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宇宙世紀に転生した元おっさんは、幸せな家庭を築きたい  作者: 隣のゴローさん
自由都市ケレス

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第50話 マザー掃討戦・序

 演壇正面に据え、扇を描くように座席が広がっていた。段差は緩やかだが、どの席にいても壇上の巨大モニターが良く見えるような配置がなされている。壁は灰色の鋼板で覆われ、飾りひとつない武骨な内装。


 ここはケレス警備隊本部、作戦会議室。


 如何なる国家も影響力の行使を禁じられたメインベルト、その最大の天体の赤道上を公転する巨大宇宙都市。五億人が暮らす自由都市、ケレス・コロニーを守るために結成されたのがケレス警備隊である。太陽系各国からは、宇宙海賊の根城とも揶揄される場所だ。


「どうだ、サーシャ。宇宙海賊の本拠地に乗り込んだ気分は」


 最後列の端っこに座り、少し高い位置から壇上のモニターを見下ろす。今からここでネメシスの巣、マザー討伐作戦のブリーフィングが行われる。


「マフィアって、みんな黒いスーツにサングラスなのね。あそこの人たちを除いて……だけど」


 そこには白いスーツに黒いシャツ、胸元に赤いハンカチーフ、首にぶっとい金のネックレスをした男。隣には艶のある黒い生地に細かい白の縦縞、ダブルのスーツ、シャツはラメ入りの黒。目をサングラスで隠した男……三納組だ、一目でわかる。ちなみに、白スーツがタキイシ、黒い縦縞がオザワだ。


「ああ、あれはマフィアじゃなく、ヤクザだからな」


 ジャパニーズ・ヤクザ。地球世紀における二十世紀の末頃には、アメリカ映画に繰り返し登場するほど存在感を示したが、その後の経済低迷ですっかり影を潜めた。もちろん、サーシャはヤクザなんて知らない。


「何か違うの?」


 首をかしげ、不思議そうにこちらを覗き込んでくる。


「うーん……あんまり違わないんじゃないかな」


 正直、マフィアとヤクザの違いなんて、自分だって説明できない。


 ――知ってのとおり、ケレスは国家じゃない。支配しているのは政府でも軍でもなく、裏社会の連中だ。準惑星そのものがマフィアの縄張りで、この赤道軌道上に浮かぶコロニーも例外じゃない。


 オザワの話によると、ケレスには四つの大きな組織がある。それらは牙を剥いて互いに対立するのではなく、共存共栄を掲げ、ケレスの独立を守るために手を結んだ。そうして生まれたのがフォーフォールド・ユニオン。四重の結束。略称はFFU。


 都市の運営から防衛までを担う、実質的な政府、統治機構だ。


「おう、兄弟。サーシャ社長も」


 声がした方に目を向けると、三納組若頭のオザワが立っていた。そしてその隣には、青い目をしたオールバックの男。体格にぴたりとあった黒いスーツ、胸ポケットにはサングラス。熱い胸板と太い腕、身長は二メートル近く、ほぼ目線は同じか、若干男の方が高い。


「紹介しておこう。マッケル・ザハヴの警備部長、サミュエル・ローゼンタール氏だ」


 サミュエルは柔らかく微笑み、ゆっくりとした所作で小さく頭を下げた。


「警備部長、あの船のキャプテン。レイ・アサイです」


 オザワが二歩前に出て、左手で肩を二度叩き、サミュエルに視線を向ける。


「ジーフォース所属、傭兵のレイです。今は訳あってサルベージャーをやっていますが……」


 サミュエルの青い目を真っすぐに見据えて右手を差し出すと、力強く握り返してきた。……強化人間か。凄い握力だ。


「マッケル・ザハヴのサミュエルです。この度はご助力感謝いたします。で、そちらのレディは?」


 マッケル・ザハヴはケレス最大のマフィア、三納一家の上部組織だ。この前たしか、タキイシに聞いた。隣のサーシャに視線を向ける。


「私のフィアンセ。サルベージャーを営むクラフトン商会の代表、サーシャ・クラフトンです。私のボス……ですかね」


「サーシャです、よろしく」


 サーシャはふわりと笑い、軽く膝を折って目線を下げた。


「あれほどの船をサルベージ船に使うなど、正気の沙汰じゃないと思いましたが……なるほど、貴女のためというのなら納得ですな」


「ええ。彼女の笑顔の為なら……彼女が大切にしているものを守るためなら、何も惜くはありません」


 真っすぐに青い瞳を見つめ、口元の笑みを少し深めながら、サミュエルの手を力強く握り返す。


「さて、そろそろブリーフィングが始まります。サミュエル部長、お席へ」


 オザワの声に合わせて互いに力を抜き、握手を解く。サミュエルが拳を作って突き出してきたので、軽く拳を合わせた。


「頼りにしている」


 そう言うとサミュエルは踵を返し、オザワは軽く右手を上げて、それぞれの席へ戻っていった。


 やがて壇上に若い男が立ち、ブリーフィングの開始を告げる。隣で若い女性がサポートし、巨大スクリーンに次々と情報が映し出されていく。各席の前にもホロパネルが浮かび上がり、音声とテキストで説明が表示されると同時に、立体的な戦闘シミュレーションが流れ出す。


 どうやら、この作戦の肝は大口径レーザー砲による遠距離射撃にあるらしい。巨大な貨物コンテナに要塞砲と必要なモジュール類を搭載して運び、管制システムをリンクさせて射撃を行う、という仕組みだ。


 ムラサメは、その要塞砲の列に振り分けられ、砲の防衛と主砲による射撃を任されることになる。マフィアの口は堅い――これはオザワとの約束だ。


「要塞砲を搭載したコンテナは、大型貨物船によって現地まで運びます。目標地点に展開後の微調整は、タグボートを貨物船で輸送し、それに当たらせます」


 次々と作戦の説明を進めていく壇上の男。見る限りでは、かなり良くできた作戦だ。


 参加する船は五〇〇隻を超える。しかし、損害を恐れず無闇に突撃せよというわけではない。それぞれの船には日々の営みの中での役割があり、貴重な武装宇宙船なのだ。完全に無傷で済ませることは不可能でも、被害を最小限に抑えるための作戦が考えられていた。


「現在、確認されているネメシスの数は三〇〇に満たない。これが、先日の強行偵察で撮影された映像です」


 映像が流れると、場内にどよめきが広がった。


「よく生きて帰ったな」


「ソルジャーが少ないな、多くがリーパーとワーカーだ。どうにかなりそうじゃないか」


 あちこちから、そんな声が上がる。


「まず隊形ですが、鶴翼の陣形で敵を迎え撃ちます」


「ねえ、レイ。あたしたちが攻撃しに行くのよね。迎え撃つって、なんで?」


 サーシャはつまらなさそうに机に肘を付き、その手の上に顎を乗せて横を向くと、そう言った。


「まあ、聞いてればわかるさ」


 説明は進む。ネメシスは本能的にマザーを守ろうとする性質を持つ。群体生命体である彼らは蟻や蜂に近い習性を示すため、複雑な艦隊機動は行わない。せいぜい、リーパーが狼やライオンの狩りのような単純な集団行動をとる程度だ。基本的には、個々がそれぞれの判断で敵に攻撃を加える。


「鶴翼陣形の底、中央には要塞砲と護衛のムラサメ。その二EU前方に三〇隻で二段の防衛線を敷きます。他の船は両翼に展開し、ネメシスに左右から砲撃を加える――」


 マザーは移動できない。直接砲撃を受ければ、戦闘可能なネメシスは全力でその脅威を排除にかかる。つまり、わき目もふらずにムラサメと要塞砲に殺到するのだ。


 砲を破壊しようと列をなして突き進むネメシスの大群に、正面からは要塞砲とムラサメ、そして中央の防衛線の船があたる。両翼の部隊は側面から中央を進むネメシスの群れに砲撃を加え、三方向からの包囲攻撃で敵を殲滅する。


 要塞砲はマザーから一九EUの距離に設置される。ムラサメの主砲はぎりぎり有効射程内だ。一般的に中型船などでも使われる一般的なレーザー砲の射程は、約一〇EU。この差を生かして、アウトレンジから削れるだけ削る。


 要塞砲のコンテナにはシールド装置も搭載されるが、さほど強力なものではない。なんとしても、敵の射程外で撃破したい。そして、被害が大きくなる乱戦を避けたいという思いから生まれた作戦なのだろう。


 全体を見て妥当な作戦だと思った。いわゆるタワーディフェンスゲームのような展開なので、殲滅速度がこの作戦の成否を分ける。敵の数が尽きるのが早いか、要塞砲をやられるのが早いか。


 それでも、もともとの数はこちらが多い。ある程度削れば、最後は力技で押し切ることもできるだろう。そんなことを考えているうちに、気がつけば質疑応答は終わり、ブリーフィングも終了していた。


 こう見えても、宇宙軍士官学校卒業程度の知識は、この頭にインストールされている。その上で「やれる」と思えたのだから、問題はないだろう。

皆さんの反応が、創作のモチベーションに繋がります。


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