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2-世界の覇者

 戦火渦巻く世界で、人々が渇望するのは一握りの希望。そんな中、半年に一度発行される『リベルタスプレス』の特別企画――「世界の覇者ランキング」は、混沌とした世界における唯一無二の光だった。



「編集長、次号の準備を始めるべきかと」


本社編集室で、記者たちが膨大な資料を広げている。


「半年間、我々は世界を駆け巡り、最強の戦士たちを追い求めた。そろそろ発表の時期ですね」

「はぁ、また命懸けの取材だったな」

「……まぁ、このランキングだけは、リベルタスプレスで唯一信用されてる記事ですもんね」


記者たちの自嘲気味な言葉に、編集長のエドガーは静かに答える。


「皮肉なものだ。戦争や汚職の報道は疑われても、強さのランキングだけは信じられるとはな」


エドガーは、テーブルに積み上げられた報告書を一枚ずつめくりながら、呟いた。


「……今回も一位は不動か」

「はい。十八回連続一位、アリーネです」


その名に、誰もが納得する。



「世界の覇者ランキング」――それは、『リベルタスプレス』が半年に一度発表する、戦闘力のみを基準とした一位から二十位までのランキングだ。国籍も所属も関係なく、純粋な強さだけが評価される。

記者たちは戦場や決闘の場を巡り、戦士たちの実力を徹底的に調査する。その結果は、実際に目撃した戦闘記録に基づいて作成されるため、信頼性は極めて高い。

――だからこそ、世界中で最も信用される『リベルタスプレス』の記事なのだ。


 今でこそ絶大な人気と信頼を誇る『世界の覇者ランキング』。

 だが、その始まりは——本当にどうしようもないほど地味だった。 


 きっかけは、リベルタスプレス内でぼやいた、ある記者の一言。


「……どうせ誰も、戦争の記事なんて信じちゃいないんだ。だったら、いっそ面白いオマケでもつけてみるか」


 冗談混じりの発案。

 けれど、編集長エドガーはふと立ち止まり、目を細めた。


「……それだ」


 そうして作られたのが、世界中の強者たちの“強さ”を順位づけした小さな付録だった。

 ほんの一枚、新聞の隅に載っただけのコーナー。誰もが、どうせ誰も読まないとタカをくくっていた。


 ——ところが。


 その回の新聞だけ、異常に売れたのだ。


「……まさか、あのランキングが理由か?」

「嘘でしょ? ただのオマケだぞ……?」


 誰もが首を傾げる中、調査が進むにつれ、ある事実が判明する。


 当時のランキングでは、アルヴェニア帝国から七人もの戦士がランクインしていた。

 これを利用しない手はないと判断した帝国は、民の士気を上げる材料としてこれを採用。

 なんと、国営新聞で『リベルタスプレス』のランキングは信用できると、堂々と報じたのだ。


 その結果、噂はまたたく間に広がっていった。


 「覇者の名前、見たか?」

 「俺の国からも入ってたらしいぜ!」

 「いや、絶対あいつが上に来ると思ってた!」


 口コミは口コミを呼び、読者は一気に増加。

 その影響で新聞は売れに売れた。


 ——それなら、とエドガーは踏み切った。


「なら、いっそ……“オマケだけ”で勝負してみようか」


 そうして生まれたのが、『世界の覇者ランキング』特別号である。


 戦争の真実でもなければ、貴族の陰謀でもない。

 ただ、世界を駆け回って記者たちが目撃した“強さ”のみを、淡々と順位で並べるだけ。


 それでも——いや、だからこそ。

 この特別号は空前の売上を記録した。


 賭けの対象にされたり、ランキング予想ゲームが流行したりと、今や国民的娯楽にもなりつつある。


 そして、『世界の覇者ランキング』は現在——

 リベルタスプレスの、最大にして唯一の安定収入源となっている。


 人々にとっては、知りたい“真実”。

 記者にとっては、生きるための“現実”。


 そんな矛盾を抱えながらも、このランキングは今日も作られ続けている。


『リベルタスプレス』にとって、「世界の覇者」は重要な収入源だ。実のところ、このランキングがなければ、経営は成り立たないと言っても過言ではない。



エドガーは、完成した原稿を手に取った。


「これで印刷を頼む」


——————————————————————————

第十八回 世界の覇者ランキング

『リベルタスプレス』


注意:全力で強者たちを調査しましたが、調査できなかった部分があることをご了承ください。


一位:アリーネ(人間/剣+魔法)

-圧倒的な戦闘力を誇る最強の戦士


二位:ヴォルフガング・レオンハルト(人間/槍)

-アルヴェニア帝国の将軍


三位:ルシアス・ヴァルナ(人間/雷+水魔法)

-セレヴィス王国の宮廷魔導士


四位:セリア・エルファリア(エルフ/治癒魔法)

-エルムガルド自治領のヒーラー


五位:カイン・ロストレイン(人間/剣+火魔法)

-アルヴェニア帝国の剣士


六位:リディア・ナイトシェイド(獣人/弓+毒)

-暗殺ギルド所属の暗殺者


七位:ヴァン・ストームブレイド(人間/大剣+雷魔法)

-アルヴェニア帝国の傭兵


八位: レイラ・ブラッドフォード(吸血鬼/剣+暗黒魔法)

-リベルタスプレスのエース記者


九位:ロドリゴ・フェルナンデス(人間/双剣+風魔法)

-オルトラン公国の海賊団の頭領


十位:ゼノン・アイゼンハルト(ドワーフ/巨大戦斧+爆発系魔法)

-ガルザーク連邦の最強戦士


十一位:レナ・シュヴァルツ(獣人/爪+超感覚)

-ファルシオン草原国の戦士


十二位:サリム・アル=ハジール(人間/曲刀+幻術)

-ヴェルン共和国の傭兵


十三位:ヴィオラ・ノクターン(吸血鬼/血魔法+短剣)

-吸血鬼の貴族


十四位:エゼキエル・ダグラス(人間/大槍+氷魔法)

-ノーザリオ神聖国の戦士


十五位:グレン・ワイルドハント(獣人/格闘+地震魔法)

-ファルシオン草原国の戦士


十六位:マルセル・ルミエール(人間/弓+陽炎魔法)

-セレヴィス王国の宮廷弓術師


十七位:カサンドラ・ヴォルフシュタイン(人間/鎖+闇魔法)

-ガルザーク連邦の地下闘技場で名を馳せた戦士


十八位:イグナツ・ブレーメン(人間/鎧+盾+炎魔法)

-アルヴェニア帝国の防御特化型戦士


十九位:フレイヤ・リンドホルム(エルフ/精霊魔法+弓)

-エルムガルド自治領の精霊使い


二十位:ユリウス・ナイトブレイド(人間/短剣+闇の剣技)

-フリーの戦士

——————————————————————————


 注意書きにあるように、ランキングに載らない強者も存在する。これはあくまで、記者たちが調査できた範囲の結果に過ぎない。記者の目に触れなければ、ランキングに名を連ねることはないのだ。


「暗殺ギルドの片手剣使い、リディアは見事に調査できたが、あそこにはまだ強者が潜んでいる可能性がある……」


「……つまり、記者が把握しきれていないだけ、ということですね」



最新の「世界の覇者ランキング」が掲載された新聞が各国に発送されると、人々は一斉に新聞を広げた。


「またアリーネが一位か……まぁ、当然の結果だな」

「当たり前すぎるな。何度も戦争の邪魔をしてくるし、誰も止められないらしい……」

「アルヴェニア帝国から二位と五位が出ているのか……。さすが大国だな」

――普段の戦争記事などは疑われても、「世界の覇者」だけは誰もが信じる。



 発送から一週間が経った。

 リベルタスプレス本社では、記者たちが新聞の売り上げ報告を確認しながら、久しぶりの好調に歓声を上げていた。


「今回の売り上げもすごいな……」


 書類をめくりながら、編集長エドガーが静かに呟く。


「しばらくは資金の心配をしなくても済みそうですね!」

「たまには、世界の覇者ランキング以外の記事も買ってもらいたいものだが……」


 エドガーは苦笑しつつ、書類を机に置いた。

 今回の発行は、発送中の妨害が少なかった上に、購読者の数が異常に多かった。

「世界の覇者ランキング」の影響は絶大だった。


「結局、みんな戦争よりも“誰が強いか”のほうが気になるんですよ」

「おかげで、こっちは助かるけどな」


 記者たちの間で談笑が続く。久しぶりの大きな利益に、少しだけ安堵の空気が流れていた。

 だが、エドガーはすぐに別の資料を手に取ると、真剣な表情へと戻った。


「……それにしても、アリーネは今回もアルヴェニア帝国とヴェルン共和国の戦争を止めたそうだな」


 一瞬、場が静まる。

 アリーネ——世界最強の戦士。

 彼女は戦争が起きるたびに、どこからともなく現れ、一方的に戦場を蹂躙し、戦いを終結させてしまう。


「……やっぱり、彼女の力は国を滅ぼすほどなのか」

「アルヴェニア帝国は世界最強の軍事国家ですからね。もし戦争が続いていたら、ヴェルン共和国は間違いなく負けていました」


 アルヴェニア帝国の軍事力は圧倒的で、まともに戦って勝てる国は存在しない。

 しかし、それを阻む存在がただ一人いた——アリーネ。


「……彼女の目的はなんなのだ?」


 エドガーは腕を組み、思案する。

 世界の覇者ランキング一位として名を馳せながらも、国家にも属さず、報酬も求めず、ただ戦争に介入し続ける女。


「今後も、アリーネの動向を追うように」


 エドガーの指示に、記者たちは頷いた。


「了解です。次の発行に間に合うように、可能な限り情報を集めます」


 世界最強の戦士、アリーネ——

 彼女が何を考え、何を目指しているのか。

 リベルタスプレスの記者たちは、また新たな調査へと向かうことになる——。

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