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宇宙世紀に転生した元おっさんは、幸せな家庭を築きたい  作者: 隣のゴローさん
始まりの宇宙

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第25話 ライトノベルのお約束

 道路を走る車には、ちゃんとタイヤがあった。


 五〇〇年先の未来になっても地面に接して回転する”この輪っか”が現役だという事実に、なぜか胸が熱くなる。技術がどれほど進歩しようとも、自動車は生き残っていたのだ。サーシャに聞くと、燃料は水素らしい。なるほど……水素エンジンが勝ち残ったのか。


 かつて“世界のト〇タ”と呼ばれた、あの日本の自動車メーカー。サーシャの話では、会社自体は今も存続しているそうだ。いくつかの企業と合併や再編を繰り返して、社名こそ変わったらしいが――それでも、技術と魂は脈々と受け継がれている。そう思うと、元日本人として少しだけ誇らしい気持ちになる。


 タイヤの素材はかつての石油ベースのゴムではなく、二酸化炭素とエタノールから作られた合成ゴムになっているらしい。


 ちなみに、ふと上を見ると――


 地上から約十メートルから上の空域を、あのエアライナーが音もなく滑るように飛び交っている。地上には人が操る自動車が走り、その下には自動運転車専用の地下道路、さらに深層にはメトロライナーと呼ばれる地下鉄があるらしい。


 空、地上、地下。交通インフラは立体的に棲み分けされていて、自動車と公共交通機関がうまく共存している。利便性と快適性を追求した結果がこれなのだろう。


「どこ見てるの、レイ。着いたわよ。このビルでしょ?」


 サーシャに言われて目の前のビルを見上げた瞬間、思わず息を呑んだ。事前の下調べなどどこへやら、目の前の威容に圧倒された。


「ほへぇ……」


 上を見たままだったせいか、口から出たのは間の抜けた声だった。


「何その声。――ほら、行くわよ」


 サーシャは思わず吹き出したような表情を見せて、そのままくすくす笑いながら手を引いた。


 とにかく――高い。そしてでかい。日本で見た超高層ビルなんて比じゃない。あの都庁の倍はあるんじゃないかと思う。


 それに、大きさだ。入口の横幅だけでも、五〇メートルは優にあるだろう。巨大なアプローチがまっすぐ奥へと続いていて、先へ進むと正面には巨大な透明ガラスのような壁。


 枠も縁もない。どこからどこまでが扉なのかすら分からないくらい、つるりとした一枚ガラスのような質感。中は見えない。たぶん偏光ガラスのように外からの視線を遮断しているのだろう。


 その“透明な壁”の表面には、緑色の逆三角形がいくつも電光サインで浮かび上がっている。その前に立った瞬間――


 スッ、と音もなく壁の一部がスライドし、入口が姿を現した。


 中に入ると、そこは巨大ホールのような風除室。そこでセキュリティチェックを受け、次の透明な壁の入口を抜けて中へと入る。


 一階はエントランスロビー――その広さは、東京ドームのグラウンドがまるごと収まりそうな広さだ。


 通路は広く、受付カウンターもずらりと並んでいる。ロビーのホールには、数えきれないほどのテーブルやソファ。視界のあちこちに喫茶ラウンジらしき区画が見え、誰もが思い思いにくつろいでいた。


 さらに奥へ目をやると、飲食テナントがずらりと並んでいた。まるで巨大なフードコートだ。


 店のカウンターが壁をにそって配置され、その前の広大なスペースにテーブル席が整然と並んでいる。ピザ、ステーキ、カレー、ビリヤニ、ヌードル……すしや天ぷらのカウンターもある。


「……これが、お役所?」


 思わず口をついた。役所に食堂やカフェがあるのは珍しくないが、これほどの規模は見たことが無い。


「ええ、そうよ。役所の職員、用があって訪れる人々。あと、周りのビルからも人が集まるわね。公共施設だもの」


 サーシャは特に驚く様子もなく、当たり前のことのように言って肩をすくめる。


「そうか……」


「どこのコロニーでも、だいたい似たようなものよ」


 そう言って、サーシャは横目でこちらに視線を向ける。


「ジュピトルⅢに居たんでしょ? あそこなんて、もっとすごそうだけど」


「あ、ああ。そうだな……」


 一瞬、言葉に詰まる。


(居たことは居たけど……町に出るのは、今日が初めてなんだよな)


「……へんなの」


 サーシャはふいに足を止めて、じっとこちらを見つめてきた。その視線に耐えきれず、ごまかすように口を開く。


「さて、PRAに向かおうか。えっと……」


 視線を上げると、天井近くに浮かぶ館内案内のホロパネルが目に入った。


「四階」


 すかさずサーシャが答える。


「すごい……一三五階もあるのか」


 思わず声が漏れた。ホロパネルには、各階のフロア情報がずらりと並んでいる。


「だから、四階だってば。PRA」


 少し呆れたように笑うサーシャが、空中に浮かぶホロパネルの一点を指差す。そこには確かに「私掠船管理局(PRA)」の文字、その隣に「4F 4001」の表示があった。


 いろいろ初めてのことに圧倒されながらも、サーシャと共に四階へ向かう。


 エレベーターを降りると、すぐ目の前に扉のないオフィスが現れた。そのまま足を踏み入れると、視界いっぱいに奥行きのある広大なフロアが広がっていた。


「ここもまた、凄い広さだな」


 入って右手にはいくつかのテーブル席、そして無数のベンチシートが並ぶ。その奥には市役所のカウンターのように並ぶ受付。中央あたりには、「総合案内」と書かれたアイランド型のブースも見える。


 左手は通路から一段高くなっており、レストランや医務室、売店などの各種施設、関係企業のサテライトオフィスがびっしりと並んでいた。何かのフェア会場みたいだ。


 ホールには、見えるだけで千人以上はいるだろう。それだけの人数がいても、広さのせいか混雑した印象はない。むしろ余裕すら感じられるほどだ。


「うは、むさ苦しい男ばっか……」


 サーシャがポツリと漏らした。


 確かに、周囲を見渡せば武装した男たちばかり。女性もいなくはないが、グループに一人か二人が混じっている程度だ。


「誰がむさ苦しいって? あぁ?」


 不意に背後からドスの利いた声が響く。反射的に振り返ると、そこに立っていたのは身長二メートルを超える長身のスキンヘッド。筋肉の塊のような体つきで、腕も首も鋼のように鍛え上げられている。ノースリーブの肩口からは刺青が覗いていた。


 その周囲には、同じようにいかつい連中が四人。俺たちを囲むようにゆっくりと動いている。


「この後、俺たちとデートしてくれるなら許してやるぜ、色っぽいねぇちゃん」


「五人相手だ、二、三日は帰れなくなるんじゃねぇか」


 大きな声、下卑た笑いが場内に響く。


 やばい。こういうとこまでライトノベルに寄せなくていいっての、勘弁してくれ、マジで。


 どうする。ヤるか?


「ちょっと……悪かったわよ。謝るから……」


 サーシャが小さく言って、わずかに身体を寄せてきた。いつもの調子がない。声に、微かな震えが混じっていた。


 一歩、かばうように前に出る。そのまま相手を真正面から睨み返す。


「謝ってすむわきゃねぇだろ。俺たち傭兵はな、舐められたら終いなんだよ」


 スキンヘッドが唇の端をつり上げると、仲間の一人がニヤついた。


 ここで喧嘩になっても命のやり取りまではならないだろう、なんたって役所の入口だ。舐められたら終い、確かにそうだ。ここで引いたら、おそらくこれからも面倒ごとに巻き込まれる。


 やるか、腹を括れ。訓練を思い出せ、この体はチートなんだ。


「ねえ、レイ。やめてよ」


 サーシャが袖を引っ張る。相手が五人もいれば、分が悪いと思っているのだろう。声はかすかに震え、明らかに怯えていた。


「なんだ兄ちゃん、見ない顔だなぁ。女の前で見栄を張るのは良いが、俺様は特殊部隊上がりだぜ」


 スキンヘッドの男は、肩口を突き出すようにして刺青を見せた。そこには、何かの部隊章を模した刺青がある。


 なるほど、特殊部隊……強化人間か。


「それがどうした……」


 こちとら最初から戦うために作られた人造人間だ、強化だってマシマシなんだよ。


「んだとゴラぁ!」


 怒声とともに、バットでも振るったかのような重低音が空気を震わせる、その瞬間――耳を切り裂くような破裂音がPRAのホールに轟いた。


 こいつ、殺す気かよ。


 普通の人間なら軽く頭が吹き飛ぶ威力の、強化人間による右フック。それを右手で受け止め、相手の拳を掌の中にしっかりと握り込む。


「どうした……。元特殊部隊なんだろ?」


 拳を掴んだ手に徐々に力を込めていく。万力で締め上げるように、ゆっくりと握りつぶす。


「て、てめぇも強化人間かよ」


「てめぇじゃねぇよ。拳を砕かれたくなきゃ“ごめんなさい”と言え。謝れば赦してやる。俺はお前と違って、人間の器がデカいんだ」


 スキンヘッドの男は頭から汗を吹き出し、苦痛に顔を歪める。おそらくこいつがこのグループのボスで、最強なのだろう。周囲の四人は息を飲み、成り行きを見つめている。


「離しやがれ!」


 怒声とともに左足で蹴りを放とうとしたその瞬間、足が上がるタイミングで握った拳を前に押し出し、そのまま軸足を刈った。スキンヘッドは受け身も取れず、後ろに倒れ込む。床に重い何かが叩きつけられるような、鈍い音が響いた。


「離してくださいだろうが、せんぱい」


 倒れた男の首元に膝を押し付け、そのままゆっくり圧をかけてやる。


「や、やめろ……悪かった。俺が悪かった! 頼む、やめてくれ……!」


 その時、けたたましい笛の音が響いた。振り返ると、セキュリティのガードマンが二人、こちらへ駆け寄ってくる。


「運がよかったな。もう少しで、あの世に送ってやれたんだが」


 スキンヘッドの男に聞こえるように言った。勿論、ここで殺す気はない。


「そこまでだ! やめろ!」


 声のした方に視線をやり、膝を外して男を解放する。そのままゆっくりと立ち上がり、両手を上げた。


「来るのが遅ぇよ」


 思わずぼやく。


「すまんな」


 中年のガードマンが、なぜか笑顔でそう言った。


「よし、警備室に来い。抵抗して俺たちの手を煩わせるんじゃないぞ」


 軽機関銃と対物ライフルは取り上げられ、男たちとは別に連行された。


 ……なんだよ、このテンプレ展開。

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