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宇宙世紀に転生した元おっさんは、幸せな家庭を築きたい  作者: 隣のゴローさん
始まりの宇宙

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第1話 宇宙世紀への転生

新連載、始めました。


いろいろとそれっぽく書いていますが、基本はご都合主義のスペースファンタジーです。あくまで三流娯楽作品として、お読みください。

パンパパンパ パンパパンパ パンパパンパパンパパーン


 無意識の闇を切り裂さくラッパの音色。


 片手に収まる薄い板――スマホから、けたたましいアラームが鳴り響く。自衛隊を経験したものは、起床ラッパを聞くと反射的に飛び起きる。


 元自衛官にとって、起床ラッパの音は体に埋め込まれた覚醒スイッチだ。鼓膜に届いた瞬間、肉体が瞬時に起動する。退職して二十年以上たった今もなお、絶対的に信頼できるアラーム音はこの起床ラッパ以外にない。


 「やべ、今日は早番だった」


 ベッドの脇に準備していた制服に素早く袖を通し、上着を羽織る。冷蔵庫から取り出したのは、昨夜作っておいたハードボイルドのゆで卵。毎晩五個仕込んでいるうちの二つ。


 机の縁でゴンゴンと殻を割り、アジシオをふってそのまま朝食とする。


 流れるように洗面台へと場所を移し、歯磨きと髭剃りを済ませて家を飛びだす。目指すは勤務先、老人ホームだ。


「おはようございま~す」


 今日も始まるウンチまみれのおむつ交換と、認知症高齢者とのかみ合わないコミュニケーション。


 おばちゃん介護職の愚痴に愛想笑いを浮かべながら、いやいやと駄々をこねる爺さんを言葉巧みに言いくるめて風呂場へ連行。


 車いすからシャワーチェアへ移乗させようとしたその瞬間、ガブッ――!


「いってぇ……!」


 見下ろすと、腕にはくっきりとした歯形。内出血で赤紫に腫れあがる。


 そうだった、このジジイは噛むんだった……。

 

 わかっていたのに、うっかり油断した自分に腹が立つ。気を取り直してそのまま上半身を洗い、しゃがんで足に手を伸ばしたとたん――


 ゴッ!


 今度は顔面に蹴りが飛んでくる。


「コノヤロウ!」と、思わず反射的に手が出そうになる。


 けど、相手は重度の認知症。無意識の反射、意図を持ってやっているわけではないのだ。病気だからと自分に言い聞かせ、顔を引きつらせながら笑顔をつくる。


 ふと、鼻先に漂う異臭。


 ――あ、ウンチしやがった。しかも、やわらかいやつ。


 最悪。なんでこのタイミングで……クソ忙しいのに。余計な手間かけさせやがって、あと何人風呂に入れなきゃいけねぇと思ってんだよ、夕食の準備までに間に合うかな……。


 サ・イ・ア・クだ。ほんと、やってらんねぇ。


 そんな思いをしながら必死の介護。正社員フルタイム勤務……


 五十歳で手取り十五万八千円。


 バブル絶頂の時代に青春を謳歌して、気が付くと借金で火だるま状態。何とかしなければと逃げ込んだ先が自衛隊。


 一番楽だからと勧められた航空自衛隊で、まじめに三任期七年務めて借金完済。


 「公務員なんてシケた仕事、やってらんねぇよ」


 そんなふうに嘯いて、今度こそ大金持ちになってやるとシャバへ飛び出した――けれどもそこは、就職氷河期の真っただ中。


 ようやく滑り込んだ就職先は、正真正銘のブラック企業だった。

 

 休みは月に一日だけ。朝礼は八時半、終礼は夜の十一時。夕方五時半に事務員が全員のタイムカードを定時で打刻。この時間で勤務終了、その後はいわゆるサービス残業。


 残業手当? なにそれ美味しいの?


 バブルの英雄が中間管理職で直属の上司、そんなクソ課長の口癖はおなじみのフレーズ。


「権利を主張するなら、まず義務を果たせ」


 そんな会社で職種は営業、成績は全国一◯二四人中で二五位。近畿ブロックで八位、尼崎支店で二位とそこそこ優秀だった。お陰で歩合を含めた年収は、いわゆるサラリーマンの平均年収、その約三倍だった。


 しかし毎日のストレスが尋常ではない。何とか三年で課長へ昇進。そこから二年後、入社から五年で支店長への道が見えた瞬間にギブアップ。


「こんな会社で支店長になったなら、きっとノルマに殺される」


 実際、在籍した五年間で課長・支店長といった管理職だけで八人が自殺又は逃亡行方不明。ちなみに創業三五年。社員数四〇〇〇人で平均年齢二七歳、入社一年での離職率は七十%を超えていた。


 こんな会社が二〇〇〇年代初頭にはマジで存在したのだ。しかも一部上場企業に。

 

「てめぇ、それなりの会社なら採用のときに前職の人事に確認入れるって知ってんのか!? 二度とまともな会社で働けねぇようにしてやるからな!」


 ――専務の捨て台詞。

 

 それを背中で聞き流しながら、背中を丸めて会社を去る。そして「正社員」という言葉がトラウマになった……。


 それからは派遣会社を転々とした。絵に描いたような負け犬人生、もちろん貯金ゼロのその日暮らし。


 五十を機に、やはり正社員でボーナス貰わないときついか……と、勇気を振り絞って就職するも、もはや介護職くらいしかこんな俺を拾ってくれる会社はない。


 それが今現在。


 めんどくせぇ、とにかく毎日がめんどくせぇ「めんどくせぇ」が口癖になった、しかも独り言。


 代わり映えのしない日々の連続。


 五十を過ぎ、このまま年寄りになって、あと三十年もすれば施設のジジイみたいにボケて死んでいくのだろう。


「あ~あ、もう一回、今の記憶を持ったままで人生をやり直せたらなぁ。それかせめて寿命がもっと、倍ほども長ければ、今からでも頑張れるのだろうけど」


 ふと漏れた独り言。


 普段なら誰に聞かれることもなく、世間の風に吹かれて消えゆく言葉。


『その願い、叶えましょう』


 えっ???



 ***



『覚醒シークエンスを開始します。生命維持装置、安定。自己認識プログラム、インストール完了。外気環境、異常なし。生体情報、最適化完了』


 なんだ……遠くで何かが聞こえる気がする。


『強化人間用戦闘スキルコンポーネント、インストール完了。戦術指揮モジュール、展開。パイロットスキル、インストール完了……』


 次第に大きくなる柔らかな女性の声。何を言っているんだ……。


 心地よいまどろみの中からしだいに意識が持ち上がり、やがて覚醒。


 目を開ける。


「見知らぬ天井だ……てか、眩しいんですけど」


 声を出した瞬間、周囲がざわついた。男たちの興奮した声が聞こえる。


「おおっ、成功だ! 目を覚ましたぞ!」


 真上から強い光が照らしていて、周囲の様子が見えない。光源の感じからして、まるで手術台のよう。


「ここ……病院か?」


 よく聞くと、まるで自分の声と違う。聞きなれない声、こんなに渋かったっけ。もう少し高くて軽かった気が……。


「君、聞こえるかね?」


 すぐ横から男の声がするが、姿は見えない。眩しさのせいだ。真上から照らす強烈なライトが視界を白く塗りつぶしていた。


「……聞こえるけど、眩しくて何も見えない」


 手で光を遮ろうとしたが、思うように動かない。腕には何本もチューブのようなものが繋がれていた。かすかに液体が流れる感触がある。


 首をわずかに動かして周囲を見ようとする。だが見えるのは、ぼんやりとした何かと無機質な金属の縁、空中に浮かぶ光の記号……なにかのディスプレイか?


 ぬるりとした感触。体は温かい液体の中に沈んでいる。


 なんだこれ……てか、どういう状況だ?


「ああ、すまない。眩しかっただろう」


 男の声がして眼前の光がふっと消えた。視界が徐々に戻る。見上げればこちらを覗き込む男たちが四人、白衣のような服を着ていた。周囲にも何人かの気配がある。


「……ここはどこですか? あなたたちは……」


 声を出した瞬間、周囲の男たちがどよめいた。


「反応良好だ」「会話が成立している……」「ついに、ついに成功だ」


 やたらテンション高い声があちこちから上がる。まるで実験がうまくいったとでも言いたげな反応だ。


 寝かされているのは、どうやら大きなカプセルの中らしい。身体には何本もの管が接続されていて、周囲にある装置へとつながっている。部屋はかなり広い。周囲には空中に浮かぶように透明なパネルがいくつも展開され、見たことのない、まるで意味の分からない数字や図形が次々と更新されていた。


「君の意識は安定しているようだな。では、説明しよう」


 年配の男が一歩前に出て、こちらを見下ろした。


「君は、人類の技術によって初めて完全に設計・生成された存在だ。言うなれば――人造人間」


 しばらく、何を言われているのか理解できなかった。


「……俺が、人造人間?」


 何かの冗談かとも思ったが、男の目は真面目そのものだ。


「そうだ。とりあえず目が覚めたのなら、ここから出ようか。君の事について詳しく説明しよう。すぐに準備するから、もうしばらく寝ているといい」


 言われると同時にチューブから何かの薬品を注入されたのか、強烈な睡魔に襲われ……俺は再び目を閉じた。


今日はもう一話、後でアップします。

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