとは宇宙船メーカーの一つ。周防大島工業(Suou Oshima Industry)の略称。ちなみに、ムラサメはYHI、四ツ菱重工業(Yotsubishi Heavy Industry)製だ。


「ブリッジの一部ね。モジュールの一個が丸ごと、しかもかなり綺麗に残ってるみたい」


 サーシャの声が応える。彼女の乗る作業用ポッドが、その残骸に向かって接近していく。カプセル状のコックピット。その両側から大型の作業用アームが伸び、残骸を捉えるためにスラスターを使って細かな姿勢制御が行われていた。


「おおっ、マジかよ。こりゃ高く売れるぞ。新型のモジュールなら、リビルド屋が泣いて喜ぶんじゃねえか?」


 宇宙に漂う廃棄物デブリを回収し、再資源化する。素材の金属をインゴットにしたり、希少金属を抽出したり、艦船のパーツを回収して中古市場に流す。そんな仕事を生業とする者たちがいる。


 宇宙の廃品回収業者――通称サルベージャー。


 サーシャもその一員。父親が経営するサルベージ会社クラフトン商会の役員で、作業ポッドの操縦を担当する若きパイロットだ。


「お嬢! 右舷方向に破片が散ってるぞ、気をつけろよ!」


 母船のブリッジで回収作業を監視しているクルーが、通信越しに注意を促す。


「分かってるってば!」


 サーシャはスラスターを吹かし、残骸の回転に合わせてポッドの姿勢を微調整する。目の前のモジュールをアームで掴むため、慎重に回転を同期させていく。


 彼女の作業を支援しているのは、クラフトン商会が保有するデブリ回収専用のサルベージ船だ。全長は一二◯メートル、赤を基調とした船体には会社のロゴと「COMMUNAコムナー」の文字が大きく記されている。


 艦長はボリス・クラフトン。商会の社長にしてサーシャの実の父親である。


「社長!」


 サルベージ艦のクルーが声を上げる。


「どうした!」


 ボリスが振り返る。


「レーダーに感あり! 宇宙船が接近中です、速い!」


「何だと? どこの船だ?」


「やばい! IFF切ってやがる!」


 そのとき、艦内に警報が鳴り響き、AIが冷徹な声で警告を発する。


「警告。火器管制レーダーの照射を確認。直ちに回避行動をとってください」


 直後――


 レーダー照準による遠距離砲撃、空間が閃光に包まれた。


 轟音、衝撃、爆発。


「だ、駄目だ! うわああああっ!」


「サーシャ、逃げ――っ!」


 無線から聞こえた父の声に反応して、サーシャが顔を上げたその刹那。背後から光の矢が奔り、反射的に身を縮めた。ポッドが衝撃波に呑まれ、ぐるぐると回転しながら宇宙空間に弾き飛ばされる。


 必死にスラスターを操作するも、操舵が効かない。回転のGに耐えながら制御不能となったポッドを必死で立て直す。


 その時、キャノピー越しに見えたのは――爆炎に包まれ、崩壊していく母船コムナーの断末魔だった。船体が裂け、火花を散らしながら無数の破片となって散っていく。


「父さん……! うそ……なんで……?」


 通信は途絶えている。撃ってきた相手が誰なのかも分からない。サーシャのポッドには近距離用の監視センサーしかなく、敵影を捉えることはできなかった。


 何が起きたのか、何一つ掴めない。


 ただひとつ確かなのは、自分が今、宇宙にただひとりで取り残されたということだけ。


「やだ……やめてよ……誰か……!」


 次に撃たれるのは自分かもしれない。そんな恐怖と、宇宙空間に一人で放り出された事への不安が、じわじわと心を締め上げる。


 作業ポッドに搭載された通信設備は、近くにいる母船とのやり取りを想定した簡素なものだ。救難信号を発信して助けを待つしかないが、誰かが見つけてくれる保証などどこにもない。


 不安に押しつぶされそうになりながら、サーシャは漆黒の宇宙をひとり漂い続ける。


「こんな……こんな死に方って……悲しすぎるよ……」



 ***



「ハル。メインベルトって、相当にヤバい場所なんだろ?」


 ジュピトルⅢ――木星軌道上に浮かぶスペースコロニーを発ち、カリストⅨへ向けて航行中の艦内。


 目的地の名は木星最遠の衛星にちなんで名付けられており、その名のとおり、木星宙域の外縁にある辺境のコロニーだった。


「そうですね。メインベルト宙域を、非武装の船が単独で二時間以上航行した場合――拿捕、もしくは攻撃される確率は六十八・二パーセントに達します」


「へ、へぇ……なかなか素敵なところだね」


 修羅の国かよ、とんでもない所に行こうとしてるんじゃなかろうな。


「ですが、このムラサメであれば問題ありません」


 ハルは優しい声で断言する。


「なぜ、そう言い切れる?」


「はい。まず、メインベルトには正規の宇宙軍が存在しません。すなわち、戦艦級の火力を持つ船がいないということです」


 ムラサメは戦艦主砲の斉射に耐えられるシールドを搭載している。つまり、メインベルトに存在するいかなる敵船も、ビーム兵器ではこの艦を傷つけることすらできないのだ。


「なるほど。火力、射程、防御力、すべてにおいてこの船が最強ってわけだな」


「おっしゃる通りです」


「ふーん、でもなぁ……。どれだけ個艦の性能が高くても、数の暴力には勝てないだろう」


 キャプテンシートを横に向け、リクライニングを少し倒す。足を組み、アームレストに肘をつき、その手の上に顎を乗せた。


「確かに、それは否定できません。ただ、本艦を上回る索敵能力を持つ船もまた、非常に限られております。油断さえしなければ、包囲される前に対処できます」


 確かにそうか。先にこちらが見つけさえすれば、この船は足も速い。主砲の長射程を活かして迎撃するにせよ、逃げるにせよ、どうとでもなる。


 ハルとこんな会話をしていたそのとき、通信コンソールの端が、小さく光った。


「キャプテン、救難信号を受信しました。一時方向、方位〇四六、距離三六EU、上下角マイナス三。複数のホロパネルが起動し、ブリッジ正面のメインモニター左下にウィンドウが開いた。


 光学センサーと連動したカメラ映像が自動的に処理され、対象物をズームアップする。


 モニターには、小さな1人乗りの作業用ポッドが映し出されていた。


「ハル、交信は可能か?」


「はい。あのポッドの通信装置では送信出力が不足しており、双方向通信は困難です。ただし、こちらからの音声は救難チャンネルを通じて届けることが可能なはずです」


「よし。メッセージを送る」


「了解、指向します」


「識別番号Z4S-SA-0011、ジーフォース所属の武装貨物船ムラサメ。キャプテンのレイだ。貴方の救難信号をキャッチした。直ちに救助に向かう」


 念のため、同じ内容をもう一度繰り返した。


「ハル、向かうぞ。航路ガイドを表示してくれ」


 先程ハルが指定した方位は、太陽をの中心をゼロとして何度の方向かを表している。


「了解しました。目標までナビゲートします」


 キャプテンシートの前、操舵用の主観映像にガイドラインが浮かぶ。各種計器も反応し、自艦の進行方向と目標位置のズレが立体的に表示されていく。


「第三戦速。面舵一五、上下角マイナス三」


「第三戦速、面舵一五、上下角マイナス三。到達まで約九分です」


 ハルが復唱し、所要時間を即座に計算する。


「無事でいてくれよ……」


 どれだけの時間宇宙を漂っていたのかも分からないが、どうせなら生きていてほしい。俺の声をひろったハルが、目標となる作業ポッドについて説明を始る。


「あのタイプの作業ポッドですと……酸素は満タン状態で約七十二時間、電源は遭難モードで八十四時間稼働可能です。救難信号が発信されていることから電源は生きており、遭難から八十四時間以内。機体に大きな損傷の痕跡なし。生存の可能性は高いと推測します」


「そうか、そうだな。とにかく急ごう」


「はい」


 初めての宇宙航行で、初めて出会うこの世界の住人。


 あのラボの連中は……ちょっと特殊すぎたからノーカウント。


 期待と不安。正直、不安の方がずっと大きい。


 だが、それでもここで見捨てるなんて、後味が悪すぎる。


 頼む、生きていてくれよ。


「第五戦速!」


 祈るような気持ちでスロットルを押し込み、ムラサメを加速させた。


応援してもらえると、継続するモチベーションに繋がります。

面白いと思ってもらえたら、よろしくお願いします。

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